あなたが好き
written by Miyabi KAWAMURA
2008/0222
衝撃と爆発音、そして火薬と金属の焼ける匂いの過ぎた後、ディーノの前に立ち尽くしていたのは、懐かしい面影を持つ少年だった。
突然の爆風と、部屋中に広がった煙。
どう考えても異常としか言い様のない事態だというのに、「特殊な効果を持つ武器が未来には存在している」という、ディーノが至極簡単にしてみせた説明を聞き、少年は納得したらしい。……尤も、それはディーノの説得が上手かったというよりも、相手も良く知る赤ん坊の名を出したことが大きかったかもしれない。彼の使う特殊な銃の類に近い、というひとことを耳にするなり、それまで如何にも疑わしげに眉を顰めていた少年は、ふうん、と呟き、興味深げに、表情を変えたからだ。
「ここ、応接室だよな。並盛中の」
部屋を見渡し、懐かしそうに言ったディーノに向かって、黒い目が注がれる。
風貌、声、金色の髪。人それぞれの個性を形作る部分に変わりがなくとも、雲雀が見慣れた二十二歳の姿と比べ、やはりどこか印象が異なるディーノに対して、幾分の違和感を感じているのだろう。
「――、……あなた」
何事かを問おうとした相手の先を制して、ディーノは昔よくそうしていたように、雲雀の黒い髪に手を伸ばした。が、しかし。
雲雀に触れた瞬間、自分の犯した過ちに気付き、ディーノは指に絡めた髪を黙って見詰めた。
手を、伸ばすべきではなかった。触れるべきではなかった。
一度触れてしまえば、絶対に耐え切れなくなる。もっと先が欲しくなって、我慢出来なくなるに決まっていた。
指先が懐かしむ、黒い髪の柔らかな感触。
否、懐かしいなどという言葉では足りない。――何故なら、それは自分が、未来に於いて既に喪ってしまっていたものだったからだ。
抱き締めたのは、殆ど衝動に近かった。
駄目だと己を律する間すら無く、触れたいと感じた気持ちのままに、相手の――十年前の、「十五歳の雲雀」の薄い背に腕を回す。
突然の行為にすぐさま抗いを見せた相手の顎を掴み、唇を覆い呼吸を奪った。奥まで差し込んだ舌で殊更に口腔を愛撫してやれば、雲雀の身体はディーノの腕の中で簡単に体温を上げる。
重ねた唇に直接伝わる相手の呻きが吐息に変わり始めたのを確かめて、溢れた唾液で濡れた口元を舌で舐めると、そのまま耳朶に触れた。歯を立ててそこを齧れば、細い首筋は血を昇らせて赤く色付いた。
離せ、と、咽喉を震わせた掠れ声で告げられた強がりの中に垣間見える、少年の幼さ。……それはこんなにも愛しいものだったかと、心の内で自問しながら、ディーノは抱き締めた身体を、ゆっくりと傾けていった。
記憶の中に残る色形のままそこにある黒いソファに雲雀を横たえ、何度も名前を呼んだ。見かけ以上に華奢な造りの肩から滑り落ちた学ランを、サイドテーブルに置く。
制服のシャツのボタンをひとつひとつ丁寧に外していきながら、雲雀が暴れ拒むたびに髪を撫ぜ、唇を寄せてやると、組み敷いた身体は、与えられた仕草の甘さに戸惑って、少しの間、抵抗を止める。……その隙に唇を奪い、絡め取った舌を噛み扱いてやれば、雲雀の身体からは次第に強張りが消えていった。
滑らかな肌に掌を沿わせ、胸の尖りを指と唇で順々に嬲る。そこが色付き、しこり始めたにつれ、鈍い痛みを伴う快感が生まれてきたのか、雲雀はディーノの髪をきつく握っては離し、掻き回すような仕草を繰り返した。
「ァ、……ふ、ぁ」
噛み締めた唇の合間から、時折赤い舌先が覗く。眦に透明なものを滲ませ、しきりに腰を捩っているのは、感じる鈍痛にすら悦んでいる証拠だ。
快感を持て余し、もどかしげに四肢を揺らす姿。
十年ぶりに目の当たりにした雲雀の媚態に、ディーノは鳶色の目を眇めた。
「んん、ぁ……ッ、痛……ッ」
「ここ、嫌?」
「――っ……ッ、う」
「痛いだけか? ……本当に?」
聞いても、雲雀からの答えは無い。
唾液を舌に乗せ、水分を纏わせてやった尖りを軽く吸う。最初は淡い色をしていたそこは、濃い赤色に充血していた。指で押し、薄い胸元に頬を寄せるようにして、ディーノは舌先で雲雀の左右の胸を交互に弄った。女の身体のような柔らかなふくらみが無い分、どくどくと忙しなく音を立てる雲雀の心音は、ディーノの耳の間近で聞こえる。
胸を弄られて感じることを、最初に雲雀に教えてやったのは、いつだっただろうか。
愛撫を続けながら記憶を辿って、しかしディーノは考えることを止めた。もし、この時代の自分がそれをまだ雲雀に教えていないというのなら、今、ここで自分が、教えてやればいいだけのことだ。
ぷくりとした尖りを歯列で挟み、力を篭めると、走った痛みに雲雀が咽喉を仰け反らせた。
痛いのと気持ちいいのが綯い交ぜなった感覚が良いのか、雲雀の手はディーノを引き剥がそうとする反面、縋るような動きもまたしている。
「……ッ、そこっ」
嫌がりながら、しかし隠し切れない快楽に、雲雀の表情が艶めいたものに変わっていく。
未熟な肢体の中の、ごく限られた場所を愛されているだけなのに、黒い双眸は潤みきっている。小さく微笑うと、ディーノは虐めすぎた尖りを歯列から解放した。途端、雲雀が漏らした吐息。――こんな程度で、行為が終わる訳がないというのに。
ディーノは身体を起こすと、真上から雲雀を見詰めた。
乱れた息を繰り返している唇に右手の中指で触れ、一度頬を包む様にしてから、その掌を下腹部へと動かしていく。
「――ッ……!」
辿り着いた、場所。
息を飲む音が、眼下の細い首から漏れる。
雲雀の身体の中心に置いた掌に力を篭め、そこを押し撫でた後、ディーノは衣服の中に隠された雲雀の形を確かめるように、指を這わせ始めた。
「っ、は、ぅ……っ」
指先で先端のあたりを強く擦り、そして掌全体で握り込んだ。五指を動かしながら、雲雀自身が芯を持ち固くなり始めるタイミングを、衣越しの感触を頼りに、ゆっくりと計っていく。……もう少し。あと数回このまま扱いてやれば、膨らみ熟れた部分が布に擦れて、雲雀はきっと、啼き出さずにはいられなくなるだろう。
どうすればこの身体を感じさせることが出来るのか、その手段を知り尽くした相手から与えられる刺激は、いっそ毒に近い。
「止め……っ、ぁ、んんっ」
雲雀の声に混じる喘ぎは普段喋る声よりも少し高くて、まるで動物の啼き声のようだった。
ディーノが指を動かすたびに薄く開いた唇から甘く声を漏らし、けれど目だけは痛みを堪えるようにきつく閉じて、瞼を震わせている。その頑なさは、むしろ突き崩してやりたくなる類のもの以外の、何物でもない。
ベルトを緩めファスナーを降ろし、制服の前を寛がせた中に、ディーノは愛撫の指を進めた。既に湿りを帯び始めていた下着の上を、指の腹で執拗に擦る。
「……ゃ、だ、……ッ」
びくりと身体を跳ねさせて暴れ始めた相手の口を、ディーノは左掌で押さえ声を封じた。
射殺されそうな強さで、自分を見上げてくる黒い瞳。どうにかして逃れようと動く四肢の抵抗を、一番弱いところをきつく捏ねてやることで遮ると、ディーノは雲雀の着衣を膝下まで引き降ろした。
「ン、んん……ッ!」
晒させた身体は、前戯によって薄らと汗ばみ、もう先走りを滲ませている。そこを見詰められていることに気付いたのか、どうしようもなく湧き上がる羞恥に、雲雀は無意識のまま、身体を震わせた。
「……恭弥」
黒い髪の合間に覗く耳に唇を寄せ、わざと淫らな単語を選んで声に乗せる。
「……ッ……」
伝えられた言葉に反応し、雲雀の黒い目の中に拒絶の色が浮かぶ。しかしディーノからしてみれば、それも想像の内だった。
「……怖いか?」
気の強い相手を挑発するための偽悪。
けれどディーノのその声は、何故か酷く甘く雲雀の耳に届いた。
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