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華痕
written by Miyabi KAWAMURA
2006/0903(2007/0322)
(無料配布グリウル前提藍ウル本「華痕」再録)






 伸ばされた掌に、自分のそれを重ねる。


抱き寄せられ、組み敷かれるソファ。柔らかく沈む身体。
名を囁かれ、閉ざしていた襟元に主の手が掛かる。
ひとつだけ外される釦。
自分を見下ろす主の双眸に浮かぶ冷たい微笑。

藍染の手に押し留める様に触れると、ウルキオラは自らの指で、残りの釦を外していく。

その姿を、愉しげに見下ろす目。支配者の視線。

上衣の前を、完全に肌蹴てしまった破面に、寄せられる唇。

喉もとの、無防備に晒した虚ろの淵に口付けられて仰のいた時、ウルキオラの目にふと、ソファの横に据えられた、花器が映った。

一輪の枯れた花。

「……ん、……っぁ、」

青白い、必要以上の熱を持たない身体の上を滑る掌。
己が主は、声を殺すことを赦さないのだと理解している破面は、触れられるままに吐息を漏らす。……いつしか。

視界の端に捉えた花の事など、意識から消えてしまっていた。










 ウルキオラの身体の表面温度は、死神や人のそれと比べると、ひどく低い。
逆を返せば、それは彼にとって異種族の肉体が保つ熱は高く感じられる、という事になる。

「は……、ぁっつ、」

藍染の掌が、組み敷いた体の造りを確かめる様に動いた。
掌で触れたあと、指先で同じ場所をわざと辿る。……自分が触れ、弄った破面の身体が、それにも関らずほとんどその熱を変えてはいない、という現象を、まるで愉しんでいるかの様な動きだった。

十刃の中でも細身な、ウルキオラの肢体。

緩慢ながらも強制的に与えられる愛撫は、そこから、彼を印象付ける昏く研ぎ澄まされた霊圧と、冷たく整った無表情を剥ぎ取っていく。触れられる事によって生まれる性感は、確実にウルキオラの中に蓄えられていき、吐息を零す喉は、時折引き攣る様に震えていた。

「……まだ、冷たいか」
「……っ、ん、ぁ、!」

それまで、ウルキオラの喉もとの孔から腰骨までを行き来していた掌が、更にその先、大腿にまで延ばされた。……ウルキオラ、と、名を呼ばれ、主の望むところを知った身体が、ぞくり、と震える。
上半身に加えられた刺激だけで、下肢は既にその肌の湿度を変えていた。

「ァっ……、」

望まれるままに。
震える下肢に力を篭めると、ウルキオラは投げ出し、閉ざしていた膝を、僅かにではあるが、自ら割っていった。

「や、……っんぁ、」

ひやりとした空気が薄く張った皮膚に触れる。

藍染の自室として用意されたこの部屋は、破面に与えられたそれよりも更に広い。普段と比べ、明かりが落とされている今、薄らとした暗闇が空間に満ちてはいるがしかし、燭台から放たれた橙色の光りは、青白いウルキオラの肌色の上に陰影を付けて落ち、逆にその滑らかさを際立たせていた。

主の視線が、露わになった下肢と、僅かに充血し、震え始めた部分に注がれている。

「ん、っぅ……!」

羞恥とも快楽ともつかない感覚に、躊躇って閉じかけた膝を、ぐ、と掴まれた。……そしてそのまま、押し広げられる。

「駄目だよ、勝手に動いては」
「……っ、は、!」

藍染の指が、何の前触れも無く、ウルキオラ自身を捕らえた。

「! ……っっ!!」

不意を突かれ、上がりかけた嬌声が、強く握りこまれた痛みで固まる。しかし、熱を……本来なら、破面がその身の内に保つ事の無い熱を、過度に知覚させられている身体は、その刺激にすら反応して、ぬるつく先走りを吐き出した。
濡れた指で、扱かれる。

「……ィっ、あ、っ!」

ゆっくりと覆い被さる藍染の肩を掴むと、ウルキオラは快楽を追って跳ねる腰から這い上がる欲に煽られ、無意識に主の身体を引き寄せた。
……その様に。
ほんの刹那、藍染は指の動きを止めるが、ウルキオラは気付かない。

くちゅくちゅと、いつの間にか濡れた音は秘められた後孔に達していた。
前から溢れる粘液は主の指に余さず掬い取られ、秘所を潤す道具に変わる。

「ウルキオラ」
「っ、あ、ァっんんっ!!」

解されきった下肢が、受け入れる為に開かれた。そして。
ぎちり、と咥え込まされる、主の身体。

深く奥を突かれ、快楽が脳を灼いたその時に、ウルキオラの黒い両手の爪が、藍染の肩を破り、赤い傷を付けた。








 「ああ、枯れてしまったな……」

 情交の末、一瞬途切れていたウルキオラの意識は、主の声を耳にした事でゆっくりと覚醒していった。
いつの間にかうつ伏せになっていた自分の身体の隅々まで、反射的に神経を巡らせる。虚として、此処虚圏で永きを過ごしてきた獣としての条件反射。それは、藍染の下で十刃の地位を冠する今となっても変わらない。

四肢の欠落、神経系の損傷……共に皆無。
ただ、全ての感覚がひどく覚束ない。藍染に抱かれた後は常に。

「藍、染様」

 だからと言って、いつまでも主の前でこのままではいられはしない。ウルキオラは、腕を突いて身体を起こした。……途端、どろりと下肢を伝う感触に襲われるが、息を詰めて耐えた。
どうかしたのか、と。
ウルキオラの今の状態全てを知っている筈だろうに、そう尋ねる主に、いいえ、と答えを返す。幸いな事に、身体を起こした時に肩から滑り落ちた夜具は未だ下肢を覆っていた。これなら、主の目に、醜態が映る事は無いだろう。しかし。
「!……っ、」
ウルキオラが密かに安堵した刹那。
それまで着流した姿のまま枯れた花弁を弄っていた藍染が、突如ウルキオラの腕を掴むとその身体を己が下に組み伏せた。

「藍……っ、」
「静かに。ウルキオラ」

主の言葉ひとつで、全ての抗いは無効になる。
二人の間でわだかまる夜具は剥がれ、ソファの下にぱさりと落ちた。

 ウルキオラの碧眼が、藍染の目にひたと注がれる。
どの様な抱かれ方をした後でも、そして例えその後、更に身を差し出させる様な命を下されるとしても、この破面は主の意思に報いようとするだろう。

それは従順か。妄信か。
それとも、それ以外の選択肢を知らぬが故の行為なのか。
……最初から、自分に抗う事は赦さないと決めているにも関わらず、完璧なる予定調和の繰り返しに、藍染は心中で嘲笑う。

見下ろす破面が、自分の次の言葉……もしくは行動を待っているのを十分に理解しながらも、藍染は、口元を笑みに形作ると殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。

「いつも疑問に思っていたんだが」
「……?」
「きみたち破面の身体は斬魄刀すら及ばない鋼皮で覆われているというのに」

そう言いながら、藍染はウルキオラの胸の中央、心臓の真上に触れた。

「……何故、こんな痕が付くんだろうね?」

青白い皮膚に残る赤。

不思議で堪らない、と、可笑しそうにそう言って、藍染は其処に唇を寄せる。
それは、藍染自らがウルキオラの上に残した口付けの痕だった。

「理由を教えてくれるね、ウルキオラ?」

身体の下に組み敷いた破面の黒髪と頬を撫でる藍染の左手は、まるで幼い子供に何事かを言い含めるかの様に優しげであったがしかし、それに反して、残る右手は狡猾だった。

「……っア……ぁっ!」

ウルキオラの脚に手を掛けると、先刻までの行為の余韻で敏感になっていた部分に、無理矢理指を銜え込ませる。
中指と人差し指、長く節ばった二本のそれが、ウルキオラの体内を掻き混ぜる様に刺激した。

「はっ、ゃ……んんっ……!」

中に吐き出されたままの液体が鳴る。
ぐちゅ、と淫らな音を立てた粘液は、指の動きを助けるかの様に絡みつく。

「……さあ。ウルキオラ、答えを」
「っ……!、ぁ、イっ……、」

その仕打ちとは別に、声音だけは平静な主に答えようとウルキオラは口を開くが、瞬間、含まされた指がばらばらに動き、内側から蕾を押し広げられた。

とろとろと、白濁が流れ落ちる。
反射的に下肢に力が入るが、それに合わせるかの様に内壁に爪を立てられ、無理矢理与えられた快感に喉が震え、言葉は霧散する。

浅い息に、上下する薄い胸。

破面ならば……虚ならば、感情的には絶対に流すことの無い涙が、ウルキオラの双眸の表面に膜を作り、碧色を揺るがせる。如何に生理的な反応とはいえ、普段、青白く冷たい、滑らかな印象を保つ破面が己の眼下で見せる表情に、主たる男は薄く微笑った。

「答えるのは無理か。……こんな、では」

揶揄する言葉は残酷だった。

「……っ、藍っ、」
「私はきみより力がある。ならば、鋼皮に痕を残す事が出来ても当然だと解るんだが……、」

そう言って。
ウルキオラの髪を撫でていた手を頬に沿わすと、藍染は、唇が触れる間際の距離で囁いた。

「……例えば、『他』ならどうだろう?」
「……ほ、か……?」
「ああ。きみより格下の。そんな相手から与えられる傷なら、きみの上に残りはしないんじゃないかと私は考えているんだよ。そう、例えば……」

小さく笑って、一度切り。



「グリムジョー。彼ならば、どうだと思う?」



……続く言葉には、昏い愉悦の片鱗が潜む。
主がふいに囁いた名に反応して、ウルキオラの身体が一瞬震えた。
期待通りの破面の動きに、藍染はゆったりと微笑う。

「そう、グリムジョーだ。十刃セスタ。きみより格下の破面でも或いは……、」
「っんんっ!、・・っぁ、っ」

体内の指が、言葉の合間に再び蹂躙を開始する。

「や、ぁっ!!、……んんっ!」

限界まで深く飲み込ませた指で、ウルキオラの奥壁を押し上げる。そしてそうしながら、更に加えた薬指で内壁を掻き撫でた。
限界まで身体を開かれて弄られたウルキオラの下腹が小さく震え始めたのを感じると、藍染は、手酷い愛撫に翻弄されながらも絡みつく肉の抵抗を無視して、抉る様に三指を引き抜いた。

「……ッ……!!」

ウルキオラの、身体が跳ねた。
脳裏を灼く快感に、一度も触れられずにいた自身が弾け、薄い腹の上に白濁が撒き散らされる。

「……っは、ぁ……、」
「ああ……、酷く汚してしまったね」

ウルキオラが今吐き出した粘液と、藍染の指が体内から掻き出した情交の名残の液が混ざり合い、破面の下肢に纏わりついて鈍く光る。
指先にそれを絡ませたまま、藍染は破面を仰のかせると、喉元に唇を寄せた。

「……試してみるかい?」
「……っ、あ、」
「きみも知りたいだろう、ウルキオラ」


がりと歯を立て、付いた痕を見て微笑う。


「私以外の誰が与える傷ならば、きみの身体は受け入れるのか」


囁かれ、口腔に差し込まれた舌に、ウルキオラのそれが無意識の内に絡んだ。
快楽の酩酊にあっても、破面は主の行為を受け入れる。……それはまるで、刷込みに似ている。

「藍染……様……」

口付けが解けるや否や、破面が零した自分の名に、藍染は愉しげに笑う。

「行って試して来るといい。この後、すぐに」
「……っ、ぁ」
「……否、このままでは歩けもしないか」
「んんっ……!!」

 言葉と共に、未だ開放の余韻に震える自身を弄られて、ウルキオラの身体が反射的に逃げを打つ。その様子を目に収めると、藍染はゆっくりとウルキオラの黒髪に手を伸ばし、先刻、花弁をそうしていた様に、柔らかく弄ると微笑した。

「嘘、だよ」
「……、」
「きみには任せたい任務が山積みだ。余計な事で、消耗させるつもりはない」


 もう少し、此処にいるといい。


……主の言葉に対して、溜飲しきれない何かを感じ取ったらしい破面の碧眼を、殊更な笑みと言葉で命じて閉ざせると、藍染は検分の眼差しで傍らの破面を見遣った。






……自分で気付いているのだろうか、この破面は。



抱けば敏感に応える身体も吐息も何もかも、創り出されたとき以来変わっていないというのに、只ひとつだけ……。

抱かれている最中もその後も、決してその両腕を、主の背には回さなくなった、その自分の変化に。

藍染は、ひっそりと笑った。
理由は解る。……解るが、その『意義』は理解の範疇を越えている。

ふと目に付いた枯れた花を、藍染は手に取った。
握りつぶす。
かさついた感触に、掌に残っていた白濁の名残が絡みついた。



水と生命を喪い、枯れた花。
命を生み出す術を持たない白濁。
そして、心を失くした獣同士が、互いに抱いているらしい、執着。



「滑稽、なものだ」




獣の主の呟きは、聞く者も無く、闇に消えた。








>>fin.


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