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黒バス
紫赤
/緑赤
20120709

ifの世界で三角関係?なのだよ!』

>赤司様がバスケやってないよ?→
FBに載っていたキセキのif設定(赤司棋士、緑間医師)で書いてみました。
>むっくん出てこないんですけど?→彼氏の出番は後半になる予定です。でもいつそんな時間が出来るの…。
FBif設定をお借りしたのは赤司と緑間のみです。他のキセキの皆に関しては好き勝手設定してます。「……こんな妄想までして…ミヤビ、かわいそうな子!」位のお気持でお読み頂けましたら幸いでございます。



 細い頤を指で捕らえて、強いない程度に力を篭める。

 従順に仰のいた相手の、露わになった首筋。
 両掌で被い、耳朶の裏に触れた指先を筋にそってゆっくり沿わせていく。

 とく、とく、と、薄い皮膚越しに伝わる頚動脈の拍動。そこからもう一度、慎重に指を上に向かわせると、ふ、と息を吐いて、緑間は赤司の首筋から手を退いた。
「特に腫れてはいないようだな」
 言葉を受けて、閉じられていた目が開く。赤い右目と、透き通った黄色の左目。
「そうか」
「カルテも見たが、今すぐ容態が変化することはないだろうとオレも思う。……が、無理はするなよ」
 言いながら無意識の内に伸びた緑間の左手が、再び赤司の右の首筋に触れた。――赤司の主治医は、緑間が信頼している数少ない先輩医師のひとりだ。彼から見せてもらったカルテと、MRI検査の結果。触れている身体の内側で緩やかに、けれど確実に進行している「変化」を止める術はないのだと解ってはいても、しかしやはり、医学に携わる道を選んだ緑間だからこそ、溜飲し難い思いがあった。

「真太郎」

 涼しげな声に鼓膜を打たれ、緑間の思考が途切れた。
「何か、気になることでも?」
「……いや、」
 赤と黄色、異なる色味をした一対の目が、ゆっくりと瞬きをする様。それを間近で見詰めながら、緑間は赤司に触れていた左手を、白衣のポケットに突っ込んだ。――この感覚は、どう表現したらいいのだろうか。
 緑間が珍しく、本当に珍しく言葉を選びかねていることに気付いているのかいないのか、赤司の薄い唇から、笑みの滲んだ吐息が零れた。
「でもまさか、真太郎に僕の身体を診て貰うことになるなんてね」
「それは違うだろう」
 普段とは違う様子の旧友を揶揄するような、どこか愉しげな赤司の言葉に、緑間は口を開いた。
「オレは、お前の主治医ではないのだよ」
「解ってるさ」
「赤司」
 咎めるように相手の名を呼んで、緑間は眉を寄せた。――今目の前にいる相手ほど、赤司ほど明晰な人間を、緑間は知らない。帝光中学校で初めて彼に出会ってから既に十年以上が経つが、それでも赤司以上に秀でた人間に、緑間は出会ったことがない。――そんな男が、己の身体が抱えている「爆弾」について、理解出来ていない訳がないというのに。

 ざああああ、と風が吹いて、木々の葉が揺れ擦れる乾いた音が鳴った。

 赤司の白い肌の上で、木漏れ日の光が揺れる。
 薄いグレイのシャツの袖から覗く、細い手首。その先に在る、節張ってはいるけれど繊細な造りをした指は、かつて一縷の迷いもなく緑間に――否、「キセキの世代」と呼ばれ称された者たち皆に、勝利を指し示してみせた指だった。……けれど。

「真太郎」

 再び呼ばれ、緑間は、白衣の右ポケットに入れていた携帯――当然私物ではなく、研修医に配布されている院内専用の
PHSだ――が、振動音を立てていることに気付いた。
「もう戻った方がいいんじゃないか?」
「……そうだな」
 言いたいことは、いくらでもある。
 旧くからの友人としても。そして今の赤司の「状態」を知る医師としても、彼と話したいことはいくらでも緑間にはあるのだがしかし、その時間は、今は無いようだった。……もっとも時間があったところで、赤司の方にそれに時間を割く意思があるのかどうかは、疑問なのだが。
「とりあえず、定期健診には必ず来い」
「ああ」
 大学病院の中庭という、共に将来を嘱望されている若い外科医師と棋士とが久々の会話を交わすには少々物足りない場所に据えられたベンチから立ち上がると、緑間は赤司を見遣った。
「いくらお前でも、検査の後は疲れるだろう。帰りは電車ではなくタクシーを使え。それから、今日のように日差しの強い日中はサングラスは必ず掛けろと言った筈だが?」
「注文が多いな」


 緑間先生は、と。


 くすりと微笑って歩き出した赤司の背に向かい、ふざけている場合ではないだろう、返すと、緑間は一歩を踏み出した。





 
 籍を置いた高校こそ全員違っていたものの、バスケットボールプレイヤーという同じ道を進んでいた「キセキの世代」は、高校を卒業すると同時に、それぞれが違う道を選ぶことになった。

 青峰大輝と紫原敦の二人は渡米し、
NBAの上位チームに二人同時期に選手登録されるという快挙を成し遂げた。
 高校三年間で、左脚を文字通り「使い切った」黄瀬涼太は国内の大学に進学し、モデルとしての活動に専念する道を選んだ。
 緑間真太郎は最高学府の医学部に籍を置き、医師になるために学び始めた。


 ――そして彼らを率い、「キセキの世代」の呼び名に「常勝」の意味を繋ぎ留めた赤司征十郎は。


「……棋士?」
「ああ」

 京都の国立大学の法学部に進んだ赤司から、緑間がそのことを聞かされたのは、大学二年目の夏のことだった。
「お前は、司法の道を志すと思っていたのだが?」
「そうだね」
 ならば何故、とは、緑間は聞かなかった。理由には、心当たりがあったのだ。

 数ヶ月前、赤司は将棋の一局に於いて、勝利を収めていた。そしてその勝利が、今の赤司を取り巻いている状況の全ての原因になっていることは、誰の目にも明らかだった。――赤司が破った相手は、ただの相手ではなかったのだ。この数年間、プロ棋士との対局で不敗を誇り、「最強の人工知能」と呼ばれていたコンピュータ。棋界のみならず、様々な分野の専門家たちが注目する中、赤司はそのコンピュータに完勝してみせたのだから。

「あの一局は、確かに見事だったのだよ」

 だが、と続けかけて、緑間は言葉を止めた。
 赤司は、頭が良い。これは決して嫌味でもなんでもなく、本当に頭が良くてそして頭を使うこと自体が好きなのだから、棋士という選択肢は、「今の」彼が選び得る他の未来と比べてみても、確かに有りなのだろう。

「……いずれにしろ、」

 僅かな空白の後、緑間は赤司の目を見て、言った。

「お前が選ぶ道に間違いはないと、オレは思っている」

 澱みなく言い切って、けれど緑間は、自分の選んだ言葉が、選びたかった言葉が、本当は少しだけ違うものであったことに気付いていた。

(……思っている、か)

 本当は、そんな生温いものではない。――信じている。願っているのだ。


「ありがとう、真太郎」


 自分の言葉をどう受け取ったのか、赤司の表情からその胸の内を読むことは全く出来ない。

 礼を言われるようなことではない、とだけ返して、緑間は赤司の、赤と黄色の双眸を見遣った。――出会ったときには右目と同じ、赤い色をしていた赤司の左目。自分だけじゃない、「キセキの世代」全員が幾度となく視線を交わし、そして傾けた想いに違いはあるかもしれないが、全員が「特別」だと思っていた、輝石めいたその、左目が。




 赤司征十郎から、バスケットボールを奪ってしまったのだ。





 
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