蘇るSF戦車!

ミドリ(童友社再版) アトラス (デミタス氏作)



製作・撮影:デミタス

 昨年童友社から再販されたジュニアモグラスに続くデミタス氏の可動ギミック再現レストア第二弾は、2000年3月に同じく童友社から再版された旧ミドリのアトラスです。

 画面右端に僅かに見えるアンビリカルケーブル(^_^;)からも分かるように、このキットは4チャンネルのリモコンモデルとして再現されました。オリジナルのアトラスは前後進のみの1チャンネルシングル走行であった為、キャタピラの回転を左右で独立させる為には、シャフトで直結された左右の転輪を独立して回転させる必要がありますが、デミタス氏はホイールを一旦3.2ミリ径で貫通させたあと、3ミリ径の銅パイプに差し込み、両端からM2.6のナベネジを無理矢理ねじ込んでワッシャーで抜け止めとしました。レポートに「実際に走らせてみたところ、かなりキャタピラが外れやすかったので、上部に外れ止めを設けました。」とあるように、第2転輪の上部と第4・第5転輪間上部にワッシャーを使ったキャタピラガイドが見えます。但し「効果は今一つでした。」との事で、キャタピラにセンターガイドのないシンプルなタル形転輪では、キャタピラ脱落防止が一つのハードルになりそうです。このあたりは、アメリカのM−1エイブラムスが開発初期に於いて苦心したキャタピラ脱落防止との戦いを彷彿とさせて興味深くもあります。
 

製作・撮影:デミタス
 
 このモデルの心臓部である3チャンネルギアボックス。タミヤの「ツインモーターギヤーボックス」を流用しながらも、起動輪と同軸で駆動される左右のカッターを回転させる要請から、カッター回転用の機構は同ギアボックスをベースにして新たにギアシステムを追加するという、「パラサイトギアボックス」とでも呼ぶべき巧妙な仕掛になっています。
 前回のジュニアモグラスに比べて各段に内部スペースの広いアトラスの車内容積が、この積層ギアボックスの収納を可能にしています。
 

製作・撮影:デミタス

 同ギアボックスの裏側からのショット。以下デミタス氏からのレポートです。

 「ギヤボックスですが、キャタピラ駆動用の部分は、ほぼそのまま使用しています。ただし、G2、G3のギアを通す6角シャフトを3ミリ真鍮棒に交換し、イモネジで固定せずにギアが自由に回転するようにしてあります。また、終端の12枚歯ギアは、6角シャフトを2ミリ真鍮棒に交換したため、同寸のピニオンギアに交換してあります。
 さて、ギアボックスを左右から挟むようにカッター駆動用のギアを配置してあります。ボックス上部にモーターを固定し、左側のカッターまで伝達してくる途中、先述の3ミリ棒の両端に取り付けたギアで右側にも伝達します。左右のカッターは、キャタピラ駆動用の2ミリ真鍮棒にかぶせた3ミリパイプ(銀色部分)に取り付けられています。右側のカッター用ギアからさらに下におろし、一番下の軸に取り付けたクラウンギアを回転させます。」

 なんとも凄まじいパワートレイン設計!オリジナルではキャタピラ駆動と左右カッター回転の為には1本の起動輪シャフトを動かせば事足りた部分が、左右起動輪、左右カッターと、各々に対して独立したパワー供給ラインを設計しなければならなくなった氏の苦労は、並大抵の事ではなかったと想像できます。
 「アトラスをリモコン化するには、ここまでやらなければならないのか!」…それが素直な驚きでもあり、それをクリアしたデミタス氏への賛辞の言葉でもあります。
 

製作撮影:デミタス

 車体にセッティングされたギアボックスと先端の大型カッターへのパワー接続部分が分かるショットです。説明を氏のレポートから転載します。

 「(大型カッターの)クラウンギア取り付け用に本体を切り欠き、ギアが一部露出してしまったのが残念でした。このギアボックスはそのまま使用するのでしたらピッタリ収まりますが、今回左右にかなりはみ出る形になったため、調整が一苦労でした。ギアボックスの側面から飛び出している軸部分の張出しを、全てホットナイフでそぎ落とし面一にしてもまだ収まらなかったため、アトラス本体をギヤ形に切り欠いてようやく収まりました。」

 この説明からすると、単にギアボックスの改造のみならず、そのギアボックス収納の為にもかなりの手間をかけている事が分かります。前述のようにミドリのSFキットの中では比較的車内容積の大きなキットながら、それでも据え付けにはこれだけの改造を必要とするわけですね。根本的解決方法としては、スタートラインに立ち返ってもっと小さなギアボックスをベースとして使用する、あるいは走行用ギアシステム自体を自作するというアプローチも考えられますが、走行時の基本性能安定と信頼性の高さを考えると、おそらく現在入手できる最も駆動性能の安定したリモコンギアボックスであるタミヤの「ツインモーターギヤーボックス」の使用は最善の選択であるとも考えられます。

 一見苦労多き道のりのように思われながらも、高い駆動性能を実現する為には「急がば回れ」の格言の如く、まず妥協できない基本部分を押さえ、その後に一つ一つ着実に問題解決を重ねて行く姿勢が大事なのかもしれません。
 

製作撮影:デミタス

 完成した作品のカッター回転の様子です。車体は静止したまま、カッター部分のみが回転する絵は、何か強烈に新鮮なものを感じさせます。

 「オリジナルでは麦球が点灯する仕様でしたが、今回カッターと連動するように2個の発光ダイオードを取り付け、正転時に赤、逆転時に黄色く光るようにしました。」とレポートにあるように、カッター回転方向とリンクした操縦室天蓋部分のライト(発光ダイオード)が赤く光っているのがよく分かります。車内にきちんとフィギュアが乗っているのもデミタスさんのSFモデルの特徴ですね。
 

製作撮影:デミタス
 
 「後部円盤のギミックです。本体駆動とは別にカメラ用のリチウム電池を使用し、モーター軸に直接螺旋パーツを取り付けて飛ばすはずでしたが、いまいちパワー不足です。数センチ程度の浮上にとどまってしまいましたので、機会を見て強力なモーターに換装したいところです。」

 という記述のあった円盤部分の回転の様子です。ゼンマイを一気にリリースして発進させるオリジナルギミックに比べて、モーター軸直結で回転させる方式では、オリジナルのような飛行の再現はかなり難しそうです。とはいえ、その方法でも数センチ程度ながら実際の浮上再現まで実現したという事は、根本的な方法論としては決して間違ったアプローチでは無いこともまた事実で、デミタス氏の高い技術を勘案すれば充分射程距離内に目標を捕らえた成果といえます。この「ギミックの再現性の存在証明」は、後に続くレストアラーにとっても貴重な参考知見になることでしょう。
 

製作撮影:デミタス
 
 見よ、完成なったJSDOアトラスの勇姿!

 「(今回の改造の結果)カッターを回転せずに移動させたり、停止したままでカッターを回転させたりというアクションが可能となりました。ただしそれに伴い消費電力もアップしたため、フル駆動だとややパワーが落ちてしまいます。」という事ですが、単独でのカッター回転を見る限り迫力は充分で、万一改良を加えるにしても供給電源のパワーアップは、対策としては比較的容易な事でしょう。

 それにしてもこうして改めてアトラスを見てみると、重量感溢れる足回り、強力な3連カッター回転、格納式連装ミサイル、円盤型宇宙船発射機構、パトロールランプ点灯と、身体中をギッシリとアイディア溢れるギミックで固めたこのキットが、当時のメーカーオリジナルSFプラモデルの一つの頂点を極めたものと言っても過言ではないでしょう。
 それは嘗てミドリというメーカーが求めてやまなかった空想科学のビジョンであり、またそれを迎えた子供たちの夢に他なりません。今から30年前にそれを与えてくれたミドリに、そしてその素晴らしさに共感し、受け入れた当時の子供達自身の感性に、時間を超えた賛辞を贈りたいと思います。
 

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