その恋は、未熟
written by Miyabi KAWAMURA
2009/0204
2009年跳ね馬ハピバSS
「……赤ん坊から聞いたんだけど」
屋上を吹き抜ける風には、未だ真冬の冷たさが残っている。が、手合わせをした後の、汗ばむくらいに上がってしまった体温を冷やすには、それはちょうど良かった。
……そして、ディーノの耳に届いた雲雀の声は。その風の音に紛れて、やもすれば消えてしまいそうな位の、そんな小ささだったのだ。
フェンスに凭れていた身体を起こすと、ディーノは、雲雀の方を見遣った。
「何を?」
手を伸ばすと、指先が雲雀の髪に触れた。
今の今まで戦っていたせいで乱れてしまっていたそれを、梳いて元に戻してやる。さらさらとしていて、そして柔らかでもある雲雀の髪の感触は、指に心地良い。
(このまま、)
抱き寄せて抱き締めたら、雲雀は怒るだろうか。
そんなことを考えながら黒い髪を撫ぜることを繰り返していたディーノに対し、けれど雲雀から、拒む言葉かかけられることは無かった。
「恭弥」
呼ばれても、答えることなんて出来ない。
雲雀が息を継ぐのを待っていたかのように、再び重ねられる唇。口腔に差し込まれた柔らかい肉塊を、雲雀は自分の舌で受け止めた。
「……ン、っ……」
絡め取られ、吸い上げられて。いつの間にか、捕まっているのは雲雀の方になってしまっていた。息が、くるしい。けれど、もうディーノは、息継ぎのための猶予を与えてはくれなかった。……ちゅ、と、歯列に食まれ甘く吸われた舌先が、音を立てる。唾液が混ざる濡れたぬるい感触と、頭の内側に響く水音。顔の角度を変えながら、より深い交わりを求めてくるディーノに応えるように、雲雀の身体も無意識の内に動き始めていた。
唇と舌を触れ合わせたまま、僅かにだけ作った隙。
互いの吐息を飲み交わして、それを呼吸の代わりにして、口付けを繰り返す。
「――は……っ、ぁ」
名残りを惜しむように、組み敷いている相手の唇を甘噛みしてから退いたディーノの両掌が、少年らしさを過分に残す肢体に添えられた。その刹那、雲雀の唇から零れたのは、掠れきった吐息だ。
「相変わらず、細せぇな……、」
雲雀の身体を制服のシャツ越しに辿りながら、笑みの滲んだ声で、ディーノが言った。
揶揄とは少し違う、糖蜜めいた甘い声音。雲雀は、息を詰めた。――連れて来られたホテルの部屋。内装に目を遣る余裕も無く、寝室に誘われた。……そのこと自体に、今更戸惑ったり、驚いたりはしない。雲雀が、金色の髪と鳶色の目を持つ「家庭教師」と、「こういうこと」をするのは、別に今日が初めてという訳ではないのだから。否、初めてどころか。
「ッ……、ん」
胸元、腹部、そして、脇腹。
ゆっくりと撫ぜ降ろされ、辿りついた腰骨の少し上。両腰のあたりを左右からきつく掴まれて、雲雀は微かに啼いた。……そうだ、この相手と、「こういうこと」をするのは、初めてなんかじゃない。この後何をされるか、どこを弄られるとどんな風に身体が反応して、そしてそれがどれだけ気持ちが良いのか。無意識のうちに、殆ど反射的に身体が「それ」をねだってしまう位には、雲雀は、この相手と肌を重ね、抱かれることを繰り返していた。
「ふ……っ、ぅ」
「こーら。……まだ、何もしてねぇだろ?」
完成された大人の掌で押え付けられてしまえば、抗う手段はろくに残されていない。
しきりに下肢を身じろがせている雲雀の中心は、とっくに熱を孕み、膨らみを見せ初めている。口付けの間中、ずっと頭の中に鳴り響いていた水音の代わりに、今の雲雀の頭の中を占めているのは心臓の脈打つ音だった。
「ぅ、ん……っ」
――どくん、と。
ひとつ鼓動が刻まれるたびに、下肢から鈍痛が湧き上がる。
痺れを伴うその波は、相手の指が布越しに喰い込んでいる腰のあたりを通り過ぎると、ただ痛いだけじゃない、声を上げずにはいられないような、四肢の爪先にまで力を篭めずにはいられないような、熱く濃いものに変わって、雲雀の黒い双眸を潤ませていく。
「……ッ、ぁ、んっ」
手の甲を口元に押し当てて、拒むように首を振って。
――早く、触って貰いたいのだろう。言葉にしてねだらなくても、ディーノからしてみれば、それは一目瞭然だった。身体の中心の、一番敏感で快感に従順なところを指と掌、そして唇と舌とを使って弄られることに、雲雀は弱い。
「……触って欲しい?」
「……ン、……ッ」
「それとも……、口で、」
「――ッ、ぁ!」
雲雀の腰から離れた、跳ね馬の左手。
問いながら、雲雀が身に付けている制服の下衣の前立ての上を指でなぞりあげると、それだけで堪らないのか、雲雀の膝が跳ね上がった。
「……指で、されたい?」
「……っ……!」
力を篭め指の腹でそこを擦ると、華奢な下肢が、信じられない位に素直な反応を返してきた。……まだ、愛撫は始まってすらいない。なのに口付けだけで乱れ、快楽への予感だけで溶け落ちそうになってしまっている幼い肢体の見せる媚態は、ディーノのことを酷く煽る。
組み敷いた「教え子」の表情を見詰めながら、ディーノは雲雀の下衣を寛げていった。
ベルトを緩め、釦を外して、ファスナーに指を掛ける。……いつも、相手の肌を暴くこの瞬間にだけ、理性が僅かな逡巡となってディーノの意識の端を掠める。が、それも、本当に一瞬だけのことだ。
「っ……ゃ、ぁ」
ゆっくりと降ろされていくファスナーに、きつく張り詰めたところを刺激されて、雲雀が再び啼いた。
「恭弥、やだ?」
「ん……、ンっ」
「……オレと、こういうことすんのが、やだ?」
「――ッ……、ひ、ぁ!」
答えを待たず、ディーノは作り出した隙間へと掌を進めた。
先走りが染み込み、濡れてしまっていた下着ごと雲雀自身をきつく揉みしだく。待ちわびていた刺激に高く啼いた雲雀は、射精を耐える方法など知らない。握り込まれた瞬間に吐き出した白濁が、ディーノの手の動きに合わせて溢れ出した。
「ゃ……ッ! ぁ、んぁっ」
ぐちゅん、ぐちゅん、と、濡れそぼった布と肉塊とが、ディーノの掌の中で捏ね合わされる。直接されるのとは違う、どこかもどかしさを残した手淫は、雲雀とっては逆に毒だった。
「恭弥……」
「ふ……っ……」
噛み付くように口付けられて、雲雀の眦から透明なものが滑り落ちた。
「ン、ん……っ、ぅ」
呼吸を奪われながら受ける手淫で、一度達し柔らかくなっていた肉塊が再び固く立ち上がっていく。
「……っ……、イイ?」
「っ、んん……ッ」
触れ合わせたままの唇で問うて、ディーノは雲雀の先端あたりを、爪で掻いた。布越しにでは、細やかな愛撫は出来ない。けれどだからこそ、容赦なく苛めてやることも出来るのだ。
――先端の、蜜を零す窪みのあたりに、ぐ、と爪を喰いこませてやった途端、ディーノの身体の下で、雲雀の身体が痙攣するように震えた。
「――ッ、つ!」
がり、と唇を噛まれ、ディーノの表情が歪む。……けれど。
「……ぅ、ん……ッ」
――それまで、ただきつくシーツを掴んでいるだけだった雲雀の指が、ディーノの肩に、触れた。
「は……ッ、ぁ、んんッ」
「……もっと?」
「ん……っ、も……、と、」
顎を震わせる程度に頷いた雲雀の指が、少しだけ迷うように動いた後、ディーノの背に回された。
「……恭、弥」
「――ッ……んんっ!」
直接握り込んだ肉塊は、熟れきっていた。
白濁にまみれてぬかるみ、滑って掌から逃げようとするそれに五指を絡ませると、ディーノはひとつ、息を飲んだ。……熱い。雲雀に触れている自分の掌が熱いのか、それとも雲雀の身体が熱いのか、判断が付かなかった。どうしてもそれを確かめたい気持ちになって、制服の白いシャツの襟元から覗く雲雀の首筋に、ディーノは齧り付いた。細い咽喉に噛み痕を刻んで、柔らかで白い耳朶を唇で食む。
「ぁ、……ァ、う……っ!」
滲み出した新しい体液のあたたかな感触が、再びディーノの掌を濡らした。
耳を打つ雲雀の声は、ディーノの中で熱になり凝っていく。腰奥に溜まる重くうねるような劣情に、鳶色の目が眇められた。
『……赤ん坊から聞いたんだけど』
先刻、並盛中の屋上で聞いた雲雀の声が、そのとき不意に、ディーノの耳に蘇った。
『誕生日だって』
そう言い出したときの雲雀の声と黒い目に浮かび揺らいでいた、雲雀恭弥らしからぬ躊躇いの色と、そして微かに透けて見えた、滲み潤み出す間際の、欲情の色。
背に縋り付く雲雀の腕を引き剥がすと、ディーノは身体を起こした。
そのまま殆ど力ずくで雲雀の下肢から着衣を剥ぎ取り、露わにさせた肉塊を、一息に咽喉奥にまで咥え込んだ。
「ひ――、ぁ、んんッ!!」
びくびくと脈打つ肉塊を口腔の粘膜で押し包み、咀嚼するように噛み扱いて味わう。
雲雀の指が痛いくらいに強く髪を掴んできたが、ディーノはそれを無視して口淫を続けた。
「……ゃ、ッ、ぁう、ゃ……ッ!」
啼き声めいた雲雀の声が、ふたりきりの部屋に響く。
――嫌だ?
そんなことを今更言い出したところで、逃がしてやるつもりなど。
『……好きにすればいいよ』
――そうだ。
そう言い出したのは、雲雀の方だった。ディーノが無理に、「言わせた」訳ではない。
ディーノが今まで、雲雀のことをどれだけ容赦して抱いてきたのか。
好きにすればいい、なんて。そんなことを言ってしまえば、どんな目に逢わされるかも知らないくせに、雲雀は自らそう切り出したのだ。
「も……ッ、ゃ、ぁ、ん、ン……ッ!」
艶めいた甘い声。……甘い、悲鳴。
ディーノは顎を動かし、歯列を操り舌を蠢かすことを繰り返した。雲雀自身から搾り取った精液を一滴残さず飲み下し、肉塊に絡む体液を全て削ぎ取るように舐め清めて、そして、咽喉から溢れさせてやった嬌声すらも独占する。
『あなたの……、好きに』
身じろぎ跳ね上がり、逃げようとする雲雀の下肢を押さえつけ、ディーノは白く柔らかな皮膚の張った大腿へ歯を立てた。きつく噛み締め、鬱血の痕を刻み付ける。獣が獲物を喰らうような、こんな性交を雲雀に対して仕掛けたことは、今までに一度も無かった。……そんなこと、出来る訳が無かった。けれど本当に、雲雀がそれを、望むというのなら。
「ディ、……ッ、ノ、……ッ!」
雲雀の唇からとめどなく溢れる喘ぎ。そして、ねだるように呼ばれた名前。
乞われるままに雲雀自身を掌に掴み取り、裏筋に舌を這わせ、根元の柔らかな袋を口腔に含んだ。
「ぃ、……ッ、ぁ……ん、ぅ」
荒く乱れた息の合間に雲雀が零す声は、もう自分に触れている相手の名前すら、形作れてはいなかった。脳を溶かす快感がもっと欲しいと、下肢に伏せられたディーノの顔を引き寄せるようにしながら、雲雀はしきりにシーツから腰を浮かせている。そのたびに舌の上を滑る肉塊を、ディーノはあやすように舐め、挟み込んだ唇で扱いた。――このまま啼かせ尽くし、胎内の一番奥を抉ってやったら、きっと雲雀は、もっとずっと甘い声で啼くだろう。今までずっと、ディーノはそれが聞きたかった。……そして「今」なら、それは、叶うのかもしれなかった。……言い出したのは、雲雀だ。好きにすればいい、と。
「――ッ」
……ずきりと、心臓とも、胸の奥とも思える場所に走った痛み。
散々に弄りつくした肉塊を口腔から解放し身体を起こすと、ディーノは雲雀の頬を掌で包み込んだ。
「……っ……ぁ」
吐息が、唇を掠める。
ディーノが顔を寄せていっても、潤みきった黒い目は、鳶色の目から少しも逸らされはしなかった。……けれど。
深く、重ね合わせた唇。
雲雀の吐息と、そして甘い舌先とを貪りながら、ディーノは気付いていた。否、気付かない訳がなかった。こんなにも近くで、己の一部を雲雀の中に潜り込ませ愛撫しているのだから、ディーノが、「それ」に、気付けない訳が無かった。
雲雀の身体は、細かに、本当に微かな細かさで、震えていた。
『あなたの好きにすればいいよ』
与えられた言葉と、そして組み敷いた身体との、不一致。
……なぁ、本当に?
胸の内で問いながら、ディーノは雲雀の口腔を突き入れた舌で犯した。
――雲雀が、本当にそれを望むなら、今すぐ抱き締め、最奥を暴いて、そして。
自分だけのものに、してしまえるのに。
>>終
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