別れの儀式
written by Miyabi KAWAMURA
2007/08/25







 腕を掴み、引き摺る様にして部屋へと連れ込んだ。


自分がされようとしていることに気付きながらも、けれど理解したくないのだろう。全力で抗う雲雀の力は相当な物で、しかしディーノはそれを苦だとは思わなかった。否、むしろ喜んですらいた。

自分の養い子が、ボンゴレの守護者にと望まれる程の力を持つまでに成長したのだということを、彼を押さえ組み伏せる己の腕で実感し満足する、歪んだ喜悦。こんな状況だというのに、あくまで「キャバッローネの長」としての思考は無くならないのだ。……全く、救い様が無い。


ベッドに押し倒し、体重を乗せてやれば、雲雀の筋力ではもう逃げることは出来ない。


「今日も、オレの勝ちだ、恭弥」

普段、手合わせをするときのように。
真上から見下ろし、殊更ゆっくりと告げると、それまで気丈にディーノを睨み据えていた黒い双眸が、何かを堪える様に揺れた。

「……殺されたいの」
「殺す?」

押し殺され、冷たく冴えた雲雀の声に、ディーノは咽喉の奥で笑った。

「お前が、オレを? ……出来ないくせに」
「……っ…」

二人の力の差を見せ付け揶揄する言葉を返してやれば、途端雲雀の目に殺気が篭る。それを真正面から受けると、ディーノは力づくで雲雀の身体をうつ伏せにさせた。

「ッ……!」

身を捩り、ディーノを遠ざけ拒む様に動いた雲雀の両手首を掴み、捻り上げる。背で一纏めにし、得物の鞭で戒めると、ミシリと関節が軋む手応えがした。頬をシーツに埋める形になった雲雀が、その痛みに息を詰める。
薄い背が上下し、シャツの布越しにも肩甲骨の尖りが浮いて見えた。

組み伏せた身体に目立つ、子供の細く華奢な造り。

無理な体勢で曲げられた肘や、皮鞭で幾重にも巻かれた手首。今まで、それこそ壊れ物のように思ってきた全てを眼下に納め、ディーノは鳶色の目を歪めた。……酷いことをしている。大切に、何よりも誰よりも大切にしなければならない相手に、どうしようもない位に酷いことを、自分は、今からしようとしているのだ。


「……抱きたい」


無意識に滑り落ちた言葉が耳を打つ。
息を飲んだのは、そう告げられた雲雀ではなく、ディーノ本人だった。

どくりと鳴った心臓の音が指先まで届いた、と思った瞬間、腰の奥に生まれた劣情が背を撫ぜ、身体を震わせる。
手を伸ばし、雲雀の背に触れた。抗う手段を奪われ、無理矢理される……それまで義理とはいえ、父親だと言い聞かされそう接してきた人間に無理矢理されようとしている事に対する本能的な恐怖からか、掌からは細かい震えが伝わってきた。……最低だ、と自覚してはいる。
けれどディーノは、自分を誤魔化すつもりはもう無かった。その、雲雀が見せる可哀想な反応にすら、自分は間違いなく欲情している。


雲雀の身体がそこにある事を確かめるように、手を動かしていく。


肩を掴み背を伝い、拘束した手首と、そして指先も自分のそれで探った。腰骨を上から押さえつけるようにして撫ぜる。ディーノの手が下肢に及んだ途端、それまで凍りついたように固まっていた雲雀が激しく暴れ出した。

「嫌、だ……っ!」

拒絶の言葉は当然で、けれど今更もう遅い。
細い脚を掴み開かせ、うつ伏せさせた身体とシーツの間に掌を捻じ込んだ。

「!! ……ァ」

抵抗を削ぐための、一番簡単なやり方。
指先を動かし掌を添え緩く揉み扱くだけで、養い子は身を捩らせた。ディーノの見ている先で、黒髪から覗く耳や首筋が赤く色付いていく。

ぐ、ぐ、と雲雀の中心に添えた指に力を篭め、爪先で掻く様にしてやると、幼い下肢は面白い位に跳ねて腰を浮かせた。

「ん、ぁ…、ッ、……」

額をシーツに擦り付け、声を殺し堪える仕草。
可哀相だ、と他人事の如くに冷静にそれを判断する自分がいる反面、ディーノの中には不条理な苛立ちが湧き上がった。

「……初めてじゃないのか?」
「ッ……、ぁ」
「こういう風に……」
「……ッ!! ん、んんっ!!」

服の上からきつく握り指を蠢かせ強く扱くと、案の上、雲雀は上がりそうになる声を飲み込み、吐息に逃がして見せた。……慣れている、とはとても言えない、けれど初めてとも思えない反応に、鳶色の目が眇められる。

「弄られて気持ちいい……?」
「……、……ッ」

答えられる訳が、ない。
唇を震わせ、堪える雲雀を見下ろすと、ディーノは唇の端に酷薄な笑みを――雲雀に対してではない、自嘲の笑みを佩いた。

「……此処を弄るの、初めてじゃないのか、恭弥は」
「……何、言……っ」
「自分でしたのか、それとも……誰かにされた?」

問い質す言葉を口にした刹那、ディーノはその意味を理解し表情を歪ませた。

他の誰かなど、考えたくもなかった。
否、これまで敢えて考えようとしていなかった。自分以外の人間が恭弥に触れることも、そして自分以外の人間を恭弥が選ぶことも。その両方を敢えて拒絶し、考えないふりをしてきたのだ。

守るのも慈しむのも喜ばせるのも愛しく思うのも、そして泣かせ傷付けるのも。自分以外の人間に、欠片程の権利も与えてやる訳にはいかなかった。……その一つでも他人に赦してしまえば、間違いなく自分は気が狂う。


「恭弥」


酷い声だ、と思った。
ずっと抱え込み押さえつけてきた欲望と、相反する決して偽りではない愛情。そして存在しているのかすらも解らない、不確定な誰かに対する嫉妬と苛立ち。けれどこれが、本心なのだ。止められないし、止めようとも思えない。……今まで無理に押し留めてきた想いが、一気に決壊して流れ出す。


全てがない交ぜになったまま、恭弥に触れれば。


傷付け壊すだけだと解っているのに、それでももう、止めることは出来なかった。








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