■百禍、繚乱■

2007/05/24
白蘭の一人称、ミルフィオーレ側の詳細設定が明らかになる前に書いたSSです。不自然な点については御容赦下さい。


「白百合、椿、桜、桔梗、薔薇。あと二つ、何でもいいから正チャンの好きな花、教えて」
「特にありません」


ノートパソコンのモニターから目も離さずそう答えると、正一はエンターキーを軽く叩いた。

「終わりました。実戦対応もしてるから、すぐ使えます」
「お疲れサマ」

膝の上で開いていた、えらく古めかしい植物図鑑をぱたりと閉じると、白蘭はソファから立ち上がった。ジャケットを着込んでいる正一を見遣って、声を掛ける。

「時間もちょうど、だ。もう出れる?」
「はい。……それ、ここに置いてくんですか」
「ダメ?」
「駄目っていうか、邪魔です」

正一の目線の先には、ソファの上に置かれた図鑑があった。
一見するとアルバムのようにも見えるそれは、白蘭が持ってきたものだ。元々きちんと整理整頓されているとは言い難い部屋だが、普段、仮眠ベッドとしての用途を果たすことの多いソファの上に、無駄にかさばるものを放置されるのは決して有難いことではない。

「でも、あんなの持って幹部会に出れないでしょ」
「……それは」
「納得したなら行くよ?」

ボスである白蘭に促がされてしまっては、もうどうしようもない。
諦念の混ざった吐息をつくと、正一は白蘭の後について歩き出した。





「さっきの、花の話ですけど」
「んー?」

歩きながら、正一が切り出した。

「百合とか桜とか、結局何だったんですか」
「ああ、アレ」

正チャンがひとの話気にするなんて珍しい、と揶揄することを忘れずに、しかし白蘭はあっさりと答えを晒した。


「花をね、贈ろうと思ったんだよ」
「……花?」


意外といえば意外なその答えを正一が鸚鵡返しにすると、白蘭は頷いた。

「そ。ボンゴレの大空と、彼の六人の守護者サン達に、ね」

眦の切れ上がった目を楽しそうに笑みの形に変え、言葉を続ける。


「ただ順番に片付けてくのも良いけどね。それじゃこっちも飽きるし、向こうだってつまらないでしょ。……だったら、守護者サン達一人ずつに、死体が埋まるくらいの手向けの花、っていうのも、面白いと思ってね」


だから、選んでたんだよ。


名案じゃない? と同意を求められ、ほんの少し黙った正一は、ゆっくりと口を開いた。


「……っていうか、無駄だし有難迷惑だと思います」
「やっぱ、無駄かな?」
「どう考えても」


頷いて、隣を歩く白蘭を見上げる。……突拍子も無いことをしばしば思いつくミルフィオーレのボスの言動には、とっくに慣れた、否、慣れさせられた自分だ。
今回のこれも、どうせいつもの悪ふざけみたいなものだろうと思って、けれどふと頭を過ぎった考えが、正一の足を止める。


「? どーしたの、正チャン」


訝しんだ白蘭も、数歩先で立ち止まった。
振り返った目と、そして振り返られた目が合った、瞬間。

「……もしかして」

正一の口は、勝手に動いていた。


「白蘭サンは、そういう風に死にたいんですか?」


ぐちゃぐちゃにされた死体が、埋まり。
全部隠れてしまうくらいの、手向けの花の中で?



……実際にはほんの一瞬、けれど永遠みたいに思える無言の時間が流れたあと。


「まさか」


そう言い捨てた白蘭は、それはとても愉しそうに笑って、正一を見た。





 結局、予定より二分遅れで、二人は目的地に着いた。


「正チャン、ホント面白いね」


会議室まで数メートルを残したところで、白蘭は咽喉の奥で笑ってそう零した。

「駄目とか邪魔とか無駄とか。その上、死にたいのかとか。……そんなこと正面きってボスに聞くヤツ、ウチの中じゃ、絶対に正チャンしかいないよ?」


ホント、面白いね。


最後に確かめるように白蘭が繰り返したちょうどその時、二人は扉の前に立った。



静かに開かれた扉の中には、ホワイトスペル、ブラックスペルの全幹部が集まっている。
全員の視線が注がれる中、座って、と促がされて正一も自らの席に、白蘭の隣の席に着いた。

モニターに映し出されたのは、つい先刻自分が仕上げたばかりの戦闘プログラムだ。
それを愉しそうに見遣って、白蘭が言った。


「じゃ、始めようか」


あまりにも。
あまりにもさらりと告げられたひとことが、紛れも無い「狩り」の合図であると悟って、正一は隣に座る白蘭を見た。


白い横顔。波風ひとつ立たない笑み。……なのに、なぜかその横顔は。

流した血に赤く染まる、手向けの白い花を、思わせた。

>>fin.


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