真夜中の蜜
written by Miyabi KAWAMURA
2007/1225
Merry Christmas, and Happy New Year.
眩しい、と思って開けた目の先には、月が在った。
真円の淵が僅かに欠けたその影、ぼんやりと見える外輪の形を追うともなしに追いながら、雲雀はひとつ、息をついた。
彼方へと向けていた視線を戻すと、ゆっくりと身体を起こす。何も身に着けていない肌を、月の光が照らし出した。……もし、月明かりは何色か、と聞かれたら、多分自分は「青」と答えるだろうと、雲雀は思った。
隣に眠る、金色の髪の相手の白い肌色は、月の明かりの下では、青白く冷たい光を跳ね返す。
二度、脳の隅に残る眠たさを払うように瞬きをすると、雲雀は指を伸ばした。
白い肌の上に描かれた、黒馬と、炎にも似た水の絵に、触れる。
――温かい。
冷たい、青白い光。……もしかしたら、色の通りに冷たいかもしれないと、普段の雲雀なら決して考えないようなことを思いながら触れた指先を、絵に沿わせ、動かしていく。
温かく、薄らと汗ばんだしなやかな肌。
なにか物足りなくて、掌を押し当て、肩口までを辿る。指に金色の髪がぶつかり、それも絡め、少し梳いて、また肌を撫でた。
「……恭、……?」
流石に眠ってはいられなくなったのか、鳶色の目が、開かれた。
「何、してんだ」
答えず、雲雀は、仰向けに寝そべっている相手の身体を真上から見下ろした。……そして何を思ったのか、脚を動かし、横たわる相手の腹の上に、馬乗りになってしまう。
「おい」
「黙って」
相手にというより、彼の首筋に刻まれた髑髏に囁きかけるようにして、顔を伏せる。唇で触れ、絵の在る場所と、何もない白い肌の部分との違いを探るようにしながら、ゆっくりと身体をずらしていった。
首筋、肩、上腕と、跳ね馬の証全てに、唇と舌で触れていく。
「ふざけてると、身体冷えちまうぞ」
雲雀の、悪戯としか思えない行動を甘く咎めながら、ディーノは今や自分の胸元の位置にまで下って来ている黒い髪を、空いている右手で撫ぜた。柔らかでさらさらとしたそれを掻き混ぜるようにして、掌を頬に伸ばす。く、と力を篭めると、伏せられていた顔が、素直に持ち上がった。
黒い目に、月明かりが映る。
艶やかでいて鋭いそれに鳶色の目を眇め見詰めると、雲雀が身体を起こした。ディーノの顔の左右に掌を付き、けれど、真上から見下ろす姿勢は、崩さない。
「どうした。……眠れねえ?」
「違う。目が覚めただけ」
「……ふぅん」
添えたままの掌に、僅かに寄せられた頬の感触に微笑うと、ディーノは両掌で、雲雀の腰を掴んだ。――ゆっくりと力を篭めていき、脇腹を撫で上げ、そして大腿まで掌で擦るように辿っていく。
「それで、オレのことも起こしたのか?」
指先を内股に浅く忍ばせ、爪で掻く。
「さみしかった、のか。ひとりで目が覚めて」
「……、……ッ」
湿り気の残る無防備な肌を掠めるようにされ、僅かに咽喉を震わせた雲雀の表情を確かめながら、徐々に、感じずにはいられないところへ、爪先を進めていく。
「! んッ……ぁ」
自身を掌の中に捉えられ、雲雀が声を漏らした。
「ゃ、あぅ……っ」
「――かわいいな、恭弥は」
手の中で固くなっていく肉塊をあやしながら、ディーノは薄く笑った。
握り締めたそれを、上下に緩くきつく扱いてやる。先端を爪で掻き、窪みにあてた指の腹を、捏ねるような動きでくゆらせ、そうしながら掌全体で押し潰し揉みしだいた。
「ん、んぅ……ッ、ゃ……!」
「……濡れてきた。気持ち、いい? ここは?」
「――ッ! ぅあっ!」
かくん、と肘が崩れ、雲雀はディーノの胸の上に上半身を崩した。
背と腰、そしてベッドに付いた膝を震わせながら、手淫に堪える。汗の浮いた額をディーノの身体に擦りつけ、溢れそうになる声を飲み込む。
身体に掛かる心地良く熱い体重を感じながら、ディーノは手の動きを激しくした。五指を広げて掴んだ雲雀自身を、ただ強く扱く。雲雀が一番好きな先端にはわざと触れず、焦れて甘い呻きが漏れ始めると、今度は根元の柔らかな袋を掌の中で嬲り弄った。
充血した窪みに滲む先走りを、零れる前に全て拭い肉塊に塗り込めていく。ディーノの掌、そして手首までそれは溢れて、ぽたぽたと滴り、腹筋を濡らす。
「ぁ、うぁッ……ゃ、そこッ」
「じゃあ、どこが……、イイ?」
「ッ、……んんっ!」
いやがるように首を振り、雲雀はディーノの肌に爪を立てた。――どこを、どうされたいのか。どういう風に弄られると気持ちがいいのか、言葉にすればきっとディーノは雲雀の望むとおりにしてくれるだろう。けれど。
声にする、代わりに。
雲雀は、殆ど齧りつく勢いで、ディーノの唇に自分のそれを重ねた。
震える舌で歯列を割り、深くまで差し込む。ぬるい水音と、歯列のぶつかる音を立てながら、耐え切れないように腰を揺らす。
「――んんッ」
僅かに離れた唇の隙間を、くぐもった声と濡れた吐息が埋め尽くす。
「――ディ、……ィ、ノっ!」
掠れた声で、名前を呼んだ刹那。
爪で抉られた先端から、白いものが溢れた。
「……っ、……ぁ…」
一瞬の強張りの後、背をぞくりと震わせて、細い肢体から力が抜けていく。
弛緩しきった身体を完全にディーノに預けきって、雲雀は荒い息を繰り返した。
ディーノの腹の上に吐き出した白濁が、二人の皮膚の間でぬかるみ、生暖かなまま、シーツまで伝い落ちる。
雲雀の背に浮いた汗を指先で掬い、華奢な背骨の窪みを弄りながら、ディーノが咽喉の奥で微笑した。雲雀の髪に唇を落とし、恭弥、と名前を呼ぶ。
「……これで、」
眠れるだろう、と。
甘く甘く揶揄するように耳朶に注ぎこまれた睦言に、雲雀は唇に触れている肌に咬み付くことで、答えた。
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