出発の朝 [待ちあわせた友は何処に]
その朝、二つの目覚し時計は機能を果たさなかった。
予定より30分遅く目覚めた私は、これから起こるであろう幾多の苦難を
思い描き、少々の不安と、出発の直前に急に小さくしぼんだ希望を胸に
そそくさと支度を整えた。
さて、気を取り直してみれば時間がない。 東京駅に約束通り 着かない
ことには予定が狂う。 まずは最寄り駅まで歩いて3分、坂道を 上がろう
とすると、あれれ?荷物がやけに重たいではないか。こんなハズ じゃな
かったのに・・・などともはや考えている場合でもない。
そして、荷物のキャリーのすさまじい音。 まだうす暗い朝に響くこの音
と共に、坂を駆け上がる姿は我ながら勇ましい。これは見えない敵に立ち
向かう「いざ出陣」だ!?
重たい荷物を持って、乗り換えなどで階段を昇り降りし、東京駅に着いた
ころには私はもうへとへとになっていた。
そしてちょうど、バスは出た後だった。
とりあえず、キャンセルして次の便に換え、わが旅のパートナー、むらや
んを探す。さぞ心配していることだろう、きっと怒っているのかもしれな
い。なにしろ長い旅の出発点ですでにつまずいてしまったのだ。
まず、 停留所を探したが見つからない。では心配して家に電話をしている
に違いない。しかし電話ボックスにもいない。待合室もまわったがここに
もいない。再び元の停留所まで一周してしまった。・・・と、そこに、
見知らぬおばさんに写真を写してもらっているのんきな人がいた。
背景にはしっかりと『ハイウエイバスのりば』の看板が入るようポーズを
とっているその人こそが、これから私と旅をするむらやんではないか。
私は挨拶もそこそこに、我を忘れて歩み寄り、さっそくその写真のなかに
収まった