2009年 第11回水ものオフ会
俺ジェッター・ハリケーン」コンテストのご案内

水ものオフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト
2009年のテーマは…
俺ジェッター俺ハリケーン」だ!
 

イッコーモケイ’66版カタログより (あうとばあんさん提供)

 「俺ジェッター」、「俺ハリケーン」コンテストの参加要領
イッコーモケイの「ジェッター」、「ハリケーン」のオマージュ作品によるコンテストです。
勿論本家の「ジェッター」、「ハリケーン」そのものを作って持ち寄る御大尽参加も大歓迎です。
デザインコンセプトは”胴体を双フロートで支えて水上をプロペラ走行するスピード艇”としますが、趣旨を理解して頂いた上で「これこそが俺ジェッターだ!」とする強い思いがあれば、基本的には何でもOKとします。
再版キットである「マッハ」「エックス」に習い高速ミサイル艇とする設定もOKです。
動力、サイズに特に制約は設けませんが、安全にデモ走行できる作品に限ります。



水上レーサー ジェッター & ハリケーン
 とその周辺について



 速く! 速く! もっと速く!!
        スピードレーサーの真髄 … イッコーモケイの軌跡


 今でも多くのモデラーの目に焼きついているポップなアドデザインが印象的なイッコーモケイ(一光模型)は、我が国の第一次模型ブームに生を受け、昭和40年代に最盛期を迎えた懐かしいメーカーです。
 同社はレベル以外では国内で殆ど唯一入手できた希少なドラッグレーサーのシリーズ、走る戦車全盛期にユニークなディスプレイキットとしてリリースした透明戦車シリーズ、ゴム動力でプロペラを回しながら滑走する豆ヒコーキシリーズ、模型少年垂涎の的だったイマイのジュニア「707Cクラス」の450円を凌駕する600円売りのスーパーサブマリン「マックス」、ユニークなSF宇宙船や宇宙戦車、そして昭和40年代後半には今でもマニアの少なくない貨物船シリーズや自動車のイッコーを象徴する各種カーモデル等々、当時の模型メーカーの例に漏れず幅広いバリエーションで日本の模型シーンを彩った会社でした。
 そのイッコーモケイが最も元気だった時期に、同社のキットの底流を最も骨太に貫いていた哲学…それは他ならぬスピードレーサーの心意気に他なりませんでした。
 そんなイッコーモケイが至った一つの高みというべきキットが、今回の俺SFメカコンテストのテーマになった「ジェッター」と「ハリケーン」です。
 それではここでそのスピードレーサーの心意気へ至る軌跡を暫し紐解いてみましょう。
 

 陸のスピードマシーン


イッコーモケイ’66版カタログより (あうとばあんさん提供)
 イッコーモケイは特にその隆盛期において、ゴムやゼンマイ動力の比率が比較的高い、いわば年少者向けのキットが多かったメーカーでもあります。
 イッコーモケイが最も精力的に商品開発をした昭和40年頃といえば、日本で伝説的なブームとなったスロットカーブームの時期で、勿論同社でも1/24スケールで「ポルシェ904GT」や「フェラリー(フェラーリではない!)275P」といったスロットカーもリリースはしていました。
 しかし日本中を席巻したブームとは裏腹に、当時決して裕福ではなかった子供達にとって千円〜数千円の支出を要求するスロットカーのオーナーになる事は夢のまた夢で、多くの子供達は一週間の小遣いを10分そこそこの貸しレースカーに注ぎ込んで一瞬の夢を見るか、サーキット場のギャラリーに甘んじるかしかなかったのが実情でした。
 そんな中で、資金力の乏しい年少者がスピードレーサーの気分に浸れる唯一の選択肢は、これもまた世界に例を見ないブームとなった廉価なゼンマイカーのプラモデルを走らせる事でした。
 スロットカーとゼンマイカーという二重構造の中、多くのメーカーはスロットカーレースを髣髴とさせるポルシェやフォードやフェラーリなどの競技用レーシングカーをゼンマイ自動車プラモの中核と位置づけましたが、イッコーはそれらを凌駕するスピードを誇る”孤高のスプリンター”…「レコードブレーカー」を世に問いました。
 それがこのボンネビルシリーズで、100円の「エルコ」「アテンプト」「スリーナイン」「レッドヘッド」を主力とし、120円の「チャレンジャーT」までをゼンマイカーとして発売しました。同シリーズはその後更にグレードアップしたモーターライズの「チャレンジャーT」「トライアンフレーサーX−1」へと発展しますが、メインラインナップとして市場に出たのは圧倒的に初期の100円売り4種で、今でも当時を知るモデラーにとって、これらのキットは未だに伝説のゼンマイカーとなっています。
 本来単独走行でスピード記録に挑戦するボンネビルフラットのモンスターマシーンは、当時の小学校の廊下などのレース場において他社の100円クラスのレースカーと一緒に熾烈なバトルを繰り広げる事となります。
 このボンネビルシリーズこそイッコーモケイの求めた陸のスピードマシーンのストレートな具現でした。
 

 海のスピードレーサー



 夏の到来、それは当時のプラモデル少年にとって水ものプラモデルの季節でした。
 戦艦、潜水艦、モーターボート、スピードボート、魚雷艇にSF潜航艇。魚雷だって怪獣だって鉄腕アトムだって日本中の水辺で子供達と遊びまわっていた、それは輝かしい夏だったのです。
 そんな水の季節にイッコーモケイがリリースしたのは、小さな船体に強力なエンジンを装備した海の走り屋ドラッグボートでした。
 それがレベルのドラッグボートを参考にしたと思われる「トマホーク07」と「レイトラー09」でした。
 このシリーズは100円クラスのゴム動力プラモと、モーターをセットすると200円以上となるモーターライズプラモの間隙を縫い、ゼンマイというパワーソースによる150円という価格のキットとして夏のプラモデル商戦に投入されました。
 これは将に、モーターライズキットには手が届かないがゴム動力では物足りない年少者に向けた商品戦略で、(その実際の性能はさておき)迫力あるパッケージアートと相俟って当時の子供達に海のスピードレーサーの咆哮をありありと演出して見せたのでした。
 陸のボンネビルシリーズに正対する、これはイッコーモケイの海のスピードマシンそのものでした。
 スピードレーサーこそイッコーモケイの求めてやまないプラモデルの形だったのです。
 

 水ものSFの心

 日本オリジナルSF(JOSF)プラモデル。それはメーカー独自の発想で生み出され、我が国が世界で殆ど唯一花開かせた、原作デザインによらない空想科学模型です。
 それはある意味「SFと付けば何でもアリ」な、荒唐無稽なキットを量産したキッチュな文化と見る向きもあるでしょう。
 しかし多感な時期にその自由な模型世界に心を遊ばせた経験のあるモデラーであれば、それらのキットはメーカーが提供してくれた最も身近な夢そのものであった事を確信しています。
 確かにそれらの主流を占めるチープキットの中には子供心にも「子供だまし」に映る商品が少なくなかった事は事実ですが、それは翻って当時の子供達の目は子供なりの科学的審美眼を持っていたのだともいえるでしょう。
 そんな玉石混交のSFプラモデルがワンサカとあった当時、イッコーモケイは一つの空想科学シナリオを設定してSFキットの連作をシリーズ化しました。
 それは当時ですら既に過ぎ去っていた1928年という過去の歴史の中、地球侵略にやって来た宇宙人と謎の海底王国との間に人類の知らぬ熾烈な戦争があったというストーリーで、宇宙人と海底人両陣営のライバルメカを同時にフィーチャーするというユニークな形で企画されました。
 それらはゼンマイで水陸両用走行をする宇宙艇「アポロ」と「シグマ」、そして同じくゼンマイで自動浮沈する怪潜水艦「グレートサタン」と「ブラックデビル」です。
 今回紹介したパッケージはその中の後者2キットのものですが、他社の何にも似ていないイッコー独自の素晴らしいデザイン感覚が分かる事と思います。
 今でこそ当時のSFプラモデルは忘却の未来世界としてノスタルジックに甦る思い出の風景になっていますが、”当時”が”リアルな現在”であった昭和41年にあって、自ら忘却の時間軸を持つ空想化学世界を創出し、オリジナルキットを生み出したイッコーモケイの心は、こうして水ものSFとして結実したのです。
 

 陸と海のSFスピードマシンの融合



 イッコーモケイのキットの中には、他社の例にもあるように同じ金型を流用して幾つかのバリエーションを展開したSFキットがあります。
 それがこのゴム動力スクリューとマブチの水中モーターを併用した「スペースパトロール」と、ゼンマイで快走する「エンゼルバード」で、これは全く同一の本体をベースに動力機構だけを換装して水ものと陸ものにコンバーチブルしたキットです。
 地球防衛隊という設定ながら全くのレコードブレーカー然としたパッケージが印象的な「エンゼルバード」とITCメカを髣髴させる水ものプラモデル「スペースパトロール」。これは先に述べた同社の陸と海のモンスターマシンが、同じく同社の怪潜水艦シリーズのようなSF水ものキットの心を触媒にして、合わせ鏡のように形を成した象徴的なキットだといえるでしょう。

 余談ですが両者のキットは更に原型を辿る事が出来ます。
 それは同社が昭和39年にリリースしたゴム動力のレコードカーシリーズ(2台)のうちのひとつ「スピードエース」で、「スペースパトロール」の胴体と垂直尾翼だけの車体に大直径のタイヤを装備したスパルタンなオリジナルレコードカーでした。
 ゴム動力は簡便で強い瞬発力を持つ事から古くから年少者向けプラモデルのパワーソースとして重宝されましたが、水の抵抗が都合よく作用して適度に走る艦船と違って、陸もの模型では短時間でゴムが巻き戻ってしまう事がネックでした。そこでイッコーは長大なゴムの巻き取り空間を確保するロングホイールベースの車体を設計したのではないかと想像できますが、その結果他に例を見ない全長30センチを超えるスレンダーで流麗なオリジナルデザインの車体を生み出したのです。
 これもまたイッコーモケイが飽く事なくスピードへ挑戦する表れでもありました。
 

 そして … SFの心を持った水上スピードレーサー
 
 「ジェッターハリケーン」参上!


水上レーサー「ジェッター」「ハリケーン」 (Tachikawaさん提供)
 イッコーモケイが求め続けたスピードブレーカーの心、水上モンスターマシンの咆哮、ユニークな作品世界を紡ぐ空想の翼、そしてレコードカーや水ものSFキットやハイスピードSFマシンを融合する想像力は、1965年の4月にもう一つの形、”オリジナル水上レーサー”として結実していました。
 これこそが今回我々が俺SFメカコンテストのテーマとして選出した「ジェッター」と「ハリケーン」だったのです。
 スマートなボディーを軽快な双フロートにマウントし、水上を疾走する事だけに特化して生み出されたこのデザイン。スピード感溢れる秀逸なパッケージアートは、今でも色褪せない新鮮さで見る者に迫ります。
 ありとあらゆるカッコよさを貪欲に追求した当時の模型メーカーでしたが、決して奇を衒ったものではない破綻のないこのフロートレーサーのスタイルは、不思議な事にイッコーモケイ以外のどのメーカーも到達する事のなかった唯一無二のものでした。そしてそれは発売から40年以上経った今日に於いても、オンリーワンの輝きを失ってはいないのです。


「模型と工作」誌に掲載された「マッハ」と「エックス」の貴重な画像 (謎だ!Oharaさん提供)
 また水上レーサーシリーズは1968年2月にリニューアルされ、SFスピードボートシリーズ「マッハ」「エックス」として再版される事となります。
 基本デザインはそのままに、スタビライザーと思しき翼とミサイルなどの武装が追加されましたが、初版150円だった価格は逆に100円に値下げされています。
 純粋な水上スピードレーサーとしての設定も捨てがたいのですが、新たにミサイルという牙を得た高速艇の風貌には、無条件で少年の心に訴えるスパルタンな魅力があります。
 さて、今回の御題に対して貴方はどのようなイマジネーションでアプローチをかけられますか?
 集え「俺ジェッター」! 来たれ「俺ハリケーン」!イッコーモケイのスピードレーサーの真髄が、この夏UMAのオフ会に集結する!


 Tachikawa秘宝館コレクション
 この企画にあたり、前回に引き続き秘宝館館長Tachikawaさんから貴重なオリジナルキットの画像を提供して頂きました。皆さん大いに参考にしながら、また大いにモチベーションを上げようではありませんか!
 それではこのページの最後に「ジェッター」と「ハリケーン」の正体をとくと御覧下さい。



 左の画像は「ジェッター」と「ハリケーン」の箱の中身です。胴体以外は同じパーツを共有しているのが分かりますが、インストは印刷の色を替えて雰囲気を違えてあるのが見て取れると思います。
 また、両者の共通部品の一つに特徴的な幅広のプロペラが見えますが、これは風を起こす面積を出来るだけ大きく取って空気抵抗を増やす事で、巻き上げたゴムの巻き戻り時間を最大限に引き伸ばす効果を狙ったものである事が分かります。
 ヤマダ模型が設計し、今でも入手可能な工作素材である通称「ヤマダのプロペラ」は有名ですが、それをスタンダードのように見慣れた者にとっては、この「ジェッター」のプロペラは非常に新鮮に写ります。

 またまた余談ですが…大馬力プロップエンジンを搭載した航空機は出力をどう効率良くプロペラで推力に変換するかという問題に直面します。
 ペラの枚数を増やすとプロペラ間の距離が縮まり、隣のプロペラの乱流と干渉し易くなって効率が落ちてしまいます。またペラを幅広にして面積を増やすと重くなってブレードを回す事だけでパワーが消費されてしまいます。それではと、ペラを長くしてそこそこに面積を確保しつつ回転の外周である先端速度を上げて強力に推進させようとすると、将にその先端が音速に近づいて音の壁の衝撃波によって急激にパワー効率を落とす事に繋がります。エトセトラ、エトセトラ…。といったように、プロペラの設計は中々一筋縄ではいかないものですが、そのような葛藤の中で一つの落し所を見出した特徴的なプロペラにP−3Cオライオン哨戒機のペラがあります。
 そう、適度な幅広ブレードのプロペラを4枚にとどめ、先端の回転速度を抑えるためにペラを途中から断ち切ったような形にしたアレですが、枚数こそ違えこのキットのプロペラに良く似た平面形だとは思いませんか?
 実機とメーカーオリジナルデザインのプラモデルという全く別な世界ではありますが、メカ好きモデラーにとっては中々興味深いパーツです。
 


 次は同じく両者をひっくり返して撮影したショットですが、今回のキット紹介にあたって多忙な中お手持ちのキットを撮影して画像を提供して頂いたTachikawa館長の「マニア心をくすぐる」構図に思わず唸ってしまいそうです。
 Tachikawaさん、本当にありがとうございます!

 さてこの画像で最も目に付くのは惚れ惚れする程スマートなフロートです。
 UMA広報担当の私事で恐縮ですが、今から40と○年前に「ジェッター」を作り、地方都市会津若松のサンウェーブ社特約店”高見ステンレース流し台専門店”の店先にあった大きな業務用シンクに水を張って日がな一日遊んでいたあの日を鮮明に思い出させたのが、このフロートの流麗な画像です。
 フロート最後尾は垂直に切れていますが、ここには先に紹介したパーツ写真でプロペラと同じランナーにチョコンと鎮座している舵がセッティングされるという芸の細かさです。

 しかしその一方で、パーツに付くランナーは樹脂を注型する為だけの手段でしかない「枝ランナー」(先のプロペラ部品も参照)で、現在では常識的となったパーツを保護する為に部品の周りを四角に取り囲む「回しランナー」でない点などは時代を感じさせます。
 キットを組み上げると単なるゴミとなってしまうランナーはメーカーからすれば出来るだけ原材料費を圧縮したい無駄な部分とも言えますが、逆に部品が箱詰めや運送中にランナーから外れてパーツ紛失や湯口破損が無くなる事はメーカーとユーザー双方にとってのメリットになるという発想の転換が、全ての模型メーカーの常識になるのはもう少し後の事です。

 時代を感じさせる商品の体裁と、時代を感じさせないキットのデザインを併せ持つ「ジェッター」と「ハリケーン」は、もしかしたら時間まで先取りして突っ走ってしまったスピードレーサー…、イッコーモケイの心意気だったのかもしれません。


 
このページで紹介したキットの中には、リリース時期を勘案すると「ジェッター」や「ハリケーン」とは若干発売時期が後になるものもあり(といっても1、2年程度)、キットの紹介順は必ずしもイッコーモケイの商品展開の時系列をトレースしたものではありません。メーカーのビジョンを浮き彫りにするという意味で上記のような構成とさせて頂きました。
 

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