UMAの俺SFメカコンテストは、基本的には我が国プラモデルメーカーの手になる、オリジナルSFプラモデル(JOSFプラモデル)のオマージュ作品コンテストです。その作品紹介では、何度か一部のマニアの中で語られている「1966年から1968年(昭和41年〜昭和43年)は、JOSFキット奇跡の年」という呼び方を引用しています。
プラモデルも商品である以上、ブームになって売れる商品筋がはっきりしてくると、そのジャンルに沿ったキットが各社から販売されるのは当然の成り行きです。この僅か3年間に200〜300ものJOSF新製品が発売されたのは、将に奇跡と言えるでしょう。
しかし当時60社程とされる模型メーカーは全て社員数名から十数名。箱詰め、部品作りの下請けを入れてもグループ全体で数十名程の中小企業(体)で、駄菓子屋のクジ売り雑貨玩具や甘納豆メーカーからの参入組を含め、種々雑多、ピンからキリまでのJOSFプラモが日本中に溢れる事になります。
ミドリ、イマイ、コグレをはじめ、アオシマやバンダイ、エルエスなどのJOSFキットは、そのような雑多な商品の中でもクオリティの高い商品を発売していた為に、今でもエポックメイキングなオリジナルSFキットとして語られますが、当時のJOSFキットは、総じて駄玩具的、時に子供だまし的レベルの「思い付きSFプラモデル」さえ少なくなかったのも事実です。
そんな中、遂に当時から日本のプラモデルトップメーカーであったタミヤが、1967年…将にJOSF奇跡の年のど真ん中の時期に満を持してリリースしたのがこのSF高速ボートのシリーズでした。
ミドリもコグレも素晴らしいJOSFキットをリリースしていましたが、1967年と言えばタミヤは1/35で初代キングタイガーやA.M.X.30ナポレオン、1/50で名作零式水上観測機、1/24各種レーシングカーシリーズ、デイティールの素晴らしさでは現在のMMシリーズに連なるクオリティを持つ1/50ポケットミュージアムシリーズの戦車を出していたその頃、同じクオリティでJOSFの世界に打って出たのです。
先に述べたように、JOSF奇跡の3年間といえどまだまだダルダルのモールド、動くかどうかさえ分からない胡散臭いプラモ、キッチュなだけのデザインのキット、箱絵の出来も雑誌の口絵レベルの商品が模型屋の店先に同居する時代に、ようやく模型少年達は、タミヤクオリティのプラモデルとしてのJOSFキットを手にする事ができたのです。
それではそのラインナップを簡単に紹介してみましょう。
SFシリーズNO1「アタックファイズ」のパッケージ |
タミヤの記念すべきSFシリーズのNO1の「アタックファイブ」。最初にこの箱絵を模型店の店先で見た時に、パッケージイラストの王道小松崎イラスト、洗練された田宮テイストのパッケージデザインに「僕はこれを待っていた!」と狂喜したものです。
高速航行するハードチャインの魚雷艇船体のSF艇。当時のプラモ少年にはある意味見慣れたT92空挺戦車「デストロイヤー」風砲塔。巨大な艦対艦ミサイルと、SF模型少年の心をガッチリ掴む説得力と魅力あるデザイン等々、これぞタミヤの提示する新たなSFプラモデル!と大興奮。私事ながら、小学三年生の筆者がシリーズの中で真っ先に買ったのも、このアタックファイブでした。
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SFシリーズNO2「スパークエイト」のパッケージ |
シリーズNO2は今回のテーマでもある、ジェット機が飛び出る高速ボート「スパークエイト」です。
夕暮れ間近の照り返しで茶色に見える海の色さえも、風雲急を告げる体で見る者に迫る迫真のパッケージ。
搭載機はキャノピーの更に上に開口する背負い式ジェットインテークで、アメリカの水上ジェット戦闘機コンベア「シーダート」を髣髴する、波しぶきの流入を避ける設計!
機体サイズをコンパクトに抑える為のV字型双尾翼も先進のSFテイストで、田宮が設計するとSFプラモもこうなるという素晴らしい完成度です。
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SFシリーズNO3「ファイターナイン」のパッケージ |
シリーズNO3はミサイル高速ボート「ファイターナイン」。
戦車の砲塔を載せた一作目、ジェット機搭載の二作目に比べて、ミサイル高速艇というのは当時はデザインの新奇性としては平凡な方向に感じられたものの、今あらためて見ると、強力な6発のミサイル、2基の光線銃、緊急加速用ジェットエンジンを密閉型キャノピーの船体にコンパクトに破綻なく纏めた秀逸なデザインと言えるでしょう。
魚雷艇ではなくミサイル艇?と大人は思ったかもしれませんが、キット発売の半年後、エジプトのミサイル艇によってイスラエルの駆逐艦が沈められるというエイラート号事件が起こり、SFが未来を予測する事になります。 |
SFシリーズNO4「ジェットアロー」のパッケージ |
先の三作は、既に同社が魚雷艇シリーズとして発売した船体を流用していましたが、翌年にリリースされたシリーズNO4「ジェットアロー」は、船体デザインを一新し、ダブルアウトリガーと呼ばれる究極のスピードボートの形態をしています。ダブルアウトリガーというのは今ではあまり聞かない名ですが、1972年にドナルド・キャンベルがボートの高速記録320マイルを打ち立てながら直後に亡くなった時の船と言えばピンとくる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
前三作に比べてボックスサイズは一回り大きく、設定では強力な二基のジェットエンジンで走ります。その為キットでも内蔵モーターとスクリューを省いて、走行は水中モーターのみのシンプルなものになっています。 |
「スパークエイト」のパッケージ側面の解説イラスト。これはボックストップの小松崎氏の迫力ある筆致とは全く違った、クールで未来的なタッチの、大西将美氏の手によるもの。これだけでも素晴らしく精緻な作品ですね。シリーズNO1〜3までは、上記のようなミニイラストと解説が付いていました。このバージョンの大判ボックスアートも見てみたかったなぁ。
因みに右下のキットナンバーの隣にある”120”の表記は言わずと知れた120円の価格表示。市中在庫品にはこの後のオイルショックによるプラモデルの市販価格高騰を受け、仕入れ当時とは無関係の「店の親父による勝手な価格調整の青シール」が貼られているものが少なくなく、ピュアなまま残っているこの個体は、これはこれで貴重なものと言えます。
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それではここからは「スパークエイト」のキット解説となります。
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「スパークエイト」のインスト。 |
まずは「スパークエイト」のインストです。分かり易いように四枚を横並びにしていますが、実際はA4版の裏表印刷を半分に折って、A5版4ページの左綴じパンフレット状になっています。 つまり開いた状態では、表側の左側に上記の一番右の4ページ目、その右隣に一番左の1ページ目が、また裏側には2ページ目と3ページ目が印刷されています。 表側が4Pと1P、裏側が2Pと3Pで、折曲げた状態で左綴じに持ち、1P目の右開き裏側に2P目。その見開き右側に3P目が来て、更にその裏側が4P目となる訳です。分かったかな?同人誌の面付でページを振っている人なら「ああ、あれね!」とピンときたかもしれません。 内容はタミヤスタンダードの大変分かり易いもので、キット自体の部品点数が少ないせいもあり、当時の小学生にもストレスなく組み立てられる優れたものでした。
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左はキットの全貌。当然真ん中のTKKマブチ15モーターはキットには付属していない参考展示です。大変シンプルながら透明パーツを入れて6色のプラ成型となっており、電池ボックスの茶色は船体に隠れて見えなくなるものの、塗装をしなくても5色で仕上がるこのキットは、年少者でもカラフルな完成品となる親切なものです。
左下の黄色い袋はスクリュー、舵、ゴムジョイント、電気関係パーツ、接着剤、グリスなどが入った小袋。先程6色のプラ成型と書きましたが、黄色の小袋に入っているスクリューと舵は軟質プラによるグレー成型で、右上の袋に入ったグレーとは材質的に微妙な差があるので、これを入れれば120円で7色成型という驚異的なキットです。まぁ作ってみるとグレーの色味の違いは、子供にはどうでもいい位の差ではありますが。(笑)
船体下部と動力周りは、兄貴分の魚雷艇シリーズと同じ設計ですが、最大の違いは真ん中の茶色い電池ボックスです。
魚雷艇シリーズの電源回りは、ひょうたん型のキャップ2個を使って単三電池2本を前後に挟み込んでゴムで締めるというもので、シンプルながら端子そのものとなるリード線を剥いて配線するなど面倒な上に精度もいまいちでした。
それがSFシリーズではがっちりした電池ボックスとなり、配線は端子4個のうちの2個にモーターの赤青リード線を巻き付けるだけとなっています。
またスイッチはリード線の反対側の端子2個を、金属製レバー(スイッチ)で接触させるものですが、そのレバーも片側の端子にハトメ留めされて可動する状態で箱詰めされており、魚雷艇シリーズに比べて堅牢、確実、組立て簡単と、三拍子レベルアップされている優れモノ。当時この改良に気づいた筆者は、タミヤという会社の技術力と誠実さに、大変感銘したものです。
この確実さと組み立て易さは、後に件の魚雷艇シリーズにも進化的にフィードバックされ、1971年にはスイッチレスモーターによるクイックキットとして花開く事になります。 |
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いよいよここからは完成品によるキット紹介です。まずは魚雷艇船体三兄弟の揃い踏みから。
手前から「アタックファイブ」「スパークエイト」「ファイターナイン」の三艇。いずれも船体下部の原型は、セミスケールの魚雷艇シリーズである為、どこか可愛らしさを残したずんぐりとした船体ですが、その上部構造を上手くまとめて、特徴あるシリーズに仕立ててある事が分かります。
これが全て50年以上前のキットだとは思えない、魅力あふれるSFボートではありませんか!
因みに「アタックファイブ」と「ファイターナイン」は田宮模型全仕事3に収録して頂いた、記念すべき完成品でもあります。その後自分でも居ても立ってもいられなくなって、全仕事完成後の数年後(今から10年ほど前?)に作ったのが、今回の「スパークエイト」です。作っておいて良かったなー。
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右が「スパークエイト」のベストショット!画像を見て分かる通り、短距離発艦の為のスキージャンプ台甲板が良く分かります。(ボックスサイドのイラストも参照)
先に述べたエジプト海軍のミサイル艇による駆逐艦撃沈は「SFプラモによる現実世界予想」でもありましたが、この「スパークエイト」のスキージャンプ台は、キット発売から13年後に就役した世界初のスキージャンプ台装備の空母、英海軍のインビンシブル級空母の予言とも言えます。
同空母のスキージャンプ台の発想は、シーハリアーの武装搭載量対策の検討によって編み出された苦肉の策ですので、この発想は明らかに「スパークエイト」のほうが先取りしたものです。タミヤ、特許取っておけばよかったのになぁ。(笑)
もう一つ特筆すべきは、驚異的なディティールを誇るフィギュアの表情です。また各所のカッチリしたモールドの他、操縦者兼発艦士官の反対側のバルジには繊細なリベットが!繰り返しになりますが、これが50年前のタミヤの手になる120円のSFプラモデルの実相なのです。
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上は「スパークエイト」のトップビュー。シンプルな中にも必要最小限の機能美を備えたSFボートの白眉。
搭載機は側面形に比べて意外に太っちょですが、これはメッサーシュミットMe262ジェット戦闘機の空力特性を連想させませんか。小さな主翼は高い翼面荷重である証拠ですが、それを補うフライングリフトボディ理論を意識したデザインのようにも見えます。
艇首上部には穴とそこに横たわる桁が見えますが、ここは本来輪ゴムを掛けてジェット機本体のフックに引っ掛ける為のもの。尾翼の下に見える丸い棒状のものがジェット攻撃機の発射スイッチです。
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