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迷い恋
written by Miyabi KAWAMURA
2007/10/16





 
シーツに肘をつき、半分身体を起こして、隣にいる相手を見た。


ベッドサイドの明かりはつけっ放しになっている。用意されていた黒いパジャマに着替えている僕とは違い、彼は――ディーノは洋服のまま、眠ってしまっていた。





 昨日、手合わせの後、彼の泊まるホテルへ連れて来られてシャワーを浴び、食事が終わってすぐの頃、何かしらの報告を部下から受けた彼は、部屋を出て行った。――戦っている最中だったら許せはしないが、それ以外の……何と表現したらいいのか解らない、ディーノとただ一緒にいるだけの時間(無駄な時間、と言ってしまえばそれまでだけれど、そう決めかねる思いが、僕の中にあるのも本当だ)に入る邪魔なら、仕方が無い。


悪い、と告げて彼が踵を返した刹那、もう今夜は彼は戻らないだろう、と僕は察した。(そのとき目に入った横顔は既に、普段僕の前で浮かべている表情とは全く違う種類のものになっていたから。
) 




 数時間前の記憶を手繰り寄せながら息をついて、彼が左腕に嵌めたままの時計を見る。
時間を知るためというより、デザインを気に入ってバングル代わりにしているのだと聞いた銀細工が施されたそれは、けれど律儀に時を刻んでいた。




午前、四時。



針の指す時間は、真夜中と早朝の境目。……正直、自力でベッドまで移動した記憶は無い。ディーノが僕をベッドまで運んだことは明白で、どうやら彼も、そのまま寝入ってしまったらしい。触れられ、抱き上げられてすら目覚めることのなかった自分の迂闊さと、油断の加減が信じられない。



『今日だけで、何回お前は、死んだと思ってる?』



かつて連れ出された修行の為の短い旅の合間に、幾度も彼の口から発せられた、挑発の言葉。彼のこの言葉を借りるとしたら、今夜の内だけで、僕は二度、殺されてる。


一度目は、眠っている姿を彼に見つけられたとき。
(伸ばした手で僕を抱き上げる代わりに、首を絞めればそれで終わり。)
そして二度目は、ベッドに横たえられたとき。
(そのままゆっくりと気道に彼の体重を掛けられてしまっていれば、僕の頚骨は折れ砕けていただろう。)


……でも、けれどディーノは、あのときも今も、それを実行しはしなかった。
(されていれば、今ここでこうして彼の寝顔を見ている僕は、幽霊とか化け物とか、そういうことになってしまう。)




 かち、かち、と、僕が見詰めている先で、秒針が動く。それと一緒に、僕の中の何かが、ゆら、と揺れた。


『あなたこそ、殺されたいの?』 


無防備に眠りの中に身を浸してる、この数分にも満たない時間の中で、何回僕が自分の心の中で、あなたを仕留めたと思ってるの? 

――もし今のこの瞬間に、咽喉笛を咬み千切られたら全部終わってしまうのに。僕が絶対にそうしないとでも、思ってるのかな、あなたは。




出逢った秋、迎えた冬、通り過ぎるみたいに終えた春と、暑くて甘くて、苦しい夏。



幾回か巡った四季の分だけ、僕達の間には、敢えて見過ごし、気付いていないふりをしてきた多くのものが、降り積もっていく。  




 起こしていた身体をベッドに預け、シーツに頬を寄せたまま、眠る彼の顔を見た。
同じ目線の高さに居る相手の唇からは寝息が零れるだけで、あまりの静かさに逆に揺すり起こしてやりたい様な気持ちすら湧いて来る。




ねえ、早く起きなよ。



消えていく月のひかりと空に染みていく太陽のひかりの両方が混じる、中途半端な時間。目覚めるには早く眠るには遅い、こんな不安定な時間の中に僕を放り出したままでいるなんて、あなたは時々、迂闊が過ぎる。




ねえ、いますぐ、咬み殺そうか。
(それとももうすこしだけ、このままでいようか。


あなたの意見を、聞いてみようか。
(僕ひとりだけで、決めてしまおうか。)




ゆらりゆらりと、定まらず揺れる天秤がどちらかに傾ききってしまう前に、あなたが目を覚ましてくれればいいのに。




 





>>fin.


 
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