寄秋恋
−アキニヨルコイ−
written by Miyabi KAWAMURA
2008/0910
(2008/0913〜1119迄の拍手御礼文)
「……早く秋になればいいのにな」
ディーノがふと漏らした言葉は、雲雀の耳に届いたらしい。
身体を起こし、寝乱れてしまっていた浴衣の襟を正す指を止め、傍らに横たわったままのディーノを見下ろす黒い目。昨夜の名残で色付いたままの眦を細めて、何故、と問うてくる声は、語尾が掠れていた。
「見たいものがあるんだ」
鳶色の目に笑みを浮かべると、ディーノはひとことだけ、結論だけを口にした。それを受けてゆっくりと瞬きし、ふぅん、と呟いた雲雀には、自分から聞いてはみたものの、絶対に理由を知りたいという気持ちは無いらしかった。
起き上がったディーノが伸ばしてきた指に己のそれを絡めるようにして繋いだ手を引くと、寄せた唇で、指先を浅く咥える。かち、と、雲雀の歯列とディーノの爪とがぶつかって、あえかな感触が伝わった。――このまま雲雀の好きにさせてみようかどうしようか、決めかねたディーノが少し力を篭めると、中指の第一関節ほどまでが、雲雀の口腔に潜り込んだ。途端、濡れた舌の熱さに指を包まれる。
ちゅ、と微かな水音を立てて吸い、舐めて、そしてまた爪に歯列を当てる。――それは与えられた餌を従順に食むのに似た、雲雀がするには珍しい仕草だった。
ディーノを明らさまに誘うでもなく煽るでもない、けれどひたすらに惹き付ける、甘い仕草。
「恭弥」
出会ってから今まで、何度呼んだか解らない名前は、しかし口にする度に新しい愛おしさに変わる。成長しても尚細い肢体を抱き寄せ組み敷くと、身体に掛かるディーノの体重が心地良いのか、雲雀の唇から吐息が零れた。それを口移しに奪うように唇を重ねながら、今度はディーノの方から、雲雀の指を捕らえ、シーツに縫い止める。
風紀財団の地下施設に設けられた雲雀の私室に敷かれた寝具は、ベッドとは違う種類の柔らかさをもって、二人の体重を受け止めた。顔の角度を変え、雲雀の口腔のより深くを舌で愛撫していきながら、ディーノは今しがた整えられたばかりの雲雀の浴衣の襟元に手を掛けた。
黒い生地を左右に引くだけで露わになる、肌の白さ。
口付けを解き、鎖骨、胸元、脇腹と、昨夜残した痕を辿って掌を沿わせる。弱い場所を確かめるように探られ、雲雀が息を飲んで身体を強張らせた。それを宥めるように髪を撫ぜると、隠し切れない艶を浮かべた黒い目が、ディーノの鳶色のそれにひたりと重ねられた。
「――っ……、ぁ」
雲雀の腰に巻きつくだけになってしまっていた帯を引き、緩んだ中に指を進める。
下肢の中心にはわざと触れず、固く尖る腰骨を爪で掻いてやると、自然と立ってしまった膝の合間にディーノを迎え入れたまま、雲雀が身を捩った。互いの身体が擦れ、じわりとした熱が腰奥で揺らぐ。――ディーノ、と、続きを欲しがる声音で啼いた雲雀の唇に触れるだけの口付けを落とすと、間近に見詰め合ったままの距離で、ディーノが言った。
「……さっきの、取り消し、な」
――早く秋になればいいのに、とディーノが言ったのには、確かに理由があった。
雲雀の私室から臨む、地下とは思えない作りの庭園には、青い葉を茂らせた楓が植えられている。……紅葉した楓の赤と、雲雀の黒い髪と目、そして白い肌はきっと良く似合うだろうから、それを見てみたいと思ったのだ。けれど。
「何……、――ッ、ん」
訝しげに思った雲雀が問い返すより早く、大腿の付け根に這わされた跳ね馬の指が、そこに滲んだぬかるみに辿り着いた。
「……ッ、ぅあっ」
握り込まれ、ぞくりとした快感に仰のいた雲雀の肌が、ディーノの眼前で赤く色付いていく。ボンゴレ最強の守護者と畏れられる相手が、自分の前でだけ見せる姿に、ディーノの目が眇められた。
黒い髪、黒い目、乱れた黒い浴衣。その上で身じろぐ、薄らと汗ばみ赤く染まった、白い肢体。――もしこれの隣に、迎えた秋で赤く色を変えた葉を並べたとしても、間違いなく自分の目には、己の唇と指によって色付かせてやった相手の姿しか映らないだろうから、だから。
「……お前だけでいいんだ、オレには」
愉しげに続けると、ディーノは雲雀の首筋に唇を寄せて、新しい痕を刻み付けた。
<終>
沢山の拍手、ありがとうございました!
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