LOVE RAIN.
written by Miyabi KAWAMURA
2010/0812
こちらは2010年夏コミ発行予定静雄×臨也本『LOVE
RAIN.』のお試し読みです。
本文の一部抜粋です。
web用に改行、空白など、書式の一部を変更しています。
シズちゃん。
他愛無い会話の中の、その部分だけ。
静雄のことを呼ぶその声音にだけ、意図的に潜められた毒。……訳なんざ知ったことか、と、静雄は口に出さず思った。
神、来(きた)る。仰々しい意味が篭められた名を持つこの高校に入学してから出会った目の前の相手、折原臨也という黒い髪と赤い目をした相手は、なにかにつけて静雄の神経を逆撫でるような真似ばかりする。神経だけならばまだしも、常人ならば怪我を負うだけでは済まないであろうレベルの罠まで仕掛けてくるのだから、性質(たち)が悪い。
「ねえ。俺の話、聞いてる?」
気づくと、いつのまに窓辺から離れたのか、臨也は静雄の目の前にいた。
黒い髪。赤い目。――血みたいに赤いそれを見下ろす角度が、いつもと違う。否、それだけじゃない。肩の位置も低いし、肩幅も狭い。
「シズちゃん」
繰り返すその声すらも、心なしかいつもとは違うような気がして、湧き上がる違和感に、静雄は表情を顰めた。
「雨、強くなってきたね」
静雄が応えようと応えまいと、臨也には関係ないのだろう。ざあああ、と、不意に大きく響き始めた雨の音に惹かれるように、再び窓を見遣った臨也の後姿を目にした刹那、静雄は、違和感の正体に気付いた。学ラン。黒い学ランを、目の前の臨也は身に付けていた。それは、卒業して久しい来神高校の制服だ。
当時は静雄も、同じそれを着ていた。けれど卒業して数年を経た今となっては袖を通す機会どころか、高校自体の名前が変わり、制服も変わってしまったせいで目にすることすらなくなってしまった制服を、臨也は――面差しに年齢的なものから来る幼さを(精神的なものから来る、ではないあたりが、折原臨也の折原臨也たる由縁だ)残した臨也は、身に付けている。
……これは、夢だ。
直感という程の鋭利さは無い、どこか緩い認識が、逆に静雄の意識を鮮明にさせた。
それに連れて、耳に届く雨音が遠ざかっていく。
「――、……」
短い前触れの後の覚醒。開いた目をもう一度閉じ、深く息を吐くと、静雄はベッドに寝転がったまま、視線を窓へと向けた。薄暗い空と、濡れたガラス。夢の中と同じく、コンクリートの壁とガラスとに隔てられた外の世界では、雨が降っていた。
お前の分、と放られた缶コーヒーを受け取ると、静雄は傍らに置かれていたベンチに座るのではなく、自分達の上に濃い緑の影を投げかけている木の幹に背を預けた。
「何度あんだ、こりゃ」
暑い、と言いながら左掌を団扇のように動かしているトムの右手では、煙草が紫煙をなびかせている。
「水分摂れよ水分。こう暑いと、いくらお前でもぶっ倒れるかもしれないからな」
なんやかんやで面倒見の良い上司に短く礼を言うと、静雄は缶コーヒーを開け、茶褐色の冷たい液体を仰いだ。咽喉を滑り落ちていくそれに、身体の内側から冷やされていく。コーヒー自体の味よりもその心地良さを味わっていた静雄に向けて、トムが口を開いた。
<中略>
濡れたシャツの裾を掴み、晒させた肌に唇を寄せる。
自ら望んでした「遊び」の所為とはいえ、大粒の雨に打たれた臨也の身体は、ひどく冷たかった。
臨也の身体は、華奢で薄い造りをしている。そこに浮いた肋骨の尖りを指でなぞり歯列を当てるたびに、静雄の、濡れて昏く色を変えている金色の髪に絡んだ臨也の指に、力が篭もった。
「――ッ、ん、ァ」
静雄は臨也の身体を冷たいと感じているが、同時に臨也もまた、静雄の唇と指とを、冷たいと感じているらしい。縋るとも詰るともつかない仕草で髪を引かれて、静雄は身体を起こすと、臨也の顔を真上から見下ろした。
「……何だ?」
「シズ、……っ」
つめたい、と、予想通りの言葉を紡ぎかけた唇を、再び塞いでやる。
「……ンッ」
口腔の深くに舌を突き入れ、上顎を舐めなぞる。身じろいだ臨也の両脚を間に入れた大腿で割ると、静雄はゆっくりと体重を乗せていった。
「ッ、ぅん……っ」
重なった下肢から、ぞわりとした感覚が湧き上がる。臨也の顎が震え、二人の歯列がぶつかって頭蓋骨を内側から揺らした。
「……臨也」
「ゃ、あ……、っ……」
小さな頭を両腕で抱え込み、間近に赤い目を見据える。そうしながら互いの中心をぶつけるようにしてやると、冷たさの勝っていた臨也の吐息に、融けるような熱と艶とが混じり始めた。
焦らされるのは堪らないのか、無意識にだろう、ねだるように腰をくゆらせた臨也の反応に、静雄の薄茶色の目が眇められる。唇が離れても尚追ってくる臨也の舌先を噛んで咎めると、静雄は臨也の下衣に手を伸ばした。
指で探り当てたベルトを外し、濡れて硬くなったデニムの前を殆ど力づくで寛げて、狭い中に掌を捻じ込んだ。
「ひ、ぁん……っ」
膨らみかけていた場所を押し潰すようにされて、臨也の咽喉から嬌声が零れた。
「……ッ、ぁ、んン!」
ソファの上では、感じたままに動くこともままならない。びくりと膝を跳ねさせた臨也の表情が歪んだ。衣服越しにではあったが、静雄の背にぎちりと爪を立て、このままじゃ嫌だと訴えてくる。――組み敷かれ、従順に愛撫を受け入れているように見えるのに、けれどやはりされるがままにはならないあたりが、如何にも臨也らしかった。
半ば放るようにして、静雄は臨也の身体をベッドへと横たえた。
軋む音ひとつ立てず二人分の体重を受け止めたベッドは十分に広いものであったが、よもや臨也も、最初から「こうなる」こと予想して、部屋を選んだ訳ではないだろう。……悪運が強いと誉められるべきは、自分と臨也、どちらの方だろうか。頭に浮かんだ疑問の答えを、しかし静雄は結局得ることが出来なかった。……焦れていたのは、臨也だけではない。もっと、と、無意識の意識の内で思っていたのは、静雄とて同じなのだ。
脚に絡む濡れた下衣を剥いでやった途端、膝を微かに震わせながら両脚を開いてみせた臨也の彼らしからぬ従順な仕草に、否応無く煽られた。
「――ッ……」
臨也が息を飲む気配がした。
左右の膝を掌で押し開かれるだけで、感じてしまったのだろう。二人が身体を重ねるのは、今日が初めてという訳ではない。臨也の身体は静雄の唇と指とを知っているし、静雄の身体は、臨也の肌の甘やかな柔らかさを知っている。
>>こんな感じで。
甘め切なめのえろです。
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