動く戦車オフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト、2012年のテーマは…
さて、それではここでテーマの元となった「アトラス」に関して、作品制作の参考のために若干説明を致しましょう。 但し毎度の事ながら、作品制作に不必要なほど語ってしまうので、興味の無い方は読み飛ばして下さい。(笑) |
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奇跡の3年間に記す不滅のオンリーワンSFメカ 宇宙戦車アトラス 1969年緑商会カタログより |
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ミドリの名作宇宙戦車アトラスを語る前に、まずはアトラスが生まれた時代について触れたいと思います。 昭和33年(1958年)12月に我が国初の商品としてのプラスチックモデルが発売されて以来の10年間は、本邦プラモデル文化の黎明期とも言える時代で、マルサン商店のテレビ番組タイアップCMと相俟って、爆発的にプラモデルという新商品が世の中に出回った時代でした。 しかし当時はあくまでもスケールモデルとして花開き、ティントーイなどの玩具文化に下支えされた、動くおもちゃとしてのプラモデルが受け入れられた時代でした。 欧米の先進プラモデルを参考にし(あるいはもっと直截的にコピーして)自社キットとして販売する、という大人の精密ソリッドモデルキットという路線で始ったプラモデルの方向性は、すぐにその中にオキュペイドジャパン(占領下日本)の数少ない輸出品目として健闘した、動くおもちゃの技術が移植され、「動く戦車」「動く自動車」「走る船」といったギミック優先の年少者向けプラスチック・コンストラクション・キット…動くプラモデルとして進化したのです。 欧米でもモーターライズドキットは少なかったわけではなく、自動車や戦車、艦船や航空機、果てはポンプで水を吐き出す「火事場」などというキットまで、様々な試行錯誤キットも販売されましたが、販売総量で見る動く模型のシェアは決して高いものではありませんでした。 そういった意味では、おもちゃのように動く事で驚異的に市場を伸ばした日本の動く模型の動向は、世界的に見ても特異な展開をしたと言えるでしょう。 ざっくりと言えば、欧米キットの9割が動かないコンストラクションキットだったのに比べ、日本では9割が動くプラモデルだったという様相だったのです。 しかしそういった特異な発展を見た我が国のプラモデルは、戦車や自動車を動くようにした、というノリに留まらず、ギミックを具現化する為の商品手段として、現実には無いメカを作り出すというベクトルに突出したのです。 単純に「動くスケールモデル」ではなく、もっと「自由な発想で動かすプラモデルを!」という要請から、空想科学テイストのスーパーメカを、メーカーサイドがオリジナルのデザインでリリースしたのが、日本のメーカーのオリジナルデザインSFプラモデル…一部のマニアからJOSFキットと呼ばれているプラモデル群だったのです。 昭和41年から43年という年代は、そのJOSFキットを知る人達にとって「奇跡の3年間」と呼ばれる時代です。それ以前にもJOSFの黎明期とも言うべき時代のキット…ロボットだったり、水陸両用戦車だったりというものは細々と発売されてはいましたが、この僅か3年間に200〜300というJOSFプラモデルが販売された事実は、他に例を見ない日本独自の模型文化の歴史的特徴と言えるでしょう。 それは明治以降、西洋の科学文明に追い付け!追い越せ!を国是としてきた近代日本の中で、押川春浪、海野十三、小松崎茂等の、科学を未来技術の論理的骨子と捉えた少年文化の啓蒙者が培った記憶を、メーカーの送り手がプラモデルの受け手である少年たちに提示した、一つの肯定的文明論でもありました。 そういった下地があってこその、空論ではない未来像がJOSFの本質であったと言えるでしょう。 そんな中で、JOSFの先鋒ともいえるメーカーが他ならぬ緑商会でした。 ここでその奇跡の3年間でミドリがリリースしたキットを以下に纏めてみると…。 |
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という具合になります。同じ時期にはこれ以外にスティングレイやギララシリーズや冒険少年シャダーシリーズなど数多くのキャラクターキットが同社から発売されていますが、それらは上記には含まれていない事を勘案すると、当時ミドリが如何に精力的に空想科学プラモデルをリリースしていたのかが伝わってきます。 先にこの同じ時期に全ての日本のメーカーが発売したJOSFプラモデルは300に迫ると書きましたが、上記のミドリのラインナップを見ると、これらは決して同じ範疇で語られるものではなく、将にミドリのキットこそが、その時代を先導したものである事が分かります。 例えば1966年に発売されたビートル2世は、その年の日本プラモデル工業協同組合の顕彰するプロフィット賞に輝いていますが、これは模型小売店の投票で最も売り上げに貢献した模型として選ばれたものです。 これだけでも、スロットカーブームという模型バブル期(1966年がピーク)の終焉に際し、新たなブレイクスルーとしてメーカー、ユーザーの両方からJOSFが脚光を浴びた事、そしてそのパイオニアがミドリであった事に疑う余地はありません。 その「奇跡の3年間」の中、ミドリが最も油の乗りきった時期に発売されたJOSFキットの一つが、今回俺SFメカコンテストのテーマになった宇宙戦車「アトラス」でした。 |
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アトラスの初版パッケージ。前輪スプロケット駆動により、ピンと張り詰めたキャタピラが嫌が上にも緊張感を増す秀逸なボックスアート。この時期のミドリのパッケージイラストは、他社に群を抜く迫力あるリアルなものでした。 格納庫から展張した内蔵ミサイルとバックに描かれるその発射シーン。発進直後の円盤型偵察艇。赤く光るパトロールランプと最大の特徴であるカッターの強力無比な破壊力!アトラスのスペックの全てを一枚のイラストで活写したJOSFボックスアートの将に傑作です。 踏み潰される敵の地上発射ミサイルも、当時話題になった地対地核ミサイル「デービークロケット」を髣髴とさせるデモーニッシュなデザインです。 パッケージから敵を蹂躙する破壊音が聞こえてきそうな動きのあるショットですが、メインのメカを後方から捉えた構図は斬新で、当時の子供にも分かりやすく新鮮なものでした。 パッケージの端にブラックストライプを配したデザインも画面を引き締める効果的なもので、元気一杯の当時のミドリのパワーを感じる箱絵です。 同じ時期に発売されたタミヤの1/35グレイハウンドが300円、キングタイガーが600円という時代を考えると、SFプラモデルで500円という価格設定はそれなりに高価なもので、時期的にクリスマス商戦を狙ったデラックスなキットだった事が伺えます。 |
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次に紹介するのは宇宙戦車アトラスの再販パッケージです。 ミドリのパッケージイラストはその筆致から数人のアーティストが関わっていたと思われますが、実は個別の作者は殆ど特定されていません。 最近の研究では、この時期の作者としては中西立太先生がビートル2世や1/40装甲車シリーズ、1/28大戦機を描かれた事が分かっていますが、ダークイエローの質感から、どうやらこのボックスアートも中西先生のタッチであるようで、ある意味荒唐無稽になりがちな空想科学メカが、実在感のあるリアルなものに仕上がっています。 小松崎茂先生、梶田達二先生、長岡秀星先生、そしてこの中西立太先生など、当時の錚々たる我が国第一線の超一流イラストレーター諸氏が、JOSFのビジュアル的側面をバックアップしていた事が分かります。 このパッケージでイイ味を出しているのがあたふたと逃げ惑うロボット異星人ですが、前景のやられキャラとその後ろに控える威風堂々としたメインメカの対比は、ミドリSFシリーズの真骨頂とも言え、ミドリのキットを語る時に外せない、あのタイガーロボや四式中戦車の画面構成を思い起こさせる優れたイラストです。 |
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今度はミドリ最終版のアトラスパッケージです。ビートル2世やバンガードに比べ、アトラスは再販パッケージのバラエティに欠しいキットで、現在知られて居るのは初版、再版、そしてこの最終版の3種類のパッケージです。 今まで幾つか俺SFメカコンテストの俎上に上がって紹介させて頂いたミドリSFメカシリーズですが、あっという間にこののっぺりしたボックスアートに至るアトラスは少々残念な気がしますね。 当時の風潮としてエアブラシ多用の安易な作風は否めず、初版、再版を知る者としては時代の流れを感じざるを得ません。 それでもミサイルの格納ギミックやパトロール円盤のダイナミックな発進シーン、巨大なカッターや車体情報に聳(そび)えるダブルレーダーアンテナや赤外線ライトなど、アトラスの備える模型としてのギミックの説明は十分で、斜に構えるアングルによって醸し出されるデモーニッシュな迫力は、将にアトラスの魅力満載で、同じ時期に描かれたエアブラシによる緑最終版イラストの中では最も迫力のあるものに仕上がっています。 |
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そのミドリ最終版アトラスのキット構成。内容は初版版から変っていませんが、キットに使用するモーターの変更(bP5からRE26への変更)により画像に映っていないモーター押さえパーツの追加や、シルバーであったパーツが黄色い原色に変るなど、いくつかのマイナー変更がなされています。 それでも初版から変らないミドリ独特のメタリックブルーの印刷がされたパーツ袋を封印するタグは、当時の少年達の興奮を思い起こさせますね。 最終期ミドリは、レトロフューチャーなリアル感から逸脱し、ストレートに年少者ユーザーにアピールする原色成型路線にキット内容の舵を切りますが、それでも生まれ持ったパーツのシャープさを最後まで失わなかったのはミドリの矜持とでもいえましょう。 こうして見ると、最小のパーツ構成で最大のギミックを保証したミドリの設計陣のデザイン力の高さが伺えます。 年少者に向けてメーカーが尽力したメッセージは、こうして最高峰のパフォーマンスを実現したといえるでしょう。 |
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最後はミドリの懐かしいキットを再版して、当時のSF模型少年(今ではオッサン)を狂喜させた童友社版の紹介です。 紹介っつーても、ミドリ最終版と同じパッケージじゃねーか!(ぷんすか)と怒らないで下さいね。 実はこのパッケージ、ボックストップのイラストの右下の、オリジナルでは「JPM」マークがあった場所に金色の丸いシールが張られています。 実はこれ、童友社再販時に出荷一箱(1ダースか2ダース?)の中に一個だけ同梱されていた「金色パーツバージョン」のレアものなのです。 この差別化がどれほど販売戦略に貢献したかは不明ですが、当時は下町の零細玩具下請けメーカーによって下支えされていたプラモデル用廉価版ギアボックスが入手困難となり、泣く泣くギミックを排した童友社が取った、狗肉の販売戦略だったのかもしれません。 単に走行するSF戦車と違い、全てが何かしら特別なギアボックスを有していたミドリSF戦車は、インジェクションプラスチック部品だけを準備すれば再現できる商品ではなかったのです。 |
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その童友社版再販キットの金色バージョンパーツがこれです。残念ながら筆者が組み立て途中の為(ゴメンね〜)差別化された金色ランナー部分のセレクト紹介となりますが、ちょっとゴージャスな雰囲気がお分かり頂けますでしょうか? このパーツはどうやら灰色成型色の上にシルバーメッキを掛け、更にその上からクリアーイエロー塗料をエアブラッシュしたようです。筆者はこの商品を、馴染みの模型店に「金色シールの張ってあるレアバージョンが欲しいのッ!」と無理矢理頼み込んで入手したアホな輩なので、逆にノーマルバーションがどうなのか分かっていないのですが(とほほ)、多分この構成からすると、ノーマルバージョンはミドリ初版に近いシルバー成型ではないかと思われます。 一方車体は、ミドリ最終版が単純なブルー成型だったのに比べて、ミドリの当時の特色であるメタリックペレットを使用した、独特のマーブリング注形の味のあるものになっています。 この写真では良く分かりませんが、ミドリ最終版に比べて車体前部のカッターは、ギアボックスギミックがオミットされた関係で単純な一本シャフトでセットされるようにマイナーチェンジされていて、オリジナルよりカッターのセッティングが、より前方に配置されるようになっています。当時を知るミドリ愛好家の間では、これが少々オリジナルアトラスの重厚な面持ちのバランスを崩す要因だと指摘されているようですね。 余談ながら、筆者はこうしてレア版を入手しながら、金色パーツを無視して改造を始めた馬鹿者であります。(ごめんねー) |
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逆に童友社版では、ギアボックスをセットするに当って車体下部パーツに縦に切り欠かれていたドライブシャフト用ミゾに沿って、シャーシーとボディーをしっかりセッティングできるようにホゾが新設されています。 画像は奥がミドリ最終版で、手前が童友社再販版です。手前ボディーに二本の突起が出ているのがお分かりでしょうか?単純ですが、この部分によって車体上下がぴったりと接合できるのが気持ちよいのです。両者の成型色の違いも分かりますね。 また、手前の童友社版のカッター切り欠き最前方にちょっとだけシャフト押さえの新規モールドが見えると思いますが、これが先に述べたカッター空回しのシャフト押さえ部分で、最終ギアのクリアランスがない分前方に突出したセッティングになっている事が一目瞭然です。 ある意味これがアトラスの最大の特徴であるカッターを、より強調して見せるセッティング位置にしているといえますが、ミドリオリジナルが持つシャシーにめり込んだ安定と重厚さを失っている部分であるとも言えます。 多分再販時に検討した結果、もっと後ろのミドリオリジナル版の位置にセットするためには金型の改修が大ごとになる(シャフトの前側の押さえがボンネット最前部の外板とは別モールドとして必要になる)為、敢えてここに位置決めしたのではないかと思われます。 |
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カッター付きSF戦車というのは、その恫喝的な迫力からそれなりに存在していてもおかしくないと思われますが、実際は数百に及ぶJOSFキットの中でも非常に少数派で、僅かにバンダイの国際宇宙軍2号「デストロイヤー」にその例を見るに留めます。 デストロイヤーは非常に扁平な車体が最大の特徴で、これはこれで他に例を見ない非常に魅力的なJOSFメカであるといえますが、正統派宇宙戦車のデザインに破壊用カッターを破綻無くブレンディングしたアトラスのデザインは特別で、カッターの存在感という点ではミドリに一日の長があるというのは多くのJOSFファンの意見かと思われます。 …とはいえ、デストロイヤーも俺Fメカコンテストのテーマにしてみたいものですなぁ。>諸氏 |
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数少ないカッター装備JOSFメカですが、もう一つ弩迫力のキットを紹介致しましょう。 これはSFビーグルではないSF宇宙船といった風情のメカですが、実際のキットは空を飛翔するわけではないので、所謂「はいずりもの」として地上走行をする円盤メカとなっている、クラウインの「ウルトラキング3号」です。 これも他に類を見ないスンゴイデザインですが、車体(っつーか、艇体?)上部の6つのカラーインジケーターは、1960年代のティントーイ円盤玩具の定番とも言え、当時を知る者達にとって非常に懐かしいテイストを持つ逸品です。 ただ、こうしてある意味無理矢理カッター装備のSFメカプラモデルを列挙すればする程に、アトラスの持つスタンダードなSF戦車デザインにモディファイされた回転カッターというのは得がたい魅力である事を再認識させられます。 こうして当時のSFキットを俯瞰する時、JOSF奇跡の3年間に現れた、しかし他には誰も似ていないオンリーワンのアトラスの魅力が改めて突出している事を認めないわけにはいきません。 |
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さて、ここで平面カッター装備のSFメカをピックアップしたノリで、驚異のオリジナルSFカッター戦車を紹介させて頂きましょう。 これは動く模型愛好会オフ会常連のフィレサンドさんの作品、斬撃特攻宇宙戦車『ZAST』です。 フィレサンドさんは、例年の動く戦車オフ会の俺SFメカコンテストの常連でありながら、時に自身の抑え難い心の叫びに応じて、オフ会テーマに迎合しない「俺は今回こういうのを作りたいんだッ!な、メカ」を持参して、居並ぶ参加者の度肝を抜く会員さんでもあります。 氏が言うところの「何にも似ていない宇宙戦車シリーズ」として発表された2011年の作品は、将に誰も想像だにしなかった大型水平カッターを装備した凶悪な破壊者でしたが、その正面にはミドリSF世界を継承したJSDO(日本宇宙開発局)の文字が燦然と輝く、正統派JOSFメカだったのです。 今までこれほどJSDO世界観を踏襲した作品はなかっただけに、他の参加者の驚きと衝撃には大変なものがありました。 ある意味今回の俺SFメカコンテストのテーマは、この作品によって励起されたものと言っても過言ではないでしょう。 寄らば斬るぞとばかりの恫喝的な10枚の回転ソードは、スマートに纏められた他の車体部分とは隔絶された威容を誇り、今まで誰も見た事の無いSFメカの境地を知らしめたのです。 単に奇を衒っただけではない基本デザインの素晴らしさ、そして丁寧な仕上げの美しさなど、新たなJSDO世界の担い手のあるべき姿を見事に具現化した「ZAST」は、多くのJOSFファンに影響を与える事になるでしょう。 |
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さて、今まで紹介させて頂いた「アトラス」とその仲間達を、皆様は如何御覧になりましたか。JOSF戦車が最も輝いていた時代の代表的SF戦車に思いを馳せ、皆さんも想像力溢れた最強の宇宙戦車「俺アトラス」を作ってみようではありませんか。 |