俺SFメカコンテスト


動く戦車オフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト、2017年のテーマは…
歩行メカ
宇宙探検車「サタン」だ!

初版「サタン」のパッケージ 画像提供:へんりーさん
★「俺サタン」コンテスト 参加要領

 ・ニットーの歩行探検車「サタン」をオマージュして、参加者自身が製作したSFメカである事。
 ・四足歩行で自走可能である事。(四足以外の多脚歩行車両も可)
 ・「サタン」の最大の特徴である、歩行するメカを創作して下さい。
 ・事前のアナウンスでは「歩行戦車」としましたが、よりキャラクターを明確にする為に代表キットとして「サタン」を
  選びました。但し歩行するSFメカであれば、戦闘車両という設定での「歩行戦車」なども大歓迎です。
 ・市販キットからの部品流用は自由。
 ・屋内でのデモンストレーションが可能であれば、サイズや動力等に関する制約なし。
 ・オリジナル版の「サタン(サターン)」による景気付け参加も受け付けています。
  
(俺SFメカコンテストのシール貼付投票はスクラッチ作品のみです。オリジナルキットの参加作品は一般の
   ビジュアル、テクニック、ヒストリカル用の投票用紙で評価して下さい)

 さて、それではここでテーマの元となった歩行探検車(歩行戦車)に関して、作品制作の参考のために若干説明を致しましょう。

 
但し毎度の事ながら、作品制作に不必要なほど語ってしまうので、興味の無い方は読み飛ばして下さい。(笑)
 
ニットーの技 歩行するという事はこういう事だ!

 唐突ですが…。
 1954年11月、東宝が満を持して「G作品」として制作してきた特撮大作、水爆大怪獣「ゴジラ」が公開されました。
 国内ばかりではなく海外でも大好評となった「ゴジラ」は、以降1年から7年の不定期な間を開けながら、1965年12月までには「ゴジラの逆襲」「キングコング対ゴジラ」「モスラ対ゴジラ」「地球最大の決戦」「怪獣大戦争」と、6作品が世に送り出されます。
 一方東宝の「ゴジラ」に独占されていた怪獣映画界に遂に強力なライバルが現れました。それが1965年11月に大映が公開した大怪獣「ガメラ」です。当初大映の経営陣も「ゴジラの二番煎じでは鳴かず飛ばずだろう。」と否定的だったものの、結果的には予想を覆して大ヒットとなり、早くも半年後の1966年4月には「大怪獣決闘ガメラ対バルゴン」が公開されます。
 長らく怪獣=ゴジラだった日本ですが、「ガメラ」と同じ年にTBSで「ウルトラQ」の放映が開始され、1967年には日活が「大巨獣ガッパ」を、松竹が「宇宙大怪獣ギララ」を公開して、日本は一大怪獣ブームへと突入する事になります。

 一方で…。
 1966年6月、本家の「ゴジラ」に遅れる事11年。マルサンが動く怪獣シリーズとして世紀の大怪獣「ゴジラ」を発売してプラモデル界の怪獣ブームが幕を開けます。
 同じ年の7月には日東化学(ニットー)が火炎怪獣「ガメラ」と冷凍怪獣「バルゴン」を発売しますが、同社は9月には海底怪獣「ワニゴン」、11月に地底怪獣「ガマロン」、12月に「ドラゴン」を発売するという驚異的なペースで200円のゼンマイ怪獣をシリーズ化しました。大映怪獣と自社オリジナル怪獣を取り混ぜた大攻勢により、ニットーは一気に世界的な怪獣プラモメーカーとなったのです。
 ニットーの怪獣プラモには規格化された大きな特徴があります。それが縦型直立歩行ゼンマイと、横型四脚歩行ゼンマイです。
 怪獣プラモの先鞭をつけたマルサンではありましたが、モーターライズながら歩行ギミックは股関節の軸で左右の脚全体を交互に前後させるだけのもので、足の裏のラチェットのついた「前にだけ転がるゴムローラー」で前進しました。
 一方のニットーの怪獣ですが、まずは先行した「ガメラ」と「バルゴン」は前述した縦型ゼンマイによる直立歩行型で、安価なゼンマイを使いながらも脚は前後運動だけでなく、クランク軸を縦方向運動にも使った三次元的な運動を実現しています。これにより尻尾と両足の3点保持で「足のローラー」無しで完全歩行を実現するといった、驚異的なものでした。
 続く「ワニゴン」はニットーのオリジナル怪獣ではありましたが、これはゼンマイ分類でいくと日本初の横型四脚歩行式ゼンマイで、これも四つの足を交互に動かす事でのっしのっしと歩く、完成度の高いエポックメイキングなメカニズムだったのです。
 このゼンマイシステムは、それまでタイヤやスクリューやキャタピラで単純に走行するだけだったプラモデルに大きな進化を与え、日本中で爆発的に売れました。
 プラモデルは作れば売れた当時、メーカー各社は自社オリジナルの企画に鎬を削り、貪欲に「次の何か」を模索していましたが、このゼンマイシステムの存在は怪獣だけに留まる事はなく、ニットーに次の一手を踏み出させる大きなシーズとなったのです。
 このシステムを使った新しい切り口を探していた同社は、当時新進気鋭のイラストレーター長岡秀三…後の世界的アーティストである長岡秀星に四足歩行メカのデザインを依頼しました。
 こうして登場したのが1966年12月に発売された四足歩行メカ宇宙探検車「サタン」で、パッケージイラストは勿論長岡秀三。同氏の特徴である先進的で垢抜けたイラストが印象的なパッケージでした。
 そして翌1967年5月にはロケットクラフト「デルタ3」も発売されます。
 

 

再販版「サタン」のパッケージ。画像提供:tachikawaさん。

 左は1971年4月発売の再販版「サタン」。
 パッケージイラストは巨匠小松崎茂氏のものとなり、一気に重量感が増しました。
 初版版では神秘的ながら静的な趣きのあったメカが、再販版ではミサイル発射シーンを描く事で動きのあるものにもなっています。
 ミサイルの発射煙やバックには小松崎氏には珍しいエアブラシも使用した、見どころの多い作品です。
 メインメカ以外にバックに何かを描くという点も同氏の持ち味ですが、ダイナミックに歩行する僚車を配する事で1号車と2号車が一緒に活動しているというストーリー性も生まれていますね。
  

再販「サタン」のボディとゼンマイユニット。画像提供:tachikawaさん。
 再販版の主要パーツです。
 軍艦の灰色と赤。戦車のオリーブドラブ(ニチモとか)やダークグリーン(タミヤとか)、センチュリーシリーズの銀色とかばっかりだった当時、こういった原色系のキットはSFと一部の自動車しかない…というか、そればっかり(笑)だった当時目にも鮮やかな成型色ですね。
 右側にあるのが問題の横型四足歩行用ゼンマイユニットです。
 機能に関しては後程詳述しますが、たったこれ一個がいかに多くのニットープラモデルを支えたのかに思いを馳せる時、様々な思いが脳裏をよぎります。
 模型用ゼンマイユニット(ワインドアップモーター)というものは欧米の鉄道模型を嚆矢としながら、占領時日本の輸出玩具で花開いたパワーソースでもあります。しかし、一部のプルバックゼンマイを除き、今では誰も見向きもしなくなってしまいましたね。
 とはいえ、プラモデルの歴史と同じベクトルで世界の玩具史の中で突出した発展を遂げたギミックとして、高く評価されるべきものだと考えるのは私だけでしょうか。

再販「サタン」の袋入りパーツ。画像提供:tachikawaさん。

 その再販版「サタン」のその他のパーツ群。
 ニットーはメグロのバイクから比較的長い期間にわたってビニール袋にメーカータグを付け続けたメーカーでもあります。
 オジサンたち、これ懐かしいでしょ!

 車体側面に張る大き目のデカールのサイズも気になる所です。
 今ではSFプラモでもリアルさを出す為に矢印型のレスキューポイントマークを入れるキットが少なくありませんが、今から半世紀も前にこういったサインを演出していたニットーのセンスに頭が下がります。
 パーツの色味は各メーカーの特色が出る部分でもありますが、この微妙な赤味は他に例を見ない混色のような気がしますが、古いモデラーの皆様如何でしょう?
 あー、ムニューっと袋を割いて、早く作りたいなー。

再販「サタン」のパーツ。(裏側から)画像提供:tachikawaさん。

 上のパーツをひっくり返して、デカールに隠れた部分を撮影したショットです。
 今回もお宝キットの多くの画像提供は、UMA会員であるtachikawa館長にお願いしましたが、こういった「マニアが知りたいところを的確に記録してくれる」tachikawaさんに感服します。毎度有難う御座います。
 現在の100も200もパーツのあるキットを見慣れた目には肩透かしを食らわされたように少ないパーツですね。
 そう、それが当時の年少者プラモデルには大事なファクターだったのです。
 勿論子供でも簡単に作れるプラモデルを狙っての事ですが、その為にメーカーはギミック用の仕掛けパーツと、メカ造形用のデコレーションパーツを如何に効率良く簡略化するかに腐心したかが判ります。
 際限なく細かいパーツを作って「これが精密プラモデルだ!」と勘違いしているメーカーには、多分未来永劫理解できない省略の妙かもしれません。

再販「サタン」のインスト。画像提供:tachikawaさん。

 その再販「サタン」の貴重なインスト。
 ゼンマイのネジマキを含め、全ての部品が描かれています。これでフィギュア2体を含めた歩行メカが完成するんだよ。凄くね?
 今ではとんと見かけなくなった表記に、パーツ全ての部品名の明記がありますが、SFプラモデルであった…というより空想科学玩具でしかなかったプラモの組み立て説明図にきちんとそれが記載されている所も見どころの一つですね。
 この組み立て説明図のフォーマットが、当時の日本のプラモデルの一つの典型であった時代が、とても懐かしく思い起こされます。
 乗員が「パイロット」と表記されているのは、当時としてはやや違和感を覚えた(パイロットはあくまでも飛行機の操縦者という認識だったので)ものですが、F−1の運転者がパイロットとして市民権を得た今では、中々含蓄のある時代を先取りした表現に思われます。

 

再販「サタン」のパーツ。(裏側から)画像提供:tachikawaさん。
 今迄パッケージやパーツの画像ばっかりだったので、キットの実体が分かりにくかったと思いますが、ここでインストの最終部分を紹介いたしましょう。
 組み立てるとこうなります。あれー、ちょっとバランス違うかなー。足短ッ。(笑)
 「ガメラ」や「バルゴン」に比べて影の薄いニットーオリジナル怪獣の「ワニゴン」ですが、この「ワニゴン」こそ後の横置き四足歩行メカの長兄キットであり、これがあって初めて「サタン」も「デルタ3」も生まれた訳ですね。
 余談ですがその「ワニゴン」も実はチョー胴長短足キットで、本体が全長26センチもあるニットーの中では大型怪獣プラモに属するものだったのに、実は四本の脚はそれぞれ胴体から2センチ半しか出ていない、ダックスフント足のプラモデルだったのです。
 こう書くといやはや身もふたもないのですが、実はモーターライズキットは超高速回転の直流モーターの出力軸によって、原則的にギアさえ増やせばいくらでもトルクを増やせるパワーソースだったのに比べて、ゼンマイの反発力がトルク限界であるワインドアップモーター(ゼンマイ)はパワーに限界があります。
 例えば最終出力パーツである脚を伸ばせばそれだけダイナミックなストロークは伸びるものの、逆に急激にパワーが落ち、見てくれとギミックの確実さには厳密なトレードオフが存在します。
 そういった究極のバランス選択の結果が、この胴長短足の意味だったのです。

 

再販「スパイダー」のパッケージ。画像提供:tachikawaさん。

 そして、「サタン」の再販と同じく1971年の4月に「デルタ3」は「スパイダー」と改名リニューアルして再販されました。
 これも再販時には小松崎氏のイラストにチェンジされています。
 「サタン」のバックには印象的に土星が描かれていましたが、こちらも当時特徴ある惑星のもう一つの雄である火星が描かれています。
 「サタン」は土星の衛星のエンケラドスとかの想定?「スパイダー」は火星の衛星のフォボスの想定?などと考えてしまいますね。
 まだまだ惑星探査が進んでいなかった当時ですから、例えば土星の衛星表面は岩石が露出してないんじゃないかとか、なぜ衛星なのに軌道が土星の環の平面座標とずれているんだとかは、言いっこなしよ。

再販「スパイダー」のパーツ。画像提供:tachikawaさん。
 次は「スパイダー」のパーツ画像です。これも再販版「サタン」と同じ赤とオレンジの成型色で、統一感がありますね。
 「サタン」は細長く大型、「スパイダー」は西洋梨のフォルムで小型の設定ですが、いずれも同じゼンマイユニットをパワーソースとしています。
 先程ゼンマイのトルク限界によりあまり歩行脚は長くできないと書きましたが、これはチョー長いじゃん!というツッコミは覚悟の上。
 とあるモデラーさんの経験では、この「スパイダー」タイプのキットに色々とデコレーションしたら、重くて歩かなかったとあります。
 つまり、本体を出来るだけ重心付近に集約し、やじろべえ的バランスで絶妙に歩行を実現しているからこその足長デザインだと言えるかもしれません。
 「サタン」と「スパイダー」(「デルタ」)のデザインコンセプトを創案した長岡秀星氏のイラストでは、あくまでも実在メカをクリエートする軸足だったのに比べて(後程紹介する最終版「デルタ3」参照)、小松崎氏のイラストは出発点が既に実体化した現存するプラモデルだった訳で、胴体下部の脚部付け根付近の表現を見ると、その違いがはっきりと分かるかと思います。

 長岡氏:こんなコンセプト!
   ↓
 ニットーのモデライズ
   ↓
 小松崎氏:模型をリアルにしたらこんな感じ?

 という流れが分かる両作品の違いですね。

「グレートファイルダー01」のパッケージ。画像提供:tachikawaさん。

 1975年2月、「スパイダー」は今度は「グレートファイルダー01」と名前を変えて3度目の登場です。
 ネーミングからも分かる通り、これは明らかに1972年に放映されて大反響を巻き起こしたマジンガーゼットのホバーパイルダーと、マジンガーZの続編グレートマジンガーのネーミングを頂戴して、それらしく仕上げた年少者企画路線だったのでしょう。
 イラストではボディと本体左右のジェットパック(初版イラストでは燃料タンク)が透けて内部メカが見えるように表現されていますが、キットも半透明パーツとなり、ジェットパックの内部メカは紙に印刷されたものを工作してポッドの内部に組み込むというものでした。
 同じコンセプトの再販プラモデルにマルイの「ウルトラマッハ1号」同「2号」があり、こちらは初版メカの胴体を半透明にして、内部にメカを再現したもう1パーツを組み込むというものでした。
 長く命脈を保つスケールモデルと違い、何らかの目新しさを付加しながらキットを再販してSFプラモデルの延命を図るメーカーの辿った、不思議な共通項とも言えます。

「グレートファイルダー01」のパーツ。画像提供:tachikawaさん。
 その「グレートファイルダー01」のパーツ全景。
 ボディ本体は半透明な赤。キャノピーは黄色い透明カラーパーツとなり、その他の部品も半透明なオレンジというもの。
 更にその中にセットするコックピット部品はぎんぎらぎんの銀メッキ仕様とくれば、インパクトありますよねー。
 この写真ではちょっと分かりにくいのですが、「サタン」に比べて縮尺率の小さかったこのキットは、キチンと作られたフィギュアも大きくなって前後2パーツを合わせる設計になっているのですが、当然その乗員も「半透明なオレンジ」になっており、組み立てるとちょっとキモいです。(笑)
 初版の「デルタ3」が手元にないので比較できないのですが、この「グレートファイルダー01」のオレンジ色のパーツは、当時一般的だったパリパリの硬質スチロールと違い、ややABS樹脂に似た粘り強さを持っているように感じます。
 最近このキットを作った筆者は、これは細長い脚を折れにくくするメーカーの工夫ではないかと感じましたが、本当の所はどうだったのでしょうか。
 元々スチロール樹脂は透明なもので、そこに顔料を添加して原料ペレットに色を付けるのが樹脂成型の基本なので、パーツの透明化はさほど難しくはないと思われますが、大き目のパーツをメッキするひと手間、更にややチープ感は否めないもののエンジン内部構造をプリントするひと手間を加えてリニューアルされたこの「グレートファイルダー01」は、メーカーサイドに少なからず負荷をかけたのではないかと思われます。

「グレートファイルダー02」のパッケージ。画像提供:tachikawaさん。

 「グレートファイルダー」に遅れる事一ケ月の1975年3月、兄弟関係は前後したナンバリングで「サタン」がグレートファイルダー02」としてリリースされます。
 歩行メカではないので画像は省略しますが、この時地底戦車「Zライザー」が「ジャイアントショッカーマシン」と名前を変え、動力もゼンマイ版になって、同じく小松崎茂先生のイラストで発売されました。
 「グレートファイルダー」のネーミングがきっとマジンガーに則を取ったものと同様、「ジャイアントショッカーマシン」も当時の人気TV番組仮面ライダーの敵役ショッカーにあやかったネーミングのようです。
 このイラストも小松崎茂氏の手になるものですが、再販版「サタン」とは全く趣きを異にする…というか、初版の長岡版「サタン」とはもう全く別物のテイストを醸し出すSF作品となっています。天才小松崎がインスピレーションを爆発させて商品コンセプトを表現した、解剖メカイラストの真骨頂とも言えるかもしれません。
 とはいうものの、先にも述べたように商品再販時に新たなバリューを加えて「本体を透明にしてメカメカした中身を見せれば目先が変わるじゃん!」という作り手側の発想は分かりますし、受け手の子供達も「これはこれでカッコイイじゃん!」と喜んだのも理解できますが、一方でこうしてリアルメカ風にパッケージイラストを起こすと、「でも何で透明なの?」と思ってしまうのも事実。
 子供の手元に残るJOSFプラモデルという”実在”と、それをパッケージイラストで表現するという”虚構”の間に流れる、微妙なボタンの掛け違いが興味深いのです。大人になるとね。


「グレートファイルダー02」のパーツ。画像提供:tachikawaさん。

 その「グレートファイルダー02」の梱包の様子。
 「…01」の本体の透明オレンジにもびっくりですが、こちらも負けてはいない蛍光イエローグリーン。
 筆者が知る限りこれに匹敵する大きな透明黄緑パーツは、ミヤウチの「ローリングカー」…手塚治虫のワンダースリーに出てくるタイヤ型乗り物「ビッグローリー」と同じコンセプトで作られたプラモ…のホイール窓くらいかなぁ。
 先程スチロール樹脂はそもそも透明というお話をしましたが、それをどう着色するかの技術が急速に進歩していた時代で、多分この蛍光色という技術も、当時最先端のテクノロジーだったのではないかと思われます。
 まぁ最先端とまで言うと突出したハイテクのように聞こえるかもしれませんが、模型メーカーのほぼ全てが中小企業だった当時…。
 「ニットーさん、今度こんな色味のプラスチックが使えるようになったんだよ。一つ何か射ってみないかい?」
 「おお、ナイスな色だねー。いっちょ目先替えの再版モノに使ってみようじゃねーか。」
 というような、メーカーとペレット屋(そういう商売名があったかどうかは不明)の会話が想像される、古き良き時代の”ブーム先取り”の商品ですね。

 

「サターン」のパッケージ。

 そしていよいよグレートファイルダーシリーズから8年後の1983年11月には、宇宙探検車「サタン」は「サターン」と改名して4度目の登場となりました。
 初版、再版まではずっと「サタン(悪魔)」として売られていたキットは、この最終版で「サターン(農耕と時の神、土星)」となって再臨したのです。初版から17年後の事でした。
 ボックストップには金色に光る「完全限定復刻版」のシールが貼られ、初版と同じイラストながらパリッと垢抜けたパッケージデザインとなっています。
 初版のパッケージデザインですら当時は洗練された印象を受けたものですが、デザインを変えれば天井知らずに進化できるんだ!と納得する出で立ちです。
 これ、今から30年以上前に、今から半世紀前のキットを再販したものだなんて思えないセンスの良さを感じさせますね。

 

「サターン」の完成写真。最終版パッケージ側面の画像。

 右はこのキットの完成品です。画像は最終版キットの側面に印刷された完成写真を拝借しました。
 実はこのキット紹介に合わせて、上記の商品を組み立てている最中だったんですが、諸般の事情により塗装が間に合わなかった為の緊急避難的措置です。申し訳ない。
 乗員用ドアに描かれた2号車の番号は、明らかにパッケージイラストを意識したものですが、初版と違ってよりハイセンスなマーキングが潤沢なデカールで再現されています。
 このキットはミドリのSFビークルと違ってミサイルは発射できませんが、逆にそういったところも子供だましではない大人のストイックさを感じさせるとも言えます。
 改めて見ると、破綻なくまとめられたデザインが良く分かりますね。 

 

「サターン」の完成写真。最終版キットのインストの画像。

 最終版キットの組み立て説明図は、裏に同社の商品がカラーで広告されたパンフレット風の豪華なもので、そこに写っているのがこの「サターン」のフロント&バックビューの写真です。
 で、ようやくここで比べてほしいのが、完成品写真とパッケージイラストです。
 最大の違いは”足”にあたる脚の接地部分。イラスト=初版のデザインではスパイク付きの下駄のような細身のものでしたが、改修された再販版は接地面積を大きくした円錐状のものになっています。
 もう少し注意深く見ると、実はこの改修は最終版以前のあの「グレートファイルダー02」の時に既に行われていたものである事に気が付きます。
 多分これは後続の「デルタ3」の足が歩行性能向上に寄与したために、兄貴分の「サタン」もその形状に倣って改善されたのだと思われます。
 この円盤足を接着する脚の先っぽは、本来平面であるべき接着面がギザギザに波打っています。これはまさしく初版の足の裏にそのまま円盤足をくっ付けたからに他なりません。

「サターン」の完成写真。最終版キットのインストの画像。

 今度は同じくインスト裏面の完成品バックビューです。
 実はこの最終版は円盤足裏パーツだけでなく、車体最後部の垂直スリット面に付ける4つのジェットノズル風エグゾーストパイプパーツがついているのですが、何故かこの作例では円盤足はついているもののジェットノズルはオミットされています。どうしてかなぁ。
 四つ足歩行ばかりに注目した解説になっていましたが、このキットにはもう一つギミックがあります。
 それが自動回転するレーダーです。
 例えばミドリの「エコーセブン」のレーダーや「ジュニアモグラス」の回転カッターのように、ゼンマイユニットから上手くもう一つのギミックを実現するためには、ゼンマイ本体の四角いシャフトから回転運動を取るのが定石です。しかし、巻いたゼンマイをより長い時間駆動させるように設計されたこのキットでは、四角シャフトの回転速度は結構緩慢なものになるので、「サタン(サターン)」ではもう一段増速した第二ギアの軸からレーダーの回転運動をピックアップしています。
 ううん、奥深い。

「デルタ3」のパッケージ。

 さて、いよいよ横置き四足歩行ゼンマイメカの心臓部の紹介。これは最終版キットのインストからのピックアップです。
 ゼンマイユニットは車体の上側に取り付けられるので、これは車体をひっくり返して見た所になります。
 図の左下側が車体の前方に当たり、ボディ(上)と書かれた左端に接着するのが操縦室の後部隔壁に当たります。

 ここからは天才的ゼンマイ歩行ユニットの力学的説明に入りますので、じっくり読んでみて下さい。

 隔壁直後にセットする前脚をはめる軸は無可動の保持シャフト。その前脚には(逆)S字型のアクチュエーターアームを付けますが、そのアームの中央部はゼンマイの出力軸であるクランクシャフトに繋がり、反対側の端は後ろ脚に接続されます。
 クランクシャフトで摺りこぎ運動するアームがS字型の為、前後の脚の接続位置が逆位相となって「左前足が前に出る時は左後ろ足は後ろに下がる」という逆向きのサイクルになります。
 で、ここで重要なのが後ろ脚を取り付ける中心軸です。
 これは図で分かる通り左右にスイングするスリットが入っています。軸の反対側はギアボックスから抜けないようにつぶし留めされていて、そこを支点にスリット分だけ首振り運動をするようになっています。
 アームはまずクランク軸の摺りこぎ運動を受けて全体を平面回転させようとしますが、前脚の中心軸は固定されている為、前脚は単純に往復回転するだけです。
 そうなると左右方向に逃げ場を失ったクランクのベクトルは、今度はS字アームを介して「前脚との接続部を支点、クランクを力点、後脚接続部を作用点」として、後脚を「前後に首振りしながら同時に左右にもスイングさせる運動」として駆動します。
 この場合あの後脚の軸は平行移動ではなく上端をピボットとする首振り運動なので、左右のスイングとは床の平面に対して脚が浮いたり接地したりする上下動になる訳です。
 これを脚4本全体の動きとして考えると…脚の例えば左後ろ側が浮く時は浮きながら前に進む。後ろ左が浮くので前左は重量配分が過剰になって力強く踏ん張りながら後ろに動き、結果的に車体を前に進める。
 後部だけを考えると左が浮いているので右後脚は重量配分が過剰になりつつ後ろに下がるので結果的にこれも車体を前に進める方向に働く。
 これをサイクリックに繰り返す事により車体が前に進む、とこういう訳です。分かったかな?

 コンピューターで設計するCADCAM技術のなかった当時、たった一本のクランク軸運動を起点に、これだけのゼンマイシステムを作る想像力と創造力。設計技量と製作技術とは如何ほどのものであったのか、今更ながらに驚嘆を禁じえません。
 しかもそれが工科大学や一流メーカーではなく、一介の町工場(こうば)レベルの模型メーカー、あるいはそれに属する下請けのゼンマイ専門メーカーのおっちゃんの切磋琢磨が生んだ成果であるところに静かな感動を覚えます。
 こういった零細メーカーの熟達の技が、プラモデルだけでなくあらゆる場で高度成長期の日本を支えた実相である事を、このキットは今に伝えてくれるのです。
 凄いでしょ。ね、凄いでしょ?!これが50年前の、しかし当時でもたった200円のプラモデルなんだよ!


「デルタ3」の完成品画像。最終版パッケージ側面の画像。

 ちょっとハイテンションになってしまい申し訳ありません。はあはあはあ。(笑)
 今度は落ち着いて、最後の「デルタ3」最終版をご紹介しましょう。
 本来このキットも「サタン」同様、初版はこれと同じイラストで、初版「サタン」と同じデザインのものがありましたが、現時点で資料がないのでこれでご勘弁を。
 この最終版も「サターン」同様「完全限定復刻版」シールの張られた、ちょっと豪華な感じのするパッケです。
 イラストは長岡氏特有のストイックで静謐さを漂わせた精緻なものになっていますが、当時最先端未来志向のこの筆致が、今でも色褪せない…というか今ではイラスト界もCGに取って代わられたが故に、逆に21世紀の今ですらオンリーワンの輝きを失わないテイストを保ち続けています。
 まだ下町にどぶ臭さが残り、文字通りの鼻たれ小僧が石けりチャンバラ2B弾遊びをやっていた当時、このイラストが子供の世界にやって来て、お茶の間にこのキットがポンんと置かれていたシーンは、何とミスマッチでワクワクする時代だったのでしょう。
 


「デルタ3」のフロントビューとバックビュー。最終版キットのインストの画像。

 今度の画像は最終版「デルタ3」のインストの完成写真です。
 「サタン」は脚付け根等の細部を除いてキットはほぼイラストと同じデザインでモデライズされていましたが、「デルタ3」は車体下部はかなり簡略化されて製品化されています。
 こうして見ると「デルタ3」は、中々の足長ハンサム君ですな。

「デルタ3」の完成品画像。最終版パッケージ側面の画像。
 この紹介ページの最後は「デルタ3」のパッケージ側面の完成品写真です。
 右側の一枚は上のインスト写真と同じものですが、左側は貴重な斜め前からのもの。これで「デルタ3」の完成時の全貌が良く分かります。
 単に一本の棒ではなく、スリムな翼型になっているツノ型アンテナもステキだし、パイロットが機体右側にオフセットされているのもイイ感じ!
 パイロットの後ろに生えているのは、軸の頂点から四方にロッドアンテナが飛び出した回転アンテナで、これがキャノピー内部でゼンマイ動力で回転します。
 ギミックそのものは「サタン」と同じアイディアですが、透明キャノピーの内側でアンテナが回転しているというのは、他に例を見ないカッコ良さです。
 さて、今まで紹介させて頂いた「サタン」「スパイダー」を、皆様は如何に御覧になりましたか。JOSFメカが最も輝いていた時代のスーパープラモデルに思いを馳せ、皆さんも想像力溢れた力強い「歩行探検車」「歩行戦車」を作ってみようではありませんか。
 

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