☆2008年 「バタ足メカ」レース


 


「’66みんなのプラモケイ」日本模型教材新聞より転載
  
 


2007年第9回水ものオフ会後の次回テーマ決定会議投票記録:白兎さん撮影
 2007年水ものオフ会後の参加者企画会議において、次回の俺メカ企画が議論されましたが、その席で意外にも(?)6票を獲得して「俺テルスター」と同率一位となったのがこの「バタ足メカレース」でした。 異色の水上走行機能であるバタ足メカを作って、スクリュー文化に一石を投じようではありませんか!
 
 
バタ足メカとその周辺に関する茶飲み話
 お暇な方はここでちょっとお時間を…。

 船舶の推進機構としては現在プロペラ(スクリュー)やプロペラ風力による推進が一般的ですが、それ以外にもプラモデルの世界ではユニークな推進機構が実用化されています。
 ポピュラーなところではNBKの「およぐひごい」やナカムラの「錦鯉」(再版「泳げコイ君」)、「鮫」、あるいはイマイの「海賊王子」のイルカ(再版「パーパス」)などの尾びれ左右(上下)運動があります。このヒレを動かして進む原理は今でもタミヤのメカフグに見る事ができ、原理としては非常にベーシックなもの、といえるかもしれません。

 ブリキのローソク船と同じ機構で蒸気排出反動で動くクラウンやマルイの「ポンポン蒸気船」も歴史は古く、クラウンのキットは昭和40年代初期には発売されていました。これは当時夜店などで広く売られていたブリキのオモチャの機構をそのままプラモデルに流用したものでした。
 反動型推進装置としては水流ジェットを水中に噴出して進むアオシマのアポロ回収艦「カプリ−1」が有名ですね。

 また水流ジェットを水中ではなく船体後方の空中に噴き出して走行する、TOMYの魚雷艇「ジェットパンサー」というキットもありました。これはUMAの助手さんが第一回水ものオフ会で披露し、3月の静岡モデラーズフリマでも子供達の前でデモ走行をやったので記憶に新しいところです。

 スクリューと似て非なるものとして、オータキの初版「轟天号」に内蔵されていたアルキメデススクリュー(螺旋ドリル状のプロペラー)もユニークなものでした。
 ドリル様のもので水をかいて進むという所では、艇体前部に装備した2本のドリル状フィンを回して進むTOMYの玩具「ドリルジェッター」もダイナミックな動きで面白いものでした。

 ミヤウチの「髑髏船」は遭難して哀れ髑髏になった漂流者の乗るイカダの後部に輪ゴムが横掛けになっていて、その中央部で回転する棒の両端に二匹(二杯)の蛸が付いており、それが回転するように飛び跳ねて進むという、ほのぼのとしたブラックユーモア(?)のキットです。

 ゴムやゼンマイ動力で「櫂」を動かして漕ぎ進むもの、キャタピラそのものの回転で水上でも「走行できる」と謳っているもの、両腕を回転させてクロール様に泳ぐものなど、プラモデルの主流が動くおもちゃそのものであった時期には、あらゆる「面白そうな推進機構」が実現されていました。
 そんな中でも最も特徴的で興味深かった水もの動力の一つが、今回選ばれたバタ足メカでした。


 バタ足メカとは先にご紹介したヒレを動かすお魚系運動の仲間ですが、違いはこちらが人間のバタ足そのものの動きを再現したもので、足ヒレのついた両足を交互に上下させて進むものです。
 前述のように昭和40年前後には様々な水もの推進機構が花開いたのですが、(玩具を除き)プラモデルの世界でこのバタ足を実現したキットは1966年に今井科学が発売した2種類のキットしかありません。(次の広告参照)

 さて、いよいよここから本題です。
 
 
 今井科学 伝説のバタ足メカ
 1965年12月に日本公開となったOO7の「サンダーボール作戦」は大いに話題になり、一躍スパイブームを巻き起こしました。お色気シーンも定番の大人向けシリーズの映画でしたが、これを映画館で実際に見た事はまず無かったであろう子供達にも今井のプラモデルと言う形で身近なものとなりました。


日本模型新聞1966年6月27日号今井科学広告より転載
 今井科学は1960年ごろからキャラクタープラモに力を入れていましたが、この水もの秘密兵器がふんだんに出てくる映画に目をつけ、映画公開の翌年には精力的に劇中アイテムのキット化を進めました。
 1966年の春からは業界紙にも積極的に広告を載せ、水ものシーズンに向けた商品展開を着々と進めました。
 その中でまず水中スクーターと共に鳴り物入りで宣伝されたのが、このバタ足走行フロッグマンでした。
 しかし途中で、一度乗せた広告写真を不自然にカットして再掲載したりしているところを見ると、実はこのバタ足メカの開発には決して順風満帆ではなかった部分もあるのでは?と感じるのですが、とまれかうまれ、5月にはスペクターフロッグマンが、6月にはボンドフロッグマンが発売される事となりました。

 今井科学といえばサンダーバードメカの大ヒットで有名ですが、ジェリー・アンダーソンの手になるこの番組が日本で放映されたのが1966年4月〜で、イマイのキットはその年の12月発売ですから、このOO7シリーズはそれより半年以上も早い時期にリリースされていた事になります。


白夜書房「究極プラモデル大全」(絶版プラモデル保存会編)より転載
 
 右はそのキットの全貌で、今回オフ会活動の参考資料としてアップしてみました。
 余談ですが、今井科学は既に無く、金型も散逸したのでは?という事らしいのでメーカーの版権に関しては問題なさそうですが、「OO7」という映画作品情報を「書籍から転載している」という点がありますので(研究活動用資料とはいえ)画像を荒らし、彩度も下げています。その点御了承下さい。

 特筆すべきは、このキットは一目瞭然のようにアニメやマリオネーションではない実写版映画のリアルキャラクター商品で、両足のバタ足機構を組み込んでいるとはいえ、当時としては中々のリアリティを持った造形で商品化されています。
 ゴム動力という所が時代を感じますが、筆者は小学校2年生の当時このキット(スペクターフロッグマンのほう)を作り、確実に水上走行する事を経験しています。
 ストロークを稼ぐ為…と思われますが、動力のゴムはフロッグマン本体より更に前方に伸びた水中銃まで延長されており、逆にこの事で水中銃が単なるデザインではなく出来るだけ長いゴムを装着させる為の要請から来た「回答」であると分かりますね。
 そのゴムはフロッグマン本体内部でクランク運動に変換され、それが左右両足のバタ足運動になるわけです。

「’66みんなのプラモケイ」日本模型教材新聞より転載

 足首から先は足ヒレを模したゴム製のフィンになっていて、これが絶妙なクネリを生み出して推力となります。メカフグの樹脂製の尾びれを想像して頂ければその効果が想像できるでしょう。
 それが若干非力なゴム動力と相まって、カタカタカタと優雅に泳いでいたのを思い出しました。
 1966年5月に行われた「第五回静岡プラスチックモデル見本市」の業界紙レポートでは「左右の足を上下に、足先のゴムの水かきも本物そっくりな動きで、体がほとんど左右に傾かずに、水平に保って泳ぐ所が良く出来ている。」と好評だった様子が伺われます。
 余談ですが、今井科学はこの直後に、もっと大型で電動のフロッグマン「水中レインジャー」もキット化していますが、そちらはバタ足ではなく外付けのモーターユニットを装着してスクリュー方式で推進するものでした。機構的には全く別物ですが、同じ時期に同じ高荷先生のイラストによる似たような商品としてリリースされた為「モーターライズのバタ足フロッグマンがあった?」と思ってらっしゃる方が少なくないので、補足まで。(実はかく言う私もかなり長い事勘違いしていた一人です) 


 …と、ここまで道草を食いながら長々と説明をしてきたのは、実は昨年の投票でこの企画に一票を入れられた方の中で、実際にこのキットをご存知の方は、あるいは少ないのではないかと考えたからです。
 面白そうな企画に参加する為には、必ずしもその元ネタキットを知っている必要はありませんが、そうはいってもその元ネタがどういった内容であったかを知る事は、作品制作の上で大きな動機付けになるだろうと思うからです。
 どうです?話で聞いてイメージするより、一層興味が湧いたのではないでしょうか?あるいは昨年このテーマに一票を投じなかった方々の中から、新たに「チャレンジしてみたい!」と思われた方はいませんか?機構的にはちょっと難易度は高いかもしれませんが、次の参加要領を読んで少しでも「行けそうだ!」と思われた方は、是非とも参加してみて下さい。

 
バタ足メカレースの概要
バタ足で水上(水中)を進むフロッグマンの自作模型による直進レースです。
  元ネタキットに忠実に…と考えると、本来はリアルな人型フィギュアである事が
  望ましいのですが、今回は参加の為の敷居を低くする事を目的に、リアルさに
  は拘らず、平面的な人型シルエットやロボット型、あるいはもっと水上艇のよう
  な乗り物っぽい造型でも参加可能とします。
推進方式は必ずバタ足推進である事。
  前述のように外見は自由ですが、推進方式は必ず左右後方に伸びた「脚」状
  のものを左右交互に動かして進む事。
電源、動力は制限無し。但し、公共の場での走行を考慮した安全なもの。
サイズは問いません。

 

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