猫VS.雲雀恭弥
written by Miyabi KAWAMURA
(2007/1115〜2008/0102迄の拍手御礼文)
金色の髪を緩く掴んで、引き寄せて。
ほんの数瞬前まで重ねていた唇に、僕は自分のそれを、もう一度触れ合わせた。
近付く身体と身体。彼が纏っているトワレの匂いが、飲み込んだ吐息と、舌先で掻き混ぜた唾液にすら、甘く香っている気がする。
舌が擦れる、柔らかく熱い感触。
息継ぎをして、離れた唇に歯を当て、悪戯な強さで噛み付くと、咎めるみたいに髪を捕まれ、けれどそれは全然痛くない程度で。
「お前、楽しそうだな」
甘く苦笑したディーノに、間近で囁かれる。
「いいことでもあったのか」
「……別に」
素っ気無く答え目を閉じ、再び彼の唇に触れようとした僕の顎は、長い指で捕らわれ、動きを阻まれてしまう。
「離して」
「駄目だ。オレに、隠し事してるくせに」
……と、言っておきながら。僕が軽く首を振ると、簡単に彼の手は離れて。
結局ディーノも、珍しく僕から仕掛けたじゃれつく様な触れ合いを、愉しんでいるんだと解る。
「恭弥、が……」
言葉の間に抱き上げられ、ソファに座る彼の身体を跨ぐ姿勢に変えられた。
「たのしそうにしてると……、オレも」
嬉しい、と艶のある笑みを零して、向かい合わせになった僕のシャツの裾を掴むと、ディーノはそれをゆっくりと引き抜いた。
「……っ」
爪と、指の腹で探るみたいにされる愛撫。
ふるりと震えた身体から力を抜いて、ディーノの肩に額を預け、腕を首に回す。
「可愛いな。恭弥は」
耳元に触れる吐息。ぞくぞくする。
「なあ。……本当は、何かあったんだろ」
教えて、と乞う言葉を言いながら、しかし愛撫の主導権を完全に僕から奪い取ったディーノに向けて、ひとことだけ返してやった。
「教えない」
――あなたには、絶対に教えてやらない。
それは、ほんの数時間前のことだった。
少しだけ待っていてくれ、と、応接室を後にした彼が、校内に迷い込んでいた猫を抱き上げているところを、僕は偶然、目にしたのだ。
綺麗な縞柄のその猫は、碧色の目をしていたらしい。……らしい、というのは、僕は直接それを見ていないからだ。
僕が見たとき、猫はもうディーノの腕に抱かれていて。
さっきまで、彼が僕相手に絶賛していたところの、「光に透けた翡翠のような」碧色の目は、僕の立ち位置からは、見えなくなってしまっていた。
その猫、は。
「触りたいなら触れば」という如何にも澄ました素振りのまま、ディーノの腕に抱かれていた。……けれど、そのどこか棘のある雰囲気とは裏腹に、身体と同じ縞柄の入った長い尾は、あたかもそれだけが別の生き物であるかの様に、自分を抱くディーノの腕に、しなやかに巻き付いていた。
彼の手が背を緩やかに撫ぜるたび、ふるりと震えて密かに応える、尾。
なにごとかをディーノが囁くと、人の言葉など理解出来ない筈の猫の尾は、やはりゆらりと揺れて、なのに決して彼の腕から離れようとしない。
まるで恋人の腕を掻き抱く様な、仕草。
不意に頭に浮かんだその印象に。僕は何故か、縛られてしまったようにそこから、動くことが出来なくなってしまった。
「恭弥」
「……、んんっ」
乱された襟元。肌蹴られたシャツから覗く首を吸われ、鈍い痛みが伝わって、後には甘い痺れが残る。
「したい。……お前は?」
「っあ、――っ」
「恭弥の、髪も、身体も、全部触りたい。……なぁ、お前は?」
そんなこと、聞かなくても、解っているくせに。
普段なら、咬み殺したくなるような無駄に甘い睦言を耳に流し込まれて、けれど、今日だけは。……今、だけは。
頷く代わりに仰のき首を伸ばして、覗かせた舌先で、彼の唇に触れる。
鳶色の目が、僅かに瞠られた。
まるで動物が甘えるみたいな仕草をした僕に、きっと彼は驚いている筈で。それを間近に見遣りながら、僕は彼の首に巻きつけていた腕に、力を篭めた。
小さな微笑の気配がして、背と、そして髪を幾度も撫ぜられる。気持ちが良い。身体の奥から滲み出る、甘く、緩々とした快感が、肌に塗り広げられていくよう、な。そんな感覚。素直に体重をディーノに全部預け、肩口に顔を埋め、金色の髪の感触を頬で確かめる。
唇に触れた首もとのタトゥー。
少しきつめにそこを齧ると、こら、と叱られ、けれど離れてなんかやらない。もっと。更にきつく、歯を立ててやると、痕になるだろ、とちっとも怒ってなんかいない声音が、耳に注ぎ込まれた。
……僕が、不機嫌でいることに、本当に気付いていないのか、彼は。
否、気付いているくせに。いつも、僕の気持ち全部を見通して、先回りばかりする彼は、僕を甘い手段で、崩し陥とそうとする。
でも、絶対に、教えない。
僕が、今抱いてる、埒も無い不機嫌の理由なんて、絶対に。
あなたにだけは何があっても、絶対に、教えたりなんか、しない。
>>fin.
沢山の拍手、ありがとうございましたvv
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