俺SFメカコンテスト


動く戦車オフ会毎年恒例の俺SFメカコンテスト、2018年のテーマは…
親子戦車
「マイティゲル」「ペアルドM-4」だ!

★「俺マイティゲル」コンテスト 参加要領

 ・中村産業(ナカムラ)の親子戦車「マイティゲル」(再販「ペアルドM-4」)をオマージュして、参加者自身が製作した
  SFメカである事。
 ・ハーフトラックタイプの親戦車と、分離走行する小型先頭車をカッコよく創作して下さい。
 ・市販キットからの部品流用は自由。
 ・屋内での安全なデモンストレーションが可能であれば、サイズや動力等に関する制約なし。
 ・オリジナル版の「マイティゲル(ペアルドM-4)」による景気付け参加も受け付けています。
  
(俺SFメカコンテストのシール貼付投票はスクラッチ作品のみです。オリジナルキットの参加作品は一般の
   ビジュアル、テクニック、ヒストリカル用の投票用紙で評価して下さい)

 さて、それではここでテーマの元となった親子戦車に関して、作品制作の参考のために若干説明を致しましょう。

 
但し毎度の事ながら、作品制作に不必要なほど語ってしまうので、興味の無い方は読み飛ばして下さい。(笑)
 
中村のビジュアル 最後のレトロフューチャー世界!


初版「マイティゲル」のパッケージ 画像提供:Tachikawaさん
 
 中村産業…後のナカムラは、昭和30年代後半より10円〜30円といった価格帯の駄菓子屋プラモに嚆矢を発し、その後急激に我が国のプラモデルシーンの中堅メーカーとして成長して活躍した、懐かしい会社です。
 プラモデルの弱小メーカーが櫛の歯を引くように模型業界から姿を消していった昭和50年代に、中村もその活動に終止符を打ちますが、それまで圧倒的な数の自動車プラモデルを中心に、SF及び特徴ある若干の妖怪プラモがその殆ど全てを占めるという独特の立ち位置で印象に残るメーカーです。
 当時中学生以上だった模型マニアにとっては、マーキュリー・クーガーやフォード・ムスタング・マッハ1といった1,000円、2,000円価格帯の巨大な箱の精密自動車プラモのメーカーとして記憶している方が多いでしょう。
 一方で昭和40年前後に小学生だった模型小僧にとっては、雑誌の空想科学口絵を思い出させるような、当時でもレトロチックな感じのSFキットを出していたメーカーとして記憶しているかもしれません。
 そんな中村産業が1967年11月にリリースしたのが、SFアタックシリーズの親子戦車マイティゲルでした。
 上はそのマイティゲルのボックストップ。1967年と言えば、既にミドリのSF攻勢はその前年から開始され、この年には油の乗りきった中で宇宙探検車スペースコマンド、宇宙パトロール戦車バンガード、宇宙戦車アトラス、地中戦車ビッグモグラスを矢継ぎ早に出していた時期で、そんな中で中村が550円という決して安くはない価格で出したのがマイティゲルでした。
 マイティゲルの箱絵はほぼ正確にキットの内容を表現していますが、当時の他社のリアル志向のボックスアートに比べ、どちらかというとプラモデルのイラストというよりも、年少者向けティントーイの箱絵に近い趣きです。
 分り易いけども、既に当時の子供たちにとってSFプラモデルは、玩具ではなく最先端の未来科学模型であり、無機質な想像図を超えた「今ここにある未来シーン」だったのです。
 そういった意味で、中村史上空前絶後の高価格帯でリリースしたスーパーギミックプラモデルでありながら、市場での反応はいまひとつパッとしなかったようです。

1967年 1月 宇宙パトロール スライダーEF−9
1967年 3月 海底パトロール ダボンゼX−1
1967年 3月 海底パトロール カレリーナH2
1967年 5月 SFフライングサンダー
1967年11月 SFアタックシリーズ マイティゲル
1967年11月 SFアタックシリーズ ロケット戦車ボクサー
1968年 1月 ロケット戦車 サエモス
1968年 1月 宇宙パトロール エアロス
1968年 1月 宇宙パトロール タイロス
1968年 3月 アタックシリーズ ミサイル戦車 ガネフ
1968年 4月 水上パトロール スーパーエンゼル
1968年 5月 水上パトロール ハイドロジャック
1968年 9月 イーグル7
1968年 9月 宇宙ロケット サターン
1968年11月 宇宙パトロール イカルスA−11
1968年11月 ペアルドM−4
1968年11月 ブレインT−29
 さてここで、昭和42年から43年という、我が国で最もSFプラモデルが隆盛を極めた時期の同社のSFプラモデルのラインナップを見てみましょう。
 左の表がそれですが、中村もこの時期に同社の代表的なSFプラモデルの殆どをリリースしています。(表では妖怪、コミックスリラーは除く)
 宇宙でホバークラフト?という違和感を禁じ得ないながら中々味のある造形のスライダーEF−9。
 ダボハゼからインスパイアされたと思しき独特の形状を持つ潜水艦ダボンゼX−1。
 船のように水に浮いてプロペラ動力で進むけれど、実際に浮上はしていない戦闘ホバークラフトのフライングサンダー。
 表の前年にリリースされた水陸両用戦車パンジャーを原型にした水陸両用SF戦車エアロス、タイロス。
 ソ連の車載型地対地ミサイル”ガネフ”を参考にしたミサイル戦車ガネフ。
 ロケット本体が自走しながら鎌首をもたげ、先端を自動発射する宇宙ロケットサターンと、いずれ劣らぬユニークなキットの中に、今回のテーマであるマイティゲルと、その再版キットであるペアルドM−4が顔を出しています。



 ここでちょっと寄り道になりますが、上記の表の中から幾つかのキットの箱絵を紹介いたしましょう。
 まずは宇宙パトロールスライダーEF−9。人工衛星が浮かび、ロケットが飛び回る宇宙空間で、空気を吹き出しつつプロペラ推進で進んでいる妙な形のメカですが(笑)、希薄ながらガスの浮遊する宇宙気流の中を進む専用艇としておきましょう。
 個人的にはこのボックスアートも味があって好きなのですが、一般的には1967年1月と言えばミドリから宇宙探検車スペースコマンドがが出た年で、あのスマートな箱絵と同じ時期にこれが肩を並べて模型店の店頭に並んだと思うと、大きな時差を感じさせずにはいられません。

 次は1968年4月発売のスーパーエンゼル。
 この時期の中村のSFキットは、他社の例にもれず自社オリジナル、所謂JOSF(日本オリジナルSFプラモデル)ながら、何かユーザーサイドの嗜好に沿うテイストを持ったもの…まぁ”ありてい”に言えば「どこかの有名な何かに似ている」けど「じゃないよ」なキットが少なくありません。
 その図式で考えると、これは1968年1月から国内で放映された、キャプテンスカーレットのエンゼル機からインスパイアされて大きくアレンジした水上戦闘艇という所でしょうか。独特の前傾キャノピー、分厚い垂直尾翼など、そう言われればそう見えなくもない不思議なキットです。
 キャプテンスカーレットと言えば、当時でも先進のスマートなビジュアルで群を抜いていましたが、それを則としながら、このパッケージは如何にも垢抜けない、レトロなタッチですね。
 

 次は同時期に発売されたハイドロジャック。これはもうマイティジャックのMJ号と、搭載機ハイドロジェットやらピブリダーやらを融合させた機体そのママに見えますね。
 1968年4月は将にマイティジャックの放送が始まった月で、同じ月に同時にこのキットが発売されるというのもタイムラグが無さすぎなように感じますが、当時は放映開始前の準備期間に少年雑誌などのメディアを通じて事前に番組の内容がビジュアルを含めてに宣伝されていたもので、当時のプラモデル開発期間の短さと考え合わせれば、十分に納得のいくものです。っていうか、だってそれ以外に見えないもの。(笑)
 と、ここまで幾つかの中村SFキットを紹介したのも、当時少年向け文化がキッチュなものからソフェスティケートされたものへ急速に進化していく中で、中村だけが頑なに昭和前期までの古いテイストでメカやパッケージを維持し続けたように思われます。
 これは単に中村社長のデザイン感覚が古かったからと言い切れない気がします。
 というのは、クラウンなどの当時の他社もそうでしたが、こと自動車プラモデルに関してはカーイラスト専門のアーティストに依頼した垢抜けたデザインのパッケージが既に主流で、極端なパースのついたエアブラシ多用のスマートなイラストとパッケージでキットをリリースしていた事を考えると、空想科学とはこういうものだという「古臭い」ではない「こだわり」のような商品戦略感覚を感じないわけにはいかないのです。


再販版「マイティゲル」=「ペアルドM−4」のパッケージ。

 左は1968年11月に再販された”リニューアル版マイティゲル”であるペアルドM−4の箱絵です。
 初版のマイティゲルに比べてかなりリアル志向に向いたイラストですが、これでもまだ当時の一級品SFプラモデルパッケージイラストに比べて、時代がかった感は否めません。
 例えばこれは、中村お抱えのイラストレーター氏に拘って箱絵を依頼していた事情があるのかもしれませんが、小松崎茂氏、長岡秀星氏らのイラストレーターや、それなりのデザイナーに箱絵を依頼すれば、全く違ったテイストのものに仕上がった可能性は否定できません。何より前述のように、カーモデルのパッケージに関しては既に中村でさえ素晴らしくスマートなパッケージデザインでキットをリリースしていた時期ですから、同社のこのダブルスタンダードの商品デザインの感覚は、敢えて「空想科学プラモデルに関してはこのようなテイストでリリースする」という戦略のように思えてなりません。
 このビジュアルから来る世界観…それは他ならぬ雑誌「機械化」に代表される、明治、大正、昭和と連なる、わが国独自の空想科学世界の具現としての、中村のSF観だったのかもしれません。
 敢えて言うなら、それは我が国の科学史観にルーツを置く、最後のレトロフューチャーDNAではなかったのでしょうか。
  
 さて、「マイティゲル」「ペアルドM−4」を、皆様は如何に御覧になりましたか。JOSFメカが最も輝いていた時代の、しかしレトロフューチャー感溢れるSFプラモデルに思いを馳せ、皆さんも空想科学の翼をはためかせて「俺・マイティゲル」「俺・ペアルドM−4」を作ってみようではありませんか。
 

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