せめて、散る花のように。
written by Miyabi KAWAMURA
2006/1212
心をなくした筈の自分達でも、触れ合う事は出来た。
交わす言葉、
(それが、さして意味も無いひとことだとしても)
ぶつかる指先、
(それが、いのちを奪ったばかりの敵の血でまみれていたとしても)
間近に感じた吐息、
(それが、碌に熱も持たない冷たいものだったとしても)
そして、頬を掠めた唇。
(くまなく鋼皮に覆われた身の中、そこだけはまるで、いきもののように弱かった)
ほろほろ、と。
俺を形作っていたものが、欠片になって崩れていく。
『斬魄刀で斬られた虚は、皆、浄化されて次の生へと向かう』
そんな事は、当り前の如くに知っていた。けれど、本当の意味は知らなかった。
当然だ。
・・・俺は、今迄一度も、死神共の手に掛かって、浄化されたことなど無かったから。
破面十刃となった俺の前で、幾体もの虚が消えていった。お前のように。
死神に斬られたもの、より力ある同胞によって、粛清されたもの。
・・・否、俺が自らの手に掛けて消した数の方が、それよりも多いのかもしれない。
大虚は、幾百、幾千もの虚がひとつに縒り合った末の巨大なる虚ろだ。
『ウルキオラ』と呼ばれる『俺』が、いつ生まれたのか、本当は自分でも解らない。
・・・『自分』でも?
そう、その『自分』が何なのかさえ、良く解らないまま。
解らないまま、俺は・・・、
お前に触れることを覚え、触れられる事を、覚えた。
はらはら、と。
俺を形作っていたものが、欠片になって崩れていく。
『ウルキオラ』として縒り合わされていた欠片が、ひとつ、ひとつ。
繋ぐ鎖から放たれて、終わりを迎えた魂が、進むべきだった処へ、還っていく。
・・・このまま、『俺』が、ばらばらに崩れて消えてしまったら。
解放されたひとつひとつの魂の欠片の中には、きっと、水浅葱の記憶は残らない。
幾百、幾千ものいのちが、新たな生を、迎えたとしても。
おそらくそこには、『俺』が抱え持っていた、『お前』の記憶は、残らないだろう。
「・・・っ、」
刃を受けたときには全く感じなかったのに、何故か。
ふとそう思った瞬間に、ずきり、と、袈裟懸けに斬られた傷が痛み始めた。
「 」
ひくりとも動かない咽喉で、けれど俺は、お前の名前を呼んだ。
お前の名前なんて、きっともう、誰も呼ばないだろう? 今消えていく、俺以外は。
・・・だから。
何度でも、呼びたいと思った。お前の名前を。
握り締めた指の先から、はらはらと、『俺』が崩れていく。
けれど。
水浅葱の記憶が、せめて残ればいい、と思った。
『俺』が崩れて消える、そのときまで。
散る、花が。
形を喪いながらそれでも最期まで、花で、あるように。
>>fin.
今まで、お疲れ様でした。□Back□
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