1969年のミドリのカタログに掲載された水陸両用キットの面々。2013年の水物オフ会のページから再録。
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マーキュリーのパッケージイラストに続き、あらためてマーキュリーとプラネットのキットの立ち位置と全体像を知るために、再掲ながら1969年の同社カタログを見て下さい。カタログのマル数字1がプラネット、マル数字2がマーキュリーです。
ミドリのSFプラモは貪欲なほど空想科学の世界観を重要視し、他社に比べて重厚なデザインコンセプトを持っています。しかし特に子供にアピールしなければならない日本のプラモデルという商品は、単にアメリカのお坊っちゃまたち向けのような教養科学模型ではなく、楽しい動きを持つおもちゃ的要素も必要でした。
特に我が国のプラモデルでは、嚆矢たるマルサンのプラモデルこそディスプレイキットでしたが、すぐに動く工作のエキスを取り入れた、動くプラモデルが台頭し、黎明期から玩具的性格が非常に強いものでした。
その中でもミドリはゴム、ゼンマイ、フリクション、モーターなどの動力を駆使して、あらゆる動く工作をプラモデルという新しい商品に注入して子供達に提示していったのです。
このカタログのページには宇宙船でありながら水陸両用で遊べるキャラクター商品。水陸両用戦車。そして水陸だけでなく空中でも遊べる水陸空キットと、ミドリが提示するスーパーモデルが勢ぞろいしています。
これこそが今から半世紀近く前の日本に花開いた、「世界一のSFプラモデルブーム」の風景でした。
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「マーキュリー」のキットの様子。 (画像提供:Tachikawaさん) |
上は「マーキュリー」のキットの様子です。シンプルなパーツ群ですが、流麗なラインで構成されている各パーツは見事!の一言。当時バリバリ、ガビガビのインジェクションだったプラモデルが少なくない中、この清潔感こそ、ミドリの示すクオリティであり、ユーザーである子供達が安心感を持った「信頼できるメーカーの商品」だったわけです。
因みに右下に見えるエンジンパーツの垂直尾翼直前に小さくフック上の穴が見えますが、これが空中飛行させる時の吊り下げポイントとなります。
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「マーキュリー」の組み立て説明図。 (画像提供:Tachikawaさん) |
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上は「マーキュリー」の組み立て説明図ですが、ミドリ独特のモザイク状に仕切られたコマに、手際よく組み立て手順が書かれているのが分かります。イラストも明瞭で子供にも分かりやすい内容となっています。
注目すべきは最後の説明図13番と説明図14番の二コマ。これが陸海空万能艇が空を飛ぶ仕掛けです。
13番では「あそび方 りく上をはしらせる時は凸凹の少ない平らなところではしらせて下さい。水上はうしろのほうこうだを右や左にまげてやるときれいにせんかいします。 とばす時は図のようなはり金をまげて長さ90センチのぼうにつけたものをつかうと とめる時、テグスをひっかけるのにとてもべんりです。」と書いてあります。
キットには天井に取り付けるヒートン(ネジ付き円環)と吊り下げるテグスまで同梱されている気の配りようですが、14番では「とばす時はスピードが早く(ママ)きけんですから充分ちゅういしてください。」とあり、かなりな速度で空中旋回しているキットを止めるには、糸を絡める道具を作ったほうが安全ですという、幾重にも心配りのきいたキットだったのです。
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「マーキュリー」同梱のカラータグ。 (画像提供:Tachikawaさん) |
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今では見かけなくなったプラモデルのイラストタグですが、ミドリ、アオシマ、マルイなどはこうしたタグを重視したメーカーでした。
側面図で見ると「マーキュリー」って意外にずん胴なデザインだったんですね。ジェット戦闘機Me-262ってチョーかっこいい!って思っていた中学生のワタシが、胴体平面図を見て「でぶ!」と思ってショックだった、40数年前のあの時を思い出しました。(笑)
原子ロケットと書いてあるので発生パワーは300推力トンで書いてありますが、それが嬉しくて、ちょっと馬力計算をしてみました。やっぱり鉄腕アトム世代は馬力表示しないと気が済まない。
推力300トンで最大速度マッハ8という事は、推力1トン当たり667馬力という簡易計算で約20万馬力。馬力=推力(kg)×速度(m/秒)/75(kg)で計算すると、1,088万馬力と、50倍以上差が出てしまいました。すいません、理系の方、フォロー宜しくお願い致します。
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陸海空万能艇「プラネット」のパッケージ。 (画像提供:Tachikawaさん) |
今度は陸海空万能艇のもう一方の雄「プラネット」の紹介です。
右はその「プラネット」のパッケージ。ダイナミックな構図で基地から垂直上昇する「プラネット」を活写した素晴らしいイラストです!パイロットもキリリとストイックな感じでカッコイイ!
「マーキュリー」の箱絵に比べて、よりシャープさが光る感じですね。
「マーキュリー」同様ボックストップのレイアウト上に、キットの能力を示すミニイラストが入っているのが、当時のミドリSFキットの特徴です。
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「プラネット」のキット全景。 (画像提供:Tachikawaさん) |
いよいよクリアな完成品画像の紹介です。これは今回の画像提供を一手に引き受けて下さったTachikawaさんの手になる作品。
TachikawaさんのSFキットは、丁寧な素組みに清潔感のある塗装で、キット本来の姿を大変良く伝えてくれます。
こうして見ると、パッケージでは「マーキュリー」に比べて直線的でシャープだった「プラネット」の基本構成も、意外に各所はアールの効いた滑らかな曲線で出来ている事が分かります。
ボディの曲面表現がもしかしたら今回の「俺マーキュリー」「俺プラネット」コンテストの大きな得点ポイントになるかもしれません。
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「プラネット」のバックビュー。 (画像提供:Tachikawaさん) |
右は「プラネット」の後ろからのショット。当時の子供たちになじみの深い、工作パーツ単品として広く流通していた「ヤマダのプロペラ」よりも幅広の三枚ブレードが良く分かります。
ぶんぶん回して力任せに風を吹き出すのではなく、そっと大量の空気を押し出すほうが効率が良いというのはプロペラ工学の鉄則ですが、それを地で行くごとき設計のペラは、模型飛行機のプロペラ製造を原点に持つ緑商会の設計の妙のように思われます。
本当にものを飛ばしていたプロペラ設計者のもう一つの境地というところでしょうか。
スポーツカーのバックビューを思わせる車体後部のパネルの雰囲気もバッチリ伝わってくる、絶妙なショットです。
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「プラネット」の正面ショット。 (画像提供:Tachikawaさん) |
キット完成品紹介の最後は、前方からの「プラネット」のショット。パースが効いて大変アグレッシブな印象を与えます。
パッケージイラストだけだともっと直線的に思えた同艇ですが、ブレンデッドウィングボディのように滑らかに胴体と翼をつなぐラインは女性的ですらあり、今回の俺メカコンテスト作品は、単に自動車プラモデルを流用して作るだけではこの雰囲気は出せないかも?と気付かせる絶妙な構図の一枚です。
また、マルイのSFシリーズにはワンショット1パーツで構成されたほぼ相似形の単純なパイロットが付きますが、ミドリの「プラネット」「マーキュリー」のパイロットは頭部(前)、頭部(後)、上半身、ハンドルの4パーツで構成される、当時としてもかなり精巧なもので、ミドリ「お約束」の透明キャノピーと相俟って、他社の追従を許さないリアル感を持っていました。
この精密感溢れるSFメカの魅力こそが、当時の子供たちに「子供だましではない真剣さ」をアピールした事は間違いありません。
今も昔も子供達が夢中になるホビーは、良くも悪くもメーカーや企画会社の大人達「送り手」のビジョンと企画力の掌(たなごころ)の上での一喜一憂でしかないとも言えます。しかし受け手としての子供達は決して大人の手玉に取られているだけではなく、当時としても玉石混交のプラモデルの中から、キチンとしたものとそうでないものをシッカリと見極めながら、大人の提示する商品を観察し、評価していました。
宝石でも絵画でも良いものを見極める目は良いものを見て育まれるものですが、特にSFプラモデルの世界では、そんなプラモデルの審美眼を育てた最も影響力のあるメーカーの一つがこの緑商会だった事は、当時を知る万人が認める事でしょう。
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プロペラタンク「バイソン」のパッケージ。 (画像提供:Tachikawaさん) |
今度はちょっと視点を変えて、当時ミドリの「プラネット」と「マーキュリー」と競合したプロペラSFメカを見てみましょう。
プラモデルがモーターというデラックスな動力を得て、船や自動車や戦車といったあらゆる動く模型に大きな可能性を与えた事は言うまでもありません。
中でも船は大型艦船の二軸四軸スクリューを除けば、殆どがモーターにスクリューを直結させて回すだけのシンプルな構造で十分なパフォーマンスを見せてくれました。
複雑なギアが要らず、メーカー側の設計負荷が少ない船のプラモデルでしたが、とある時期から更に画期的な動力プラモが出てきます。それが将に今回のプロペラ推進による風力走行プラモです。
単純だった船のプラモと比べても更に延長シャフトもゴムジョイントも防水グリスも要らず、モーター直結のプロペラで走行する風力走行キットはお手軽で、しかもうまく設計すれば陸上も水上も、あるいは今回のテーマの「プラネット」のように、糸で釣るして空中飛行まで可能となったのです。
そんな新たな可能性を模索したキットの一つがこの山田のプロペラタンク「バイソン」でした。
この「バイソン」は一見「マーキュリー」と兄弟のようなデザインですが、実際は防水設計のないタイヤのついた地上走行専用マシンで、あくまでもプロペラ走行の未来戦車というコンセプトでした。
ほぼ同じ大きさで同じ外見ながら、ちょっとした設計の妙味の違いで、地上走行だけなのか、水陸空で遊べるものになったのか、大きく道が分かれたのは象徴的です。
特にミドリの水陸空万能艇の「空」を飛ぶ能力とは、先程紹介した「マーキュリー」のパーツ紹介にあった「たった一個の糸を結ぶ穴」が授けた能力であり、ほんの数ミリの穴だけで疑似飛行能力を付与したミドリ設計人のアイディアは、将に遊びのビジョンの勝利といえるでしょう。
それにしてもこの「バイソン」のパッケージを見ると、山田模型独特の糊付けもホチキス留めもない分厚い組み立て箱の時期を思い出して、手触りを懐かしむオジサン方も多いのではないでしょうか。うふふふふ。
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山田模型のプロペラボート「レディバード」。 (画像提供:Tachikawaさん) |
同じく山田の風力滑走モデル、プロペラボート「レディバード」です。
これも丸い船体を基本デザインにした風力滑走プラモですが、陸の「バイソン」と違って、こちらは水上走行のみのプロペラスピードボートでした。
ああ、このイラストのプロペラは”ヤマダのプロペラ”だー!(笑)
このキットの特徴ある前後のフィン構造が良く分かるイラストになっています。
これもやっぱり、当時のヤマダのキットのギミックを一手に設計していた神林久雄さんの手になるものなのでしょうか。
ミドリのリアルなSFとはまた違った、「日常の中にある空想科学」とでもいうような素晴らしい実在感ですね。
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「レディバード」のサイドビュー。 (画像提供:Tachikawaさん) |
さてその「レディバード」の完成品がこちら。上のパッケージの艇体色の赤ではなく、ディープブルーの塗色の為に、一見これはプロペラタンク「バイソン」か?と見間違えますが、後部の水平フィン、前後の垂直フィン、紛れもない「Ladybird」のロゴから、これが「レディバード」だと分かります。
ううーん、ミドリの「マーキュリー」とはまた違った流麗さと重厚さを併せ持った絶妙なデザインだと思いませんか?
それにしてもパッケージイラストといい、実際のキットといい、前方は浮上方向に、後方は沈下方向にオフセットされた水中の水平フィンの効用って気になりますね?どういう効果があるのでしょうか?
単にイラストだけなら何だかありそうでなさそうな「雰囲気表現」なのか?とも思いますが、実際に水上走行するキット自体がそうなっているのであれば、実際的効果のある力学的な仕掛けであろうと想像されます。
これは重いモーターを上に置かざるをえずに重心が高くなる事の対策で、走行時に水の抵抗で艇体後部をより水面に押し付けるダウンフォースを得る仕組みなのでしょうか?今度あらためてTachikawaさんのレディバードの水上走行を観察してみたいものです。
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ヤマダのプロペラタンク「ゼブラ」のパッケージ。 (画像提供:Tachikawaさん) |
プロペラタンク「バイソン」が出たら、次はプロペラタンク「ゼブラ」にも御登場頂きましょう。
順番的には「レディバード」の前に置くのがしっくりくるのですが、「バイソン」と「レディバード」の設計の相似度を見て頂きたかったので、趣きの違う「ゼブラ」はここで。
「バイソン」とはプロペラタンクというコンセプト繋がりですが、そもそも今回の俺SFメカコンテストのテーマ「マーキュリー」「プラネット」からは少しずつ離れていく感じがするのは御容赦下さい。
とはいえ、純粋にこの「ゼブラ」のデザインを見た時に、独特のカタマラン構造の車体がいやにかっこよく見えませんか?
今度このコンセプトでキャタピラ戦車作りたいなぁ。
後さぁ、この時期のヤマダの組み立て箱って…。(いいから、さっき聞いたから)
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水陸両用プロペラカー「プロップエイト」のパッケージ。 (画像提供:Tachikawaさん) |
最後はちょっと毛色が違うかもしれないエルエスの水陸両用プロペラカー「プロップエイト」ですが、プロペラ動力による水陸両用走行キットという機能的側面では、同じカテゴリーに入ると判断したものです。
このキットは初見の方がいるかもしれませんが、それでも独特の車体部分のインプレッションと、エルエスお得意の「既存車体(艇体)流用合体コンセプト」から、ボディは「ジュニアセブン」だな!と気が付かれたかもしれません。
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「プロップエイト」のパーツ構成。 (画像提供:Tachikawaさん) |
ハイ、それ正解です。中身の主体はあのエルエスの名作にして超ロングラン商品「ジュニアセブン」で、そこにプロペラ用エンジン部品と双フロート&車輪を付けたら「プロップエイト」になりました。
細い船体に高い位置の重量物(モーター)を置く事で崩れる重心バランスを、左右に張り出したフロートで支えるのですが、これがまた恫喝的な雰囲気になってかっこいいのです。中学の優等生「ジュニアセブン」君が、高校に入ったら長ランボンタンリーゼントの「プロップエイト」君になっちゃった、みたいな。(例えが昭和?)
おあとが宜しいようで。
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さて、ここまでミドリの「マーキュリー」「プラネット」とその周辺キットについて紹介をさせて頂きましたが、皆さんはどんなインスパイアをもらいましたか?これを機会にあなたも是非自分オリジナル「マーキュリー」「プラネット」を作って、俺メカコンテストに参加してみませんか。
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