あなたは僕を、数限りなく奪う。
written by Miyabi KAWAMURA
2009/1007
……ちり、と。火に炙られた何かが焦げるような感覚がする。
絡め取られた指に、男の唇が触れた。右手の、中指の節の上。薬指。爪の先。もう一度中指の上を通った唇の合間から零れる吐息の暖かさを人差し指が感じた、と思った刹那、それは離れていった。
大きな掌に、両頬を包まれた。相手の望むまま、ゆっくりと上げさせられていく顔。それにつれて動く視界を、金色と鳶色とが占める。
……唇が、重なった。舌先でなぞられ、少しだけ歯列を開くと、躊躇う素振りすらなく捻じ込まれた。
「……っ、ン」
ぐい、と顎を上向かされ、真上から噛み付くみたいに貪られる。
こつ、と歯列同士がぶつかって、ざらりともぬるりともつかない『舌触り』で、口腔が一杯になっていく。絡め取られた舌は引き摺り出されて、気が付けば、相手の口腔の中に。……こんなにきつく吸われて、噛み扱かれてしまったら、敏感で弱い器官は感覚を失い、役立たずになってしまうだろう。
「ッ、は……っ」
息継ぎの合間に思わず零してしまった呻き声すら、口移しで奪い取られて相手のものにされてしまった。
「……かわいい、な」
「――ッ……」
耳朶に押し当てられた唇。囁かれた単語に、全身が熱くなる。揶揄され愚弄されていると思うのに、言われた言葉の意味よりも何よりも、相手の声に直接鼓膜を揺らされたこと自体が、信じられない位に気持ち良かった。
――駄目だ。
これ以上は、駄目。
脳の奥の方で、何かがそう教えてくれているのに。なのにいつの間にか相手の腕の中に捉えられてしまった身体は、少しもその言うことを聞こうとはしてくれない。
相手の匂いで胸が満たされるのが苦しい。だから、満足に息も出来ない。
頭の中で煩く響く心臓の音を耳を塞いで聞こえなくしてしまいたいのに、腕ごと抱き締められてしまっているせいで、それも出来ない。
「アラウディ」
抗うことは出来ない。かといって、全て受容することなんて、もっと出来ない。完全に手詰まりになってしまった僕の耳に、そのとき、酷く甘い声が注ぎ足された。
「……お前の、目」
頬に口付けられ、誘われるままに伏せていた目を上げると、そこには鳶色の双眸があった。
「こんなに近くで見たのは、」
オレが、初めてだろう?
ゆっくりとそう問われ、答えることが出来ずにいたら、また唇を奪われた。
<終>
…あなたは僕のもっと大切なものを全て奪ってしまったくせに、
そんなことで喜ぶなんて。
アラウディたんには恋する男の心の機微(笑)が
全く分からないんだよー、という話
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