ナイトメア

2008/0308
written by Miyabi KAWAMURA





 オレは、夢を見ていた。


掴んだ腕は細く、手首の関節の骨は固かった。引き寄せ、両肩をシーツに押し付ける。唇が動き、何か言葉を音にする前に、噛み付く勢いでそこを塞ぎ、伸ばした舌先で奥を探った。

温かく濡れているそこを、撫ぜ、絡めた相手の舌が纏っていた唾液を削ぎ取り飲み下す。

ぬるりとした感触と熱。妙な鮮明さに、頭の奥がずきりと痛むが、そんなことで覚めるほど、この夢は簡単なものではないらしい。


 掌を、相手の肩から胸元まで沿わせていく。

ぎちりと握りこんだシャツは、薄暗がりの中でも白い。……既に見慣れた制服を、夢の中の、今オレが抱こうとしている「オレの夢の中の恭弥」は着ていた。夢の中でも制服を着ているのか、と少し可笑しくなったが、考えてみれば仕方が無いことだ。オレが恭弥と会うとき、彼は常にその姿をしているから。――だからオレの夢の中で、恭弥がいつもの、白いシャツの上に学ランを羽織った姿で出てきたとしても、それは少しも、奇妙なことではないのだろう。

力を篭めると、音を立ててシャツが裂けた。

肌を露わにしてやる間も惜しく思えて、千切れた布の合間に唇を寄せていく。口付け、舐めて、組み伏せた身体のすべらかさにオレは息を漏らした。ずっと、こうやって触れたかった。呼吸で上下する胸元や、薄い腹部。歯を立てることが出来る場所を探しながら、いたるところに赤い痕を散らしていく。唇できつく肌を吸う度に、オレの髪を掴んでいる相手の指に力が篭るのが分かった。けれど、止めない。止めてやる理由が、無い。だって、これは夢だろう。


イタリアの、オレが生まれ育った屋敷。


その部屋の中に、恭弥が、いる訳がない。



「……ッ」



ずきり、と、また頭が痛んだ。

薬のせいだろうか。それとも、ベッドに潜り込む前に飲んだ、酒のせいだろうか。否、多分それだけじゃない。どうしようもなかった出来事に対する後悔や、下すしかなかった結論や、全て割り切り了解している理性や、そんなものがグシャグシャに混ざって、この身勝手な、埒もない夢を作り出しているんじゃないか、とオレは思う。




 ある人間の命を、数日前にオレは奪った。


直接手を下した訳じゃない。当たり前だ。オレは、部下にひとこと命じただけ、で。しかしその命令は、誰かの手によって確実に行われ、そしてオレの周りからひとり、人間が消えた。

もう、そうするしかなく、すべき状況になってしまっていた。

ファミリーに対する確実な裏切りの証を持っていた相手を、許すことは出来なかった。例えそれが、先代の頃から仕えてくれていた関わりの深い、オレにとって……個人としてのオレにとって大切な人物だったとしても、キャバッローネの長として、果たさなければならないことは、ひとつしかなかった。だから殺した。


――そう、だから、そんなときに。


夢の中で、目を開いた薄暗がりの中で、恭弥を目の前に見つけて。
その瞬間の衝動を抑えることなど、今のオレに出来る訳がなかった。






 「オレの夢の中の恭弥」の身体は、驚くほどに甘かった。

前を肌蹴させたシャツも、ベルトを引き抜いた下衣も。愛撫を深くしていくうちに邪魔になった着衣の全て剥ぎ取って、オレは恭弥の下肢を貪っていた。

口腔に含んだ肉塊を、噛み扱き舌で撫ぜる。

大きさと固さを増していくものの先端から溢れる蜜は、粘ついていてぬるい。最初感じた、独特の苦味。しかし、これが恭弥の味なのだと意識した刹那から、その苦味は同等以上の甘さとして感じられるようになった。

びくびくと細かに震え跳ねる身体を、腰骨を掴んだ両手で固定する。

「ぅ……あっ」

荒い息と、掠れた声。
オレが顔の角度を変え、齧り付く強さを少しきつくしてやるだけで、恭弥は堪らなくなるらしかった。横から銜え、唾液を絡めた舌で、ゆっくりと上下に舐めていく。途端、膨らみきったそこから、白濁が飛び散った。

「――んッ、んんっ!」

小さく呻いて、恭弥が腰を捻る。
無論、オレに両腰を抑えられているのだ、その動きは自由にはならない。けれどそんな状況の中でさえも、不自由そうに下肢を身じろがせながら白いものを吐き出した恭弥は気持ち良さそうに身体を震わせている。

頬と、唇の端にかかった恭弥のそれを指で拭い舐めてから、オレは未だ芯を持っている肉塊を、掌で包み込んだ。

「ゃ、あ……っ」

オレの唾液と、恭弥の汗と精液とで濡れそぼったそれを、掌と指で捏ねる。先端の割れ目と、淵。ぴく、と動くそこを指の腹で幾度も擦る。

「そ……れ、ゃ……ッ」

オレの手を掴み、首を振って拒むくせに、恭弥は黒い目に融け落ちそうな色を浮かべている。幼さの残る細い肢体の中央の、充血し張り詰めたものを嬲られて啼く様。……オレの身体の奥にも、重くうねるような熱が溜まっていく。知らず唇を舐めれば、そこは酷く乾いていた。欲しい。どうしようもない渇きを癒してくれるものが欲しくて、オレは、恭弥の体液にまみれた指を音を立てて舐めては、再び恭弥から白濁まじりの先走りを絞りとり、しゃぶった。

「ッ、……も、ぅ」

二度目の吐精に、恭弥の咽喉から高く細い息が零れる。

オレの掌の中で蠢いた肉塊と、とくりと溢れ流れた、体液の感触。
忙しなく上下する恭弥の上半身にそれを塗り広げ覆い被さると、互いの皮膚の間でぬるついたそれが、重なる肌の触れ合いをより密にする。


「恭弥……」


昂ぶりきった自身をぶつけるようにしてやると、痛いくらいの快感がそこから全身に広がっていく。潤んで揺れている黒い目を間近に見下ろしながら、オレは、自分の下肢に手を這わせた。

「――ッ、ぁ」
「ん、んん……っ……!」

前を寛げる、ファスナーを降ろす鈍い振動にすら、劣情が煽られる。

オレが漏らす、噛み締めた吐息が耳を擽るだけでも感じるのか、そのたびに恭弥も咽喉を震わせて啼いた。


互いの声と、吐息。


掴み出した自身を、恭弥の大腿の狭間に深く沈めていく。



「ディー、……ノ……っ」



名を呼ばれると同時に、背に走った鋭い痛み。


立てた爪で縋られ、恭弥の心臓の音が直接の振動になって、密着した胸から伝わってくる。



組み伏せ、抱き締めた身体。

欲しい。抱きたい。
最奥に捻じ込み穿って、全部、感じられる全てを奪いたい。



再び重ねた唇の間を、互いの舌先が行き来する。
絡め取り、引き摺り出してやった舌先をオレの口腔に迎え入れ、甘噛みを繰り返して。



擦れ合う肌、粘膜のぶつかる濡れた音、下肢から生まれるとめどない快感と欲情。




「……恭弥」




これは、オレが見ている、夢の筈なのに。





なのに、腕に捕らえた相手へと向かう愛しさは、現実と変わらない痛みと熱を持って、オレの心臓を灼いた。



 

>>fin.


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