列車と船の旅 :トンネルの中
 ヨーロッパを縦横無尽に走る鉄道は便利で楽しい。 景色は絶えず変わってゆくし、乗客も地域ごと替るので、一日中乗っても退屈することはない。 トーマスクックの時刻表を見ながら予定が決められてくる。 途中下車も自由だ。

さあ、次の国はどんなところだろうか。何が待っているのだろうか。
旅の始め頃、むらやんとコペンハーゲンあたりを走っていたとき、私たちは疲れてうとうとと眠っていた。 目が覚めた時、列車は止まっており、コンパートメントの中は私たち二人きりだった。 さっきまでいた乗客の、コートやカーディガンは置かれたままで、様子がおかしい。 窓の外はトンネルの中。 いったい何が起きたというのか。
寝ぼけているのでよけいにわからない。 むらやんは、外の様子を見て来ると言ったまま、なかなか帰ってこない。  まだボーッとしていると、むらやんが海老がこぼれ落ちそうな程入ったクロワッサンのサンドウィッチと、絵はがきを数枚持って戻ってきた。 そして、 「これだけ買ってきたけど、どれがいい?」
と言って差し出したそれは、海に浮かぶ船の写真。
つまり、ここはトンネルではなく、船の中にいたのだ。 もちろんここは海の上。  
わたしも急いで外に出て、ひたすら階段を昇ると、下の暗闇の世界とは対照的に、華やかな面 々が、食事をしたり、ゲームに興じているではないか。  
更にデッキの上まで出てみると、そこには寒々とした北海の黒い海が広がっていた。
どんよりと曇った北の海上にて
モロッコに行く船の中