記憶回路
written by Miyabi KAWAMURA
2007/0110
(2006/1212〜2007/0110迄のWEB拍手御礼文)
身体が離れたあと、名残を惜しむ様に幾度も幾度も、口付けられる。
それぞれが多忙を極める中、雲雀がディーノと顔を合わせたのは半年ぶりで、しかもそれは、ボンゴレとキャバッローネの会合の席だった。
会合が始まる寸前、刹那に重なった視線は、どちらからともなく離れ。
特別に交わす言葉も無く、再び相手に、視線を送ることもなく。
けれど、滞り無く全てが終わった後、僅かな時間ながらも設けられた慰労の席に向かう途中に一度だけ、名を、呼ばれた。
振り返った雲雀を抱き竦めると。
そのままディーノは、雲雀に触れたのだ。
如何にボンゴレの邸宅が広大で、そして幹部のみが立ち入る事が許された区域とはいえ、いつ誰が通るともしれない場所で、壁に寄り掛かった姿勢のまま開かれた雲雀の身体は、軋みを上げた。
……けれど、それでも行為を止められなかったのは、互いが互いに、餓えていた所為だ。
僅かに乱した衣服の隙間から覗く相手の肌に、可能な限り咬み付いて痕を残そうとした回数はお互い様で、その甘さを過分に含んだ痛みに漏らしそうになった喘ぎを、雲雀は幾度も、飲み込んだ。
そして。
身体が離れたあとも。
名残を惜しむ様に、幾度も幾度も、口付けられている。
ゆっくりと繰り返される口付けの回数を、無意識に数えてしまうくらいには、雲雀もこの子供の遊びの様な接触を気に入っていて、九度目で、不意に深くなった口付けを受け止めたときも、逃げる素振りを見せなかった。
「ん、……っ」
柔らかな粘膜を撫でるディーノの舌を自分のそれで捕まえて、押し返す。
しかし、素直に退く相手を追った先で、雲雀のそれは白い歯列に捕らえられ、甘噛みされてしまった。
身体の中でも、最も無防備な部類に入るところを、蹂躙される。
……噛み千切られる筈などないのに、生き物としての弱点を晒すという事に対して働いた本能的な危機感が、雲雀の身体を震えさせた。
「……ぅ、く」
口腔に溜まる唾液。
雲雀とディーノ、二人のものが混ざったそれは、只でさえ主導権を奪われた身体では全部飲み下すことなど不可能で、雲雀の唇の端から、溢れて零れた。
擦れる薄い皮膚から感じる体温は、余す所なく思いを伝える。
崩れそうになる雲雀の脚は、背に回された跳ね馬の右腕で支えられていて、ようやく覚え始めた息苦しさに退こうとする頭も、後頭部に当てられた大きな掌に、動きを拘束されている。
出逢ってから十年近く過ぎたものの、結局埋まることの無かった身長差と体格の差の所為で、ディーノに本気で押さえ込まれてしまえば、如何に雲雀といえども、それから逃れる事は容易ではない。……ましてや今は、雲雀自身が赦してしまっているのだ、触れられる事を。
先刻まで繋げていた身体に残る互いの余韻を、幾度も重ねる唇で確かめる、この行為を。
ちゅくちゅく、と。
散々に雲雀の舌を弄っていたディーノは、最後にもう一度だけ深く唇を重ねると、ゆっくりと雲雀の身体に回していた腕を、解いた。
……時間切れは、いつも確実に訪れる。
離れていく呼吸。
離れていく身体。
「少し、痩せたんじゃないか?」
乱れてしまった黒髪を梳いたディーノの指が、雲雀の頬に触れた。
頬骨から顎先までを辿り、離れていく熱。
「でも、元気そうだな」
「あなたも」
言葉を交わす声は、キャバッローネのボスと、ボンゴレ幹部のそれに変わっていた。
制限時間が付いている所為で、いつも自分達は順番を間違える。
言葉を交わすのは、一番最後で構わない。
最初は、お互い、触れるのがいい。
離れていた間に忘れかけていた体温を全て、思い出す為に。
>>fin.
皆様の励ましのお陰で頑張れますvv拍手ありがとうございましたvv
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