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片恋のカナリア
written by Miyabi KAWAMURA
2006/0923




 黒光りする机の上に置かれた紙をゆっくりと捲る指が、何かに気付いたのか、止まる。

 無表情のまま字列を追う視線。
何を考えているのか、僅かに・・・注視していなければ気付けないだろう程に僅かに寄せられた眉。

見るからに白い肌、人形の様に整った容貌、細い顎。

不意に視線が上がり、奴の碧の目が俺の目と合うが、それは別に俺を見た訳ではない。
席に付く十刃と、そして主の全員を見遣り、発言をする了解を得たのか、小さく頷いて、奴は口を開いた。

唇が、言葉を音として発する為に動く、その無音の一瞬。

ウルキオラのその一瞬の口元の動きを観察している内に、俺は大抵、奴の発言の大部分を聞き逃している。・・・元々、十刃だけを集めて行われるこの会合は、面倒な事この上無い。大広間で破面全員が揃う時の方が、気が紛れる分だけまだマシだ。

・・・ただ。

この場所では、俺とウルキオラは向かいの席を与えられていた。

どうせなら。
どうせやる事も無く、かといって居眠りして時間を潰す事も許されない席ならば、飽きるまで正面に座っている相手を鑑賞してやろうじゃねぇか。


そう開き直る様になってから、この時間は、俺にとってそれなりに意味を持つものに変わった。


・・・そうこうしている間にも、ウルキオラの言葉は続いている。

ウルキオラの声は、低過ぎもせず、高過ぎもしない。
変な癖や妙な抑揚も無い。いわゆる耳障りの良い声、とでも言うのだろうか。俺がこいつを誉めてやる義理は無いが、そうとしか表現出来ないので仕方無い。

ウルキオラの外見から受ける印象そのままに、冷たい声。

もし声に温度というものがあるならば、こいつの声は低温の部類に入るのだろう。

ただその冷たさは、俺の耳に妙に馴染む。

その性質の違いからか、ウルキオラと俺は普段から色々な面で「相反する」と評価される事が多い。しかし、何故か最初から、俺自身は、奴の声だけは嫌いじゃなかった。


「・・・以上です。」


発言を終えたウルキオラが、主に向かって目礼した。
一瞬、俺の顔の上を奴の視線が横切るが、それはすいっと通り過ぎた。
・・・間違い無くこいつは、俺がテメエの話なんざ聞いてる訳が無い、と思ってやがるんだろう。確かにそれは本当の事で、反論するつもりも無いが、・・・もし、俺が。

「お前の声だけは聞いてた。」

・・・と、言ってやったら。
この真正面に座る冷たい無表情は、どう反応するんだろうか。ふと、そんな下らない事を考えるが、あまりの意味の無さに止める。

誰かから質問でも受けたのか、ウルキオラがまた、口を開いた。

俺は、どかりと背もたれに背を預け、脚を組替える。・・・そんな俺の態度を、不遜だと睨む輩もいるが、そいつらもまさか、俺がウルキオラの事を観察する為だけに、この席に大人しく座ってやってる事には気付いてないだろう。それどころか、ウルキオラ本人だって気付いてないに違いない。


「グリムジョー。聞いているのか?」


・・・どうだ。俺の思った通り、だ。

不意打ちで、掛けられた声。冷たい滑らかな。


「うるせぇ。」


聞いてんだよ。


俺自身、訳解んねえ位に聞いてんだよ、テメエの声を。


・・・ウルキオラが、小さな吐息をひとつ零した。
相手にならないと判断したのか、ふい、と俺から視線が外れ、その唇が動く。


それでいい。


鳴け。


見るからに白い肌、人形の様に整った容貌、細い顎、碧の目と、黒い髪。
そして声。冷たく滑らかな。


紡ぐ言葉の意味なんてどうでもいい。


・・・聞きてぇんだよ、俺は、お前の声を。


だから鳴いてろ。


このまま、俺の目の前で。

>>fin.


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