なぜあの朝私たちは東京駅で待ちあわせたのか?
ヨーロッパをメインに中国にも立ち寄りこれから旅行しようという
私たちが、なぜ、成田に行かずに東京駅を目指したのか。
現代では 海外旅行といえば空の玄関は成田だが、もう一つの、つまり
海の玄関が神戸なのである。
飛行機でロンドンを目指すのはあまりに簡単だ。そこに行き着くまで
に何十という国々を通過しながら一瞬のうちに眼下を通り過ぎてしま
うなんてあまりにも心苦しいではないか。
私にもし自由な時間があれば、船と列車を乗り継いで旅をするだろう。
現代人の私には暇がない。お金はもっとない。
せめて地球の大きさを感じるためにも隣国、中国に挨拶しなければ義
理がたたない。神戸から船に乗って旅立つなんて夢があるではないか。
そして、なんといってもロマンチックな響きがある。
ところで、東京駅から出発したといっても新幹線に乗ったわけではない。
凝り性で、おまけに貧乏性の私たちは、そういった安易な方法は選ばず、
名古屋まで東名バス、神戸まで名神バスにて、あえて時間をかけて神戸
の港に到着したのであった。
神戸に着いた翌日12時に、《鑑真号》は港を出、48時間かけて上海
に着く。上海より南下して香港でロンドン行きのチケットを買い、ヨー
ロッパに向う。合計104日間の旅となる。 5人で旅をするというと、
ちょっとした団体だが、物騒なところは束になってかかれば恐さも少ない。
それぞれ行きたい場所によって流動的に2対3に別れては再会することが
何度もあり、お互いに無理することなく自由に好きなところに行けて良
かった。
ただし、スケジュールの調整が大変で、二手に別れる前の晩は眠い目を
こすりながら、トーマスクックの時刻表と首っ引きで、出会うだいたい
の時間を調べ、『地球の歩き方』で落ち合うホテルを決める。これはな
かなか頭の痛い会議であったが、それが何より楽しい悩みだったという
ことは言うまでもない。