歩くマンガシリーズ「ゼロ戦太郎」 |
ミドリの名で親しまれた緑商会は、1913年(大正2年)に模型飛行機小売店として生まれた草野商店をその前身とします。草野商店は後に木製プロペラ製造、模型卸売り業を経て本格的に模型製造業に参入して緑商会と名前を変え、1960年頃からプラスチックモデルの製造販売に参入しました。
当初は飛行機や自動車などのスケールモデルが中心でしたが、やがて1964年から、動くマンガシリーズと題して、少年雑誌のマンガキャラクターを電動歩行キットとして発売しました。
シリーズ第一弾は雑誌「少年画報」に連載していた戦記マンガ「ゼロ戦太郎」をモチーフにした歩くゼロ戦太郎ですが、このシリーズは前年から発売された今井科学のマスコットシリーズと並ぶ版権キャラクター商品の走りで、自社オリジナルデザインのロボットと共に急速にシリーズを充実させていきます。 ミドリはこうしてスケールモデル、版権キャラクター商品、自社オリジナルSFメカという3本柱を、他社に先駆けて明確に打ち出したのです。
当時の版権取得はまだまだ大らかな時代で、作品毎に1つずつ版権を取得するのではなく、どうやら雑誌毎に丸々版権を買い取っていたようです。ミドリは少年画報社から「少年画報」と「少年キング」の掲載作品の版権を、今井科学は小学館から「少年サンデー」の版権を取得して、それぞれの会社のラインナップを作っていました。
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スターライトとオーロラの雑誌広告。 |
歩くマンガシリーズの中には「マンモスキング」や「ブラックエース」などのオリジナルデザインのロボットが含まれています。これはどちらかというとシリーズの間口を広める為にキャラクター商品とオリジナル商品を混合して販売したもののようですが、ミドリはその後、キャラクターモノのメカデザインにインスパイアされたデザインコンセプトを持つ、自社オリジナルのキットを発売します。
1966年には海底科学作戦(日本初放映1964年)の「原潜シービュー号」を模した「スターライト」と、海底大戦争(これも日本初放映1964年)の潜水艦「スティングレイ」を模した「オーロラ」を発売しますが、先の「マンモスキング」などとは違い、これらはより明確に人気番組のメカデザインを前面に押し出したもので、キチンと版権を取って売るキャラクター商品と、自社オリジナルのメカを巧くラインナップに混交させる事で、年少者の購買意欲を高める戦略だったと思われます。
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ミドリのオリジナルメカ「スチールモンスター」新発売の1967年雑誌広告。 |
ミドリが版権商品と同時にオリジナルSF商品を発売していた将に1967年、突然一つの怪キットが発売されます。それが今回俺SFメカコンテストのテーマになった「スチールモンスター」です。
このキットは怪獣+ロボット+潜水艇という、ある意味脈絡なく発売された新コンセプトのSFメカでした。
当時ミドリは宇宙大怪獣ギララの版権で、「ギララ(大)」と「アストロボート(大、小)」(因みにギララ(小)だけは翌年の1968年発売)をリリースしており、1969年のカタログでは「スチールモンスター」は同じゴム動力水ものキットである「アストロボート(小)」と一緒に映っているので、これは怪獣路線の一環として企画された可能性があります。
「アストロボート(小)」と「スチールモンスター」はメカの方向性こそ違え、ほぼ同時に発売された同じ価格帯、同じ年少者向け水ものプラモというコンセプトで繋がる兄弟商品という雰囲気があります。
一方、先に「脈絡無く…」とは書いたものの、「スターライト」と「オーロラ」の項で分かるように、ミドリはメーカーとして海底大戦争スティングレイに大きな関心を寄せていましたが、その番組中には「メカニカルフィッシュ」という生物様メカが魅力的に登場します。正統派JOSF(日本メーカーオリジナルSFキット)で先鞭をつけたミドリが「メカニカルフィッシュ」にインスパイアされてイメージを膨らませ、自社オリジナルの生物メカプラモデルに昇華した事は容易に想像できる事です。
つまり「スチールモンスター」は、ラインナップ的には和製怪獣路線に近い位置付けながら、造形の発想はゲリー・アンダーソンのSF生物メカであるというのは穿ち過ぎでしょうか?
さて、上の画像はその当時の雑誌広告ですが、発売されたキットのボックスアートとは違うイラストが掲載されています。発売された箱絵がミドリメカの特徴であるメタリックブルーグレーを思わせるスマートなものなのに比べ、左のイラストはもっと鋼鉄感を持ったレトロフューチャーな重厚感があります。
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1969年のミドリのカタログに掲載されたメカニカルフィッシュ、スティングレイ、シービュー号。 |
さて、前述の「スターライト」と「オーロラ」は、当時うまく版権が取れなかった為の狗肉の策の可能性があり、1968年には遂に「海底科学作戦」と「海底大戦争」の版権を正式に取得して「メカニカルフィッシュ」、「スティングレイ」、「シービュー号」の水ものキットがミドリマスコミSFシリーズとして発売されます。 当時は「ビクトリー」「スパイダー」「ウルトラモグラス」など、ミドリオリジナルSFキットの最盛期でもあり、ミドリは精力的に版権モノとオリジナルキットを自社の両輪として動かしていた事が伺えます。
「メカニカルフィッシュ」を原点、「スチールモンスター」がその影響力の発展形と捉えると発売時期は逆転しますが、ミドリの求めていたものはここに一つの予定調和を迎えた事になります。
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ミドリのオリジナルメカ「タイガーフィッシュ」。1969年のミドリのカタログから。 |
1969年、次にミドリはオリジナルのロボット潜水艦「タイガーフィッシュ」を発売します。これは明らかに前年の「メカニカルフィッシュ」からインスパイアされた、よりストレートなメカデザインと思われますが、前述の動くマンガシリーズのように、キャラクターシリーズの中に混ぜてシリーズ化するのではなく、これは単独のメーカーオリジナル商品として発売されました。 正式な版権商品の中に、こっそりオリジナル商品を潜り込ませるのではなくきちんと一線を画するのは、当たり前といえばそうですが、怪しげなパチモノキットが少なくなかった当時としては、子供心に「へぇ、同じシリーズじゃないんだ。」と不思議な思いをしたものです。
但しこれは単に版権商品としてシリーズ化販売した場合に、本来なら払わなくても良い版権商品販売数にオリジナルキットまで勘定される事を嫌っての判断だったかもしれません。
因みに版権商品の販売には色々な「やり方」がありますが、キットの箱に版権シールを張る課金方式では、シールの発行枚数そのものが版権商品販売数としてカウントされるようです。
イマイの007シリーズでは、スペクターの「水中スクーター」同様ジェームズ・ボンド用の「水中スクーター」もモデライズされていましたが、実はこれは映画版には出て来ないイマイオリジナルのメカを商品シリーズに混ぜて販売していたものですが、それとは対照的なキットですね。
ジェームズ・ボンド用「水中スクーター」は本家の映画には出てこない、”版権とは無関係な造形”の商品ですが、それを自腹を切ってでもシリーズ人気に巧くインサートし、007御用達のメカとして販売する拡大版版権商品でした。
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「スチールモンスター」再販パッケージ。画像提供:Tachikawaさん。 |
さて、右の画像は「スチールモンスター」の珍しい再販パッケージで、イラストは何とあの巨匠小松崎茂氏の手になるものです。
初版パッケージも、前出の雑誌広告イラストも「スチールモンスター」の特徴ある四肢を表現する為に、イラストは水上部分と水中部分を同時に描画する手法を取っていますが、その手法の大御所である小松崎氏の本家イラストが再販版で登場しました。
この箱絵は当初「これが初版では?」とも思われていましたが、ボックストップの右下にJPM(日本プラモデル工業協同組合)マーク、右上にST(玩具安全基準)マークが付いていて、前者は1967年制定、後者は1971年制定なので、この箱絵は少なくとも1971年以降のものである事は明白で、こちらが再販品だと結論付けました。
また、「アトミックアストロボート」はともかく、「スチールモンスター」の翌年に発売された「メカニカルフィッシュ」「シービュー号」「スティングレイ」の紹介がボックスサイドにある事も再販説を裏付けます。
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画像提供:テルスター中尉。 |
因みにこちらが初版ボックスのサイド。陸海空万能宇宙パトロール艇「マーキュリー」、宇宙戦車「バンガード」の初版イラスト、「エコーセブン」等が懐かしいですね。縦箱の「ギララ」だけ苦しいレイアウトになっているのがご愛嬌。
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画像提供:テルスター中尉。 |
こちらは反対側のボックスサイド。初版版だけこのような解説イラストが付いている。陰影を強調した珍しいタッチのカットです。
また、右端に書かれている設定要目も興味深い所。
このデザインで50ノット?!という感じもしますが、1975年に除籍された海上自衛隊の魚雷艇10号(全長32.5m)が、9,420馬力で47.72ノット(無兵装公試時)を出した事を考えれば、その半分以下の大きさで倍の馬力を持つ「スチールモンスター」が50ノットを出すというのも、まあリアルな許容範囲でしょうか。
でも乗員2名って書いてあるけど、パッケージでは3人目がハッチから出ているぞ!(笑)
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画像提供:テルスター中尉。 |
そして気になる初版の中身がこれ。独特のミドリスチールカラーであるメタリックブルーがいい味を出しています。
当時は射出成型時のペレット注入で出来るメタリック素材独特のマーブリング模様が「ちょっといや〜ん、に感じていた筆者ですが、こうして見るとやっぱりこれこそがミドリのSFメカだなぁと思える、重厚な雰囲気です。
首の部分のジャバラ構造と扇子の”カナメ”様の穴のモールドから、設定的には「スチールモンスター」の首は90度前倒しに倒れ込むように見えますが、そうであれば首が邪魔で「キャノピー」から前が見えないのでは?という不自然さも解決しますね。
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画像提供:テルスター中尉。 |
今度は変わって初版キットに同梱されている中タグのイラストです。「エコーセブン」、「キングモグラス」、「ビートルII世」と、初期ミドリSFシリーズ三羽烏の揃い踏みですねー。当時を知る”当時の模型少年(今はオッサン)”なら涙がちょちょ切れる一枚です。
SFメカ開発史がこの時代…ミドリJSDO(日本宇宙開発機構)迄で止まっているオジ様方は、きっと全国で20人位いる事でしょう。(UMA調べ。うち最低9人はUMA会員。)
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「スチールモンスター」再販パッケージ。画像提供:Tachikawaさん。 |
今度は「スチールモンスター」最終版のパッケージです。これは初版のイラストを流用してパッケージデザインだけを変えたものですが、イラストそのものは印刷時に”青み”を落としている為に、初版より洗練されたスッキリした印象となりました。
これも上記再版箱との発売時期の前後関係の特定に迷いましたが… |
「スチールモンスター」再販パッケージ。画像提供:Tachikawaさん。 |
ボックスサイドの商品紹介が「シービュー号」と「スティングレー」のミドリ最終版イラストである事、価格が300円である事、キットの成型色がミドリ最終期のチビコロSFシリーズ同様の鮮やかなグリーンである事などから、こちらが最終版であるとしました。
でも、「SF」ロゴのレタリングとか、青地に赤のパーティションのバランスとか、黄色の錨マークとか、何だか最終期のLSのモーターボートシリーズのパッケージデザインに印象が似ているなぁと思うのは、私だけでしょうか。
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最終版のチビコロSFシリーズに似た、原色鮮やかな成型色。
JOSFの最盛期を過ぎ、原作無しのSFプラモは子供達に急速に受け入れられなくなった1970年代中期、ミドリはより年少者をターゲットにしてこういったアイキャッチ的なカラーリングで往年のオリジナルSFキットを再版しました。
しかし既に時代はJOSFを置き去りにして進み始めていたのです。 |
画像提供:Tachikawaさん。 |
袋部分のパーツ外観。当時としてはいかにもシャープな出来の成型は好感が持てます。
インドの建物の壁に描かれた”魔除け”のような目のマークが印象的です。
プラスチックだけではなく、金属シャフトや糸ゴムやマークが入った複合マテリアル商品とはいえ、例えばモーターライズキットの専用ギアボックスのような復刻が難しい部品のない本キットは、金型さえあれば容易に再版できそうなものですが、果たして金型は現存しているのでしょうか?
ミドリの金型は基本的には童友社が所有しているので、可能性は0ではないかもしれません。
皆さん毎朝お仏壇に手を合わせて、ご先祖様に御願い致しましょう。
な〜む〜。(−人−) |
「スチールモンスター」の初版と最終版のインスト。画像提供:テルスター中尉さん、Tachikawaさん。 |
今度はちょっと目先を変えて、初版(上)と最終版(下)のインストの違いを見てみましょう。
基本的には同じ版下パーツを使いながら、最終版のほうが、よりスッキリと再編されているのがお分かり頂けると思います。
しかし一見同じイラストをパーツ別に切り張りして図面を組み替えただけ…ぐらいに思われる両者ですが、例えば一番情報量の多いマル5番の説明などは全く描き替えだったり、最終版のマル4番は新規に描き起こしているなど、キメ細やかな改修がされている事に気が付きます。
しかし、モーターライズがプルバックゼンマイになってギミックやタイヤが簡略化されたチビコロシリーズなら分かりますが、キットの構成自体は全く初版のままのキットにもかかわらず、なぜこういった手間をかけてインストを修正したのでしょうか?
一部は明らかに初版のイラストを使用しているので、もしかしたらインスト原画の一部が破損した為、残った部分を流用しながら最低限必要な部分だけ描き起しながら全体を再構成した、という事なのでしょうか。 |
完成品紹介
2009年の水ものオフ会参加作品。「スチールモンスター」の初版(手前)と最終版(奥)のツーショット。
作品製作:マルさん、Tachikawaさん。
マルさんの作品は、御馴染み無塗装無改造のコンパウンド磨き上げ。
Tachikawaさんの作品はパッケージイラストに似せて目玉を付けたもの。
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画像提供:Tachikawaさん。 |
上の「スチールモンスター」のツーショットは、オフ会の作品集合写真の部分アップなので画像が荒れていますので、ここでTachikawa館長の作品をクリアな画像で紹介させて頂きます。
Tachikawa館長は最終版の「スチールモンスター」をベースに、目の部分をパッケージイラストに似せて半球状のパーツで改造していますが、基本形は十分伝わると思います。
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画像提供:Tachikawaさん。 |
先の側面形に続いて今度はほぼ上面からの様子が分かるショット。
こうして見ると意外に縦長でスリムな設計になってい入ることが分かります。
ミドリオリジナルの「スチールモンスター」に似せて自作する方は、この2枚のショットが役に立ちますね!
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その他の水棲生物SFメカキット紹介
百花繚乱、玉石混交のJOSFプラモデルの中でも、実はそれ程多くは無い水生生物テイストの
JOSFプラモデルですが、制作のご参考に、その中から幾つかのキットをご紹介いたしましょう。
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画像提供:Tachikawaさん。 |
まずはオータキの「タイガーシャーク」。パッケージはアオシマの「サブマリン0007」を髣髴とさせる構図と迫力のタッチ!それもそのはず、作者は同じ梶田達二氏ですねぇ。
一見チョー透明な水に透けているように描いてあるものの、これも海上と海中の両方のビジョンを一発で纏めた心眼構図のイラストで、特徴ある艦体デザインをビジュアル化しています。こうしてみるとこの手法を編み出した小松崎先生は驚異的な天賦の才の持ち主だった事が分かります。
特殊潜航艇を思わせるスマートな艦体に、冷凍怪獣バルゴンにも似た顔を持つ素晴らしいデザインです。
宇宙ロケット風の尾翼を思わせる後部垂直水平舵や、意外に凡庸に纏まった(失礼)セイル部分など、こういったテイストもありかな、と思わせる逸品。1970年頃のキットでしょうか。
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次は同じオータキの「SFバドン。
再販の「サンダーシュライク」が、日本の生んだ世界のイラストレーター長岡秀星の手によって、スーパーウェポンに生まれ変わったのに比べ、この初版の箱絵は古式ゆかしい雰囲気をたたえていますが、それだけに生物風のテイストがより強く感じられるキットです。
名前からバット(コウモリ)をイメージしているように思えますが、これは水棲動物というにはちょっと違うかも…という気もしますが、こういう解釈もアリかな、ということで。
これは1960年代後半のキットだと思われます。
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画像提供:Tachikawaさん。 |
さてその次に控えしは!と名乗りを上げて紹介するのは、「なんじゃこりゃ?」なキット、「スーパーマリンエンゼル2世」です。
メーカーのヨシタケというのも正体不明ながら、一体何をしたかったのか全く訳の分からない(失礼)コンセプトの潜水艇です。
名前から推察するに、これはエンゼルフィッシュをモチーフにしたデザインの潜水艇のようですが、「超能力潜水艇」という謳い文句も、性能が「超」なのか、「超能力」を持った生物メカなのかも不明。…っつーか、当時の少年はそんな重箱の隅を突くような設定解釈すらしないでスルーしちゃったんじゃないの?的なキット。
魚雷を発射しているようだけど迫力無くて心許ないし、そもそも乗員が幽霊みたいで覇気がないぞ!と突っ込み所満載のキットですが、それだけにレア度も高そうですね。
ただ、正統派SFキットとしては難アリとはいうものの、こういった脱力系メカこそ、水ものオフ会では狙い目かもしれませんね。
タスクフォースの「ジュニアサブマリン707」を改造して、誰かコレやってみます?きっと千草社長は嫌いじゃないかも。(…いや、やっぱ泣くかな。)
どうでもいいけど、スクリュー変だぞ。
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ということで、色々賑やかしに紹介してみましたが、皆さんは何か感じるものがありましたか?
もし少しでもインスパイアされた感触がありましたら、是非!俺スチールモンスターコンテストに参加してみて下さい。宜しくお願い致します。 |