むじな屋の幻

タカミ 1/72 零戦52型 (プラグジャックシリーズNo.1)



 モーターライズ飛行機プラモラモデル全盛の昭和40年代初期、こんなプラモデルがあったとも無かったとも…。

 スケールは1/72なので使用するモーターは当然マブチ・ベビーモーター。風防ガラス、補助翼、フラップ、昇降舵、方向舵、主脚、尾輪は可動。電池は展示用のベースに内蔵するタイプです。

 所でベースに電池を内蔵させるタイプのキットは当時の一つのスタイルでしたが、そのベースと機体本体を接続させる部分の工夫が足りず、ここがグラグラだったり、回路の接触が悪くてうまくモーターが回らなかったりしたキットが少なく有りませんでした。そこでこのキットは、そのベースと機体の接続に当時トランジスターラジオの普及で一般的になったイヤホンジャック(プラグ・ジャック)を使用して確実な接触、装着を実現している所が大きな特徴です。この部分にプラグジャックを使用して装着が確実になったという事は、「着と脱」が同時に確実に行えるようになったことであり、飾る向きにも手で持って空中戦をさせる向きにも持って来いだったわけです。当然ベースから外して遊ぶ時にはモーターは回らないのですが、逆にベースに装着した状態でもベースと機体の接続がプラグ・ジャックである為、水平方向には360度自由にクルクルと回転させる事が出来、(しかも電源を入れたままで!)合わせてベーススタンドのアームが前後に動くためにスタンドに付けたままでかなり自由に飛行姿勢を変えられました。

 また、このキットのもう一つの特徴は1/72クラスのキットでありながら翼端灯が光る事です。勿論麦球は別買ですから、メーカーとしては翼端の透明部品を付けて麦球を収める部分に一工夫するだけでこういった効果を出せるのですから、この辺りは当時の他のメーカーにも頑張ってもらいたかった所です。ユーザー側も金銭的に余裕が無ければモーターだけ、あるいは人によっては麦球だけを買う選択も出来たわけです。

 このパッケージはテストショット時のもので、後に「プラグ・ジャック シリーズ」となったシリーズ名が、まだ「イヤホンジャックシリーズ」となっています。「ボックスアートのイラストをお願いした大学生との打ち合わせが不充分で出来上がったパッケージが、こう、真四角になっちゃってねぇ。出荷までは『店頭で他のメーカーのキットと重ねられない』って小売店から苦情が来ないかと心配でした。」と、後に社長が語ったように当時としては異様なほど正方形に近いパッケージですが、小売店では”ぱっと見”が斬新だ、あるいは高級感があるにも拘わらず100円売りという所で逆に割安感がある、などと好評で、後の同社のシリーズの先鞭をつけたといえるでしょう。

 このキットに使われているプラグ・ジャックは同社オリジナルではなく、あくまでも弱電部品の流用で、こうなると仕入れの問題が絡むため、どうしても他社の同じクラスのキットより原価が上がってしまうのではないかと心配してしまいます。逆にいうなら他社のキットと同じ100円でやって行けたのだろうか?という事ですが、それについても社長は後にこう語っています。

 「あれ(プラグジャックシリーズ)はグッドアイディアだったんだけど、確かに仕入れ先を捜すのは苦労したね。ひどいところでは1個20円も吹っかけられてね。だって、うちが出荷するときの値段が一箱40数円なんだからこれじゃ商売にはならないよね。そんな時私の遠い親戚がやっている部品メーカーが不渡りだしちゃってさ、うちがプラグ・ジャックの仕入れ先捜しているって聞いたんだけどよかったら在庫を安く引き取ってくれないか、って電話してきてね。どうせ数日中に差し押さえ食らっちゃうのでプラグ一円ジャック一円の1セット2円じゃどうか、っていうんで確か10万セットを20万ぐらいで買ったと思うよ。それでもさ、50円100円売りのゼンマイ自動車のプラモデルを作ってる所を考えりゃ、うちなんかはまだいいほうだよ。ああいうメーカーの原価管理には頭が下がるよね。」

 そうしてようやくこのキットに発売のメドが立ったのです。そして社長の話は続きます・・・・。

 「プラグジャック売ってくれたその叔父は夜逃げの現金が出来て助かった、って泣いてたね。他の奴だったら同じ量で5千円一万円で買い叩かれる所だったって。でそのあと田舎に帰って新興住宅地の小学校隣に文房具屋を開いてさ、元々機械とかが好きだったのも手伝って倉庫にスロットカーのコースを作ったりもしたらしいね。プラモデルも扱ってたらしくて、プラグジャックシリーズをみると『この中の部品は俺が作ったんだ』って、嬉しそうに話してたらしいよ。その後身内から二束三文で買った山が、高速道路通すってんで買い上げられて今じゃ倉庫業の資産家だよ。俺も模型屋なんかじゃなかったら、もっと羽振りが良かったかな?でもね、高速道路に山売っても子供達の喜ぶ顔は見られないからねぇ。」


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