エルエス

SFシリーズNo.6 スペース2号


 エルエス、即ち「サン・ライト」の略のS&Lをモノグラム(組み文字)にして転回させて読みとしたこの会社は日本を代表する古参のメーカーです。東洋の片隅に、我プラモデルの王国がようやく開国して僅か2、3年程で往年の名作1/75日本機シリーズをリリースしている実力派で、その後1/1の名銃シリーズや、先の1/75日本傑作機シリーズでは我国でも殆ど先駆となった凹モールドキットである枕頭鋲モールドの飛龍、九六陸攻等を社長の英断による多額の金型費投入によって1960年代中期にリリースしたエポックメイキングな会社でもあります。そのエルエスも1960年代後半に、SFプラモデルの隆盛を受けて自社オリジナルの空想科学メカのプラモデルを発表しました。その中でも最もスパルタンな魅力に溢れるデザインのキットがこの『スペース2号』でした。

 我王国、即ち日本に於けるプラモデルは良くも悪しくも「動くプラモデル」という基本コンセプトから長い事外れる事はありませんでした。高度成長期という時期の日本にもたらされたプラモデルという新しいホビーは、アメリカ製プラモデルのコピーから始まったように、まず欧米と同じく精密ディスプレイキットとして産声を上げましたが、間もなく産業として成立する為に「新しいおもちゃ」というスタンスでその基盤を固めました。敗戦から僅かに十数年の我国で、既に世界のトップクラスにあった数少ない産業として動くおもちゃ=ティントーイのマスプロ技術がありましたが、それがプラモデルと融合するのは至極当然の成り行きであったと想像できます。プラモデルが精密レプリカとして発展するのと時を同じくして、その模型に動きの楽しさを付加するという方向付けが為されたわけです。

 一方で欧米の科学文化に破れたと痛感した敗戦という現実は、大人子供の区別無く、無言のうちに科学信奉に拍車をかけます。元来明治開国以来、科学立国欧米に追いつけ追い越せを念頭に置いた我国では、少年層に対する科学啓蒙の風潮も今以上に強かった事は忘れてはなりません。明治33年に押川春浪が発表した「海底軍艦」、あるいは戦前戦中に雑誌「少年倶楽部」や「機械化」に発表された小松崎茂をはじめとする科学作家が送り出す数々の超兵器。熱狂的に読まれ、諸手を上げて迎えられたそのサブカルチャーはその後のプラモデルの発展に二つの側面から影響を与える事になったと、王国アカデミーの歴史研究グループは見ています。

 まず第一に、日本の小国民のハイパーウェポンに対する憧れは、マガジンやサンデーといった当時の少年雑誌の口絵に脈々と受け継がれ、あるいはアトムや鉄人といった科学を全面に出したマンガで少年達に影響を与えていた事。そして第二に、その超兵器というビジョンに触れた第一世代たる人々が、実は他ならぬ当時のプラモデルメーカーの主導的立場にいた事です。つまり送り手と受け手とが夫々違ったメディアと作品によって、しかしその本質において同一の科学兵器ビジョンをもって醸成されたという文化的背景があったのです。

 動きを与えられたプラモデルがやがてその器としてのスケールモデルという頚木を離れ、純粋に「ギミックの妙を具現化する手段」、つまり動きの面白さというエキスを煮詰めた商品として独自に昇華していく土壌の一つとして先の文化的下地があった事は否定できません。そして我国では続々とメーカーオリジナルの超兵器SFプラモデルが姿を現すのです。送り手のビジョンは狙い違わず受け手のビジョンと重なったのです。

 しかし、当時を回顧する上で非常にインパクトのある「キャタピラ走行を実現したSF戦車」というものは実はそれほど多くがリリースされていたわけではなく、SFプラモの比率でいえば走行機構の簡単なSFボートやSFビークルが大半を占めていました。やはり無限軌道を有するプラモデルはメーカーに求められる技術レベルが高く、おいそれと商品化するわけにはいかなかったのです。そんな中でもっともハイセンスな雰囲気を出していたのがこのエルエスのSF戦車でした。
 エルエスのパッケージを特徴付けるシャープなハイライトが印象的なボックスアート。今からみれば取って付けたような翼やミサイルですが、当時の少年達はこの先進のメカデザインに強く憧れ、それを喜んで受け入れたものでした。
 左下隅に価格:1,000円の青シールが貼ってありますが、その下の実際の印刷では350円となっています。








 組み立て説明書から、このキットの心臓部である走行機構組み立て部分のピックアップです。同じ設計のギアボックスを向かい合わせにタンデムにセットし、回転対象にある駆動輪で車体軸の左右のキャタピラを回すデザインはタミヤの初代M−41ウォーカーブルドッグと同じですね。
 一番上の部分に「太枠はリモコンにしたとき」と書いてありますが、実はこの組み立て説明書の次の欄は同じ走行機構組み立て部分の「シングル版」の説明が記述されています。王国広報担当は1960年代後半にこのキットを購入していますが、彼の不確実な記憶によれば、その時店頭には確かにリモコン版、シングル版が一緒に並んでいたかも?との情報もあります。

 キット全景。部品押さえのタグに内部図解があるのは当時のSFプラモデルの一つのスタイルでした。単なるフィクションのデザインがこの図解イラストによって何倍もの説得力を持つ事になったのです。
 車体上部部品群。他社のオリジナルSFプラモデルに大きく水をあける卓抜したセンスは、今見ても陳腐さを感じさせません。
 左上のウィング等は、それだけで実在するジェット機のスケールモデルを彷彿とさせる素晴らしさです。
 車体下部部品群とギアボックス。このキットはシングル、リモコン、ゼンマイと3種のバージョンをこなす為、シャーシには3者を勘案したモールドが入っています。このマルチパワーソース方式は、SFプラモのみならず、自動車プラモにも見られるエルエス独自の設計思想です。
 使用モーターであるRE14の為にシャーシに窪みが見えますが、これは別なモーター仕様であったキットを後に改修したようには思えず、最初からこの形でモデル化されたと見るのが妥当でしょう。だとすればこのキットは、RE14が発売された1966年以降にリリースされた事がわかります。
 一部にバリは見られるものの、全体的にはいたって綺麗な仕上りをみせるパーツですね。
 このキットのもう一つの特徴の、横置き型リモコンボックス。この中に単2電池を4本収めます。縦置き型リモコンボックスが主流の中で、ユニークさが印象的です。
 キットのパッケージの側面に印刷されているSFタンクのラインナップの一つ、同社SFシリーズNo.3「ゼンマイ・スペース1号」。
 同じくSFシリーズNo.4「ゼンマイ・スペース2号」。これは今回紹介した「スペース2号」のゼンマイバージョンです。
 同じくSFシリーズNo.5「リモコン・スペース1号」。1号、2号共にシャーシのデザインは同一で、上物を載せ替えてシリーズ化していました。

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