Mirror/Mirror

written by Miyabi KAWAMURA
2007/1023
(2007/06無料配布本再録)







 自らの内側、奥深い部分に注がれた熱は、只でさえ体温の低いウルキオラの中で、ひどく異質なものとして感じられた。




 散々に貪られた下肢も、そして上半身も、真白い衣服は全て剥ぎ取られてベッドの下に放り出されている。それに比べてウルキオラの両脚を開かせた相手は、着崩した程度にしか衣服を乱していない。……とはいっても、元々丈の短い上着の前を留めずにいる相手だ、着崩すも何もあったものではないと、言ってしまえばそうなのだが。

 欲を吐き出した後、ウルキオラの腰を一際強く掴んでいた手から、ふと力が抜ける。
……と、そう思った刹那、再び手に篭められた力に意識を向ける間もなく、胎内深くに咥え込まされていた肉塊をずるりと引き抜かれた。

その感触に、思わずウルキオラの咽喉が震える。

「……ッ、ぁ」
「噛み付くなよ」
「……っ」

揶揄するように言われて、組み敷かれたまま水浅葱色の目を睨む。しかしウルキオラの一瞥を受け止めた相手は、怯む色の欠片も見せなかった。

「まだ足りねぇなら、そう言ってみろ」
「何、……んっ!」

ウルキオラの中から退きかけていたグリムジョーが、再び緩く腰を揺すり上げる。
途端ぎちりとそれに絡みついた自分の内側に気付いて、ウルキオラは表情を顰めた。

「ふざけ……、るな……ッ」
「そりゃ、お前の方だろうが」

グリムジョーは普段から冷静な性質(たち)ではないが、こうして肌を合わせているときは尚更だ。ぐず、ぐず、と柔らかな襞を擦るように最奥を突かれ、ウルキオラの中でわだかまっていた熱が――たった今、注がれたばかりの白濁の余熱が、かき消されていく。


微温い水音と、咽喉から洩れる吐息。


内側から喰い荒らされるような感覚にウルキオラが身体を捩ると、舌打ちと共に自身を強く握り込まれた。

「!! ん……ッ」
「逃げんな」

敏感な箇所に爪を立てられ、見開いた碧目が隠しきれない快楽に揺らぐ。

「ぅあ……ッ、んんッ」

ウルキオラの内側は、本人の意思とは関係なく蠢いて自分を犯す肉塊を煽る。


頑なに押し殺した声と、いくら抱いても冷たさの残る肌。


相反するその矛盾が余計に相手を駆り立てるのだということを、ウルキオラ自身は気付いているのだろうか。

ふと浮かんだ考えを、グリムジョーは密かな苦笑と共に一蹴した。……気付いていようといまいと、そんなことに意味は無い。
どれだけ冷静に取り澄ましてみせたところで、破面である自分達は、他の何よりも血欲に餓えている。十刃だろうがなんだろうが、否、十刃だからこそ、与えられるもの、そして奪いたいものに対して貪欲なのだ。


その性質も、戦い方も。
何もかもが正反対に見られることの多いグリムジョーとウルキオラだが、虚としてのその本性だけは、寸分違わず一致している。


獲物に対する執着と、独占欲。


身体を繋げているときにだけ、まるで鏡に映し取ったかの様にぴたりと重なる、二人のそれ。




「ウルキオラ……ッ」
「ん、ぅあ……っ……」

 掌の中のウルキオラを弄りながら、グリムジョーは自身を包みこむ柔襞の一点を突いた。
ウルキオラが啼かずにいられない所だけを、わざと幾度も刺激する。自分の腰の奥に溜まる快楽をやり過ごし、固さを増していく肉塊を扱いてやれば、溢れ出した粘液がグリムジョーの手と、そしてそれを引き剥がす為に動いたウルキオラの指までも濡らした。

「や、……ッ、ぅあ……ッ」

ウルキオラの黒く長い爪が、グリムジョーの手の甲に傷を付ける。

「……っ、上等じゃねーか」
「……ッ……」

切り傷と、そこに滲む薄い赤色。

同じものを相手にも刻んでやる為、グリムジョーはウルキオラ自身を嬲っていた手で細い顎を掴んだ。 
 
 抗う身体に体重を掛け、噛み付く様に口付ける。舌で強引に歯列を割り、口腔を掻き混ぜ犯すと、薄い身体は耐え切れず撓った。

白く、そして細い咽喉の奥まで伸ばした舌を抜き差しし、噛み付いたときに切れた唇に浮いた血を舐めとる。その度にびくりと震え反応するウルキオラの奥が、グリムジョー自身をきつく締め付けた。ウルキオラが零す先走りと、そして後孔から溢れる残滓が混ざり、ぬるつく皮膚が擦れて鳴る。

唇が離れる僅かな隙に洩れる、吐息と声。

グリムジョーはウルキオラのそれを余さず飲み込み、そして相手にも同じ様に全て飲み込ませた。



 呼吸すら奪われたウルキオラが息苦しさに身じろいだのに合わせて、グリムジョーが唇を離し身体を起こす。組み敷いた身体の最奥を喰らってやろうと、無防備に開かれた脚の膝裏を掴み押し開いたそのとき、不意に伸ばされたウルキオラの左手が、グリムジョーに触れた。

「……ウルキオラ?」

問い掛けに、答えは無い。
グリムジョーが見遣る先で、震える指が肌を這い、辿り着いた場所を撫でる様に動いた。


グリムジョー、と。
声無く呟いた薄い唇を、ちろりと舐める舌の赤。
そして、自分を犯す相手を見上げる目の、碧。


……その両方共が、どちらもひどく餓えた色をしていることに気付いて、グリムジョーは目を眇めた。


 浅い吐息を零しながら、ウルキオラは伸ばした指でグリムジョーの肌を撫ぜる行為を、幾度も幾度も繰り返す。時折深く食い込んだ爪が赤い痕を刻み付けるが、グリムジョーは黙ってそれを見下ろした。

「ウルキオラ……」
「……! ん、んん……ッ」

内側と自身を弄られ続け、熱に蕩けた碧目を見ながら身体を揺らすと、僅かな刺激でも耐え切れないのか、ウルキオラは身体を跳ねさせた。
そのほんの一瞬、指先がグリムジョーから離れるが、しかしすぐに吸い付く様に元に戻る。


その、場所は。
ウルキオラが指先でなぞる場所は、グリムジョーの首元だ。


「グ、リ、ムジョー……」


喘ぐ様に啼きながら、ウルキオラはグリムジョーの肌の上に……自分の身体に穿たれた虚ろな孔と同じ場所に、爪を立てる。

常ならば自身の胸の内を決して他者に見せようとはしないウルキオラの双眸が、紛れも無い欲の彩を浮かべて、ゆらゆらと揺れている。
その様はひどく淫らで、しかしどこか虚ろだ。


「……冗談じゃねぇ」


しばらくウルキオラの好きにさせていたグリムジョーが、低い声で呟いた。
ウルキオラの手首を右手で掴み、骨が軋む程の強さを篭めると、自分から引き剥がす。

「! ……ッ、離……っ」
「黙れ」

抗う手首を力ずくで押さえ付け、空いた左手でウルキオラ自身を捕らえた。

「や……ッ、ぁ!」

突然の刺激にびくびくと震えた肉塊の先端に爪を立て、ぐちゅりと音が立つ程に扱く。ウルキオラが息を詰め仰のいた瞬間、胎内深くに穿った自身で最奥を押し開いてやると、グリムジョーの掌の中で、ウルキオラは耐え切れず白濁を吐き出した。

「……ぁ、んぁ……っ」

生温い液が溢れてぼたぼたと零れ落ち、グリムジョーを銜え込んだウルキオラの後孔まで滴り濡らす。
達した余韻できつく収縮した襞がグリムジョーに絡み付き、もっと、と強請る様に蠢いた。



「……俺が、テメェの獲物かよ?」



犯している自分が逆に、犯されているような。
錯覚にも似た疑念を振り払うように、グリムジョーは、ゆっくりと口を開いた。


「忘れるな、ウルキオラ」


言葉を紡ぎながら、濡れた両手でウルキオラの腰を掴み、再び律動を始める。
すがる様に絡みつく胎内を擦り弄りながら身体を退き、最奥を拓かせる行為を繰り返した。


欲望も執着も、そんなものが浮かぶ隙すら無いほどに身体も思考も全て喰い荒らしてやりたいと、ただ、それだけになっていく。



ウルキオラの中に欲望を吐き出しながら、グリムジョーは掠れた声で、告げた。





「……テメェの方が、俺の、獲物だ」








 

>>fin.


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