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目隠し鬼
written by Miyabi KAWAMURA
2007/0818
(Web再録…2007/1011)







「次、どこ触って欲しい?」
「……んっ、ぁ」
「ほら」


恭弥、と。
名前を呼びながら、緩く扱く手。それが、鞭を手繰る彼の利き手である右手なのか、それとも、跳ね馬の異名の一因となったタトゥーのある左手なのか、そのどちらであるのかは、今の雲雀には区別がつかない。否、つけられない。


雲雀の視界は布に覆われ、完全に閉ざされていた。


 きっかけは、些細なことだった。
いつもの様にふらりと応接室に現れたディーノと手合わせし、互いに少しずつ負った傷を気休め程度に治療している、内に。
傷口を舌でなぞられ、思わず息を止めた瞬間、治療という行為を放棄した彼に、掴まれた腕。雲雀の方から重ねた唇、そして剥ぎ取られた衣服が中途半端に纏わりつくまま下肢を弄られた。


 滲み始めた先走りを、くちゅ、と音を立てながら雲雀自身に絡めていたディーノの指の動きの、淫らさ。ほんの少し前まで、自分と武器を交わしていたときとは全く違う風に動かされるそれは正視に堪えなくて、雲雀が目を逸らした、その時。

「ちゃんと、見ろよ。恭弥」
「や、……だっ」

拒んだ雲雀に向けて、ディーノは一言呟いたのだ。
仕方ないな、と、愉しそうに。



『……それなら今日は、見えないようにして、やろうか』









「解るだろ? すげえ、濡れてる」
「ディー、……ノっ」

不意に、耳のすぐ近くで囁かれた。
次いで耳朶をぬるりと這った生暖かい感触に、雲雀の肩が揺れる。

「! ……ぅあっ」

耳朶をきち、と噛まれ、その痛みに意識を向けた瞬間、下肢に伸びた指で先端を弄られた。

「気持ちいい?」
「ぅ、……っるさ、ぃっ」
「強情だな」

こんなにしてるくせに、と、揶揄交じりの声は、息が耳に触れるほどの間近で聞こえた。
晒された雲雀の身体の上に覆い被さるディーノは未だ服を着たままらしく、熱を溜め込んだ肉塊が、指だけでなく、彼の衣服にまで擦られる。

「気持ち、いい?」

とても答えにくい同じことを、もう一度聞かれる。

「こういう風にされるのが、イイんだ、恭弥は?」
「……ぁ、んんっ」

 熟れきった先端がわざと布にぶつかる様に、ディーノは雲雀自身を掴み固定したまま、小柄な身体の上で、まるで繋がっているときの様に自分の身体を緩く動かした。

雲雀のもとを訪れるとき、ディーノは手触りの良い生地の服を重ね着していることが多い。そのさらりと柔らかい感触を密かに雲雀は気に入っていて、けれど、今はそれこそが毒、だった。

蜜を滲ませた小さな口、滴った液で濡れる側面を、ぶつかる布が、気紛れに擽る。

僅かな接触から生まれる快感は、微々たるものでしかないというのに。
視覚を奪われ、緊張し張り詰めた雲雀の触覚は、普段なら気に留めない程度のことにすら、過剰な反応を返してしまう。そして勿論、ディーノは全て解ってやっているのだろう。

ディーノが身体を揺らす度、組み敷いた相手は息を詰めて堪える。……が、弱いところに繰り返し与えられる刺激を、そして否応無しに湧き上がる快楽を隠し通せてしまうほど、雲雀はまだ、器用にはなれない。無意識に膝を震わせ、下肢を捩り逃げようとする仕草を鳶色の目で愉しむと、その代わりとばかりに、今度は指を使って、雲雀を弄る。


今日のディーノは、ひどく意地が悪い。


なのに、雲雀のことを、ひどくひどく、気持ちよくさせる。





「もっと、って、言って恭弥」

ディーノの声の語尾は、甘く掠れていた。

「言えたら、もっと……好きなところだけ、触ってやるから」
「ぁ、……っ」
「ここ、とか……、」
「ッ……、ゃ、だっ」

言葉と共に根元を戒めていた手が動いて、腰骨の内側、薄い肌の弱い部分を、ぐ、と押した。

「! ……はっ、ぅ」

わざと快楽の中心を外した、もどかしい刺激。
びくびくっと震えた下腹部と、途端に量を増した先端から溢れる雫の様を鳶色の目で堪能し、跳ね馬が小さく微笑う。

「恭弥が零してるのに、白いのが混ざってる」

身体の全てを観察され、溢れさせた粘液の保つ温度や感触、そして透明から白濁へとゆるゆると変わっていく情欲の証の色さえも。
視姦し尽くしたその全てを、ディーノは一つ一つ、雲雀の耳元で言葉にしてみせた。

「……ん、ぅっ」
「ほら、また出てきた。……恭弥、お前ホント可愛い」
「殺……っ、すっ!」
「……余計イイんだ、そういうところが」

普段の雲雀ならば、絶対に赦さない類の言葉を囁かれてすら、ディーノから与えられる愛撫と言葉にだけ支配された脳は、勝手に淫らな想像をし始めてしまう。けれど、それに流されまいとする雲雀が見せる頑なまでの抵抗は、逆にひどく、ディーノの欲を掻き立てるのだ。

「!! ……ぁ、うぁっ!」

そのとき、突然。
充血しきった先端に爪を立てられ、雲雀の身体は弾けてしまった。掌に受け止めた白濁液を舐め取ると、ディーノは残った分を、雲雀の下腹に塗り付けた。

「はっ、ぅ、……っ」
「もっと。全部、出したいだろ?」
「ゃ、……っ、んぁっ」
「見せてやりてーな、お前に」


恭弥の腹の上とか、オレの服も、今お前が出したやつでぐちゃぐちゃになってる。


鼓膜を震わせるディーノの声。

耳に注ぎ込まれた言葉の意味を理解したくなくて、拒む様に雲雀が首を振ると、達したばかりの部分を、掌でぐちゅりと撫で扱かれた。声が漏れないよう、奥歯をきつく噛み、堪える。

「恭弥の頭の中、見てみたい」
「……な、に」
「今、何考えてる? ……オレに触られて、お前の身体全部、どういう風になってると思う?」

言いながら、ディーノは雲雀に口付けた。
答えられる筈がない、淫らな問いに戸惑う薄い唇を舌先で探り、隙間を割る。口腔に差し込まれた舌を、雲雀は自分のそれで受け止めた。

「ディ、……っ」
「噛むなよ……」

苦笑を滲ませて囁いた相手の声ごと唾液を飲み込まされて、雲雀は咽喉を上下させた。
僅かにずれた唇の端で息を継いでも、乱れた吐息は収まらない。そこに更に深く突き入れた、ディーノの舌。口腔を掻き乱され、雲雀の唇の端から唾液が溢れる。

触れる手と、触れられる身体。

その間でまみれる濁った粘液も重なる唇も全て、雲雀の体温のままにぬるい。



 視界とは違い、拘束されてはいない両腕を、雲雀は覆い被さる相手の背に回した。未だディーノが身に纏っている衣服を掴み、ぐい、と引っ張る。

「恭弥、悪戯すんな」
「……違、っ!」

揶揄する言葉に苛立って、雲雀は握った拳で、ディーノの背を殴った。とはいっても、組み敷かれた体勢のままでは、大した威力がある訳でもなく。

「お前、凶暴」
「ぅ、るさ、……んんっ」

くつくつと微笑われ、逆に抱き締め返されて、跳ね馬の腕の中で身体が撓る。心音すらも届くような、交わるほどに近い互いの熱に、触れ合ったところから溶け出してしまいそうな気さえした。


「……恭弥」


大きな溜息と同時に、ディーノが身体の力を、ふと抜いた。途端、雲雀の細い肢体に体重が掛かる。身長も体格も、ディーノと雲雀では正に大人と子供の差があるのだ。……本当なら苦しい筈なのに、何故か雲雀は、その重さが嫌ではなかった。

「したい。もっと、触りたい……」
「……っ、ぁ」
「恭弥は?」


オレは、お前を抱きたい。
お前に触るのも、触られるもの、すげー好きだ。


まるで雲雀に言い聞かせる様に、ゆっくりと。
掠れるその声を発する相手の鳶色の目が、今どんな彩を湛えているのか、雲雀には想像することしか出来ない。


「……と、って」


この布、やだ。取って。
口をついて出た言葉は、無意識だった。引き攣る唇を動かし、吐息に音を乗せる。

「見たい、……目」

ディーノの背に置いたままにしていた手を動かすと、雲雀は指先に力を篭めた。早く、と言葉にするのは躊躇われて、けれど我慢も出来ず、どうしようもなく爪を立てる。

「……いいのか?」

黙って雲雀を抱き締めていたディーノが、口を開いた。

「取ったら、オレ、多分ひどい事するぜ?」

そう聞きながらも、自分の視界を覆う布に手が掛けられた気配を察して、雲雀は息を零した。

「……ッ、い、いから」

持て余した熱で、ひどく喉が渇く。
結び目が緩み、あっけない程簡単に、視界の戒めが外された。明るさを感じ始めた瞼の上を濡れた指でなぞられ息を零すと、ディーノの掌が雲雀の右頬を包み込む。


「目、開けろよ」


促され、ゆっくりと雲雀は目を開いた。








 ぼんやりと滲む視界。
二、三度瞬きし、焦点を確かにした黒い双眸は、眦が赤く色付いていた。


ひどいことを、と告げられた通り。
その後の行為に、一切も容赦はなかった。




「……ぅ、あっ、んんっ!」
「恭弥の声、すげーイイ」
「ゃ、ん、んぁ……っ」

雲雀の目を真上から覗くと、ディーノはそこに唇で触れた。
眦、頬、唇と順に口付け、けれど掠める程度の優しい感触は、そこまでだった。投げ出された膝を割った大腿で雲雀の中心を押し潰す様に刺激すると、ぐ、と顎を掴む。

「余所見するなよ」

自分で見たがったくせに、と揶揄すると、強引な指が鳶色と黒い色の視線を、無理に真正面から噛み合せた。

「……ッ……」

鳶色の目に浮かぶ、蜜の様な艶。
自分に向けられている感情――恋愛感情などという甘いものだけではない、執着や、欲望すらも混ざり込んだ凄絶な艶を間近に見て、雲雀は思わず息を止めた。


こんな目で見られていたのかと、今更に自覚する。


衣服を剥がれ、大きく開かされた脚。
それだけじゃない。指で嬲られ、耐え切れなくて吐き出した瞬間すらも。
今までの事は全て、この目で見られていたのだ。


「ん、……ァ、っ」

どくりと心臓が鳴り、雲雀は身体を震わせた。
何もされていないというのに、腰の奥で重く熱い塊がうねる。

「や、何……ッ、んぁ……」

膝が跳ね、体温が一気に上がるのが分かった。ディーノの背を、立てた爪で幾度も掻く。

「……また、固くなってきた」
「ひ、ぁ……ッ」

顎から離れた手が横腹を伝い、先端を擽られた。

「自分だけ見られて、グチャグチャにされて……恥ずかしかったのに、気持ちよかった?」

滲み始めたものを肉塊に塗り広げる様に、五指をゆっくりと上下させる。それまでに出した分と混ざり、量を増したぬるむ液がクチリと音を立てた。

「んん、……ッ、ぃ、あっ!」
「もっと出るだろ。……出したい?」
「ゃ……ッ、だ、んんんっ!!」

くびれの裏とそして先の窪みを、爪でしつこい位に掻き弄られた。そう思うと次は、根元の柔らかな部分を掌で探られる。

「ぅ……っ、ぁっ!」
「駄目だ。まだ……、」

脈打った雲雀自身を掴むと、ディーノは身体を起こした。
首に回っていた雲雀の手が解け、ぱたりと床に落ちる。

「ん、ぁ、……、ゃ」

溢れる蜜を絞る様に扱かれ、雲雀の背が跳ね、床から浮く。嬌声になる一歩手前の艶を雲雀の吐息は含んでいて、嫌だ、と拒む仕草も、もう悦んでいる風にしか見えない。

雲雀の身体を引き寄せると、ディーノは汗ばみ、吸い付く手触りの大腿を掴み、膝を立たせた。左右の膝に手を掛けた瞬間、雲雀の下肢に力が篭るが、力づくで押し開いてやる。

「ふ、ぁ……っ」

ディーノの眼前に、熟れきった雲雀の身体が晒された。
自分の取らされた淫らな姿勢を嫌がり雲雀が眉を顰めると、潤んだ目から、涙が滑り落ちた。

「……泣く程、イイ?」
「ち、が、……っ」
「違わない。……啼けよ、もっと」

咽喉を震わせ否定した雲雀に緩く笑うと、ディーノは右手を伸ばし、雲雀自身に触れた。先端に中指と人差し指を掛け、窪みの淵に爪を立てる。

「んんッ!!」

充血しきった部分が、固さを増す。添える手が無くても構わない程立ち上がり、先走りにまみれて濡れる器官。
あともう少しだけ嬲ってやれば、きっと濁ったものを吐き出してしまうだろう箇所から、しかしディーノは手を離した。目を遣った先に見つけたものを手に取ると、それを雲雀自身に宛がい、ぐるりと巻き付ける。

「! ッ……!」

敏感な場所に突然施された戒めに、雲雀が目を見開いた。
引き攣れた、悲鳴じみた呼吸が咽喉から零れる。

「ゃ、何……ッ……!?」
「何だと思う?」

そう言ったディーノが、手にしたものを、もう一重、雲雀に絡めて引き絞った。

「……っ! 痛、ぁ……っ!」

きつく締められた場所へ、反射的に伸びた雲雀の手を、ディーノのそれが捕まえる。

「外すなよ。……絶対もっと、良くしてやるから」
「ィ、やだ、……っ!!」

両手首を一纏めにされ、床に押し付けられる。
膝を揺らし暴れる雲雀に目を眇めると、ディーノは雲雀自身の先端を――先刻まで、目隠しに使っていた真白く細長い止血帯で根元をきつく戒められた雲雀自身の先端を、掴んだ指で強く擦った。

「や、ぁう……ッ!」

孔がひくつき、ぶるっと雲雀の全身が震える。けれど、達することは出来なかった。

「……恭弥は、まだ自分じゃ我慢出来ないだろ?」


だから、その代わりな。


正気とは思えない言葉と共に、ディーノは雲雀の下肢に顔を伏せた。
大腿を、そして内股を擽る金色の髪の感触と、吐息。唇の向かう先に気付いて、雲雀が身体を捩らせる。

「駄目、ゃだ……」

何とか腕を振りほどき、ディーノの髪を掴む。引き剥がそうとした瞬間、けれど先を制したのは、脳を溶かす様な快感だった。

熱い、しなやかに濡れた粘膜。

雲雀自身を口腔に含むと、ディーノは舌を沿わせ、肉塊に絡んだ液を削ぎ取る様に舐め始めた。先端から、根元を戒める布の際まで、余すところ無く柔らかな肉が這う。

「ん、ぅんっ……」

声だけは出したくなくて、しかし与えられる快楽はひどく強い。目を閉じ、膝を揺らし堪える雲雀を咥えたまま上目で見遣ると、ディーノは顔の角度を変えた。

「ァ……っ……!」

横から齧られ、口を突いて出る甘い啼き声。
下腹を震わせ、逃げる身体の腰を掴んで押し留めると、ディーノは尖らせた舌先で側面を下り、付け根の膨らみに口付けた。口腔の中に導き、くちゅり、くちゅり、と甘噛みを繰り返す。

「や、だ……ッ、それ、ゃ……っ」

蜜を作り出す場所を幾度も噛み扱かれ、雲雀が首を振った。
汗が散り、色付いた薄い胸が激しく上下する。放置された雲雀自身の先端は赤く腫れ、漏れた先走りが戒めの布を濡らしていた。時折、気紛れ程度にディーノの指が先端を撫でるが、それ以上のことは、してくれない。


煽る指、食む唇。吐精を堰き止められる痛み。


その全部が一緒くたになり、雲雀は指に絡めた金色の髪を、ぐしゃりと掻き混ぜた。……途端、応える様に先端に吐息が掛けられる。ぴくぴくと引き攣る小さな孔ばかりを、ディーノは舌で抉り咽喉奥深くまで飲み込んでは歯を立て、唇で扱いた。

「んぁ、っ……ィ、―ノ……っ」

快感を強いる相手を、なじりたいのか咎めたいのか、それとも、続けて欲しいのか。それすらも解らないまま、雲雀は自分を弄る相手の名前を呼んだ。
下肢がくねり、腰が浮く。自分から愛撫をねだる姿勢を取りながら啼く雲雀の声が、ディーノの耳を心地良く打つ。

「……ッ、恭弥、可愛い」
「ァ、うぁ……っ」

一度雲雀から口を離すと、ディーノは限界まで虐めた箇所を、鳶色の目で見詰めた。

いつの間にか、根元を縛っていた布は、含んだ水分で色を重く変えていた。雲雀が漏らした淫らなもので湿ったそれごと左手で握り込むと、掌と指に力を篭め、ゆっくりと扱く。

「ん、ンぁ……っ、ディー、ノ」
「……何だ……?」

欲情を滲ませた目と声が、雲雀の身体に注がれる。
責める左手をそのままにしながら、ディーノは雲雀の先端から流れるものを右手の指に絡め取り、見せ付ける様に舌でしゃぶった。


目の前でされる不埒な行為に、雲雀がぞくりと身体を震わせる。
跳ね馬がする、計算ずくの煽る仕草に、幼い獲物は簡単に堕ちた。


「どうされたい?」
「ぁ……、…」
「恭弥は、この後、オレにどうされたいんだ?」


過分に甘い声音とは裏腹に、ディーノは爪で、雲雀自身を掻き擽った。
掴んだ掌の中で、更に熱を増した雲雀を見遣り、唇の端に笑みを浮かべる。


「言えよ。このまま前だけでいい? それとも……、此処も?」
「っ……!」


這わされた指が肌を掻き分け、後孔の入口を撫ぜた。
ぐ、と押され、胎内に呑み込まされた異物に驚いた内側が収縮する。自分の指をきつく噛む肉の感触を確かめながら、金色の髪の跳ね馬は、殊更ゆっくりと指を引き抜いた。ディーノ以外には触れられたことがない雲雀の中は、開かれることにも焦らされることにも、馴れていない。

悪戯に指を咥えさせられたことで、以前ディーノから受けた愛撫を思い出したのか、柔らかな内襞は、雲雀の気持ちを無視してざわめき始める。

「ア、ぁ……っ」
「……後ろにも、欲しい?」
「ン、……っ、んんっ」

意地悪く言い当てられ、雲雀は表情を歪ませた。
ゆら、と視界が滲み、耳元でうるさい位に心臓が鳴る。
「欲しい」なんて言える訳がなくて、けれどもう、熟れ落ちそうな自身も、そして中も、限界だった。……僅かに、顎を震わせる程度にだけ頷いてみせた雲雀を見遣り、ディーノが愛おしそうに目を細める。

「……いい子だ、恭弥」
「そ、んなの、いい、から……っ」

早く、と身じろいだ雲雀の左右の腰骨を、ディーノが強く掴んだ。
戒めが解かれ、それまで痛い程我慢させられてきた吐精が叶う予感に、意識せず雲雀は鼻にかかる甘い声を漏らす。が、その期待は簡単に裏切られた。

「!! ッ、あぅッ!!」

がり、と雲雀の先端に歯を立てたディーノは、そのまま咀嚼する強さで肉塊を齧りながら、口腔の中で雲雀自身に舌を絡ませた。

「や、離し……っ、は、なせっ!!」

どんなに雲雀が足掻いても、ディーノに聞く気は無いらしい。
欲望を吐き出す為の道を縛り塞き止められた状態で加えられる手酷い愛撫。呼吸すら止まりそうな快楽と痛みがぐちゃぐちゃに混ざり、雲雀は瞠った黒い目に涙を浮かばせた。

「んん、ん……ャだ、ぁっ!」

赦される限界まで膨らみ充血した自身が、じん、と痺れて訳が分からなくなる。

「このまま飲ませて。……恭弥の、飲みたい」
「ィ、あ……、ぁうッ」

先端の浅い部分を唇であやしながら、ディーノが呟いた。
口を離し、痛々しい程に赤く色付き震える粘膜を見詰め、浮いた液を余さず舌で掬う。ぴちゃぴちゃと、動物が獲物の体液を啜るのに似た音を立てながら、時折咥え、じゅ、と吸い上げる。

「い、たい、……ィ、やだっ」

精製したばかりの欲望を、無理に引き摺り出し、飲み下される感覚。
圧迫された器官では滴らせる程度にしか白濁の液は出せなくて、それをディーノは知っているくせに、尚も雲雀を責め立てる。

「……出せよ」
「やだ、ぁ……っ、出ない、ゃだっ!」
「出せるだろ? ……早く」

言いながら、ディーノは根元の戒めに指を掛けた。
固く縛りつけたそれと雲雀自身の間に無理矢理指を割り込ませ、ぐ、と引く。出来た僅かな隙間を悦んで、肉塊がビクリと跳ねた瞬間。
ディーノは思い切り、咥えた雲雀自身を吸い上げた。

「……っ!! んぁっ!!」

不完全とはいえ、ようやく赦された逐情に、雲雀の下腹が痙攣する。
口腔で受け止めたものをごくりとディーノは嚥下した。蠢く咽喉に擦られ、とろとろと残滓が溢れる。それを拭われる度、雲雀は小さく声を零した。





 雲雀の下肢に伏せていた顔を上げると、ディーノは手の甲で口元を拭った。そのまま雲雀の膝裏を掴み、押し上げる。続けざまに嬲られて、抗う力も残っていないのか、雲雀の最奥は簡単に暴かれた。

「恭弥」

細い肢体を組み敷きながら、ディーノは衣服の前を寛げた。既に猛り張り詰めた自身を取り出し、ひくつく箇所に浅く咥えさせる。

「恭弥……」
「ぁ……っ……」

体重を掛けていきながら、雲雀自身に巻き付けていた布を外してやる。ぐずぐずに濡れたそれは、重い音と共に床に落ちた。
右膝が、顔近くに届くまで脚を開かれ身体を畳まれ、雲雀が呻く。

涙の膜が薄く張り、揺れる黒い双眸が鳶色の目に向けられた瞬間、ディーノは自身を雲雀の中へ捻り入れた。

ろくに解されてもいなかった内壁を、喰い荒らす様に熱く、質量のある肉塊が突き、抉る。

「ィ、あ……っ、ぅあっ」

固い先端がきつく締まる襞をこじ開ける度、雲雀の先からは、ぼたぼたと名残の液が溢れた。戒めの所為で達しきれなかった身体は、内側からの刺激に悦んで粘つく涙を零し続ける。

延々と続く、性質の悪い快感。
それに全部……気持ちも何もかも全部飲み込まれてしまいそうで、怖い。

「……ッ、んっ」
「恭弥、の、中……ッ……」
「や……、だ、ぁっ!!」

ぐ、と最奥を突き上げられながら耳朶を噛まれ、淫らな言葉で聴覚を弄られた。
途端湧き上がる、羞恥と拒絶。
けれど胎内を掻き回され、柔襞を抉られることで生まれる快感は、今まで堪えてきた分、気がおかしくなる位に、気持ちが良い。

「……ッ、ノ、ゃ、だ、ディー……ノっ」

それまで、深すぎる場所を嬲っていた肉塊が、ずるりと引き抜かれた。
追い縋る襞が絡み噛み付き、ディーノも奥歯を噛んで快楽を遣り過ごす。半分程挿れたまま緩く抜き差しし、足りない、と雲雀の下肢が焦れて揺らぐと再び突き入れ、奥を満たす行為を繰り返した。
華奢な幼い下肢に腰を打ち付け、揺さ振る。

「ぁ、んぁ…っ……ァっ……!」

喘ぐことしか出来なくなった雲雀の咽喉が、息継ぎすらままならなくなって引き攣った。


汗と体液にまみれて鈍く光る肌の色、仰け反る薄い胸。唇の隙から覗く赤い舌先。
弄り、犯してやっている相手が見せるその全てが、ディーノの身体を、震わせた。


衝動的に、雲雀の腰を掴み固定していた腕に力を篭める。
爪が肌に食い込み、痛みに身を捩らせた相手に構わず、思い切り引き寄せた。

音の無い啼き声と共に、雲雀の身体が……腕や脚だけではなく、ディーノを銜え込まされた内側までもが、痙攣してびくりと跳ねる。既に限界まで穿っていた自身の先で、ディーノは更に奥深くまで……雲雀の下腹の最奥を、抉り開き、突き上げた。

「……ッ!!」

咽喉を枯らし、雲雀が高く啼いた。
殆ど色を喪った精液を散らしながら、ディーノを包む柔襞が生き物の様にうねり、収斂した。

「く、……ッ、ぁ」

打ち付けた腰を揺らし、雲雀の中に注ぎ込む。
どくどく、と溢れた熱い体液に中を満たされ、雲雀は浅い乱れきった息を繰り返した。

身体を退くディーノに連れて、内襞が引き摺り出されそうな錯覚すら覚える。
ん、と甘い呻きを漏らした雲雀から自身を引き抜くと、最後まで柔らかな襞に縋られた肉塊は、白く濁った粘液にまみれ、先端から名残を溢れさせていた。

「……恭、弥……っ」
「ぅ、んぅ……」

雲雀の手を取り引き寄せると、ディーノは自身に触れさせ、その上から強く握り込んだ。

雲雀の指を使って手淫じみた行為をすると、残滓の全てを、雲雀の薄い身体の上に吐き出した。


二人の掌から溢れた劣情が、ぼたぼたと落ちる。
雲雀の手に唇を寄せると、ディーノはそこに口付けた。






 細い身体の中を荒らし乱され、感じきり、啼かされ尽くした。……混乱、余韻、怒り、そしてそれ以外の感情。白く弾けた理性では何も考えられなくて、雲雀は名前を呼ばれるまま、薄らと目を開いた。

自分を見下ろす鳶色の双眸に残る欲情の名残に、雲雀は瞼を震わせた。……ひどいことを、された。その自覚はある。けれど、ディーノから、目を離すことは出来なかった。


「……辛かった、よな」
「ッ……、……」


労る様に髪を撫ぜられ、雲雀は息を詰めた。


「……それでも、オレは、お前を抱きたい」


好きだ、と想いを告げられた声。
けれど何故かそれは、満たされないものを乞うている様に雲雀の耳に届く。

伸ばされた腕で抱き寄せられ、雲雀は身体を撓らせた。


「好きだ、本当に」


囁かれ、雲雀はきつく目を閉じた。


ディーノは、狡い。


いつも、初めて逢ったときからいつも、容赦し手加減する素振りをするくせに、本当は。雲雀の退路を、全部全部、奪っている。

「……あなたは、狡いよ」

掠れた声で、雲雀は呟いた。
投げ出していた腕を持ち上げ、ディーノの背に触れる。
胸元に押し当てた頬から伝う心音、そして掌から感じる熱に、お互いが自分の内に抱え込んだ、思いの丈が、垣間見える気がした。


「狡くても……嫌われても、オレは恭弥が好きだ」


自分に言い聞かせる様に、まるで吐息をつく様に言った後、ディーノは雲雀の頤に指を掛け、上向かせた。柔らかく唇が重なり離れて、また抱き締められる。

雲雀の思いを知っているのか、それとも敢えて、聞かずにいたいのか。
ディーノのする口封じの手段は甘く巧妙で、雲雀はいつも、黙らされてしまう。……狡い、とやはり今も思いながら、けれど同時に、雲雀は安堵してもいた。



「好き」とも、「嫌い」、とも。ましてや「欲しい」とも。



もしその答えを強請(ねだ)られたとしても、今の自分ではまだ、答えることは絶対に、出来そうになかった。





<終>


 

ぬるくてすみません。
次の機会があったら、もっとちゃんとしたひどい話を書く…!(野望)
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