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鳥、されど猫。
written by Miyabi KAWAMURA
2006/1123


 



 ひとの動く気配で、雲雀は目を覚ました。


開けていく視界の中で、遠ざかっていく誰かの手が見える。

「……」

反射的にその手を掴んだ雲雀に向かって、その手の主は……ディーノは脚を止めた。

「恭弥?」
「……いま、なにかした?」

眠りが深かろうが浅かろうが、ふとした事で簡単に目覚めてしまう類の雲雀である。しかし初めて肌を合わせたときから何故か、ディーノはそのやっかいな、雲雀の抱える「壊れ物」を妨げずに動く事にかけては天賦の才を持っていた。

恭弥、オレと一緒にいるとそんなに安心するんだ?

……と、冗談交じりに問い掛けてきたディーノに一撃は見舞ったものの、結局理由は不明なまま、しかしそれでも今日まで、雲雀の眠りは安穏に守られてきたのである。
なのに、今夜は何故か、目が覚めてしまった。

「何もしてねぇよ」
「……うそ」

身体も頭も未だ覚醒しきっていないのか、僅かに語尾を緩くしたまま雲雀は言った。

「うそ。絶対何かした。でなきゃ……」

「僕が目を覚ます訳がない」と続けようとして、雲雀は口を噤んだ。

どういう意味だ、と自分で自分に問い掛ける。

「目を覚ます訳がない」? それこそ有り得ない。そもそも共に眠る事だって、許したつもりは欠片も無いのに。

「あなたみたいな他人が隣にいて、僕が眠れる訳が無い」

……どう考えても、「正しい」のは、これでなければならない筈だ。


「恭弥」


雲雀が一方的に途切ってしまった会話を継いで、ディーノが口を開いた。
雲雀に捉まっていない右手で、雲雀の髪に柔らかく触れる。

「本当はさっき、お前の頭撫でた。……起こして悪かったな」

そう言いながら、指先で掬った黒髪を撫でる相手の、琥珀色に似た彩をした目に見下ろされ。……それを意識した刹那、雲雀は自分の内に、苦い様なもどかしい様な、よく分からない感覚が滲み出すのを感じた。


「最悪」


知らず呟いて瞳を閉じ、ディーノの手を掴んだ両手に、ぎち、と力を入れる。

ディーノの所為で(としか思えない)苛立ちを爪に篭め、報復の傷を付けてやりたいのか、……それとも、何処かに行こうとしていた彼を逃がさない為に掴んでいるのか。雲雀の手に篭められた力はそのどちらとも解釈可能な微妙なラインで揺れていて、何より雲雀自身が、その判断を付けかねている。






「恭弥、もしかして寝た?」

自分の手を掴んだまま、目を閉じ黙り込んでしまった雲雀に向かって、ディーノが問い掛けた。……戻らない返事に、ひとつ息をつくと、そっと、手を抜こうとする。が、しかし。

「……っ! と」

ディーノのその動きの所為で、薄い瞼の下から再び覗く、黒の双眸。

「……サイアク、だよ、あなた」
「悪い。……つか、お前ホント敏感なのな」
「……ひとの睡眠、二度も邪魔しといて何様のつもり?」

言葉では謝りながら、しかし微苦笑をかみ殺している金髪を見据えた目の色を、愛用の獲物を振るうときのそれに変えると、雲雀は自分の指から逃れかけていた鞭使いの左手を掴み、強く抱き込んでしまった。そして、目を閉じる。

「おい。離せよ。そのまま寝んな」
「罰だよ。僕が寝るまで、そこから動かないで」
「……シャワー浴びに行きてーんだけど」
「うるさい」

あなたもボスなら、けじめはちゃんと付ければ。

そう言って、早くも眠そうな欠伸を零した雲雀を見遣ると、ディーノは仕方ねえな、と呟いて、ベッドサイドに腰を下ろした。

「責任、とってやるから」

今度こそ相手を起こさないように、小声で言う。
……柔らかくシーツに散った黒髪のしなやかな手触りを思い出し、先刻の様に触れたい、と思い動いた自分の指を、ディーノは苦笑して、止めた。……そのとき。
僅かに身じろいだ雲雀が、両手に捉えていたディーノの左手に頬を寄せる様にして、動いた。

「……」

豪奢な絵の彫られた肌に触れる、柔らかい寝息と、柔らかな皮膚。
眠りの内の無意識な行動なのかもしれないが、起きている雲雀なら絶対に見せないであろう仕草に、ディーノは目を瞠り、そして一度は止めた指を伸ばし、触れた黒髪を緩く撫でた。


「……お前、なんか猫みたいだな」


名前は「雲雀」のくせにな、と冗談混じりに囁いても、寝入ってしまった少年は、目を覚まさない。



……きみは鳥、されど、猫。

鋭く強く、そして敏感ないきものを、飼い慣らそうとは思わない。けれど。


今はせめて、そのすぐ、近くで。



>>fin.


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