■眠る鳥を、籠に■

2008/6/28
十年後雲雀二人で跳ね馬サンド。の三作目。
今回は“キョウヤ”のお話。


 薄暗がりの中で触れる肌の滑らかさや、掴んだ腕の細さ。
そして押し開き指を向かわせた先、汗が浮かび柔らかに張った大腿の狭間に息づく小さな口が見せる、甘噛みのような仕草。

「――ッ……、ぁ」

掠れた声を立てた雲雀の身体が、震えた。
その震えは、ディーノが掴んでいる膝裏にも伝わった。浅い息を繰り返す細い咽喉が空気を肺に送り込む度、ディーノを咥え込んだままの薄い下腹は、びくびくと痙攣する。

もう限界が近いのだろう。潤みきった黒い目を覆い隠すように腕を持ち上げ、腰を捩じらせている雲雀の中は、ディーノに絡みつき、きつく噛んではざわめくことを繰り返していた。

「……恭弥」
「っ……、ん……ッ」

名を呼び左右の腰骨を掴むように手を掛けると、それにすら反応して内襞が収縮する。
縋りついてくるそこを引き摺るようにして腰を退き、今まで以上の奥を犯す強さで穿ち揺すり上げると、雲雀の奥尽きとディーノの切っ先とが擦れ合い、ぬかるんだ感触が淫らな器官を通して伝わってきた。

「ゃ……ッ、ん、んんッ!」

逃げを打った雲雀の身体を引き寄せ穿った瞬間、細身の肢体の中で唯一膨れ上がり熟れきっていた場所が、白いものを吐き出した。きつくうねる襞から生まれる快楽に、鳶色の目が眇められる。ゆらりと伸ばされた腕、細い指先。誘われるように身体を倒した刹那、首に絡んだ雲雀の両腕と、耳を掠める吐息。――自身を押し包む熱い粘膜の最奥に、ディーノは欲望を放った。





 意識を手放してしまった雲雀の髪を、ディーノはゆっくりと撫ぜていた。


 “キョウヤ”と呼ばれる雲雀の片割れは、行為が終わると、ディーノに抱かれたまま眠ってしまう。普段は好き勝手に外の世界を飛び回り、キャバッローネ邸に戻ることも稀だというのに、戻ってきたときには、ディーノの傍から離れようとしないのだ。――彼が再び屋敷を発つまでのほんの数日間のこととはいえ、“キョウヤ”が見せるこの甘えにも似た行動は、ディーノからすると、嬉しくもありそして意外なことでもある。元が同じ一人の人間であるのに、屋敷に常に滞在している“きょうや”は、こういう甘え方はしてこない。……が、それでも、“キョウヤ”も、そして“きょうや”も、間違いなく確実に、“雲雀恭弥”なのだ。
二人それぞれに接すれば接するほど、ディーノの中ではその確信が大きくなっていく。

――要するに、雲雀の中に元々あった性質みたいなものが、“キョウヤ”と“きょうや”の中に半分ずつ分かれて存在している、という状態なのだろうか。

片割れ、といえば、二人の雲雀曰く、片割れの傍にいる間は、離れている間の出来事について、“情報交換”をしているらしい。
元は一人の人間である為、言葉を交わさずとも相手の身に起きたこと、考えていることの殆どは把握出来るらしいが、やはり直接相対すると、伝わってくる情報の量が違うのだそうだ。その当たりの感覚は、残念だがディーノには理解のしようがない。



 雲雀の髪を梳いていたディーノの指が、ふと止まった。

唇の端に、苦笑が浮かぶ。……泣かせ過ぎたせいだろう。雲雀の瞼は薄らと腫れ、赤く色付いてしまっていた。
数ヶ月ぶりに肌を重ねる度、“キョウヤ”の身体は、自分の中に相手を迎える仕方を忘れて、頑なになってしまっている。昨夜も、それは同じだった。“キョウヤ”の中を溶かすために、時間をかけて弱いところばかりを、指と舌で嬲った。二人の身体を繋げる前に、シーツは“キョウヤ”の吐き出したものにまみれて濡れ、組み敷いた細い身体を酷く汚した。


身体に与えられる快楽を無意識に拒み逃げをうつ腰を掴み、唇を寄せる。
まるで十年前の、初めてのときのように。肉塊の形を再び教え込むように深く穿ち、揺すり上げて、そして……。


 
 腕の中の雲雀の身体を、ディーノは引き寄せた。
眠りに落ちているままの相手を起こさないように組み敷き大腿で膝を割ると、情交の名残の残した肌は、未だ薄らと湿っていた。……恭弥、と、声には出さず名を呼び、唇を重ねる。顔を傾け、寝息を零す唇を噛み舌を歯列の隙へと差し込んだ。


「……、……っ、ん」


されている不埒な真似に反応して、雲雀が咽喉の奥で呻いた。
息苦しさを拒むように身じろいだ下肢に合わせるようにディーノが腰を揺るがせると、間近に見詰めた瞼が震え、黒い目が開かれた。


「……キョウヤ」


少しだけ唇を離し呼んで、また口付ける。
促がすように舌を絡め唾液の音を立ててやると、一瞬の緊張の後、“キョウヤ”の腕が持ち上がり、ディーノの背に回された。金色の髪を緩く掴んだ細い指が、それを甘い仕草で引く。舌先を触れ合わせたままの息継ぎを繰り返している合間にもう一度抱きたい、と告げると、背に添えられた手に力が篭められた。――“キョウヤ”は、いつもこうだ。ディーノが望めば、拒むことはない。ディーノの熱を受け止め、声が掠れるまで啼いて、そしてまた数日後には、いなくなってしまう。




――鳥は初め、一羽だった。




そしてそれは二羽になり、けれど、鳥籠の中は、常に一羽。
自分の腕に同時に二羽は抱くことが出来ず、だとしたらそれは、限りなく不完全に近い、「完全なる獲得」ではないだろうか。



「――ッ……ぅあっ」



固く形を変えた切っ先を閉ざされた口に含ませた刹那、雲雀が啼いた。
それに構わず腰を進め、昨夜の行為で充血し、敏感になったままの襞を押し開き奥を穿っていく。いつにない強引なされかたが、苦しいのと同時に気持ちが良いのか、柔襞を淫らに震わせた雲雀が、ディーノの肌に爪を立てた。

もっと欲しい、と縋る腕に乞われるまま、最奥を突く。

無防備な、傷付きやすい胎内に楔を打たれるような行為をしているというのに、相手がディーノであるということだけで、雲雀は拒もうともしない。




「……、恭弥」





――それは、ディーノの意識の底にずっと在った、願望だった。






鳥籠の、扉を。


今、この瞬間に、もし。







……閉じてしまうことが、出来たとしたら?








>>fin.


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