寒椿
written by Miyabi KAWAMURA
2007/0208
(2007/0110〜02/07迄のWEB拍手御礼文)
差出人不明のその花が、ボンゴレ屋敷に届いたのは数日前のことだった。
黒檀で作られた花器に生けられた、赤い椿。
蕾が綻び、あと幾日かで花開くだろうと思われるその花の宛先は、何故か屋敷の当主であるボンゴレ十代目とはなっていなかった。
仕掛けられているかもしれない爆発物、毒物、そして盗聴器の有無を確認する数十分の工程を経てそれが届けられたのは、雲の守護者の執務室であった。
そしてその幾日か後。
普段は不在である事の多い、部屋の主の目の前で赤い花が開ききった夜に。
諜報部より届けられたのは、「跳ね馬が古い厩舎の大掃除をした」という分り易い、しかし故に深刻な情報だった。
久しぶりに訪れたキャバッローネの邸宅は、表面的には静まって見えた。
ディーノは? と、部下も連れず一人で現れた雲雀を見て、門の周りに詰めていた黒服の男達はしばし呆気に取られ、けれどすぐに気を取り直すと、邸内に連絡を取った。
ボンゴレ、
ボスに……、
……否、正式ではなく、
ヒバリ、キョウヤ
早口で語られる言葉の中に混ざる自分の名前。
ちらりと顔を見られるが、雲雀はその視線を完全に無視する。
「待たせたな。通ってくれ」
扉が開かれるのに、数分の時間が掛かった。
跳ね馬がファミリーの中枢を置いている部屋は、代々キャバッローネのボスが執務室として使っている部屋だと聞いたことがある。
ボンゴレとは違い、世襲を貫いているキャバッローネはマフィアとしてだけでなく一族としても長く続いている家で、歴代の当主に使われていたその部屋に満ちる重厚な雰囲気は、経てきた時間によって生み出されたものなのだろう。
真鍮のドアノブを押し、重い一枚板の扉を開けた先に想像通りのものを見つけて、雲雀は小さく溜息をついた。
赤い、椿。
「これの送り主は?」
「死んだ。一昨日」
「……そう」
短い会話の内に、自分を抱き締めた相手の身体から匂う硝煙。
鞭使いの跳ね馬は、あまり自分で銃を使う事を好まないから、これは多分、彼の周囲に満ちていた空気の移り香だ。……内部粛清という、他組織との抗争よりも後味の悪い戦闘の、名残りの匂い。
キャバッローネ古参幹部の中の一部で、ここ数年、ボンゴレとの同盟の有り方を疑問視する声が上がっていた事は、以前より知れていた。
先のボンゴレのボス継承に関する争乱で、ディーノが指輪守護者を鍛える為に招請さ
れた事、そしてその際、多岐に渡って動いていた事は、誰もが知っている。
当時、同盟内の第三勢力であったキャバッローネ。
ボンゴレが常には有り得ない隙を見せていた当時、幾らでも内側から喰い潰してやる機会があったのではないかという声が、彼が率いる部下の中から上がるのも、当然といえば当然だった。
何よりもファミリーを重視する跳ね馬が、身内に抱えた火種をどう処理するのか。
一歩間違えれば危うい事態になりかねないその行方を、当事者のみならず、同盟に連なる者達が皆測っていた中で、今回の事は事態の急変といえた。
一体何が、引き金だったのか。
憶測はしばらく止まないだろうが、答えに辿り付ける者は恐らくいないだろう。
雲雀は、赤い色の花をもう一度見た。
美しいこの花は、大きく花弁を咲き誇らせたまま、ぽとり、と散り落ちる様を、首を討たれた死に際に例えられる忌花でもある。
この花を選んだ相手は、その意味を十分に知った上で、守護者の殆どを東洋人で占め
る現ボンゴレ、そしてそれに迎合している(と、彼らには見えたのだろう)ディーノに対し、挑発の意を篭めて、敢えて当人のみならず、彼の教え子である雲の守護者の元にもこの花を贈ったに違いなかった。
……まさかそれが、自分達の命を縮める要因になるとは思わずに。
一応聞いとく、と前置きして、ディーノが口を開いた。
「恭弥、怪我とかしてないよな?」
「……馬鹿にしてるの」
体裁を取り繕い見栄を張るだけの、つまらない趣向に走った弱い輩如きに狙われたところで、傷なんて負う訳が無い。……けれど。
知らぬ間に内部抗争のダシにされた事よりも何よりも、こんなにも強く戦いの名残りを残しているディーノ自身に、雲雀はひどく苛つかされた。
赤い花が、咲いた夜。
一報を受けた瞬間に湧いた怒りは、一体誰に向けてのものだったのだろう。
金色の髪をした跳ね馬の背に腕を回して、雲雀は思った。
(あなたと戦いたいと思ってるのは、僕なのに)
それなのに。
弱くて下らない群れに先を越されたこの不愉快を。
……さあ、どうしてくれようか。
>>fin.
これからもよろしくお願い致します。拍手ありがとうございましたvv
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