ゆがみ、歪む
(それでも、この恋だけは)
written by Miyabi KAWAMURA
2008/1001
『事が済んだらすぐ、イタリアに帰れ』
ディーノの元・家庭教師であるアルコバレーノは、そう言った。
『馬鹿弟子の顔なんざ、しばらく見たくねえ』
彼らしい乱暴な、けれど決して冷たくはない声で伝えられた言葉。そんなことが許される状況ではないというのに、ディーノは苦笑いしつつ、一言だけ、「解った」と答えた。
雲雀恭弥を連れ出し、閉じ込める。……実際に成してしまえば、それはそう難しいことではなかった。
彼のテリトリーである並盛の町を訪れ、求められるままいつものように、手合わせをして。その最後、物足りなさそうな顔をした教え子に、続きは場所を変えてからだ、と告げてやると、彼は頷き、疑いもせずに付いて来た。――それも当たり前だ。以前、ボンゴレリングを巡る戦いがあったとき、ディーノはそう言って雲雀を連れ出し、鍛え上げたのだから。そのときの記憶と経験が前提にある上、咬み殺し甲斐のある相手と戦うことを何よりも望み好んでいる雲雀が、再び訪れた機会を、自ら無碍にする訳がない。
ボンゴレの次期守護者達の中に於いて、抜きん出た才を持っている反面、雲雀には妙に無防備な一面がある。それを見抜き危惧していたのは彼の家庭教師を務めたディーノ本人だった筈なのに、しかしディーノは、それを利用したのだ。……まるで騙し討ちのような。最悪の手段を採った自覚はある。が、最初から計画をしていたのかと誰かに問われたとしたら、それは否だとディーノは答えるだろう。今更言い訳にしかならないだろうが、事実は事実だ。
数ヶ月ぶりに訪れた日本で再会した教え子は、以前よりも更にその実力を伸ばしていた。武器を交えながら、今自分が費やせる限りの時間を雲雀の為に使いたいとディーノが考えたのは本当で、それならば、もっと自由に戦える場所に、と誘い、並盛中の屋上を後にした。そこまでは、何もかもが「正常」で、いつも通りだった。なのに。
キャバッローネの跳ね馬が、ボンゴレ十代目へと――正確に言えば、ボンゴレ十代目の後見であるアルコバレーノへと連絡を入れたのは、そのたった、数時間後のことだ。
雲雀恭弥の身柄を預かっていると告げ、自分達の居場所、日本に率いてきた部下の数、警備の布陣、自らの手の内全てを晒しての、一方的な「交渉」。
まるで撃つなら撃てと言わんばかりの、ボンゴレを頂点とした同盟への造反にしか見えないディーノの行動に対して、しかし返された答えは制裁ではなく、条件付きの肯定だった。
『雲の守護者を、無傷で返せ。絶対に“壊すな”』
『……壊す?』
『そうだ。雲の守護者に対して、守護者としての価値を損なわせるような、ボンゴレに過度のリスクが掛かるような真似だけは絶対にしない。――それが守れるなら、ディーノ、お前の好きにしろ』
電話越しに聞こえたアルコバレーノの言葉と冷えた声音の意味を、ディーノは誤ることなく理解することが出来た。
本来なら、ディーノのしていることは、後から冗談だと取り繕ったところで赦されない程の罪だ。しかし今の――指輪争奪戦も含めた内部抗争によって揺れた基盤の建て直しを計っている現在のボンゴレには、自らの鎧たる同盟の一翼を担うキャバッローネを、切り捨てることが出来ない。かといってキャバッローネの側に、同盟の枠から離れ、大ボンゴレ相手に完全に有利に立てる程の力が備わっているかといえば、それも時期尚早で。
……ひどい話だ。ボンゴレもキャバッローネも、互いに互いを切れる筈がないことを知りつつ、ある意味公式に則った、完全な「交渉の形」を演じている。
キャバッローネの、無謀とも見える造反。
条件付で、しかしそれを許容するボンゴレ。
――雲の守護者という「人質」をキャバッローネが有している以上、一見するとキャバッローネが有利に見えるが、どちらかが一方的な優位に立つということは無いと、最初から証明はされつくされているのだ。どんな結末に到るにしろ、待っているのは痛み分けに過ぎない。
『……解った。雲の守護者は、無傷で返す』
約束する、と続けながら、ディーノは笑いたいような気分になった。
約束もなにも、初めから自分には、雲雀をボンゴレが危惧しているような意味で傷付けるつもりなぞ無い。交渉の窓口役を担っているアルコバレーノも、とっくにディーノの胸の内には、雲雀に向けている思いには気付いているだろうに、敢えてそんな条件を出してくるあたりが狡猾だった。彼にとっては、ボンゴレを含めた同盟を守ることも、そして自らが育てたキャバッローネの跳ね馬のことも、どちらも大切なのだ。非情でありながら、しかし情を捨てることはしない。それが彼を最強のアルコバレーノと言わしめている要因のひとつなのだろう。
『それからこれは、ボンゴレとは関係ねぇ、オレ個人からの要求だ。……ディーノ、お前は事が済んだらすぐ、イタリアに帰れ』
『……んだよ。冷てーな』
『馬鹿か、お前は。――オレにぶん殴られるか締められるかしたくないなら、形だけでも反省して見せろって言ってんだ』
自分の元・教え子がしでかした問題を、如何にも同盟内にありがちな小競り合いじみた、誰の目にも「分かり易い形」に整えることに成功した安堵からか、アルコバレーノが漏らした珍しい溜息は、ディーノの耳に届いた。
『なぁ、リボーン』
『……何だ。もう切るぞ』
『分かったよ。手間かけて、悪かったな』
『……本当に解ってんのか? ……いいな、十日間だ。それだけだ。それまでにヒバリが戻らなかったら、後のことは知らねえぞ』
『ああ。雲の守護者は、無傷で返す』
『……それが、条件だからな』
十日間の猶予をボンゴレから与えられたキャバッローネが、そのときまでに雲の守護者を無傷で返しさえすれば、後付けの理由はいくらでも用意出来る。
親密な関係にあるファミリー同士でも、水面下での軋轢や、駆け引きが行われるのは当たり前の世界にいるのだ。今回の問題も、最小限の浅い傷で済む手筈は整った。否、整えられた、のだ。ボンゴレとキャバッローネ、そしてアルコバレーノ。三者の手によって、穏便に。
……本当にひどい話だと、ディーノは思う。
結局、傷付くのは雲雀一人だ。
ディーノが雲雀のことを思ってしまった所為で、抱き締めたいと、どうしても欲しいと思い、ふと腕を伸ばしてしまった所為で。その為に生じた、同盟という秩序を揺るがす歪みを正すために。
ボンゴレの雲の守護者は、キャバッローネの跳ね馬に供されたも同然、だった。
うつ伏せにされた姿勢のまま、雲雀は漏れる吐息をシーツに吐き出していた。
両腕の戒めは、目が覚めたときには外されていた。しかしようやく自由になった四肢も、ろくに力が入らないのでは役に立たない。――昨夜のうちに、抗生物質の混ざった薬を打ったと、雲雀を犯した男は言っていた。中が傷付いてしまっていたから、治療したのだ、と。
「――ッ……ぅ、ぁ」
ぐちゅ、と中を掻き混ぜられ、雲雀は咽喉を引き攣らせた。
胎内で動く異物が、同時に好き勝手な場所を刺激してくる。鞭を扱う相手の長い指が、何本自分の中に入っているのかなんて、知りたくもない。
「ああ……腫れてるな。此処、も」
「ン、ん……っ!」
冷たく濡れたものが、また、注ぎ足された。
ぐ、と広げた指の合間から、また新しい指が差し込まれる。
指の腹で幾度も柔襞を探られ、敏感になった場所を押し撫でられて、その度に生まれるぴりぴりとした痛みと、相反するもどかしい快感に、雲雀の意識は塗り潰されていく。
「は……っ、ぁ、んぁ」
くちゅ、くちゅ、と、抜き差しされるものに、雲雀の身体が、教え込まれ覚えたばかりの仕草を見せ始めた。甘える様に噛み付き、縋る様に絡む。揺れ始めた下肢を支えようとして、無意識の内にだろう、何度もシーツに膝を付き直している雲雀の様を見遣って、ディーノが笑った。
「こら。薬、塗れねえだろ」
「ァ、んん……っ」
後孔の淵に爪を掛けられ、雲雀の背が反った。白い肌に浮いた汗が滑り落ちる。空調の効いた部屋とはいえ、着衣の全てを剥ぎ取られたら肌寒く感じてもおかしくない筈なのに、緩慢に与えられる愛撫に上がりきった体温を、雲雀は持て余し始めていた。
「恭弥……、動くなって」
「! ん、ぅ……っ」
雲雀の胎内で溶けて緩み、大腿に滴り落ちてきた塗り薬を追うように指を這わせていたディーノが、辿り着いた先――柔らかな袋を、掌で包み込んだ。薄い皮膚越しに感じる、双球の固さ。
「や、め……ッ、ぁ、んんッ!」
他人の手で弱いところを揉みしだかれ、弄られることへの本能的な恐怖と、否応無く乱されていく呼吸。何とかして耐えようと、膝を擦り合わせた雲雀の大腿は、逆にディーノの手首をきつく挟み込んでしまうだけだった。
「もっと……?」
「違、……っ、ぁ」
口では嫌がってみせるくせに、まるで止めないで欲しいととねだるように動く、細い肢体。
雲雀の中心を指で弄りながら、空いている右腕で、ディーノは雲雀の身体を抱き起こした。膝の間に雲雀を座らせて、後ろから伸ばした手で掴んだ両膝を左右に開かせる。
「このまま、手でしてやろうか?」
「――っ……、ぁ」
後孔を弄られている間に熟れてしまっていた肉塊を握り込まれ、同時に付け根の袋を撫で扱かれて、びくりと震えた雲雀が、背後の相手に凭れ掛かる。鳶色の目に笑みを滲ませると、ディーノは汗を含み湿ってしまった雲雀の黒い髪に、唇を寄せた。
「どこに触って欲しい? ……言えよ」
「ふ、ぁ……っ」
肉塊を握り、離すだけの手淫でも堪らないのか、雲雀が首を振った。
「恭弥は、どっちが好きなんだ? なあ?」
「――っ、ン、んんっ」
蜜を溜め込んだ袋の皺を伸ばすように指先で探られ、声が漏れると、また肉塊に指が巻き付いてくる。屹立の根元から先端まで、雲雀の性器を両掌で包んだディーノは、赤く色付いた雲雀の肌を目で楽しみながら手を動かし、甘皮を引き下ろした。
「! ……ぅ、あっ」
剥き出しになった粘膜を嬲られ、雲雀が膝を跳ねさせた。
「気持ちいい?」
「っ、ぁ、んんっ!」
「もう、こんなに固い。……可愛いな、恭弥は」
「……ッ、ふ……っ、あ」
雲雀自身から滲み、溢れ出した粘液が、いつの間にか音を立て始めていた。
熟れきった肉塊の切っ先を右手の指の腹と爪で弄りながら、ディーノは左手で一度あやすように付け根の袋を撫ぜると、更にその奥へと指先を忍ばせた。――蜜を溜め込んだ気持ちのいいところを揉んで欲しいと、無自覚のまま期待していたのか。むずがるようにディーノの腕の中で身じろいだ雲雀の媚態に、ディーノの腰奥でも、うねるような熱が溜まっていく。
「――恭弥」
「ィ、……っ、ぁ」
先刻まで指を咥えさせていた小さな口は、表面を撫でるディーノの指に、従順に反応した。く、と僅かに押しただけで、ディーノの人差し指の中程までを、雲雀のそこは飲み込んでいく。ひくつき、奥へと誘うように蠢く濡れた襞。たっぷりと含ませ塗り込めた薬が効くにはもう少し時間が掛かるのか、雲雀の胎内は、初めて犯してやったときよりも、更に熱く感じられた。
「ィ――っ、ノ……っ」
掠れきった声で呼ばれ、ディーノは動きを止めた。
「……恭弥?」
腕に包んだ、少年らしさを過分に残した身体は、細かに震え続けている。……傷が痛むのかと、食ませていた指で中を探りつつ引き抜いていくと、雲雀の身体がびくりと跳ねた。刹那、肉塊に添えていたディーノの右手に、ぬるく濃い体液が撒き散らされた。――雲雀が耐え切れずに吐き出した精液の感触が、ディーノの肌の上を流れ落ちていく。
「ン――ッ……」
一度だけの、中途半端な射精では満足出来ないのだろう。達しきれないもどかしさに背を仰け反らせた雲雀が、ディーノの肩口に後頭部を擦り付けた。
「……っ、ぁ、んんっ」
「恭弥……、もっと?」
「……ッ、ん、ぅ」
「――聞きたい。言えよ」
「ぅ、あ……っ……!」
ディーノは、左手で雲雀自身の根元をきつく戒めると、右手の指に絡めた白濁を、赤く腫れ上がった肉塊の切っ先にゆるゆると塗り込めた。淫らな液を滴らせる先端の窪みに自らが吐き出したものの味を教えるように、そこばかりを執拗に責める。
「あ、ん……ッ、ゃ!」
「なぁ。……まだ、言えねえ?」
吐精したがる肉塊を、そう出来ないように意地悪く嬲られ、雲雀の眦から透明なものが滑り落ちた。
「離……ッ、ぁ……っ」
ディーノ、と、先刻よりもはっきりとした声音で紡がれた自分の名前を耳にして、跳ね馬の目に、甘苦い色が浮かぶ。――ねだらせるよりも、泣かせるよりも、自分の名前を啼かせ求めさせることの方が、何倍も良い、と、どうしようもない劣情が湧く。
一度雲雀自身から手を離すと、ディーノは薬を塗ってやっていたときのように、雲雀の身体をうつ伏せに組み敷いた。自分より一回り以上小柄な、華奢な肩に手を付き、逃れられないように体重を乗せる。
「ぁ……、っ、ぅ」
シーツに自身が擦られるあえかな感覚が良いのか、ディーノが見ていることも忘れて、雲雀がしきりに下肢を捩らせた。しどけなく脚を開き爪先を強張らせて、幼い稚拙な方法で、自慰に耽る姿。――それを視姦しながら、ディーノは下衣の前を寛げ、張り詰めきった肉塊を引き摺り出した。自分の指で触れただけでも震え、嵩を増したそれを、雲雀の肌に擦り付ける。
「!――ゃ、……っ」
「……っ、逃げるな、よ」
ディーノから滴った先走りが、雲雀の肌を汚した。
再び犯されようとしてることに気付き、逃げを打った身体の腰を掴んで引き戻すと、雲雀の下肢の双丘を両掌で掴み、左右に押し開く。――赤く充血した淵を息づかせる、隠された場所。露わになった雲雀の後ろの口の、その中の熱さを思いながら、ディーノは自らの肉塊に手を添え、一息に雲雀の中へ穿ち入れた。
「んん……ッ!!」
絡みつくどころではない、突然の挿入に強張って拒む内襞を、こじ開けるように犯していく。
「ィ、……ッ、ぁ、んっ!」
ディーノに捕らえられてからの間、途切れることなく嬲られていた雲雀の身体は、しかし本来は男を受け入れる為に作られている身体ではない。
繊細で弱い胎内の粘膜が傷付いていることを知りながら、けれどディーノは、雲雀を抱くことを止めることが出来なかった。
自分の腰骨が雲雀の肌にぶつかる奥深くまで刺し込み、尚も掴んだ腰を引き寄せて、奥尽きを揺すり上げる。きつく目を閉じて、交わってる場所と、掌に掴んでいる雲雀の肌の感触、肉の柔らかさだけに没頭した。――ひどいことを、している。ひどい手段で雲雀を捕らえて、そしてまた、ひどい愛撫と行為で、雲雀のことを傷付けている。その自覚はある。けれど、しかし。
「――ッ!! ンっ!」
前をきつく握り扱いてやった途端、高く啼いて、雲雀が達した。
びゅる、と白濁が溢れ、びくびくと震えながら吐き出す身体に合わせて雲雀の中が蠢き、ディーノを煽るように搾り上げた。
「――っ……、ぅ、あ」
躊躇う間も無く、雲雀の中に吐精する。噛み締めた奥歯の隙間から声を漏らし、穿った肉塊が吐き出した白濁が、狭く熱い中を満たしていく感触に酩酊する。
『……本当に解ってんのか?』
そのとき、不意に、師の言葉が思い出された。
ああ、解っている。心の内で、ディーノは反論した。――雲雀のことを、こんな方法で手に入れられる訳ではない。ましてや奪い尽くせる訳でもない。そんなことは、ディーノも理解している。
最奥を嬲り、深く繋がったまま、ディーノは雲雀に覆い被さり、後ろから抱き締めた。
汗と精液、二人分のそれで汚れた皮膚が吸い付くように張り付いて、触れ合った場所から、体温すらも交じり合っていく。
「……、……ぁ」
全身に掛かるディーノの体重と、中を満たしたままの肉塊の感触、そして吐精の快感。雲雀が吐息と共に、甘く声を漏らした。――細かに震えているその身体で動く心臓の鼓動が、ディーノにも伝わってくる。
「……恭弥……」
名前を呼んで、ディーノは組み敷いた薄い背に、唇を寄せた。……こんなことをしても、手には入らない。奪うことも出来ない。――けれど、一番の近くで名前を呼び、触れることだけは出来る。
手には入らなくても、奪うことすら出来なくても。
今の、この瞬間だけは、それだけで十分だと思えた。
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