僕が全部奪う。
written by Miyabi KAWAMURA
2007/12/31
DH_R15.M12>12月のお題>あなたが好き
唇を擦り合わせ、相手の髪を掴み、顔を引き寄せる。
背と、腰に回された腕の力。隙が無いくらいに密着した身体の間にある、服が邪魔だ。
「……脱、ぃ……っ」
「――ああ」
髪を掴んでいた手を相手の背に当て、掴んだ服をぐい、と引く。僅かに離れた唇の間で交わした短い会話は、吐息で湿っていた。
抱き上げられ、ベッドに放り出される。スプリングで弾んだ身体を、かぎ慣れた匂いが包んだ。
「……ん、っ……」
「どうした?」
咽喉をわななかせて溢れた喘ぎを、聞き逃す相手では、ない。ベッドに片膝を付き、雲雀を見下ろしながら、鳶色の目が甘く問い掛ける。
「恭弥、なに?」
伸ばされた指先が、頬に触れた。そのまま包まれ、乾いた温かな感触に目を閉じた雲雀の瞼に、口付けが落とされる。
軽く何度も触れ、鼻先と、唇を辿り顎まで行き、そしてまた唇に戻る。深い接触が欲しくて雲雀がそこを緩めても、しかしディーノは、ふっくらとした下唇を食むだけで、それ以上は進もうとしなかった。
「言えよ。……ほら」
「ぁ、や、だ……っ」
雲雀の腹部に添えた右掌を、ディーノが撫で上げながら胸元まで運ぶ。ベッドまで運ばれた間に既に粟立ってしまっていた肌は、制服のシャツ越しにも悦んで震えた。簡単には篭絡されたくなくて、小柄な肢体が身を捩らせる、うつ伏せになって枕に顔を埋めるが、しかし、ディーノはその抗いに笑みを浮かべた。
「駄目だ、恭弥」
「――ッ……!」
「戦うときに、敵に、背中を見せるのは駄目、だろ」
「な、にが、敵……っ!」
背中から、圧し掛かる体重。腰を引き寄せられ、後ろから回された手が、シャツを掴み引き出して乱す。差し込まれた掌に胸の尖りを見つけ出され、弄られると、鈍い痛みすらすぐに快感に変わる。
「は……ッ、ぁ、っ……」
左側の尖りばかりをディーノは指先で撫で、しこってきた先端を、爪で押した。そうしながら右手で雲雀のベルトを緩め、ファスナーを下ろす。
「教えて、くんねーの?」
「――っ」
「だったら、ここ、と、ココだけ……」
恭弥が、おかしくなるくらい弄ってやろうか、と。
言い聞かせるように囁きながら、潜り込ませた指で、未だ固く形を変えるには到っていない箇所を探った。
「そ、こ……、ッ!」
びく、と腰を揺らして、雲雀の脚に力が篭る。強く掴んだ枕に熱い息を吐き出しながら、雲雀が眉を顰めた。
「……っ、ディ、―ノ」
「ん?」
一度目を閉じた雲雀が、何を思ったか、うつ伏せていた身体を元に――仰向けに、戻した。
躊躇いがちに動いた腕が持ち上がり、自分を組み伏せている相手に向かって伸びる。来て、と誘うそれに少し笑って、ディーノは上体を倒した。
首に腕が回り、先刻口付けを交わしていたときのように、二人の身体が重なる。
「――重くねえ?」
雲雀の首筋に唇を押し当て、髪の合間から覗く耳朶の近くで囁く。んん、と息を詰めた雲雀の呻きが、金色の髪を揺らした。
「恭弥、……さっき、どうした?」
少し身体を起こし、黒い目を覗きこみながら重ねて問うと、そこには、潤むような艶があった。――目を離せなくなりそうな予感がして、ディーノが胸の内に湧き上がった苦い、けれど甘くさえある名状し難い感情を噛み殺したそのとき、雲雀が、動いた。
ディーノの首に回した腕に力を篭め、肩口に顔を寄せる。
「……ぁ、なたの……、」
掠れた囁きが、ディーノの鼓膜を揺らす。
「あなたの、……匂いが、したから」
だから、と、続けられようとした声を、跳ね馬の両腕が、阻んだ。
突然強く抱き締められ、雲雀の背がしなる。
雲雀の両脚を自分の膝で割り、小さな頭を両掌で押さえると、ディーノは、柔らかな唇を奪った。
指と唇で愛撫し、唾液と、そして雲雀が吐き出した液とを使って解した場所に、ディーノは己を埋めた。
「……ァ、う、ぁ……っ」
服を全て剥ぎ取られ、いくつもの鬱血の痕を肌の上に残したまま、雲雀が声を漏らす。
綺麗な筋肉が薄らと付いた腹筋が震え、逃げそうになる腰を、ディーノは両手で掴んだ。雲雀の中に穿った先端で、頑なな内襞を抉るように揺すり上げると、中で感じることを知っている、否、教え込まれた幼い身体は、ぶるりと震えた。
「――ン……ッ!」
狭く、きつい。受け入れる為に解された後でも、指や舌とは比べ物にならない質量の肉塊を飲み込むのは辛いのか、雲雀がくぐもった声を上げる。唇を噛み、は、と息を逃がして力を抜こうとしても、呼吸で動く横隔膜が腹筋を上下させる度、咥え込まされた肉塊の異物感に後ろの口と、そして抉じ開けられた襞が驚き、噛み付いて締め上げる。
「力、抜け、恭弥」
「う、んん……ッ」
黒い目が、ディーノを見上げる。色付いた眦と、上気し赤味の差した肌。……もう嫌、なのか。それとも、欲しいのか。鳶色の目だけで問い掛けると、応えるように、雲雀が身体を捩った。
「……、……っ」
ディーノの見ている前で、雲雀の指が、濡れそぼった場所に……自身に、絡む。
「ッ、あ、んぅ……っ」
先刻、一度欲を吐き出した後も時折嬲られ、固いままになっていた肉塊を、両手が包んだ。利き手の右手で先端の窪みを掻き、充血した粘膜をこじるようにしながら、きつく握り締めた左手で、上下に扱く。
「……っ、お前……」
ぞわり、と、ディーノ自身を包む襞が、動いた。きつく締め上げるような動きと、奥へ引き摺り込むような蠢動。雲雀の腰を掴む手に、更に力が篭る。指先と爪が食い込む程のまま、ディーノは身体を進めた。
「――ッ、ぁ、ん、ぅぁっ!」
精液の混じり込んだ、不透明な先走りが溢れ出す。窪みに指の腹を咥えさせるようにしていても、量を増し滲み滴っていくそれを、止めることは出来ない。手淫に、淫らな水音が混じり始める。
くちゅくちゅと、ぬかるんだ感触。それが気持ちいいのか、喘ぎ過ぎ、乾いてしまっていた自分の唇を、雲雀が舌で舐めた。
「――ッ……!」
組み敷き、犯し穿ってる相手の無意識の媚態に、ディーノの咽喉から湿った吐息が零れる。腰奥と、背までが痺れるような疼き。一度雲雀の奥を突いていた自身を引くと、ひといきに突き入れた。
「ッ……!!」
音の無い嬌声が、雲雀から溢れる。それに構わず幾度も突き上げ、辿り着いた場所で腰を揺すり抉ってやることを繰り返した。
「っ、ん、ァっ!!」
柔襞を抉られ、深く抜き差しされて、雲雀の指が自身から離れる。それに目を眇めると、ディーノは雲雀の指ごと、欲望を溜め込んだ肉塊を握り締めた。
「! ……っ!!」
「続、けろよ、……っ、もっと」
「ィ、あ……ッ!」
雲雀の腰から放した手を、ディーノは揺すられるままになっていた雲雀の脚へと伸ばした。膝裏を掴み、持ち上げる。身体を二つに折るようにされて啼いた雲雀の声は、しかし苦しさよりも情欲に染まっている。
「っ、ふ、ぅあ……!」
鳶色の目が見詰める先で、少年らしい、節の目立たない細さを残した指先が、張り詰めきった肉塊の裏筋を辿った。殆ど真上からの挿入が、更に深くなる。自慰に耽りながら中を弄られ、抉られて、両方の快楽に蕩けた雲雀の身体は、飲み込める限界までディーノを欲しがり、咥え込みたいとねだり始めた。
「ん、ぁ、……っ、る、出、んんッ!」
過ぎた快楽に、雲雀の全身が震えた。……その、瞬間。
ディーノの切っ先が、雲雀の最奥を、抉り突き上げる。
「――っ!!」
跳ねた肉塊が、雲雀の手の内から逃れ、びくびくと震えて白濁を撒き散らす。それが雲雀の腹の上に飛沫となって散った刹那、ディーノは、雲雀の中に欲望を注ぎこんだ。
「――ッ……ぁ……っ」
無防備で貪欲な柔襞を、濡らし、満たしていく感覚。
感じきった吐息を漏らし、きつく閉じてしまっていた目を、雲雀がゆっくりと開く。
最奥まで穿った身体、最奥で受け止めた身体。
その二つは驚くほと近くにあって、鳶色と黒、達した余韻に濡れた双眸が、間近で重なり合った。
雲雀の唇が、少し震え、自分の名前の形に動いたのに気付き、ディーノは身体の力を抜いた。
小柄な身体に、体重の全てを預ける。耳を、心地良さそうに啼く吐息が掠めた。
……ひくりと、ディーノ自身を包む襞は、未だ細かく蠢いている。その感触をもう少し味わっていたかったが、雲雀への負担を考え退こうとした身体を、けれど雲雀が、止めた。
汗で濡れた跳ね馬の背に、掌が当てられる。
「……ぃ、い。このまま……」
甘えるような仕草で言われ、鳶色の目が甘く溶ける。
「……辛く、ないか?」
こくりと頷いた雲雀は、目を閉じて、吐息を漏らした。
「辛く、ないよ」
だって、と続けようとした言葉を、けれど雲雀は、止めた。
……ディーノは、知らなくていい。気付かないままでいい。
身体も心も。
僕のおそらく全てを、あなたは奪った。けれど。
……でも、僕も、奪う。
あなたの身体も。心も。
抱き締めてくる腕も、呼吸も、心臓の音も全部。体温も、唾液も、精液も何もかも。
全部、欲しい。
僕はあなたが全部欲しいから、だから。
あなたが、気付かないでいる、内に。
僕は、あなたを、全部奪う。
>>fin.
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