動く戦車オフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト、2014年のテーマは…
さて、それではここでテーマの元となった宇宙探検車に関して、作品制作の参考のために若干説明を致しましょう。 但し毎度の事ながら、作品制作に不必要なほど語ってしまうので、興味の無い方は読み飛ばして下さい。(笑) |
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JSDO宇宙をリアルに演出する名脇役 宇宙探検車!
画像提供:宇宙戦車ファンさん |
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実はミドリのSF戦車の中で「探検車」と名付けられているのはこのスペースコマンドと万能8輪探検車スパイダーだけで、やはり当時の子供達にアピールする為には、宇宙戦車、地中戦車、海底戦車といった名前の押し出しの効くバリューが必要だったのでしょう。 左は1967年年末商戦に向けてアトラス、ビッグモグラスと共に雑誌広告に掲載されたスペースコマンドの商品雑広。 スーパービートルとスペースコマンドはどちらも1967年の1月発売となっているので、新装再版のかからなかったスペースコマンドも同年年末まではロットを重ねて発売されていた事が分る貴重な資料です。 兄弟分のミドリSFビークルの面々を見ても、その突出した機能デザインが、スペースコマンドの(ある意味凡庸な)スタイルと性能に比べて、如何に先進のSFビジョンを備えていたかが分ります。しかし…。 小説や映画の世界では、とある作者や監督が手掛けた作品の中でも、デビュー作にこそその作者の全てが詰まっていると言われます。メジャーになって多作を望まれる中で、時代の要請や自分の新しいアイディアを短期間にものにしていかなければならない時期の作品ではなく、デビュー前の時期に何年にも渡って自分の中で温め、自分の中のあらゆる引き出しのネタの中から最も俺様な要素を凝縮したものが、その作者のルーツに根ざした作品として生み出されたものが、その作者の本質に近いからだといわれています。 スペースコマンドはミドリのSFビークルの最初のキットでこそ有りませんが、キングモグラスに続くSF装軌ビークルとしてこの時期に発売された事は重要です。 地にもぐるドリルも、敵を蹂躙するカッターも無い、他社でも例の少ない純粋な宇宙探検車として生を受けたスペースコマンドは、逆にそれ故にミドリの…極言するなら草野次郎社長の空想科学現実に対するこだわりのイマジネーションに深く根付いた作品であろう事は想像に難くありません。 戦前の科学冒険小説に触れ、戦中の米英の科学戦力に一敗地にまみれた苦い経験を持つ草野氏にとって、スーパーSF兵器に劣らぬ宇宙開発のシーンに欠かせない汎用SFビークルとは、将にスペースコマンドのように地に足の着いた、堅実で頼もしい宇宙探検車に他ならなかったのです。 |
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右の画像はいつもこの企画で画像提供の協力をして頂いているミドリキットコレクターの第一人者、宇宙戦車ファンさんのコレクションです。 無武装であるスペースコマンドの最大の特徴は、車両後部の格納庫に小型偵察車が収納されていて、ハッチを開けてそれが取り出せる事、そしてその偵察車がフリクションで自走する事です。 ドリル回転、カッター回転、4本キャタピラでの走行、パトロール艇自動発進、驚異のトーキングシステムと連動したミサイル自動発射機構、等など、他のミドリSFビークルのスーパーギミックと比べるとスペースコマンドの仕掛けは地味なものですが、逆に汎用的な「格納庫」という存在は、こうして様々なミニモデルと組み合わせる事が可能です。 ミニ車両の左端の、シンプルな銀色の三輪車がスペースコマンドオリジナルの偵察車で、その他はミドリのベビーシリーズのベビーモグラスとベビーバンガード、そして当時お約束の駄菓子屋パチものベビースーパーアローです。 スーパーアローは本家ミドリからは発売されず、駄菓子屋商品としてオリジナルのスーパーアローを参考にモデル化されたと思われますが、今となってはパチものジュニアモグラスと並んで当時の駄菓子屋文化を証言する貴重な資料となっています。 |
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今度はスペースコマンドの組み立て説明図です。少々小さいのは、モデラーの心眼で補って下さい。(笑) 車体そのものが単純な構造で大技のギミックも無い為、設計自体が非常にシンプルなものになっています。 偵察車もフリクション機構と前輪を車体左右で挟み込んで、両側からゴムタイヤを嵌めるだけというこれ以上単純化できないほど簡便な設計です。 一方でビートル2世のパワートレインを踏襲し、ウォームギアをうまく使って起動輪を駆動する部分や、シンプルなだけに逆に見せ場になるレーダーの自動回転など、ミドリの設計がきらりと光る部分も見逃せません。 歯と歯が直角に交わってこすり合わされる事でパワーロスの多い「ウォームギア」は、例えば工学博士である故佐貫亦男先生などは、あまり多用しないほうが良い機械要素と仰ってますが、摩擦の少ないプラスチックギアですので効果的に使えば非常に駆動機構が簡略化できるメリットがあり、イマイと並んでプラモデルの駆動部分にうまく活用していたミドリの設計力とセンスが光ります。 組み立て説明図は各社のセンスと特徴が良く出る部分ですが、ミドリのインストハ大変分りやすく、イラストも清潔感があってとても好印象だったものの一つです。 キット固有のギアボックスが無く、ランナーも車体2枚と透明部品1枚だけのシンプルな構成で、他に若干の金属部品だけですから、偵察車のフリクションを出来合いのプルバックゼンマイにするなど工夫すれば、簡単に再版ができる部品構成に思えます。 童友社さんはミドリの金型をほぼ保有していると伺っているので、できればこのキットも再版して頂きたいものです。 私事になりますが、私はこのキットを小学校3年生の時に購入しました。当時のお小遣いが少ない子供にとってモーターライズキットというのは中々高嶺の花で、モーターは数少ない手持ちのものを次々に使い回しする状態でした。 その為確かこのキットに使ったマブチNo.15モーターも古いもので、グリスを差すという事を知らなかったが故に「チュイーン」と変な音がするものでした。 電池も非力なマンガン電池が1本25円。今では100円ショップでアルカリ電池が4本、6本とセットで売っているのに比べて、四半世紀近く前の価格としてはこれもまた高価な消耗品でした。 お陰で私のスペースコマンドは青息吐息でやっと走行するような状態でしたが、このインストを眺めていると、建て直す前の古い家の板の間で、一心にスペースコマンドを作っている自分が甦るようでナツカシさが込み上げます。 |
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右はスペースコマンドのデカールです。 ミドリが明確にSFシリーズと銘打って発売したキットの最初の一つにエコーセブンがあります。このキットのデカールには大き目の日の丸が付いていましたが、その後のビートル2世とキングモグラスでは一旦その日の丸マークが消えます。 そして次の新製品であるスーパービートルとこのスペースコマンドから再度デカールに日の丸マークが入るのですが、更にその後ミドリは自社のSFシリーズにJSDO「日本宇宙開発機構」という設定を加えて、ミドリSF世界の演出を開始します。 そういった点で、この時期に復活したスペースコマンドの日の丸マークは、ミドリが自社SF世界を広げる事になる足場固めの意味があったと思われます。そのように見ると車体に燦然と輝くイーグルマークとJAPANの文字も鮮やかな日の丸マークは、宇宙開発に於ける日本の活躍を夢見ていた草野社長の思いが伝わってくるようです。 |
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さて、今まで紹介させて頂いたスペースコマンドを、皆様は如何御覧になりましたか。JOSF戦車が最も輝いていた時代の名脇役に思いを馳せ、皆さんも想像力溢れた力強い「俺宇宙探検車」を作ってみようではありませんか。 |