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black box01
written by Miyabi KAWAMURA
2007/0325
(2007/0318発行無料配布本「black box」再録)






 普段なら、特別な事故など無くとも渋滞している首都高は、今日に限ってスムーズに流れていた。

 陸、海、空の三つを指し示す星型のエンブレムが付いた高級外国車の窓は全て、黒色のプライベートガラスが嵌められている。車体自体も黒色な為、外から見れば、乗っている人間が世に言う善良な一般市民だとは到底思えないだろう。……事実、今雲雀と同乗しているのは、善良とは対極にある立場の人間、マフィアのボスだ。
 跳ね馬の異名を持つ彼は、自分で運転するなら気難しく繊細な愛車を選ぶが、純粋に足代わりとして部下に運転させるときには、この黒塗りの車を選ぶ。乗車する人間が快適であるように、十分に計算し尽くされた車内は広く、一般向けのセダンより天井も高い。本革の張られた後部座席の座り心地も確かに秀逸だった。

 今朝は季節外れの肌寒さで、今思えばそれが原因だったのだ、と雲雀は思う。

 昨夜は、ディーノに抱かれてそのまま眠ってしまった。
目を覚ましたとき、陽の昇る前だったせいかホテルの部屋は少し寒くて、それは雲雀に、自分がいる温かなところから出ることを一瞬躊躇わせた。そしてその躊躇いの結果が、ずっと尾を引いている。
 腕の中で身じろいだ身体に気付いたのか、ディーノは雲雀より僅かに遅れて目を覚ました。ゆっくりと開いた鳶色の目は、完全に覚醒してはいなかったのだろう。豪奢な彩の入った左腕と、しなやかでいて狡猾な武器を手繰る右腕で雲雀の身体を更に抱き締めると、黒い目を覗き込んで、彼はゆるりと微笑った。

「まだ、帰るな」

耳に押し当てられた唇と、囁く声。
吐息に紛れたそれは、乾いた唇の感触と一緒になって、雲雀の耳朶を掠めた。

ディーノは今日、イタリアへ帰る。
勝手に日本を訪れて勝手に雲雀を連れ回し(ディーノからしてみれば、この部分に関しては反論の余地があるかもしれないが)、そして勝手に帰っていくのは彼の方なのに、それなのに、雲雀には「帰るな」と言う。

 冗談じゃない、と心の中で呟いて、自らを拘束する腕から逃れようとした小柄な身体はしかし、簡単に引き寄せられてしまった。
「ここにいろよ。……外、寒いだろ」
 ゆっくりと、言い聞かされた言葉はひどく柔らかく、そして再び抱き込まれた人肌の温かさは、思いのほか心地良く。
その時、不覚にも浮かんでしまった「離れ難い」という気持ち、普段の雲雀なら絶対に認めないだろう気持ちは妙に心の奥に残ってしまって、そして今に至っている。






 整った綺麗な並びの歯列は、舌先で突かれると緩く開いて相手を受け入れた。向かい合わせに、ディーノの身体を跨ぐ形に座らされた雲雀の顔は相手のそれよりも少し高い位置にある。下から唇を押し付けて貪られると、溢れた唾液は全てディーノの口腔に伝い落ちた。
「・・・、んんっ」
絡めたままにしていた舌を吸われ、噛まれ、気付いたときには、ディーノの中に深く誘い込まれていた。
 濡れた柔らかな粘膜の中で擦られ、更に噛みしだかれて、敏感な器官は簡単に痺れて感覚が覚束なくなる。息継ぎの為に顔を離そうとしても、僅かに出来た隙間すら伸ばした舌先で追いかけられて、より深く貪られた。
「……っ、ぁ」
くちゅ、と小さな音を立てて、唇が開放される。
久方ぶりに肺を一杯に満たした空気の量に、雲雀の咽喉が鳴った。乱れ気味の呼吸に気付いたのだろう、そう仕向けた張本人は愉しげに笑うと、膝の上に座らせた細い腰を両手で掴み、引き寄せた。
「恭弥」
「や、…ぅ……ッ」
ぴたりと密着した身体を僅かに揺すられて、熱を持ち始めていた下肢が擦れる。ディーノの肩に手を突いた雲雀が、離れようと抗う仕草を見せたのは最初だけだった。二人の間に入り込んだ跳ね馬の指が、下肢を衣服越しに弄り出すと、細い肢体は完全に相手の身体に凭れ掛かってしまった。
「ん、…ッ、く」
じわじわと滲む快感に、もどかしさを覚えて声が漏れる。
自分を煽る相手の首筋に顔を押し当て声を殺そうとしているくせに、反して身体は、ディーノに合わせて勝手に動き始めていた。
 これから帰国するディーノは、砕けた雰囲気の私服ではなく、黒い色味のスーツを着ている。ただそれは、如何にもビジネスマンといった固い印象のものではない。適当に捲くった袖から覗く跳ね馬のタトゥー、そして明るい金色の髪も作用して、むしろ普段の私服姿のときよりも、人目を引く程だ。指輪の類を付けない代わりだろうか、ベルトのバックルには精緻で豪奢なアンティークシルバーが使われている。……雲雀の身体は、硬いそこへ下肢を押し付けながら幾度も揺れていた。快楽に弱い身体は、気持ち良くなれる場所を探して無意識に動き、その様は酷くディーノを煽る。
「恭弥、もっと?」
「違…、…ぁ」
「声、ちゃんと聞かせろ。いつもみたいに」
「…ッ、……」
命令よりは甘く、懇願よりは傲慢な請求に、雲雀は無言のまま首を振った。息を詰めて吐息を漏らすと、大きな掌に髪を撫でられる。その感触に一瞬油断すると、下肢に添えられた掌が、形を変え始めた雲雀の形を確かめる様に幾度も下肢を行き来した。
「ゃ、……ん、んっ」
びくびくと身体が跳ねるが、声など出す訳にはいかない。

 空港の地下駐車場に着き、運転をしていた部下が彼のボスの為に後部座席の扉を開けようと車を降りたとき。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、雲雀とディーノは車内に二人きりになった。
シートの上に投げ出されていた雲雀の手をディーノは掴み、それと同時に、ドアのロックが下りる音が響いた。
 全ての窓ガラスがプライベートガラスになっているといっても、車の……二人きりで居る小さな黒い密室の周囲にはディーノの部下がいて、その上おそらく、彼らは自分達のボスが何のつもりで鍵なぞ閉めたか、間違いなく解っている筈だ。これでは、直接姿こそ見られないとしても、衆人環視と変わりない。

そんな中で、声など出せる訳がなかった。

 かちゃ、と音がして、制服のベルトが外された。
下衣を寛げた指が下着の中に入り、雲雀自身にそっと触れる。
「!! ッ……」
「恭弥、していい?」
「駄、目……っ、ぁ」
否を返した途端、先端を緩く撫でられた。
「でも、苦しいだろ。お前だって……、」
「……ッ、んぅ!」
 囁かれた言葉に、頭より先に身体が反応して震える。
雲雀の耳に何の音も響かずにいるのは、ディーノが弄る動きを緩やかにしている所為で、きっと普段の様にされてしまえば、下肢からは絶え間なく濡れた音が立つ筈だ。そんな自分の状況は、雲雀だって解っている。しかし、流されて先の行為を赦してしまえば、ひどいことになるに決まっていた。
 ディーノは勿論、並盛まで戻らなければならない雲雀も、行為の残滓を体に纏わり付かせたままでいる訳にはいかないだろう。勿論ディーノもその事は承知していて、だからこそ、触れる指と言葉で雲雀を煽るが、それ以上の事を強引にしようとはしてこない。
「……ったく、仕方ねーか」
彼らしくない溜息をひとつ漏らすと、ディーノは雲雀の顔を覗き込む様にした。
「昨夜のうちに、もっとお前に触っとけば良かった」
そう言う鳶色の目は、眦に僅かに朱が差している。
自分だけでなく、相手もどうしようもなく思いを持て余しているのだという事に気付かされて、雲雀の胸が、ずきりと痛んだ。
「ディーノ……」
「ん?」
目を閉じると、雲雀はディーノに顔を寄せた。
自分からするキスは、殆どと言って良い程、した事が無い。
唇が相手のそれに触れる直前、温かな吐息同士がぶつかってたまらない気持ちになるが、止まらずに、そのまま重ねた。
「……ン、ん」
触れ合わせた唇を僅かに開き、隙間から覗かせた舌先でディーノの歯列を探る。いつも自分がされているときの様に、少しずつ重ねた顔の角度を変えながら相手の唇を甘噛みしていると、咽喉の奥でディーノが微笑った気配がした。
下肢を弄っていた手が引き抜かれ、顎を掴まれる。
唇が離れ、至近距離で見詰め合うと、ディーノの目は鳶色、というよりも、深い蜜色に見えた。……それは、蕩けそうな、と表現するのが一番近いのかもしれない。今にも緩く溶け出しそうな酷く甘いそんな表情を、もしかしたら自分も今、相手に見せているのだろうか、と雲雀は自問し、自嘲する。
「今、何考えてる?」
「……別に」
雲雀がとりとめのないことを考えていた間、ディーノは雲雀のその表情を堪能していたらしい。
「恭弥、可愛い」
「何、言っ……ッ!」
ぐ、と跳ね馬の右手に力が篭り、口が割られて指が忍び込む。既に濡れているそれは僅かに独特の味がして、その原因に眉を顰める間も無く、雲雀の舌は口腔で動く指に促されるまま、全てを舐め取っていた。
「ふッ……ぁ」
「これで、綺麗になった。ありがとな、恭弥」
「……殺されたいの」
「まさか」
雲雀の口元に付いた唾液を拭うと、ディーノは小さく笑った。
細身の肢体を両腕で抱き、跨らせていた膝から降ろすと、シートの上に横座りにさせる。その不穏な体勢を雲雀が訝しむ間も無く、ディーノは雲雀の肩を押さえると、空いた片手を……たった今、雲雀が雫を舐め取ったばかりの右手を、再び雲雀の中心に伸ばした。
「あ、ッ……ぅぁっ!」
突然の刺激に、触れられた箇所がびくりと跳ねた。
徐々に固く熟れ始めた雲雀自身を触れた手で感じながら、ディーノはゆっくりと口を開く。
「恭弥も、綺麗にしてやるよ」
「な、に……ッ」
「ここ、このままじゃ帰れないだろ?」
組み敷いた相手を見下ろして、ディーノは雲雀の下肢が滲ませた透明な粘液を指に取り、ぺろ、と舐めた。
「……っ、や……」
「すぐ、終わるから」
「嘘、……ぁ、んんっ!!」
くちゅ、くちゅ、と音を立てて、ディーノの指が雲雀自身を拭う様に動き、零れた蜜を集めて口元に運ぶ。
「ディー……ッ、ん、ぁ」
触れられる傍から新しい粘液が滲み、雲雀の下肢から水音が立つ。
「恭弥、口で、していい?」
「……ゃッ、だ」
言われた意味を理解して、雲雀は首を横に振った。
さらりとした黒髪が、薄らと浮かんだ汗で額に張り付く。
「……ッ、もう」
掌全体で自身を包まれ、握り込む様にされて息が詰まる。
恭弥、と呼ばれ涙の浮かんだ目を向けると、見せられた跳ね馬の指と掌は、濡れそぼっていた。
「ほら。……指じゃ、全然間に合わない」
耳元で囁かれ、雲雀は目を閉じると、咽喉を震わせた。


どくどくと、心臓の音がうるさくて堪らない。
もう一度、促す様に聞かれて、雲雀は大きく息をついた。


許容の、言葉など。
口に出せる訳が、なかった。







>>black box02(please wait)



後半も、まったり微えろです。
 
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