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諏訪春雄通信


847回 (2019年3月18日更新




 「女性祭祀が日本を救う」 (4)


 

この通信欄で長く執筆してきました「台湾から日本を見る」を一旦終了します。この連載で台湾原住民について多くの知見を得ることができました。日本列島では変化してしまった古い文化の原型がここにはいまも見られます。この貴重な知識をもとに、新しい連載を開始します。「女性祭祀が日本を救う」というきわめて重要なテーマです。いまはほとんど忘却されてしまった女性の霊性が日本を救ってき、いまもこの国を救いつづけているという事実です。西欧流男女平等観や、仏教・儒教の男女差別観では、絶対に見えてこない風景です。

 台湾原住民雛族の戦祭


 

マヤシビ祭(戦祭)の構成は次ようになっている。

 

Ⅰ 準備活動 男子は会所屋根の葺き替え、道の除草など、女子は酒造り(むかしは粟、最近は米)

Ⅱ 祭典活動

参加者の盛装は、帽子に木斛蘭、腕に樹皮をつける。

祭場で聖火を焚く。火は族人の生命の火という。

神々への供物として子豚を供犠をする。

聖樹伐採 赤榕は神降臨の道であり、伐採は道の整備であり、頭目・会 所・五大氏族のために三本の枝をのこす。

迎神歌舞 初回の歌舞は迎神、二度めは司令を迎えるため。

団結祭 酒、おにぎり、豚肉などを持ち寄り共食する。集落の出産男児を会所に舅が抱いてきて神の祝福を受ける。

送神歌舞 戦士が広場で逆時計廻りの半円形の集団歌舞をして神を送る。

戦歌合唱 女性が各戸から火を持ち寄り広場の火に加え、歌舞に加わり、戦士と手を組んで女性の霊性を戦士に注入する。

路祭 社の入り口の祭壇に茅草(金草蘭)、酒、豚肉などを供え疫鬼を追う。

家祭 戦士が各戸を廻り酒を持ち帰り、会所で共飲する。

成年礼 会所で長老の司会で男子の成年式を挙行する。

Ⅲ 歌舞活動 広場で歌舞を行ない、長幼の順、歴史と文化、社会倫理などを学ぶ。

Ⅳ 結束祭 二日目又は三日目に頭目が戦士を指揮して迎神、送神の歌舞を演じ、火を埋めて終了する。

 





 

マヤシビ祭の祭場の正面の会所は女性の入れない祭りの指令室である。向かって右は見物席で、着飾った子どもたちが父母に連れられて楽しそうに集まっていた。その前の広場が演舞場である。いずれも常設である。全体は太陽信仰に基づいて東方に向かって開け、広場の東方の端には神の降臨する神木赤榕(あこう、クワ科)が植えられている。祭りの期間、この神木には天神と戦神が降臨している。枝葉の伐採は祭りの参加者全体の生命更新であり、伐られた枝葉は人々が魔除けに持ち帰る。この祭場全体の配置は日本の神社の構造の基本と一致している。

会所は部族の男性だけが入室を許される。中央に炉があって、祭の間火を絶やさない。重要な会議を挙行する場所でもある。会所両側に金草蘭(木斛蘭とも)を植え屋根や戦士の頭も金草蘭で葺く。金草蘭は台湾原生薬用植物で絶滅危惧種である。天神の居住地の草という。会所正面は会議の場で、その裏側は酒宴などの場となる。会所は天上の天神の住む空間を地上に移した依代つまり神殿である。

 

次の二枚の写真は広場東隅の神木赤榕(あこう)


 






 

鄒族の神は善悪に二分され、善神は上下の階層がある。天の神が上位、地の神が下位とされるところには、大陸の影響が認められる。「天は生み地は養う」が原則である。

 

善神

1上神 天上界にあって生命を司る神である。

 創造神(大神) 司命神 軍神

2下神 下界にあって生命の存続と発展に必要な栄養と環境を司る神である。

 土地神 河神 粟神 稲神 猟神 部落神 家神

悪神 単独に存在し系統をなさない。直接に人の生命に危害を加える神々で、 巫師だけがその害を払うことができるとされる。

 

大神ハモと女神ニブヌ

 

ハモは鄒族がもっとも尊敬する人類の創造神。大神の足跡の止まった所に最古の部落を形成した。大神は天上にいて祭の際に降臨する。巫師の伝えによると、人間の形をし眼が大きく、熊の皮を着て前身から光を発している。その居住する天上には鄒族が聖なる草とする木斛草(もっこく、金草蘭とも)が一面に生えているという。随行の霊獣は熊である。山間の足跡に人間は集まった。四個の足跡に四つの集落ができた。

 女神ニブヌは大地の創造者であり天上の神でもある。無比の大きな身体で、現在の鄒族の集落は彼女が通過し山が崩れ谷が埋められて平地になった所である。二個の種族の祖先を創造し、生業を教えた。長い時間が経過したのち再度出現したとき、現世に悪神がいた。女神はこの悪神と戦って倒した。その後、この女神がこの世に出現することはなかった。

 鄒族はニブヌへの信仰は記憶に止めているが、この女神を祭ることはない。男神ハモは女神の後続の神。現在、女神祭祀はなくなったが、彼らの伝える創世神話にニブヌ女神が活躍しており、女神信仰がある段階で男神ハモにとって代わられたと考えられる。会所に女性が入れないなど女性差別は認められるが祭りの重要な飲み物の酒は女性が造り、戦士誕生の円舞に女性が加わり手を握ることによって霊力を男性に注入するなど、女性の役割は依然として大きいものがある。創世神話に、太古、この世に女性しか存在しなかったとする話も伝えられ、本来は母権制家族であったと想定される。岩から女神が誕生したとするなど本来は地母神であった。

 

鄒族の代表的創世神話を紹介する。

 

山が崩れ地が裂け鄒族の祖先を造りだした。

ハモ大神が大地に降臨し大木()を揺らし落葉が鄒族となる。

ハモ大神が天上から玉山に降臨し鄒族を造った。

ハモ大神が天上から阿里山に降臨し土地に種を播いて人間を造った。

ニブヌ女神が種を播いて鄒族を造り農耕・漁猟などの生業を教えた。

鄒族の神が天から草原に降り茅草で造った人形が人間に変わった。

岩石の中の一本の石柱から女神が誕生した。当時は地上に食物が無く生活に困った。女神は天の神に食物を乞い、人間に与えた。

太古、世界が海になった。そのとき、玉山山頂だけは水難を免れた。人類は滅亡したが兄弟二人だけが逃げのびた。二人は相談して南北に別れた。そのとき一本の矢を折って持ち、誓いとした。兄はそののち高尾県境に落ち着き、弟は最後に阿里山にたどりつき発展した。

太古、鰻が横向きなった。河がせき止められ海になった。人々は新高山(改称して玉山)に逃げた。食物が無く、飢えて鹿肉を食った。その後各地に散った。

 

祭りに降臨する神は男性神のハモ神と軍神である。 

 

軍神は集落の聖所(会所、祭場)と出征の兵士の守護神である。普段は聖所の敵首篭の中にいて敵首を鎮圧している。天上と人間界を往来し消息を伝達する。戦争では全軍を支配し勝敗はこの神が決める。この神の随行なしに矢を射ても敵に当たらず、猟人が熊を射たときは軍神がその場に来て獣骨を天神に捧げる。この点はアイヌの熊祭に似ている。

 

迎神の儀礼は火を焚くことから始まる。火は族人の生命の火であり、祭りの期間絶やあとあとない。そのあと、犠牲の豚を殺す。豚の血は神降臨の赤榕に塗られる。そのあと、五回喚声をあげ祭典の準備完了を神に知らせる。


 

 


 

入口にあった女人禁制の札と敵首篭


 

 

     


 

首狩りの起源には以下の神話がある。

洪水があった。そのころは穀類もなく野獣を殺して食べた。たまたま犬を殺害し、戯れにその首を棒にさして振り廻すと面白かったので猿の首で遊び、さらに集落に害をなした悪童の首を竿の先にさして振りまわした。水が引いて下山した人たちは人首を狩る快感を思い出し、互いに武器を手に首狩りに出かけた。これが首狩りの始まりである。もともと一つの姓しかなかったが、他社の人間を殺し、その姓を奪ったので、現在は十を超える姓となった。

   

鄒族の先祖が玉山から下山したとき、すでに首狩りの習俗を持っていた。しかし神が首狩りを喜ばれるか分からなかった。ある日、天神が人々を会所に集めた。そのとき、巨石が屋根に落下し、矛、美青年、男子の胸衣が落ちてきた。胸衣の中には斬ったばかりの首が包まれていた。そこで人々は天神が人の首を好まれることを知った。落ちてきた青年は幼時に行方不明になりすでに死んだと思われていた人物であった。以後、集落の人たちはその青年を指導者として首狩りの戦いに赴いた。

 

                   (つづく)





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