☆展示物の無断転載・コピーは一切禁止です☆
☆文字サイズは中か小推奨です。最小だと読めないです多分☆

 

鳥VS.跳ね馬ディーノ
written by Miyabi KAWAMURA
2008/0222
(2007/1115〜2008/0102迄の拍手御礼文)






 雲雀は、風紀委員長としての仕事を、実はとてもまじめにこなしている。


 一般の生徒や並盛の住民からしてみれば、トンファーを片手に彼のいうところの「草食動物」を粛清して回っている凶暴な姿しか思い浮かばないかもしれないが、例えば応接室で風紀委員の活動簿等に目を通しているとき、雲雀は、信じられないくらいに「きちんと」それらしく、委員長らしく、仕事をしているのである。



 ディーノが応接室を訪れてから、かれこれ半刻ほどが既に経過していた。

ソファの隣に座った雲雀は、机に置いた書類と、そして手元の書類を見比べながら、なにごとか思案しているようだった。……普段なら執務机で行うそれを、ソファで、ディーノの隣ですること自体、大きな進歩なのだ。もっとも、それはディーノが雲雀の邪魔をせず、静かに座っていれば、の話だが。


ディーノは、ひとつ伸びをすると、ソファの背に身体を預けた。
イタリアから日本まで、機内でとろうと思っていた仮眠の時間は、飛び込んできた案件のせいで潰れてしまっていた。……なのでここで、雲雀の隣で、彼の横顔を見ながらのんびりと過ごす時間というのも悪くないな、とディーノは密かに満足していた。


手を伸ばせば触れられる距離にある、想い人の顔を見遣って、ディーノは僅かに相好を崩した。


 綺麗な、横顔だった。


切れ上がった眦。黒い目は、近くで見ると存外長い睫毛に縁取られている。
それを上下にゆっくりと動かし、僅かに首を傾げ、何事かを考えている風な仕草も。そして、風紀と記された腕章が嵌められた腕の細さも、身体の華奢な作りも。

それらの全部、雲雀の全部を、ディーノは気に入っている。
またその「お気に入りの全て」をゆっくりと、雲雀本人からの邪魔も入らない状態で見詰めていられるこの時間も、得難く貴重なものだと感じていた。


ディーノの鳶色の目に浮かぶ彩が、甘いものに変わっていき。そして。
やはり見詰めているだけでは足りなくなって、雲雀に向けて手を動かそうとした、瞬間。



「退屈なら、どこかに行けば」



そのとき突然、ぱさりと書類を机に戻して、雲雀が口を開いた。


「退屈?」
「隣で溜息をつかれても、不愉快なだけなんだけど」
「ついてねーよ」
「ついた」
「ついてねーって」

無表情に、けれど目だけで睨む、という器用なことをディーノにしてみせて、雲雀が、再び視線を机上の書類に向ける。

「まあ、別に構わないけど。どうせ今日は、あなたの相手をしてる時間は無いから」
「……いつもは、お前の方から付き合えって言うくせに」
「何?」


ぴしりと、部屋の空気が凍る。


年不相応に大人びた、そして、雲雀恭弥の雲雀恭弥がゆえの癇の強さを、どうやら、ディーノのひとことが刺激してしまったらしい。……当たり前のことだが、今現在ディーノは退屈なぞしていない。普段なかなか逢えない幼い想い人に触れたい、抱き締めたいという気持ちを宥めながら隣にいる、という穏やかで非常に甘ったるい時間を、かなり満喫していたのである。

「とにかく、邪魔するなら出て行ってもらう」
「邪魔なんて、してねーだろ」
「してる。他人が同じ部屋にいるだけで、十分邪魔だよ」


ぷい、と横を向いた頬の、柔らかな稜線。
売り言葉に買い言葉的な、一見同レベルな遣り取りをしていても、ディーノには、雲雀の表情を愉しむ余裕が実は、ある。――恭弥の、こういうところが可愛いんだよな、とそう思った刹那、ふとディーノが唇の端に浮かべてしまった笑みを、けれど雲雀は見逃さなかった。


「……何、笑ってるの」


格段に鋭くなった、黒い双眸。
トンファーすら取り出しそうな相手の風情に、ディーノがしまったと思い通つつも、心の内で引き際を――雲雀に悟られずに、自分の方が折れてやれるタイミングを計り出したそのとき、開いていた窓から、黄色いかたまりが、飛び込んで来た。



「ヒバリ、ヒバリ」



ピィ、と、高い声の合間に、歌うように囀る。
雲雀が、名前までつけて執心している、小鳥だった。


ぱたぱた、と羽ばたく黄色い翼を目にした途端、雲雀の目に浮かんでいた険が影を潜める。


「オボエタ、ゼンブ、オボエタ」


くるんと室内を旋回して、雲雀の指先に止まり、ちち、と鳴いた後、小鳥が言葉を続ける。
全く意味が分からないディーノに反し、雲雀には、それが通じたようだった。


「ウタウ、ヒバリ、ウタウ?」
「後で、いいよ」


雲雀の答えに羽ばたいて、小鳥が、窓から出て行く。
ふわん、と一枚黄色の羽根が、舞った。





 「……何だよ。また何か」

覚えさせたのか、と問おうとしたディーノの声を、しかし雲雀が遮った。


「あなたには関係ない」


冷たく尖った、取り付く島も無い言葉。けれど。

「あなたには全く関係ないし、邪魔だから、出て行って」
「いやだ」

けれど、だからといってここで退ける訳がない。
即答し、ディーノは続けた。


「鳥は良くてオレは邪魔? お前、そんなでオレが、納得すると思うか?」
「下らない嫉妬しないで」
「そんなんじゃねーよ。恭弥が、無茶苦茶言ってるんだろ」
「……咬み殺されたいの」
「いつものお前なら、そのつもりがあるならとっくに飛び掛って来てんじゃねーか? ……なあ。なんで、今日はそうしねーの?」
「――っ」


黒い双眸と、鳶色の双眸が、真正面からぶつかった。


……眉を顰め、それこそ咬みつきそうな表情を浮かべた雲雀だが、自分でも、理論の破綻には気付いているんだろう。

雲雀は元々、頑固で唯我独尊的なところはあるが、決して潔くない人間ではない。――が、戦いでならいざ知らず、こんなつまらない口論で言い負かされるのは絶対に嫌だし、ましてや頭を下げるなぞ、そんなことはしたくないのだ。……要するに、「ごめんなさい」のひとことが言えない、というかそんな言葉を最初から持ち合わせていない訳だが、ディーノからしてみれば、そんな部分も含めて、雲雀はまだまだ、子供だった。


「……ったく」


ひとつ溜息を、今度こそ本当に溜息をつくと、ディーノは動いた。

「――ッ!」

肩に指が触れた、と思った刹那、その手が背に滑り、引き寄せられる。
抱き締められ、思わず止めてしまった呼吸を始めた瞬間、身体を包んだディーノの匂いと体温に、雲雀が目を揺らした。


「……、何……っ」
「喧嘩なんかしてる時間があるなら、お前に触りたいんだよ」


身じろぎ暴れる身体を、回した腕で強くきつく戒め、撫ぜる手で宥める。
後頭部に添えた掌、黒い髪を指に絡め梳いて、その柔らかさに鳶色の目が、眇められた。


「……恭弥の、髪も、声も、全部好きだ」


髪に口付け、吐息で耳朶を擽る。


「腕も、指も、目も」


黒い髪の合間に覗いた耳から、白い首筋を唇で、辿った。


「肌、も。……体温も、匂いも、全部」


触れた肌をきつく吸い、赤い痕を散らす。



「だから、一緒にいられる間は。……抱いてたいし、キスもしたい」



……唇が離れた後に残る、鈍い、痛み。
ぴくりと身体を震わせて、雲雀の指先が、ディーノの背に爪を立てる強さで添えられた。



「――まだ、オレのこと、邪魔?」
「……ッ……」
「恭弥は、鳥なんかより、オレの方が好き、だよな」
「……勝手なこと、言うな」



ぎち、と背に食い込まされた、指先。



……けれどそこに。
自分を引き寄せるような力が僅かに篭められていることに気付いて、ディーノは微笑った。






>>fin.


 Back