『僕は、ここに残る』




 ……雲雀がその意思を明確な言葉として告げた後、一体どれだけの議論がどれだけの人間の間で交わされたのかなどということに、雲雀本人だけは、全く興味を持っていなかった。そして、雲雀本人と、そのことについて言葉を交わした人間は、いっそ信じられない位に少なかった。ボンゴレ十代目を継いだ少年と、そしてアルコバレーノの二人だけだ。







「待って下さい……!」



 それは、雲雀が件(くだん)の発言をしてから、数日後のことだった。

 この時代の自分の――十年後の世界の雲雀恭弥の活動拠点であるという地下施設に設けられた回廊を歩いていたとき、背を追ってきた声に、雲雀は足を止めた。

「この間の、ことですけど」

 走ってきたのか、少年の息は乱れていた。

「残るって……、でも、それじゃ」

 何か言い募ろうとして、けれどそこで唇を噛み、黙り込んでしまった相手のことを雲雀は見遣った。否、正確には、少年の肩越しに、その向こうに立っている相手のことを見遣った。


「ヒバリ」
「何? 赤ん坊」


 普段と全く変わらない声音で呼ばれて、雲雀も、普段と同じように返した。


「もう、決めたんだな」
「決めたよ」
「……分かった」


 簡潔極まりない遣り取りは、時間にすれば、数秒にも満たないものだった。
けれどその次の瞬間に、雲雀を巡る事態に関する最終決定権は、ボンゴレ十代目へと移行したのだ。
 一度だけ、何かを振り切るように被っていた帽子のつばに触れ、その角度を直すと、アルコバレーノはヒバリに据えていた目を、ボンゴレ十代目へと向けた。


「だったら後は、ツナ、お前が決めるだけだぞ」
「……オレが?」
「そうだ。お前だ」


 ひとの気配のしない、静謐な空間。
そこに響くアルコバレーノの声は、やはり普段と変わらないものだった筈なのに。……その声を何故か、雲雀は今でも、思い出すことがある。




「雲の守護者を、手放すのか、手放さないのか。……それを決められるのは、ボンゴレの大空だけなんだ」










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