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それはとても緩くて狡い…、
written by Miyabi KAWAMURA
2006/1207


 


 その、黒い布のしなやかな肌触りに、緩く柔らかく拘束される。



 若くして同盟の中枢ファミリーのボスとなり、そして公的には実業家として成功を収めているディーノは、普段、弟分であるツナ達に会うときはラフな格好をしている。……が、そうではないときには、やはりかなり服装には気を遣っているらしい。
雲雀からしてみれば、本人の経営手腕、企業競争力のみならず、社交術にまで長けていなければ認められない世界など、ひどく面倒に思えるのだが、そんな状況ですら、金の髪の跳ね馬は、結構愉しんでいる様だった。……まあ、それ位の図太さが無ければ、マフィアのボスなどは、務まらないのかもしれないが。




 「恭弥、オレにもコーヒー」

 雲雀の私室と化した並盛中応接室を訪れるなり、キャバッローネのボス兼青年実業家兼沢田綱吉の兄弟子兼雲のリングの継承者の家庭教師である青年は、そう言ってソファに転がってしまった。

先刻、風紀委員に淹れさせたばかりのコーヒーの香りが漂う室内に、ディーノと一緒に流れ込んできた外気が紛れる。

 空港から直行してきたのだろうか、ディーノは普段彼が並盛を訪れるときに着ているものとは見るからに質の違う、黒いロングコートを着たままだ。
細身で、そして裾捌きが綺麗に映える様にデザインされた昏い色のそれは、金色の髪の跳ね馬に、ひどく似合っている。
上質の羊毛を、細く細く紡いだ糸で丁寧に織られたその着心地の良さを気に入って、若きマフィアのボスはこれを愛用しているのだが、それは雲雀の知るところではない。(並盛を訪れる前に、大抵ディーノが既に着替えてしまっているのが、その理由だ。)


「今飲んでるやつ、くれてもいいぜ?」
「……」

無言のまま机の上のカップを手に取ると、雲雀は窓際に据え置かれたデスクから立ち上がった。そしてそのまま歩いていき、寝ている相手を見下ろす視線のまま、顔の上で、無表情にカップを傾ける。

「!……っ、こら」

黒褐色の熱湯がカップの淵から溢れる寸前、起き上がったディーノの右手が、雲雀の手首を捕まえた。

「いきなり、そーいう事すんなって」

苦笑して諌めるものの、そんな言葉を雲雀が聞く筈が無い事は、勿論ディーノも知っている。

「何。いらないの?」

……戻ってきた答えは、案の定。

「いらなくはないけどな。こういう貰い方は嫌だろ、誰でも」
「そんな事」

僕には関係無いから、と。
雲雀が続けようとした刹那、ディーノは掴んだ手首を強く引いた。

類稀な戦闘センスを持つ獲物が逃げない様、丁寧に脚払いまで掛けてやる。
……結果、完全に体勢を崩し、ソファに座るディーノに倒れ込む勢いのまま抱きつく形になった雲雀の身体は、彼が着ている黒いコートの柔らかな感触と、背に回された両腕に受け止められてしまった。

 それは、一瞬の出来事。

ディーノのコートが未だ僅かに含んでいた真冬の冷気が雲雀の身体を包み込み、すぐに温かい室温に溶けて、消える。


「流石、オレの教え子だな」


コーヒー零してないだろ? と、笑みを含んだ「家庭教師の声音」で確認され、雲雀は眉を顰めた。

急に仕掛けられた悪戯とはいえ、バランスを崩して無残にコーヒーを零すなど、雲雀にとっては有り得ない事で(もとよりカップの中に、コーヒーは半分以下しか残っていなかった)、そんな事よりもっと別な理由によって、見かけ以上に沸点の低い雲雀の神経は、瞬間的に逆撫でられていた。


体勢を崩し、否、崩されて倒れ込みながら、そのとき雲雀の頭の中には、

「自分の身体はディーノが支えるだろうから問題無い」

という判断がよぎってしまったのである。


 常々、自分を「支える何か」など、必要も無いし存在する意味もないと思っている雲雀である。……なのに、咄嗟の事とはいえ、事態を回避する為の計算の中にディーノを入れてしまった事自体が、他の何より許せなかった。
確かに結果だけ見れば、ディーノに身体を任せて手元のバランスに集中したからこそ、コーヒーを零さずに済んだ訳で、雲雀の脳が下した判断は完璧に正解であったのだが、しかしだからといって、到底喜ぶ気になれる筈は無く。

「……あなたに会う度」
「ん?」
「グチャグチャにしてやりたいって、本気で思うよ」
「思うだけにしといてくれると、有難いんだけどな」

言いながら、雲雀の手からカップを取り上げテーブルに置くと、改めてディーノは腕の中の身体を、ぎゅ、と抱き締めた。

「ひとの言ってる事、聞く気は無い訳?」

倒れ込んだ不完全な体勢のまま抱すくめられた雲雀は、身じろぎもままならないまま、そう呟いた。

「聞いてやりてーけど、今は無しだ」


強引で身勝手な言い分と、それに続く、黒髪に落とされた唇の感触。


 肩甲骨の辺りに触れていた鞭使いの指が、腕に捕らえた雲雀の身体の薄さを確かめる様に動いて肩に触れた。
そして今口付けたばかりの髪に辿り着き、柔らかく撫ぜる。……雲雀が零した吐息は無意識で、しかしそうしている合間にも、髪から離れた唇が耳朶を滑り首に辿り着いて、無防備な皮膚に悪戯の様に触れていく。

会いたかった、と。
耳元で囁かれて、柔らかく織られた黒い布に包まれた雲雀の身体が、僅かに震える。


愛撫と呼ぶには緩く、しかしとても良く似たその触れ方。


「恭弥」

名前を呼びながら触れる指、そして頬を掠める暖かく柔らかな布の感触。

「……、ぁ」

それまで、外気から守る様に雲雀の身体を抱き締めていたくせに。
……いつの間にか、雲雀の下肢に触れていたディーノの指が、制服の下衣の上から、敏感な部分を擦る様に刺激した。

「……っ!」
「少し、我慢な」

抱き締められたままでは、密着した二人の身体の間に伸ばされた指の明らかな……今度こそ明らかな愛撫の動きをするそれを止める事は出来なくて、びくん、と跳ねる下肢を蹂躪される。

「このまま、……触っても良いだろ?」
「ん……っ、ゃ」

耳朶を齧り、流し込まれた声に首を振った瞬間、熱を持ち始めた部分を、布越しに爪で掻かれた。

「ぁ、……っぅ!!」

強く押され、もう一度爪先で緩く掻いた後、形をなぞる様に撫で上げられる。

「……恭弥」

逃げようとする身体を、更に強く抱き寄せられ。

「ゃ、……っ」



柔らかな黒い布の中で触れる指、触れる唇。
そして、幾度も呼ばれる名前。


狡い、と続けた雲雀の声は掠れてしまって音にはならず、吐息だけが揺れた。


与えられる刺激にとろけはじめた思考は、愛撫から逃げられない理由を全て、「頬に触れる心地よい黒い布の感触から離れたくない所為」、と、書き換えてしまう。



……黒い布の、緩く柔らかく狡く、しなやかな。


それはまるで拘束に似ている、と思った雲雀の理性は、触れる指で、溶かされた。







>>fin.


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