あのときあなたが選んだ毒が、
せめて優しいものであった事を
う。

2007/0109
written by Miyabi KAWAMURA
special thanks>>D/H BIYAKU Fes.






 例えば、底無し沼に脚を取られ、沈んでいくときのような。


 身体を覆い尽くす、ぬるく重い抵抗に腕も脚も動かず、呼吸のたびに肺の中に泥が入り込み細胞に絡んで、心臓の鼓動すらも止まる。……茫洋とした意識の中で、雲雀はそんなことを繰り返し、考えていた。

「――、っ……」

指先で、とくりと鼓動を感じた。その後に鈍い痛みが続き、そしてようやく、濡れた感触が伝わってくる。雲雀は、緩く首を振った。おかしい。自分の身体なのに、感覚が全て狂っている。呼吸も、鼓動も、触覚も何もかもが、いつもなら過ちなく雲雀に伝わってくる筈の情報が、今は、ばらばらな方向を向いて暴走している。

「な、……、んで、……っ」

自分の咽喉から零れた問いを、聴覚が遅れて拾う。その間に割り込む、微かな水音。
指の先が熱い。否、先だけじゃない。関節も、付け根も、全部熱い。

「ふ……ッ、ぅ、あ」

身体の末端で生まれた震えが、ぞくぞくとした快感に変わって下肢に溜まる。
堪らず腰を揺らした雲雀を見遣って、ディーノが笑った。噛み、舐めあげていた雲雀の指を、口腔からずるりと引き抜く。唾液にまみれたそこは、水分を含まされ、皮膚が柔らかになってしまっていた。しかしそれでも、爪だけは変わらず固い。

歯列でかちりとそれを挟み、舌先で愛撫してやってから、ようやくディーノは、掴んでいた雲雀の右手首を解放した。





 ぱたりとシーツに落ちた自分の手を、雲雀は滲む視界の中に捕らえた。


「ん、ん……っ」

じくじくとした疼きが内側から熱を発して体温を上げていく。が、空気に晒されている肌は逆に、薄ら寒さを訴えていた。――先刻まで、身に着けていた筈の制服は、いつの間にか全部、剥ぎ取られている。なのに雲雀には、その記憶が、無い。



『恭弥……、全部』



覚えて、いるのは。



『零すなよ。すぐに――、』



覚えているのは、重ね合わせた唇と、触れ合わせた舌先の感触。
耳に注がれたディーノの声と、そして、飲み干した透明な甘い液体の、味。




 「駄目だ、恭弥」


 自分を自分で抱くように、無意識の内に丸めかけていた身体を、掴まれた肩で無理に開かされる。抗おうとした脚は簡単にいなされ、折り曲げられた左膝裏に、ディーノの掌が滑り込んだ。そのまま力を篭めて押し上げると、ディーノは眼前で揺れる雲雀の足首に、舌を這わせた。

「ゃあ、ッ……!」
「……脚も?」

揶揄する甘さで問いながら、手の指と同じように、ディーノは雲雀の足先を咥え、歯を立てることを繰り返した。唾液を絡め、丁寧に一本ずつ指をしゃぶっていきながら、舌で擽る。今までされたことのない愛撫に戸惑う雲雀は、自分を組み敷く相手の左手が、ある意思を持って動き始めたことに、気付けなかった。

墨色と青色の絵が施された、ディーノの左腕。

それが、掲げ上げられた雲雀の左脚を伝い降りていく。
大腿の、汗で湿った白く滑らかな肌と、その下の柔らかな肉と張り詰めた筋肉を掌で撫で、そして。


「――ッ!!」


辿り着いた指先が雲雀自身に触れ、きつく絡みついていく。

「ぁッ……ッ……ぁ、んっ」
「音、聞かせてやろうか」
「な……っ、ん、んッ!」

既に頭を擡げていた場所を、意地の悪い指が嬲り始めた。裏筋に当てた指の腹で根元から搾るようにした後、先端に爪で触れて窪みを掻く。

「ゃ、んぁ……ッ」

滲む先走りを塗り広げられ、先端を剥き出しにされて、雲雀が下肢を跳ねさせた。
充血した粘膜に、当てられた指。ひくつく窪みをあやすように撫でたかと思うと、小孔をこじ開け、指先を無理に咥えさせようとして抉る。痛みと背中合わせの快楽。雲雀のそこは完全に熟れて、ビクビクと震え始めた。

「駄、……ッ、ゃ……っ!」

掌の中で可愛がり、弄ってやった肉塊を甘く眇めた目で見遣って、ディーノはそれを上下に扱き始めた。

「――ッ、んんッ!」
「……これで、聞こえる?」

溢れてきた、と囁く声は熱く掠れていた。

ぬちゅ、くちゅ、と、粘ついた音が響き始める。耐え切れない吐息に震える雲雀の咽喉と、溢れ出す蜜の淫らな様を、ディーノは酩酊した様な艶を浮かべた鳶色の目で、隅々まで視姦した。




「っ……ぁ、アぅ、ん……っ!」


ディーノに掴まれたままの左脚と、そして投げ出された右脚とを不自由に揺らして、雲雀が達した。先端から吐き出された白濁が腹に滴り、液溜まりを作る。

「恭弥」

呼ばれ、閉じてしまっていた目を雲雀が開くと、潤んだ視界をディーノが満たした。
両頬を掌で包み込まれ、唇を塞がれる。舌先の濡れた熱さが、雲雀の口腔を咽喉奥まで犯す。時折顔の角度を変え、唇を尚深く重ねてくるディーノの首に、雲雀は腕を回した。
――が、それも、殆ど無意識の動きだ。
吐息も唾液も、体温も、ディーノのそれが全部欲しいと、暴走し求める自分の身体に、雲雀の意思は半分、取り残されてしまう。

「ゃ……だ、何、で……っ」

震える膝を立て、脚の間に迎え入れた相手を挟み腰を揺るがせると、擦れた下肢からもどかしい疼きが生まれる。その気持ちよさに、身体が止まらなくなる。嫌だ、と戸惑いながら、しかし貪欲に下肢を震わせている雲雀の嬌態に、ディーノは甘い、けれどどこか痛みを堪えているような、表情を浮かべた。


「嫌?」


聞きながら耳朶を齧ると、雲雀の体温がまた、上がった。二人の身体の間で、昂ぶり始めた肉塊同士が擦れ、固く変わっていく。

「これを望んだのは、お前自身だろ? ……でも」

一度言葉を切ると、ディーノは雲雀の眦に唇を寄せた。滲み、零れ落ちそうになっていた涙を掬い、そして瞼の上に口付ける。


薄い皮膚と、それに守られた眼球。


繊細な場所への優しい愛撫に、雲雀が息を漏らした、刹那。



「――選ばせたのは、オレだ」



鼓膜を揺らした、声。


その意味を理解しようと巡らせた雲雀の思考は、熱を持て余し吐精したがる身体のせいで、散り散りになっていく。



雲雀は、ディーノの身体を引き寄せた。わからない。もう何も、考えることなんて出来ない。けれど、でもこれだけは。腕の中の相手だけは、確かなもの。








 あの、日。

もう二度と、ふたりきりでは逢えないと、互いが理解し、そう決めた、あのとき。
その部屋には、透明な硝子瓶がひとつ、あった。


『これ、何?』


問う声に答える、もうひとつの声。



『薬』
『……薬?』
『ああ。オレ達が、お互いに、お互いの為のものだけになれる薬』
『……下らない。そんなもの、あるわけない』



否定した誰かの声。そしてその否定を、否定しようとはしなかった、誰かの声。







 「――ッ! ……ァっ」


 下肢を穿たれ、雲雀の背が震えシーツから浮いた。
掴まれた両腰、深過ぎるところを突き上げられ、咥えさせられた相手の熱に、内側から犯される。呼吸を奪いつくす激しさで口付けられて、雲雀の身体が固く強張った。


絡む舌と、注ぎ込まれる唾液。

飲み下したその、ぬるい甘さ。――そう、それは。





それはまるであのときに飲み干した、透明な甘い、液体のような。





>>fin.


雲雀にも媚薬?を使ってみました。
一つ前のSS「鍵付きの檻に閉じ込めて〜」と、媚薬繋がりで対になっております。
こんなところでアレですが、当SSは媚薬祭主催のお二人に捧げさせて頂きますvv
素敵企画、本当に管理運営お疲れ様です!


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