始。‐前編‐
written by Miyabi KAWAMURA
2006/1108
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きしり、と、寝返りに合わせてスプリングが鳴いた。
「・・・悪ィ、起こしたか?」
「・・・ん、」
閉じられていたウルキオラの目蓋が、小さく震えた。
幾度か瞬いて、ゆっくりと目が開く。
「グリムジョーこそ、・・・まだ、起きてたのか、」
未だ眠りの余韻を引き摺っているのか、どこか覚束ない声。
このまま返事をしなければ、ウルキオラはまたすぐに眠りに戻れるかもしれない、と判断したグリムジョーは、敢えて言葉を返さなかった。が、しかし。
ウルキオラの両目は閉じられる事は無く、逆に目の前にある水浅葱色のそれを、じっと見詰めてきた。
向けられた碧色の目は、暗がりの所為か、昼日中とは雰囲気が違う。・・・その僅かな差異は確かに綺麗だ。綺麗なのだが、まじまじと見詰められると、どこか落ち着かない様な気分になるのが不思議だった。
「・・・何だ?」
「別に。・・・でも、」
小さく微笑ったウルキオラの顔に、カーテンを引かずにいた窓から差し込んだ夜の明かりが映える。
「・・・なんだか、子供の頃みたいだ。」
少し楽しい、と。
そう告げられて、グリムジョーもああ、と納得した。
「確かにな。」
もう10年以上前の事かもしれないが、確かに以前、子供の頃に。
同じベッドで、同じ毛布にくるまって、二人で一緒に眠った事があった。
ウルキオラは今夜、グリムジョーの家に泊まっている。
それは何も、以前からの約束だとか、そういう事ではない。
偶然である。というか、グリムジョーの失態が原因である。
高校生活が始まって一ヶ月が過ぎ、今月・・・5月になって早くも二ヶ月目を迎えた訳だが、それはつまり、グリムジョーとウルキオラが再会してからほぼ二ヶ月が過ぎた、という事を表していた。
二人は、周囲からは「幼馴染み」という間柄として、認知されている。
中高一貫教育校に、途中の高等部から編入してきたウルキオラが不自由しない様、グリムジョーはクラスは違えど、4月以降、常になんとなく気を配ってきた。・・・とは言っても、編入当初からその容姿が際立って皆の目を引いていたウルキオラである。級友達が彼を放っておく訳もなく、色々と話し、話しかけられしている内に、ウルキオラは無事、校内の雰囲気に馴染んだ様だった。
・・・ちなみに、1年A組所属のウルキオラの、クラス内で一番仲の良い人物は、グリムジョーの友人でもあるイールフォルトという名の金髪美形だ。こればかりは本当の本当に偶然の出来事で、最初いきなりウルキオラの口からイールフォルトの名前が出た時にはグリムジョーも驚いたものである。
しかし、当のイールフォルトといえば、改めて3人で(正しくは、グリムジョーと同級のロイも含めて4人で)顔を合わせた時に、
「・・・成る程、な。」
と、愉しそうに微笑っただけで、驚いた素振りなぞ微塵も見せなかった。
ついでに言うと、何が「成る程」なのかについても、その後一切の説明は無い。・・・意味深な微笑と、そして言葉の意味は気になったものの、しつこく追求する理由も思い当たらず、グリムジョー、ウルキオラ、イールフォルト、そしてロイの4人は、友人となって、今に到っている。
そして、今日。
大型連休は終わったものの、校内のみならず、町中が未だどこか休日の雰囲気を残していた放課後、グリムジョーの家を、ウルキオラが訪れたのだった。
ウルキオラが小学2年の夏に引越しをするまで、二人の家は一軒家の隣同士であった。しかし、今はお互い、近所ではあるが違うマンションに住んでいる。故に、グリムジョーもウルキオラも、
「自分の家にウルキオラが来るのは久しぶりだ」
「グリムジョーの家に自分が行くのは久しぶりだ」
と思っていたのだが、厳密に言うと「久しぶり」なのではない。
住む家自体が変わっているのだから、「完全に初めて」という事になる。・・・そんな些細な事、と言ってしまえばその通りではあるのだが、いざグリムジョーのマンションの前に立ち、二人並んでエントランスをくぐった時、実はお互い、微妙に緊張してしまっていた事は密かな秘密だ。
幼馴染み、とはいえ。
小学2年から高校入学までの約7年間、二人は顔を合わせていなかったのである。
高校の入学式直前になって再会し、お互い初めの内は、自分の記憶にある「昔のままの」相手をイメージして接していたが、やはり、7年の月日は大きかった。
お互い、別れた時の・・・幼かった頃そのままに変わらず残っている面影もあれば、新たに気付かされる一面も、当然ある訳で。
誰よりも良く知っていた筈の相手がふとした時に見せる、意外な仕草。
そして、初めて気付かされる、言葉や表情。
・・・グリムジョーとウルキオラはこの2ヶ月、相手の事を理解出来ている様で、出来ていない様な、幼馴染みだと言いながらも、それとは僅かに違う様な、なんとも表現し難い、壊れ物を扱うような付き合いを、実は続けていたのであった。
そして、そんな中での「初めての自宅訪問」である。
あー、何緊張してんだ俺、と、自分に付いて来るウルキオラの足音を後ろに聞きながら、グリムジョーは内心呟いていたのだが、自宅の扉を開けて、いざウルキオラを招き入れると、その緊張は意外とすんなり解消した。
なんといっても自宅、自分のテリトリーだ。帰ってきてしまえば、気も楽になって当然といえば当然だ。
「すぐ終わるから。そこで待ってろ。」
「ああ。」
今日のところの目的、グリムジョー所有のDVDを、ウルキオラに焼いて渡すという、公には余り褒められた事でない作業をする為に、グリムジョーはウルキオラを居間で待たせて、自室へと戻った。
自室へ戻り、鞄を床に置き、件のDVDを手に取り、PCを立ち上げた。そこまでは良かった。
・・・PCが起動するのを待つ、ほんの僅かな時間。
グリムジョーは、ベッドに座ると、伸びをして、ごろりと転がった。
・・・それが、悪かった。
目を覚ました時。
グリムジョーの枕元に放り出された携帯電話の時計は、21時半を指していた。
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風情様、リク有難うございましたvv+大変お待たせ致しました(泣)!!□Next□
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