はじめに  

これは8年前の8月11日から11月22日までの104日間、中国と西ヨーロッパを
5人で 旅した記録である。
メンバーはムサビ時代の同級生、高橋美津子さん (むらやん)、片山明美さん
(あみやん)、峰村文子さん(ふみちゃん)と中 学、高校の同級生、鈴木留美
子さん(るみこさん)。 当時、テンポラリーの仕 事をしていた鈴木さん以外、
4人はお勤めをしていて、私と高橋さんは休職をし、 片山さんと峰村さんはそ
れまで勤めていた会社を退職した。
最初は数年がかりで 3人で計画をあたためていて、旅行開始の1カ月前に峰村
さんと鈴木さんが加わった。
 100日間が長いか短いかは別にして、旅行中は、常に次の世界を求めて忙しく、
またそれに夢中になりながら、絶えず走り回っていた気がする。
この旅行のなかで次々と起こる事件やカルチャーショックに翻弄されながら、
日本での日常とは違って、加速度をつけたゼンマイのように、人の一生を100
日で体験したような錯覚に陥らせてくれた。  
この文を書いたのは8年も前のことで、その時は手書きのものをコピーして、
親しい友人に回し読みをしてもらった。
この旅のあと、私はロンドンに留学し、そこで暮らした5年間のあいだ、再び
ヨーロッパを旅行するうちに、むしろ客観的にヨーロッパをとらえるようにな
った。そしてさまざまな国や文化を知れば知るほど、むしろ謙虚な気持ちにな
ってくる。

 日本に戻ってきてから、友人に以前に書いたこの文章が楽しかったと言われ
たことがきっかけで、再び押し入れの中から引っ張り出して読んでみた。
これ を書いた時は単なる記録のつもりであったし、実にへたな文なのだが、
旅を進 めるうちにだんだんしたたかになっていく自分がそこにあった。
最初の頃の戸惑いや怖れがなくなり、たくましく、ずうずうしくなってゆくさま。
今読み返すと、無知で、無防備で、危なっかしくて恥ずかしいけど、まだ見ぬ
世界を夢見て夢中で追い求めていた自分がなつかしい。

第一番に、これを一緒に旅した4人に記念として捧げたい。また、私を知ってい
る方が読んで下されば楽しんでもらえるのではないかと思って今回書き直し、
そして新たに去年旅したスペイン、ポルトガルも書き加えた。