
引き金をひくことが怖くないのか、と、時折あなたは、どうしてか僕に聞く。
怖い? まさか。
無骨な冷たい鉄のかたまり。銃の形を模した召喚器が、頭蓋から水晶に似た力の欠片を飛び散らせる様。それを僕に見せて魅せたのはあなたのくせに。
どうして今更、そんなことを聞きたがるの。
言葉が終わる直前、苦笑したあなたの手が伸びてきて、僕の両頬は包み込まれた。
乾いた感触の大きな掌、長い指。器用な指先に髪を撫ぜられ、与えられ慣れた心地良さに息を付いた刹那重ねられた唇に、僕は、あなたの狡さを再確認させられることになった。
仰のかされた顎先を、促がすように指でなぞられ、薄く唇を開く。
こつ、と歯列がぶつかって初めて、信じられないくらいに深くあなたの舌が僕の中に入り込んできたことを自覚した。……上顎を、きつく擦られると気持ちがいい。湿った音が頭の中から響き始めて、悪寒に近い、けれど焦げるみたいに熱い震えが身体に走った瞬間、捕まれた肩。ゆっくりと引き離されていきながら、僕はあなたの目を見上げた。
時間だ、恭弥。
囁き声が、唇を掠める。
甘く吸われ、絡め取られ噛み扱かれてしまったせいで僕の舌は上手く動かず、文句ひとつ言ってやることも出来ない。軽く触れ合わされた吐息に混ざるあなたの匂いは、僕にとっていっそ息苦しい位に甘ったるくて、苛々する。
……、……
名前を、呼ぼうとしたそのとき。
翡翠色の闇が視界を覆い、世界はひたりと動きを止めた。
目の前には、赤黒く鉄光りする棺がひとつ。
僕の手の中に残されたのは、「はじまりのとき」にあなたから渡された鉄のかたまりが、ひとつ。
毎晩かならずこうして訪れる、別離の時間。
僕の過ごす時間の中にあなたはいなくて、あなたの過ごす空白の中に僕はいない。
繰り返される翡翠色の夜。それが必ず明ける保障はどこにも無くて、もしそうなれば、僕たちはもう二度と会えない。
あなたは、ここにいるのに。
――ふと零れた僕の言葉も、当然誰の耳にも届かない。
ホルスターに召喚器を収める。
愛器のトンファーを両手に持ち、やはり冷たい金属の、けれど肌に馴染む感触を確かめてから、僕は歩き出した。否、歩き出そうとして、脚を止めた。
手を、伸ばす。
「あなた」にひたりと掌をあて、目を閉じる。
鼓動ひとつ感じられない冷たい匣。
でもそれでも、僕はこうして毎晩、同じことを密かに繰り返す。
……おやすみ、ディーノ。
今までにあなたがくれた言葉の中から、このときに一番似合いそうな言葉を選んで告げる。
誰もいない夜の中で、ひとりきりの時間の中で。
ゆっくりと上げた両腕。――普段、決して自分から抱き締めようとはしない彼の「身体」に腕を回して、僕は冷たい棺に、唇を寄せた。
誰もいない、翡翠色の夜。
あなたも知らない、知るはずもない。
……これは、僕ひとりだけの秘密。
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