2008/0214
Boun San Valentino, Festa degli innamorati.










金色の髪も、蜂蜜みたいな色をした目も、長い指も、いつも彼を包んでいる甘い香りも、本当は僕は嫌いじゃない。ただ、嫌いじゃない筈のそれが傍に来ると、僕は何故か、その全部を遠ざけて、拒まなければならないような気分になる。理由はよくわからない。

彼は、僕のことを抱き締めるとき、最初はほとんど、触れるだけのように指を伸ばす。壊れたりしない。人の身体は、触れられただけで壊れたりなんかしないことを、僕も彼も知っている。けれど、そういう風に触られることもまた、僕は何故か嫌いじゃない。

親鳥が雛を翼で包んで暖めるみたいに、彼はそのときも、僕を後ろから抱き締めた。「されるがまま」、という言葉。……言葉の存在は知っていたけれど、自分とは縁がないものだと、彼と出逢うまで思っていた僕は、自分が陥った状況の危うさに、気付くことすら出来なかった。

そう、僕は、忘れていた。

彼はいつも、僕のことを、大切でたまらないものを扱うように抱く。

けれど、時折。その優しくて甘い手のまま、ひどく自然に、ひどく緩やかに、そしてひどく身勝手に、僕に触れるそのやり方を、手酷いものに変えてしまうのだということを。

そのあまくてにがくてくるしいかたまりを、きみの咽喉の一番奥に

Vivid BiMayo MOMOCHI KiraKiraLovers Miyabi KAWAMURA presents.

 

 
唇にあてがわれた、茶色の、甘い香りをまきちらす小さな塊から、雲雀はいやがるように顔を背けた。けれど、ディーノはそれを許してはくれない。

「なあ、喰えよ」

そう言って、雲雀の左肩――シャツを乱され、剥き出しになった肌の上に、顎を乗せる。金色の髪が、雲雀の肌に触れた。柔らかな感触。さらさらとしたそれは、優しく皮膚を擽る。

「……いや、だ」

雲雀の左肩に、そして耳元に、唇が寄せられた。吐息と、擦れ合う肌。甘えるような仕草をディーノにされると、雲雀はもう、どうすることも出来ない。戦いのときのように、未だ埋めることの出来ない力の差を容赦なく見せ付けられるのとは違う。
こういうとき、ディーノはわざとほんの少しだけ、雲雀に選ばせるのだ。


どうされたい?
お前は、本当は、どうされたいんだ、オレに。

本当に嫌なら、逃げればいい。


そういわんばかりに。
雲雀の身体を後ろから羽交い絞めにしている跳ね馬の左腕にはまだ、強い力は篭められていない。


「恭弥、早く。もう溶ける。……どうせなら、お前が溶かして?」
「――ッ、んっ」


耳に流しこまれた声に雲雀が息を詰めた瞬間、ぐ、と口の中に、塊を押し込まれた。
雲雀の奥歯の間に、ディーノによって捻じ込まれた塊。中指と、人差し指と、薬指。雲雀のそれとは全然違う長さの、細いのに節張った指は、しかし一向に引き抜かれようとはされない。

「ん……ァ」
「噛んで」

促がされ、雲雀が口腔を満たすディーノの指の質量に眉を顰めた瞬間、首筋から顎近くまでを、濡れた感触が――ディーノの舌が、這った。

「ん……ッ、ツ!」

大きく開かされたままの顎が震え、歯列の合間の塊が、ぐしゅ、と潰れる。――途端溢れ出す、甘く濃い香り。

「ん、ぐっ……」
「美味い?」

聞かれ、雲雀はきつく目を閉じた。
舌にべたりと纏わり付いた、甘いもの。密度の高い、香り高い粘液。熱い。舌に乗り、唾液に混ざって唇の端から溢れ出したそれは、人肌程度の温度しかない筈なのに、雲雀には妙に熱く感じられた。 要するに、それだけ、アルコール度数が高いということだ。年齢と、そして性格も相まって、自分からは決してアルコールなぞ摂取しようとしない雲雀にとって、それは少しばかり強すぎた。

「……ぅ、んんっ!」

砕けたチョコレートの外殻と、そして中身のコニャックとを何とか飲み下した雲雀はしかし、眦に涙を滲ませた。口の中で、ゆるゆると前後する指。くちゅ、くちゅ、と音が鳴り、舌や歯列を好きに撫ぜられ、下顎に溜まった唾液が糸を引いて滴り落ちる。

「ふ、……ぅ……ッ」

上半身を捩り抗うと、雲雀の身体を抱くようにしていたディーノの左腕に、今度こそ力が篭った。

「逃がさない」
「――ンん……っ!」

ずる、と引き抜かれた指。
瞬間、自由になった雲雀の口元は、けれど唇を震わせるのが精一杯だった。

「……ゃ、めっ」

背後を取られ、抱き竦められた状態のまま掠れた声でそう言った雲雀の目の前で、そのときディーノは、新しく手に取ったチョコレートを、挟んだ指で自ら握り潰した。


「いい子だから、もうひとつな」
「! ――んんっ!」

脳に響く芳香を纏わせた指が、雲雀の口を、再びこじ開ける。
ひといきに奥まで突かれ、雲雀がせりあがる嘔吐感に呻いた。爪で、指の腹で、中を探られる。固い上顎と、頬の内側の柔らかで弱い粘膜にぶつかるディーノの指は、その内、淫らな行為を真似たものに動きを変え始めた。



引き抜き、突いて、前後に動かしながらわざと角度を変えて、再び突き上げる。
最奥の辿り着いた場所を幾度も揺するように擦り、時折、口腔を犯すものを拒むように震える柔らかな粘膜を、悪戯に刺激する。


「――ッ!! ……ンンっ!!」


ディーノの指が、雲雀の唾液と甘い蜜とで、グチャグチャに濡れていく。
滑りの良くなったそれに満足したように鳶色の目を眇めると、ディーノは一旦引き抜いた指で、雲雀の顎を掴んだ。傲慢で長い我儘な指先は、雲雀の細い顎を覆うばかりか、頬にまで届く。殊更に丁寧に塗り広げられたぬるつくものの感触に、雲雀が息を漏した。


「……甘い」


ぺろ、と伸ばした舌先で雲雀の頬を舐めると、ディーノはそのまま、雲雀の首を捻るようにして横を向かせ、唇を奪った。取らされた無理な姿勢と、続けざまに口腔を犯される息苦しさに、雲雀の身体が強張る。

「ん、ぅ……んッ」

絡んだ舌は、ずるりと滑って簡単に解ける。
雲雀の舌を噛み、捕まえて吸い上げ歯列で扱くようにすることを何度も繰り返した後、ディーノは僅かに離した唇の合間で、緩く笑った。


「恭弥、溶ける?」
「っ……な、に」
「お前、溶けそうなカオしてる」


かわいいな、と揶揄する甘さで囁かれ、耳朶を食まれて、雲雀は高く啼いた。


オレも、欲しい。
恭弥から、貰いたい。


ほとんど吐息のような声で求められ、雲雀は首を振った。……狡い。こういうとき、やはり、ディーノは少しだけ狡猾でずるい。



「……オレにも、甘いのくれるだろ?」



雲雀がそれを拒むわけがないと、知っているくせに。




こうやって、わざと。
甘えねだるような声でわざと、いつもディーノは雲雀に、選ばせるのだ。



>>fin.

 



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Vivid Bit // illust // Mayo MOMOCHI
KirakiraLovers // novel // Miyabi KAWAMURA

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