海底戦車「スーパードラゴン」(tachikawaさん提供) 2013.07.06高画質版で再録 |
実は水ものオフ会の案内ページで「スーパードラゴン」「バラクーダ」「バッファロ」を紹介するのは今回が2度目で、既に2006年の水ものオフ会の企画「俺キングシャークコンテスト」の時に、我が国のJOSF(日本メーカーオリジナルSFキット)に於ける水陸両用戦車の歴史とともに登場しています。
その時はキングシャークがメインテーマで、スーパードラゴン等ミドリの海底戦車ファミリーは「こんなキットのノリもOKです!」という立場でした。丁度今回のテーマとは逆の立ち位置での紹介でした。
まずはもう一度その時のページを参照して、我が国のプラモデルの中で、海底戦車、水陸両用戦車とはどういった歴史的位置を占めていたのかをおさらいしてみて下さい。
SF海底戦車(水陸両用戦車)としてはダントツの知名度を誇るニチモのキングシャークの発売が1968年の2月で、この「スーパードラゴン」の発売が1968年3月ですから、発売時期だけをみると両者ほぼ同時開発のキットで、どちらが先行したとか、真似たとかいう事ではありませんでしたが、1980年ごろまで再販されていたキングシャークに比べて、多分再販が掛からなかったミドリの海底戦車達は知る人も少なく、ある意味幻のキットと言えるかもしれません。
このシリーズの特徴は何と言ってもモーターと電池が水密パッケージに入っており、着脱式モーターケースとして機能した事です。メカニズムの詳細は後述しますが、ミツワのカセットモーターを水密式にしたようなこのパワーユニット部分は、水ものプラモが元気だった当時、色々な意味で無限の可能性を秘めたメカと言えます。しかし画期的だったこの機構ながら、基本的にはこのキットでしか機能せず、例えば水陸両用車に使うにしろ、単純に水もの模型に使うにしろ、後は年少者ユーザーの創意工夫に任せておしまい…だった展開にはその後が見出せず、シリーズ3作ですら再版が掛からなかったと言う結果になりました。
JOSFの巨人ミドリが数ある日本の水陸両用戦車の歴史の中で、満を持して最後にリリースしたキットながら、兄貴分に当るミドリJSDOビークルに匹敵するヒット商品にはなりませんでした。
しかし…。
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水陸両用戦車「バラクーダ」(tachikawaさん提供) 2013.07.06高画質版で再録 |
右は同じメカ機構を使ったバラクーダ。最初のスーパードラゴンが「海底戦車」だったのに比べ、同じコンセプトながらこちらは「水陸両用戦車」と銘打っています。
水底だけでなく、水上も走る戦車だよ、というアピールを明確にしたのかもしれません。
バラクーダ(オニカマス)は英文の名前ながら、JSDOの基本コンセプトに基づき、車体にはキリリと勇ましく日の丸が描かれています。
ゼロ戦と戦艦大和という世界一の兵器を持ちながら戦争に負けた事実を重く感じていた少年達は、ミドリのJSDO世界の中に純粋な愛国少年としての自己を見ていたと言えるかもしれません。
こういうプラモデルだけでなく、広く兵器メカのプラモデルに関して、大人達から眉をひそめられる事も少なくなかった当時、単純に強いものとの同化を求める少年心理の根底で、ボク達はミドリのSFプラモに明確なカタルシスを感じていました。
そうです。他社の水陸両用戦車が例え日の丸をつけていても何とはなしに満足できなかった、強い戦車に対する憧れと日の丸による同化が、このミドリ海底戦車軍団で色濃く提供されたのです。
特にこのバラクーダはノスタルジックな旧軍戦車のデザインコンセプトを備えていますが、これはかなり意図的なデザインである事は明白です。実はミドリは当時既に、おもちゃ然とした世界戦車シリーズ(1962年)と、ミニスケールとして十分見栄えがするインスタントタンクシリーズ(1967年)で二つの四式戦車をリリースしています。ニチモのベビータンクシリーズを含めても、21世紀に入ってファインモールドからキチンとした四式戦車が出るまで、世界中でリリースされた四式戦車は、このたった3種類しかありませんでした。ミドリの社長草野次郎氏が如何に四式戦車に思い入れがあったかを考える時、このバラクーダは、草野氏にとって生まれ変わった最強の四式戦車だったに違いありません。
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1969年のミドリのカタログに掲載された水陸両用キットの面々。 |
1968年に発売されたスーパードラゴンとバラクーダは、1969年版の緑商会のカタログで確認できます。
若干プアな画像で申し訳有りませんが、「水上陸上両用」とタイトルされたページには、当時ミドリから発売されていた水陸両用キットが5台揃い踏みをしています。マル数字順に陸海空万能艇プラネット、同じくマーキュリー、宇宙船アストロボート、水陸両用戦車バラクーダ、海底戦車スーパードラゴンの面々。
当時ミドリが水陸両用というコンセプトで、如何に多くのキットを出していたかが分る貴重なショットです。しかも中のプラネットとマーキュリーは水陸のみならず、天井から糸で吊って、プロペラの推進力で空中を旋回するというスーパープラモでした。
特にマーキュリーは縦横比が小さい扁平な車体長のため、こんなものを糸一本で吊るして、果たしてうまく旋回機動をするものかいな?と心配でしたが、実際に動かしてみると凄いスピードで安定して旋回を続けるスグレモノでした。ミドリは決してセールスポイントの性能を裏切らない確実なギミックを、年少者のユーザーに提供していたのです。
こうして見ると、スーパードラゴンとバラクーダが、意外に縦長でスリムなデザインだった事が分ります。
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水陸両用戦車「バッファロ」(資料協力ニューヨーカーさん) |
今度はミドリの最後の水陸両用戦車「バッファロ」です。上はその貴重なパッケージ。ミドリのSFキットのパッケージは色々な魅力溢れるタッチの作品でマニアの心をくすぐりますが、作者に関しては殆ど知られておらず、僅かに近年、亡くなる直前の中西立太先生の証言でビートル2世などの初期SF作品が先生本人の手になる事が分ったに留まります。ところがこのパッケージには「T:Ishida」のサインが確認されます。スピンドリフトや宇宙大作戦、1969年のミドリカタログなどで印象深い大胆でポップなタッチの作品が石田氏であるという事がこれで分りますね。
北氷洋の海上と海中で繰り広げられる激しい戦いの中、氷上を、海中を自由自在に動き回るバッファロの姿を活写したダイナミックなイラストが素晴らしいです。
ミドリのパッケージはボックストップにギミックや性能諸元などが書かれた結構賑やかなものが多く、スーパードラゴンもバラクーダも、それ以前のミドリSFメカのパッケージを踏襲していますが、このバッファロは使用モーターの記述すらオミットした、非常にスッキリしたものになっています。
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1970年のミドリのカタログに掲載された「バッファロ」 |
スーパードラゴンは1968年の3月、バラクーダは1968年の7月発売ですが、バッファロは日本模型50年史のデータベースや手持ちの雑誌広告では確認できない、発売時期が微妙に違った水陸両用戦車三兄弟の末弟です。
ただ1970年の同社カタログには一人だけでバッファロが掲載されているのが現在唯一の手がかりです。1969年のカタログに載っている二人の兄がその前年に発売されている事を考えると、バッファロは1969年に発売されたとみるのが妥当でしょう。
因みにパッケージに準じてこのキットの呼称を「バッファロ」としていますが、当時の少年でも一般的には「バッファロー」と最後の音を延ばすのが正しいように思われました。その証拠に、この1970年カタログでは「バッファロー」と延ばした発音で記載されているのが興味深いところです。
古いタミヤ初代のロンメル戦車や、オモチャ同様の日本ホビーのS型戦車(スウェーデンのStrv.103.後にタミヤのミニタンクでSタンクとして発売されたあの戦車です)などがあったものの、SU−100以外の固定砲塔…所謂ケースメート型戦車は当時まで知名度は高くありませんでした。
ところがこのバッファロが発売された年の直前に当る1968年12月、タミヤから名作(新生1/35)「ロンメル襲撃砲戦車」が発売され、その新鮮さとカッコ良さに多くの模型少年が魅了される事になります。
今回貴重なバッファロのキットを提供して頂いたUMAのニューヨーカーさんも、「他の2つのキットは確かに店頭で見た事はあるもののそれ程触手は動かなかった反面、このロンメル似のバッファロを見た時『これだ!』と感じ、思わず購入した。」と証言されています。その話を裏付けるように未組み立てながら、現物の車体はダークイエローのスプレー塗料で塗装されています。
多分この塗料は1968年にタミヤから発売されたタンクカラーではないかと思われますが、当時はこういったSFプラモとスケールプラモの世界が同居していた時代でもあります。
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「バッファロ」の車体下部。(資料協力ニューヨーカーさん) |
さて、いよいよこのシリーズの最大のセールスポイントである着脱式モーターケースとギアボックスの様子です。
オーナーのニューヨーカーさんはこのユニット部分だけを組み立てられており、メカの様子が良く分かります。
車体下部はぱっくりと開いた状態で、モーターケースはそこにこのようにセッティングされます。これは仮組み状態ですが、この後中央部分の二つのポッチに細長い板状のパーツを二つはめ、ポッチを中心に回転させて車体左右の底板とかみ合わせてケースを固定します。
ケースは向かって左側のフタの部分が外せるようになっていて、ここから単三電池2本を出し入れします。40年以上の年月で劣化したパッキングのゴムがムニュっとはみ出していますね。
フタは回転する2本の金具で固定されます。
電源のオン/オフはフタの突端に付く回転スイッチで行います。画像ではケースの左端に見えて居るのがそのスイッチで、車体にセットした後でも操作が楽なように設計されています。
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ギアボックス部分(資料協力ニューヨーカーさん) |
今度はギアボックス部のアップです。ステンレスと思しきギアボックスも全く水中曝露状態で、水中でもこの状態で可動します。
モーターケースから出ている赤いピニオンギアの付け根にはグリスを注入する為の穴が開いていますね。
また、右側に伸びるシャフトはスクリュー軸で、ここにいかにもミドリらしい、大型の2枚ペラが付きます。
ここでもう一つ注目すべきは車体下部のバックに写っている耐水性シールのキット表記で、明らかに「バッファロー」となっています。パッケージもインストもキット名は「バッファロ」ですが、シールの表記だけ「バッファロー」というのも面白いですね。
如何に当時の日本中の子供を熱狂させたSFプラモメーカー”緑商会”であっても、基本は中小企業。
プラモデルという商品を、子請け、孫請けの下町企業同士で協力し合ってて世に送り出す中で、色々と人間臭い連絡ミスがあったのだろうと想像するのも、ちょっと楽しいですね。
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特報!ここから先は追加収録画像です! |
海底戦車「スーパードラゴン」(tachikawaさん提供) 2013.07.06追加 |
Tachikawa秘宝館館長から寄せられた貴重なスーパードラゴンの箱入り写真。当時の子供達がこうして箱を開けた時、メタリック成型のミドリのスーパーSFに感じたドキドキ間が甦ります。
今でこそJOSFキットというとどこかキッチュで眉唾的なイメージがあるかもしれませんが、当時のミドリSFキットはこの画像に見られるようなシッカリ、キッチリ、カッチリのSF優等生キットでした。 |
海底戦車「スーパードラゴン」 2013.07.06追加 |
次はこれも貴重なスーパードラゴンの完成品画像。前掲したミドリのカタログ画像はプアだった為によく分らない部分も有りましたが、ディティールまでかなりシッカリと分かりますね。
ただ、車両側面のミサイルや車体後部の司令塔(?)に付く潜望鏡様のパーツ、砲塔頂部ににはめる空気抜きのポリキャップ、そしてギアボックスのスイッチ留め金具の片方が無いジャンクですが、側面からのショットでスーパードラゴンのプロフィールが理解できます。
これも追加画像ながら、広報担当のPCの中の模型資料を渉猟していて再発見したスーパードラゴンの完成品画像で、御提供に心当たりの方は動く模型愛好会掲示板から管理者のオヤヂ博士宛に御一報下さい。
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海底戦車「バラクーダ」(tachikawaさん提供) 2013.07.06追加 |
今度はまたまた貴重なバラクーダの完成品画像です。このページはレイアウトのバランスを考えて、画像と文章の「寄せ」は一段ずつ左右交互に散らしていますが、先のスーパードラゴンと比較しやすいようにほぼ同じ大きさ、ほぼ同じ構図の側面写真を2枚左寄せで掲載してみました。両者の似ている部分、似ていない部分が一目瞭然です。
パッケージイラストでは一見砲塔と車体が分離しているように見える為「砲塔は回転するデザインながら、キットでは空気室の要請上ここは固定になった。」と考えていましたが、こうして両者の側面デザインを見ると、どうも最初から砲塔は回転しないデザインだったかも。あるいは車体後部の司令塔部分は取って付けた様にも見えるので、浮力追加確保のために、後から追加した構造物のようにも取れます。
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海底戦車「バラクーダ」(tachikawaさん提供) 2013.07.06追加 |
バラクーダの、やや前方からのトップビューショットです。
多分車体の基本形を作り、そこに破綻のないように面を擦り合わせながら各構造物をビルドオンしていったのではないかと思われる作りですね。
アポロ月着陸船、2001年宇宙の旅、スターウォーズなどを目の当たりにして、その後は「真空の宇宙空間ではメカの流麗さには意味が無いんだ」とばかりSFメカのデザインの連続性を無視してボコボコメカが雨後のタケノコのように出て来ましたが、宇宙メカと水陸両用戦車という違いこそあれ、ミドリはこうして破綻の無い基本ラインを重視してベースを作り、そこにミサイルや垂直尾翼のような「SFのサイン」を外付けで行う事で、重厚かつ奔放なオリジナルデザインを作り出していったことが伺えます。
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海底戦車「バラクーダ」(tachikawaさん提供) 2013.07.06追加 |
最後はバラクーダのバックビュー。若干ピントが弱かったので小さめの画像での紹介となりますが、ここは重要な部分なので敢えて掲載しました。
そう、気になるギアボックスとスクリューの関係が完成状態ではどうなるのか?という点です。
答はこのように割り切った開放型デザインだという事です。(分り易ッ!)
スーパードラゴンもバラクーダも出来るだけスクリュー効率を良くするために車体後部パネルは敢えて付けず、更に水の流入をし易くする為に車体工面上部には給水用スリットを設けています。
一方バッファロは車体上面後部はカーゼマット砲塔のラインを崩すことなく最後端まで延ばしてそこにはスリットは設けず、前車2両以上に車体下部最後端の筒の部分を短くしてギアボックス部分を効率よく使って水を吸入しています。
プロペラ角が比較的大きくとってあるミドリ独特のスクリューは、大変効率が良さそうでワクワクしますね!
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