強制孵化
written by Miyabi KAWAMURA
2007/07/23
γ×雲雀布教ペーパー再録






 捕虜の移送先は、と問う部下に自分の私室へ運べと命じたのは、純粋な興味から、だった。


 ボンゴレ狩りを進める上で、最も優先すべき標的と指示された守護者達の中でも異色の存在とされる、雲の守護者。名前と、そして「最強」という称号だけが広まり知れ渡っている中で、直接に本人と相対したことのある人間は、皆無に近いのだという。事実、ミルフィオーレの諜報部も、雲の守護者の情報を得る為にかなりの犠牲を払わされた。が、今その彼が、己の手の中にいる。
「存外、面白い話が聞けるかもしれないだろう? 運べ」
……そう、何もかもの初めの、あのときは。
γの中にあったのは、「珍しい獲物」への興味だけだった筈、なのだ。




 「本当に、オレの部下にも見習わせたいものだな」

苦笑混じりの声でそう言うと、γは身を預けていた椅子から立ち上がった。部屋の中央に置いたベッドに近付き、見下ろす。……そこに有るのは、惨状とも呼べる光景だった。

 黒いスーツと白いシャツ、そしてネクタイ。うつ伏せに横たわる小柄な肢体を包む衣服の内、上半身はそう乱れてはいないものの、下衣は全て剥ぎ取られている。無理に組み伏せられたのか、大腿には爪と指の痕が残り、赤紫の鬱血が酷く目立った。そして最奥から溢れ、脚を伝いシーツに流れ落ちるままにされた、白濁し鈍く光る液体。中も傷付いているのか、赤い飛沫をも散った下肢を見れは、何が起こったのかは、明白だった。否、明白も何も、それをしたのは、γ自身だ。

 「身体を痛めたときには動かず、出来得る限り体力を温存し回復に努める。……戦闘員として、理想的な反応だ。非の打ち所が無い」

検分する様に言いながら、相手の腕を掴む。足枷から伸びる長めのワイヤーを無造作に手繰ると、後ろ手に手首を拘束し抵抗を封じてやった身体は、簡単に仰向けにすることが出来た。

「だんまりか? 気持ちも分るが、それじゃつまらないぜ?」

右手を伸ばすと、掌をひたりと相手の首に当てる。……指先に力を篭めて、ぐ、と押し潰すと、細い骨と薄く張った筋肉の中で、気道が歪むのがありありと感じられた。するとようやく、今まで閉じられていた相手の目が――ボンゴレの雲の守護者である雲雀恭弥の目が、開かれた。

冷たく冴えた、感情の読めない黒い目。

怯えどころか、苦しそうな素振りも見えないガラス玉の様なその揺らぎの無さは、いっそ感嘆に値するかもしれない。

 γは、雲雀を見据えたまま笑みを浮かべた。……僅か数時間前、自分を犯した男を目の前にして、動揺の欠片も無いというのだろうか? ……本当に?
試す気持ちと、そしてそれ以外の正体の知れない衝動が湧く。首に当てていた掌を引き、獲物の顔の横に手を突いて真上から覆い被さる。

 眦が鋭く切れ上がった双眸、それと同じ髪の色。二十代半ばとは聞いているが、肩幅や身体の造りはγより一回りどころか、遥かに細い。頬骨の描く線に続く、尖った顎。薄い唇。……そこは今まで、噛み千切られることを警戒して敢えて触れずにいた場所だったが、今度はわざと形を確かめる様に、嬲る仕方で指で触れ、こじ開けてやった。

「……っ…」

そのとき、確かに。
注視していなければ見過ごしてしまう程度の僅かさで、雲雀の目に嫌悪の色が滲んだ。

「ここを弄られるのは、嫌いか」

手足を拘束し、力ずくで身体を開かせたときですら、凍りついた無表情を保っていた相手が見せた、初めての表情。

それが想像以上に自分を愉しませてくれるものだと気付かされ、γは一瞬思案した後、ブラックスペルの象徴である黒いジャケットから、あるものを取り出した。
身体を起こすと、雲雀の首元に手を掛ける。既に緩んでいたネクタイを解き、シャツの襟を掴み左右に引いた。布が裂け、糸がぶつりと切れる。腕の拘束の為、スーツもシャツも完全に脱がせることは出来ないが、これで十分だった。

目を眇め、晒させた肌を見遣る。……淡い風合いの、東洋人の肌の色だ。

先刻の行為のときは触れたいとも思わなかったが、改めて見れば、その滑らかさは秀逸だった。手触りを確かめる為に、γはゆっくりと手を動かし始めた。


 骨の尖りが浮いた鎖骨から鳩尾を通り、肋骨、そして横腹。薄く汗ばんだ皮膚に篭る微熱は、雲雀を捕らえたそのときに投与した薬の所為だ。抵抗力を削ぐ程度の効果しか期待してはいなかったが、今から自分がしようとしていることを考えると、好都合だった。

「……うちの白い連中は、悪趣味でな」

左手で雲雀の顎を捕らえ視線を合わせ、固定する。

「実戦で使い道があるのかどうか分らない類のモノを一方的に寄越して来ては、臨床データを取りたがる。例えば、これだ」

無言のままの相手にゆるりと微笑うと、右手に持ったものを、雲雀の目の前に翳した。

大人の指程の太さの、銀色の注射筒。
冷たく光るそれを雲雀の首筋に添えると、撫でる様に動かす。

「おまえに最初に打った薬と似た様なもんだが、二種類を同時に使うと、反応して少し愉しい効果が増える。……解るか?」

殊更に低められた声でそう告げられ、雲雀の双眸に、嫌悪や怒りを越えた殺気が篭る。が、四肢を封じられた状態では、それも逆効果だった。雲雀の表情の変化を満足げに受け止めると、γは注射筒を持ち直した。獲物に対して垂直に押し付けると、空気が爆ぜる音と共に、薬剤が撃ち込まれる。

「…、っ……」

その瞬間、身体に走った鋭い痛みに雲雀が反射的に身じろいだ。

「悪いな。少し痛むだろう?」

声音に滲むのは、揶揄と愉悦だ。全く悪びれもせずそう言うと、γは空になったカートリッジを床に捨て、雲雀の下肢に指を這わせた。肌の上に残った残滓を掬い、一度くちゅりと指先で捏ねると、雲雀自身をぎちりと握り締めた。

「! ……んんっ!!」

不意の刺激に。雲雀の咽喉が引き攣った音を鳴らす。ぬめりを飲み込ませる様に先端の孔をこじ開け弄られ、ゆるゆると上下に扱く仕草を繰り返されて、雲雀は下肢を細かく震わせた。

「ん……ッ、ぁ、……ッ」

全てを拒む様にきつく目を閉じ、けれどそれでは自身を嬲る手からは逃れられない。

「気が強いのも、良し悪しだな」
「……ゃ、ぅッ」

声を殺し頑なに堪えていた耳元で囁かれ、雲雀の薄い胸が、喘いで上下した。口を突いて出た嬌声を更に引き出そうと、γの両手が雲雀の弱い場所に添えられる。
無骨で傲慢な指先が根本から先端までを幾度も行き来し、それにつれ、雲雀の身体の内側からどろりとした熱と重い快感が滲み出た。粘ついた水音の原因は、雲雀から零れる先走りだ。先刻、胎内を掻き乱され傷付いたままの身体は、相反する快楽を享受し確実に反応し始めている。


「ボンゴレの雲の守護者は、敵の手でも構わないのか?」
「……ッツ……」



気位の高い獲物の羞恥を煽る為、わざと解り易い言葉を並べて、聴覚からも犯す。



濡れた己の指を見遣ると、γは滴るものを舌で舐め取った。
飲み下し、咽喉を落ちていく苦味を味わうことに、抵抗は全く無かった。




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